音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら

りょう

Track.25 歌姫としての役目 後編

 僕は何かが怖かったのかもしれない。いつかはリアラさんを失う事になるのではないかという恐怖、それが今の僕にとって一番怖い事だった。

「カオル君の気持ちはすごく嬉しいです。けど私達はそうである以上、逆らう事はできません」

「リアラさん、僕は……」

 何一つ躊躇いのない言葉に、僕は次の言葉が浮かんでこない。僕はこれからリアラさんにどうしてもらいたいのだろう。

 ここまでの言葉が全部嘘だって言って欲しいのか。

 それとも嘘だとまでは言わなくても、一つでも否定して欲しいのか。

 彼女の真っ直ぐ過ぎるその言葉に、僕は何も言えなくなってしまっていた。

「そんな暗い顔しないでくださいカオル君。あなたは私達のリーダーなんですから、もっと明るくいてくださいよ」

「そんな事できませんよ……。どうしてリアラさんはそんなに、元気なんですか。自分がいつかは消えてしまうかもしれないのに」

「何ででしょうかね。私もこんなの受け入れられるはずがないのに、何故か頭の中では理解してしまっているんです」

「僕はこんな話を理解なんてできませんよ」

「やっぱり早すぎましたか、この話は」

 ふう、と一息つくリアラさん。早すぎたって、それはどういう意味なのだろうか。

「リアラさんは、早すぎたってどういう」

「おーい薫、話終わったか?」

「お邪魔します」

 肝心な事を聞こうとしたタイミングで、竜介達がログインしてくる。気付かない内に二十分経ってしまっていたらしい。

「とりあえずお二人が来てしまいましたし、この話はまたの機会にしましょうか」

「分かりました。けど忘れないでください。僕はまだ受け入れていませんからね」

「いつかは分かってくれると信じていますから、私は」

 最後にリアラさんはそう締めて、この話は一度終わりとなった。こんなモヤモヤした気持ちのまま過ごすのは、あまり好きではないけど今は我慢するしかない。

「リアラ、薫君と何の話をしていたの?」

「秘密の話です」

「何々、気になる」

「いつかは教えますよ」

 ■□■□■□
 この後しばらく練習をした僕達は、日付が変わる前に練習を終わりにしてログアウトした。

「じゃあまたな薫」

「うん。後で連絡する」

「すぐには無理だと思うけど、私達待っているからね」

 竜介と千由里はログアウトした後すぐに、帰宅をする事に。僕は安全性も含めて泊まっていかないかと提案したのだけれど、二人とも明日は用事があるらしい。

「あ、そうだ薫」

「ん?」

 家を出る直前、何かを思い出したかのように竜介は足を止める。何か伝え忘れた事でもあったのだろうか。

「お前これ以上無理するなよ。何抱えているか俺には分からないけど、困った時には相談してくれよな。その為の仲でもあるんだからな」

「……ありがとう、竜介」

 僕が隠し事をしているのをどうやら竜介は見抜いたらしく、そんな言葉を僕にかけてくれた。本当だったらこの言葉、もっと前に言って欲しかった。そうすれば僕の人生も少しは変化したかもしれない。

「じゃあな」

「うん」

 もうすぐゴールデンウィークも終わりという事で、しばらく二人に会う事もない。なので、次こうして会う時は、僕が学校に登校した時なのだろう。

(それがいつになるかは、まだ分からないけど)

 僕は二人を見送り、一人部屋の中に戻った。


 薫の家を出た竜介と千由里は、帰りながら今日の事を振り返っていた。

「薫、少し変わったな」

「うん。多分バンドを始めたからじゃないかな」

「この前のイベントの時、イキイキしてたからなアイツ」

 薫の初ライブを見た二人は、彼が少しずつ変わってい事に気がついていた。おまけに今日一緒に練習した事により、薫がどれ程真剣なのかもよく理解できた。

「この前会った時は、もう駄目かと思っていたけど、よく立ち直れたよな。確か千由里が話に行ったんだよな」

「うん。一週間も連絡もなかったから、話さないといけないと思ってたもん。薫君ライブが終わった後に次の日に話し合おうって言ってくれたのに逃げてたから」

「その点は俺も無視はできなかったからな。でもあいつはちゃんと選択してくれたんだな」

「うん。それは私も嬉しい。でも」

「また気がかりな事が一つできたな」

 薫がもう一度踏み出してくれる選択をしてくれたのは、二人とも素直に嬉しかった。しかしまた心配事が増えた事が、二人にとっては気がかりだった。

「あのリアラさん、何か隠し事をしているよな絶対」

「それを薫君に話したんだよねきっと。だから薫君は少し元気がなかった」

「少しどころじゃないけどな。さっき練習している時も、リアラさんになかなか目を合わせていなかった。何があったんだろ」

「でもそれは、私達が知るような話なのかな」

「それは……俺も分からない」

 ある意味では二人は部外者に近い。だから直接的に聞く事もできなかった。それが少し気がかりになっていた。

「乗り越えられるかな薫君」

「あいつならできるさ、きっと」

 ■□■□■□
 二人を見送った後僕は、ログインはしようとせずに部屋のベットにね寝転がっていた。

(歌姫の運命……か)

 リアラさんはああは言っていたけど、心の底ではそれを受け入れてないのではないのかと思っている。そもそも彼女はそんな存在ではないと信じている。

(だからリアラさんにはずっとカナリアのボーカルでいてもらいたい)

 叶わない願いなのかもしれないけど。

 ブー ブー

 そんな事考えていると携帯の着信が鳴る。番号は見慣れないもの。少し怖いけど、僕は出てみる事にした。

「もしもし?」

『もしもし? 立花薫さんの電話で間違いないでしょうか』

 電話の向こうから聞こえてきたのは女性の声。やはりその声には聞き覚えがない。一体誰なのだろうか。

「そうですけど、どうして僕の名前を」

『実はあなたにお話をしたくて電話させていただきました』

「だからあなたは誰なんですか?」

『お名乗りすることは出来ませんが、マセレナードオンラインの歌姫についてよく知っている者とでも言っておきましょう』

「歌姫? それってもしかして……」

 リアラさんの事?

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