音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.33 歌姫の心
「こ、恋?!」
最初私はナナミさんが一体何を言っているのか意味が分からなかった。そもそもゲームのキャラクターである私が、恋をしているだなんてそんな事が考えられなかった。
「もしかして自覚しとらんのか?」
「自覚も何も、まず私はゲームのキャラクターですし、そんな感情なんて」
「それでええのか?」
「え?」
「自分の気持ちを誤魔化してええのかって聞いておるんや」
「で、でもナナミさん。私は本当にそういう気持ちとかはなくて」
もう何が何だか分からなくなっていた。自分の気持ちを誤魔化すつもりなんて元からなかったし、もしその感情があるならばきっとカオル君を苦しめる事になってしまう。
(それだけは絶対に……)
「前から思っておったんやけど、リアラは本当にただのキャラクターなんか? そうやって言い聞かせているだけで本当は」
「私が嘘付いてるとでも言いたいんですか?」
「別にそういうつもりで言ったわけではあらへん。ただ、あんたは気付いてへんかもしれんけど、そもそも歌姫は」
「もうこれ以上やめてください!」
私は周りの目を気にせずカフェで叫んでしまっていた。別に怒りとかそういう感情が湧いているわけではない。だけど私は叫んでしまっていた。まるで自分の中の物を誤魔化すかのように。
「すいません……先に家に帰ります」
私はその場から逃げるようにしてカフェを出た。
(どうして私、叫んだりなんかしたんだろう……)
最近どうにも自分がおかしい。特にカオル君に出会って、彼に私がゲームのキャラクターである事を否定されたあの時から。
私は自分が持つ歌という力を使って、沢山の人を幸せにする事しかできないただの存在だとしか思っていなかった。でもそれを彼は否定した。この一ヶ月、彼と一緒にいて少しずつではあるけど自分の他の価値を見いだし始めていた。
(ナナミさんの言う通り、確かに私は誤魔化している所はあるかもしれない)
私はいつかは役割を終えて消えてしまう。その時に誰が一番悲しむか、そんなの分かりきっている。だからあの話を彼にして、私という存在から少しでも離れてほしかった。
(でもどうしてだろう)
離れようとしているのに、むしろ私から彼に近づいてしまっているような気がする。まるで自分という存在の意味を彼に求めるかのように。
(もしかしたら私、本当は……)
この気持ちの答え、彼と一緒にいれば出てくれるかな。
■□■□■□
僕がリアラさんに強引に連れてこられた場所は、僕達の始まりの場所でもあるあの場所だった。
「リアラさん、どうしてまたこんな所に」
「私にも……分かりません。でも無性にここへ来たかったんです」
「無性にって」
ある意味暴走とも言えるその行為に、僕は戸惑いを隠せなかった。アタル君に言われていたとはいえ、まさかこれ程になるなんて……。
「リアラさん、本当にどうしたんですか? ナナミも何か知っているみたいな感じですし、アタルまで戸惑っていますよ」
「アタル君には今度改めて謝ります。でもそれ以上に、私はカオル君に話がしたかったんです」
「僕と?」
思わずドキッとしてしまう僕。今までは何ともない一言だったはずなのに、今日のリアラさんを見ると別の想像が膨らむ。まああまり期待しすぎると、
「カオル君と話をすればきっと答えが見つかるはずです。だから」
「答え? リアラさん、一体何の話を」
「私には本当に心があるのか、そしてこの気持ちは何なのか、その答えを教えてください」
こんな事になってしまうわけで。
「え? こ、心ですか?」
「カオル君は私という存在を否定してくれました」
「い、いや僕は別に否定までしたわけではなくて」
「なのでよろしければ私に本当の存在の意味を教えてください」
「り、リアラさん、とりあえず一度落ち着いて」
「な、な、なので、か、か、カオル君、よ、よ、よろしければ私と二人で、おで、おで、お出かけをしませんか?」
言葉に何度も詰まりながらもリアラさんは僕に突然そんな誘いをしてきた。
(え、えーっと)
このゲームはいつから恋愛ゲームになったっけ?
