音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら

りょう

Track.32 歌姫の異変

 アタル君の言葉に少々不安を募らせながらも、僕はいつものあの場所へと戻ってきた。

「あ、カオル君!」

 家に入ると一番最初に僕を出迎えてくれたのはリアラさんだった。第一印象はいつもと変わらない雰囲気なんだけど、本当に何かがあったのだろうかと疑問に思ってしまう。

「よかった、無事回復したんですね。皆心配していたんですよ」

「心配かけてすいませんでした。でも今日からは休みをもらった分、しっかりと頑張ります!」

「本当、本当によかったです。私本当にすごく心配していて、もう会えないんじゃないかって」

「そんな大げさですよ」

「大げさじゃないですよ! 私このままカオル君に会えなかったらどうしようかって、毎日毎日……」

 あれ、リアラさんっていつもこんな感じだったっけ?

「り、リアラさん?」

「本当私どうかしているんじゃないかってくらいカオル君を心配して……。だからこうしてまた会えたことがとても嬉しくて、だから」

「おーい」

 どんどん様子がおかしくなってくリアラさん。これだとまるで……。

「お、帰ってきたんかカオル」

「あ、ナナミ。心配させてごめんね」

 その背後からヒョイっとナナミが顔を出してくる。彼女はまるで今のリアラさんを気にしていない様子だった。

「別にええんや。無理しすぎも体に毒やからな」

「ところでさっきからリアラさんの様子が変なんだけど」

「ああ、これはちょっと色々あったんや。気にすることではあらへん」

「いや、すごく気になるんだけど!」

 比較的落ち着いた人だったのに、何やらさっきから顔を赤くして何かつぶやいているし、すごく怖い。

「こうなった理由はちゃんとあるんやけど、原因はウチらよりもカオルにあるんやし、自分で解決するんや」

「ぼ、僕が原因なの?」

 全く心当たりがないんだけど。

 ■□■□■□
 リアラさんが平常心を取り戻したのはそれからしばらく経った後。とりあえずいつも通りのリアラさんに戻った事に少し安堵した僕は、改めて復帰した事をメンパーに伝えた。

「この度は心配かけてすいませんでした。お陰様でしっかり休んだので体調はバッチリです」

「そんな堅苦しい挨拶はええねん。せっかくの復帰祝いなんやから今日はパーティや」

「いや、そこまで大げさにしなくていいよ。それよりも僕は練習の方がしたいし」

「ちぇ、つれへんなぁ」

 病気からの復帰ならともかく、一時的な発作が起きただけだし流石に復帰祝いなんてされたらこちらとしてはすごく申し訳ない。それに僕は、月末のイベントに向けてもっと練習に励みたい。

「そう言ってまた無理をしないでくださいよ。俺達本当に心配していたんですから」

「大丈夫だよ。無理はしすぎないようにするし、適度に休んだりするから」

「ならいいですけど」

「カオル君、もし何かあったらなんでも言ってくださいね」

「ありがとうございます、リアラさんも」

「次無理したらうちも許さへんからな」

「分かっているよ。でもありがとう」

 三人にそれぞれ声をかけられて僕は改めていい仲間を持ったと実感した。三人の言葉一つ一つが僕の心に響き、そしてそれは、

「ありがとう三人共。そしてただいま」

 僕の中から精一杯の感謝の言葉を生み出したのだった。一度は仲間という言葉すら信じられなくて、自暴自棄になっていた時もあったけれど、今は何よりもこの言葉がありがたく感じる。

(これならいつか……)

 トラウマを乗り越えられる日が来てくれるかもしれない。

 ■□■□■□
 ちょっとした復帰祝いも終わったところで、僕は早速この休んでいる間にしてきた成果を三人に披露する事にした。

「休んでいる間何もしないのはどうかなって思って、少しだけ音楽を作ってみたんだけど聞いてくれるかな」

 それはまだまだ形としては成り立っていない、不器用な曲だけどはじめの一歩として三人には聞いてもらいたかった。たとえ笑われたとしても、それが一つの糧になるのだから構わない。

「まあそこそこな出来やない? これを一つの曲として捉えるのは難しいやろうけど」

 一通り聴き終えた後、最初にナナミがそう言葉を発した。

「そうですね。でも俺はこの歌詞は好きですしこれをもう少し……」

 その言葉に乗っかり、アタル君はナナミと何やら打ち合わせを始める。まるで初めてプレゼンをした新入社員のような気分だ。

「あれから更に自分で音を付け加えたんですか?」

 しばらく言葉を発していなかったリアラさんが僕に尋ねてくる。

「はい。まだ不慣れな所は多いですけど、少しでもリアラさんの負担を減らしたくて」

「それなら私がもっと沢山音を教えてあげます。こっちへ来てください」

「え、あ、ちょっとリアラさん?」

 突然立ち上がったリアラさんは僕の手を引っ張りどこかへ連れて行こうとする。それを何故かナナミ達は何も言わずに見送った。

「頑張るんやでカオル」

「何を頑張るの?!」

 やっぱり今日のリアラさん、いやリアラさんとナナミの様子が絶対におかしい。

「リアラさん、どこへ行くつもりですか?」

「今は私に黙ってついて来てください。私はカオル君と話がしたいだけですから」

「趣旨変わってませんか?!」

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