■□■□■□
折角のリアラさんからの誘いでもあるので断らなかった僕は、リアラさんが再び落ち着くのを待って家へと戻った。
「それでどうやった? うまくいったか?」
帰ってくるなりナナミがそんな言葉を耳打ちしてくる。やはりと言うべきか、彼女の差し金だったらしい。
「うまくいったも何も、ナナミの差し金でしょ」
「確かにうちはアドバイスはしたけど、他は全部リアラの意思やで」
「リアラさんの、意思?」
「あとはどうするかはカオル次第や。折角のチャンスやで」
「チャンスって……」
それだとまるで僕がリアラさんの事を……。
「好きなんやろ? 救ってあげたいくらいに」
「それは……」
「何かあったらうちらにも相談するんや。いつでも力になるで」
「とりあえずありがとうとだけ言っておくよ」
やっぱり好き、なのかな。
「カオル君、ナナミさん、何二人きりでこそこそ話をしているんですか? 練習再開しますよ」
と、そこで僕らのやり取りを見ていたリアラさんが早くと言わんばかりにそんな事を言う。
「抜け出した本人がよう言うわ」
それに対してナナミはやれやれと言いながら、練習部屋に入る。僕もそれに続いて入ろうとした時、ふとリアラさんの声が耳に入った。
「皆さん、私の勝手な行動、許してください」
どうやらリアラさんの今日の暴走は、本人の意思そのままだったのは間違いではなかったらしい。ただ僕は、その意思に対して答えを出せるのか、少しだけ不安になった。
最初私はナナミさんが一体何を言っているのか意味が分からなかった。そもそもゲームのキャラクターである私が、恋をしているだなんてそんな事が考えられなかった。
「もしかして自覚しとらんのか?」
「自覚も何も、まず私はゲームのキャラクターですし、そんな感情なんて」
「それでええのか?」
「え?」
「自分の気持ちを誤魔化してええのかって聞いておるんや」
「で、でもナナミさん。私は本当にそういう気持ちとかはなくて」
もう何が何だか分からなくなっていた。自分の気持ちを誤魔化すつもりなんて元からなかったし、もしその感情があるならばきっとカオル君を苦しめる事になってしまう。
(それだけは絶対に……)
「前から思っておったんやけど、リアラは本当にただのキャラクターなんか? そうやって言い聞かせているだけで本当は」
「私が嘘付いてるとでも言いたいんですか?」
「別にそういうつもりで言ったわけではあらへん。ただ、あんたは気付いてへんかもしれんけど、そもそも歌姫は」
「もうこれ以上やめてください!」
私は周りの目を気にせずカフェで叫んでしまっていた。別に怒りとかそういう感情が湧いているわけではない。だけど私は叫んでしまっていた。まるで自分の中の物を誤魔化すかのように。
「すいません……先に家に帰ります」
私はその場から逃げるようにしてカフェを出た。
(どうして私、叫んだりなんかしたんだろう……)
最近どうにも自分がおかしい。特にカオル君に出会って、彼に私がゲームのキャラクターである事を否定されたあの時から。
私は自分が持つ歌という力を使って、沢山の人を幸せにする事しかできないただの存在だとしか思っていなかった。でもそれを彼は否定した。この一ヶ月、彼と一緒にいて少しずつではあるけど自分の他の価値を見いだし始めていた。
(ナナミさんの言う通り、確かに私は誤魔化している所はあるかもしれない)
私はいつかは役割を終えて消えてしまう。その時に誰が一番悲しむか、そんなの分かりきっている。だからあの話を彼にして、私という存在から少しでも離れてほしかった。
(でもどうしてだろう)
離れようとしているのに、むしろ私から彼に近づいてしまっているような気がする。まるで自分という存在の意味を彼に求めるかのように。
(もしかしたら私、本当は……)
この気持ちの答え、彼と一緒にいれば出てくれるかな。
■□■□■□
僕がリアラさんに強引に連れてこられた場所は、僕達の始まりの場所でもあるあの場所だった。
「リアラさん、どうしてまたこんな所に」
「私にも……分かりません。でも無性にここへ来たかったんです」
「無性にって」
ある意味暴走とも言えるその行為に、僕は戸惑いを隠せなかった。アタル君に言われていたとはいえ、まさかこれ程になるなんて……。
「リアラさん、本当にどうしたんですか? ナナミも何か知っているみたいな感じですし、アタルまで戸惑っていますよ」
「アタル君には今度改めて謝ります。でもそれ以上に、私はカオル君に話がしたかったんです」
「僕と?」
思わずドキッとしてしまう僕。今までは何ともない一言だったはずなのに、今日のリアラさんを見ると別の想像が膨らむ。まああまり期待しすぎると、
「カオル君と話をすればきっと答えが見つかるはずです。だから」
「答え? リアラさん、一体何の話を」
「私には本当に心があるのか、そしてこの気持ちは何なのか、その答えを教えてください」
こんな事になってしまうわけで。
「え? こ、心ですか?」
「カオル君は私という存在を否定してくれました」
「い、いや僕は別に否定までしたわけではなくて」
「なのでよろしければ私に本当の存在の意味を教えてください」
「り、リアラさん、とりあえず一度落ち着いて」
「な、な、なので、か、か、カオル君、よ、よ、よろしければ私と二人で、おで、おで、お出かけをしませんか?」
言葉に何度も詰まりながらもリアラさんは僕に突然そんな誘いをしてきた。
(え、えーっと)
このゲームはいつから恋愛ゲームになったっけ?
■□■□■□
折角のリアラさんからの誘いでもあるので断らなかった僕は、リアラさんが再び落ち着くのを待って家へと戻った。
「それでどうやった? うまくいったか?」
帰ってくるなりナナミがそんな言葉を耳打ちしてくる。やはりと言うべきか、彼女の差し金だったらしい。
「うまくいったも何も、ナナミの差し金でしょ」
「確かにうちはアドバイスはしたけど、他は全部リアラの意思やで」
「リアラさんの、意思?」
「あとはどうするかはカオル次第や。折角のチャンスやで」
「チャンスって……」
それだとまるで僕がリアラさんの事を……。
「好きなんやろ? 救ってあげたいくらいに」
「それは……」
「何かあったらうちらにも相談するんや。いつでも力になるで」
「とりあえずありがとうとだけ言っておくよ」
やっぱり好き、なのかな。
「カオル君、ナナミさん、何二人きりでこそこそ話をしているんですか? 練習再開しますよ」
と、そこで僕らのやり取りを見ていたリアラさんが早くと言わんばかりにそんな事を言う。
「抜け出した本人がよう言うわ」
それに対してナナミはやれやれと言いながら、練習部屋に入る。僕もそれに続いて入ろうとした時、ふとリアラさんの声が耳に入った。
「皆さん、私の勝手な行動、許してください」
どうやらリアラさんの今日の暴走は、本人の意思そのままだったのは間違いではなかったらしい。ただ僕は、その意思に対して答えを出せるのか、少しだけ不安になった。
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