音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.11 自分らしく
初イベントの出場が決まってから数日が経ち、僕達はいつも以上に練習を重ねていた。何せ残り二週間しかないのだから、一日でも練習時間を惜しんでいられない。初心者の僕なら尚更だ。おまけに作詞もまだ半分も出来上がっていないし、このままだと本格的に無理かもしれないと思ってしまう。
「カオル君、いいですか? ここはこうやって叩いてですね……」
それに僕を除く皆全員が、かなりの実力の持ち主であるのは間違いではなく、僕が確実に皆の足を引っ張ってしまっている。
それが段々とプレッシャーに変わり始めていた。
「カオル君!」
「え、あ、ご、ごめん。何だっけ?」
「何だっけじゃないですよ。さっきからどうしたんですか? ボーッとしてばかりで」
「えっと、そ、それは……」
現在の時刻は夜中の十二時。リアラさんだって疲れているというのに、毎日のように夜遅くまで僕に色々と教えてくれていた。それはとても嬉しいことなんだけど、いつか彼女が倒れてしまうんじゃないかってちょっと怖い気持ちになる。それに僕自身の成長スピードも遅く、いつまでも彼女に迷惑をかけてしまいそうで、すごく申し訳ない気持ちになってしまう。
(やっぱり僕には向いてないのかな)
このゲームを始めて間もなく二週間が経とうとするが、うまくなっているような気がしない。だからやっぱりそういう事を考えてしまうことが最近増えてきてしまった。
「もしかして、また悩んでいるんですか?」
「うん……。僕には向いていないんじゃないかなって思い始めてさ」
「向いてないだなんて誰も思っていませんよ。カオル君ならきっと上手になりますよ。私をバンドに誘えるくらいの勇気の持ち主なんですから」
「そ、それは偶然なだけであって」
その勇気と実力は全くもって別物だ。たとえ僕に勇気があったとしても、そんなの何の力にもならない。
「もうカオル君は悩み過ぎなんですって。もっと私達を頼ってれればいいんですよ。いつでも協力しますから」
「頼りたいのは山々なんだけど、こんなリーダーで大丈夫なのかなって思ってさ。それにリアラさんには毎晩のように教えてもらっているから、迷惑じゃないのかなって」
「迷惑だなんて事はありませんよ!リーダーを支えるのが私達メンバーとしての役割なんです。変なプレッシャーとか考えないでください」
「うーん、そうは言われてもな……」
僕なんか頼りない人間なんだから、そんな人間を支えなくてもいいのに……。
「はぁ……。もう仕方がないですね」
「え?」
「カオル君だけには話しておきますね。私が何者なのかを」
「い、いきなりどうしたの?」
全くもって関係のない話のように見えるんだけど。それに何者かって、それは一体どういう意味なのだろうか?
「これは皆には絶対黙っておいてほしいのですけど、実は私」
■□■□■□
『実は私、この世界の人間であって、人間ではないんです』
リアラさんの衝撃的な告白から一夜が明け、今日もいつも通り二週間後に向けての練習。皆気合が入っている中で、僕は一人誰よりも気合を入れていた。彼女が言ったあの言葉の意味が、最初は意味が分からなかったけど、一晩考え続けてようやくその言葉の意味が分かったような気がした。
この世界の人間であって人間ではない、とはつまり彼女はゲームの世界での人間であり、現実では実在していな女の子だという事だ。
ではなぜそれを知って気合が入るのかって? それは恐らく彼女がこう伝えたかったのではないかと思ったからだ。
『元から自分がそういうキャラクターなだけで、才能とかはないから、自分だけ才能がない駄目な人間だって考える必要がない』
と。間違っているかもしれないけど、この言葉が僕の気持ちを少しだけ楽にしてくれた。才能の持ち主が集まっているとばかり思っていたこのバンドも、皆が皆そうじゃないって教えてもらえた。だからもう、何も怖いと感じることはないと思う。
「よし、今日も頑張ろう皆!」
「何やリーダー。今日はやけに気合入っとるな。先日まであんなに元気なかったのに」
「もしかしてリアラさん、彼に何か教えたんですか?」
「私は特に何もしていないですよ。ちょっとアドバイスをしただけです」
そう言うと彼女は僕に目配せをしてきた。どうやら彼女も、僕が自分の言葉の意味を理解してくれたことに満足してくれたらしい。よかった、間違った捉え方しなくて。
「で、今日は何の練習をするんやリーダー」
「今日は四人でセッションをしてみようと思う」
「え? 本当ですか?」
「うん。もう時間がないわけだし、四人で一度でも合わせておかなきゃって思って」
時間は残り少ない。今できる最善の策を精一杯やらなければ、折角の初イベントも台無しになってしまう。
「そうと決まれば早速準備しましょう」
『おー』
リアラさんの合図と共に、それぞれ自分の楽器を準備を始める。その最中で、僕は彼女に話しかけた。
「あのリアラさん、昨日はありがとう」
「何にも気にすることないですよ。カオル君はカオル君らしく頑張ればいいんですから」
「僕は僕らしく……」
「そうすればきっと見えてきますから。カオル君が目指すべき道が」
「う、うん」
(僕の目指すべき道か)
一体どんな道なのだろうか。
「カオル君、いいですか? ここはこうやって叩いてですね……」
それに僕を除く皆全員が、かなりの実力の持ち主であるのは間違いではなく、僕が確実に皆の足を引っ張ってしまっている。
それが段々とプレッシャーに変わり始めていた。
「カオル君!」
「え、あ、ご、ごめん。何だっけ?」
「何だっけじゃないですよ。さっきからどうしたんですか? ボーッとしてばかりで」
「えっと、そ、それは……」
現在の時刻は夜中の十二時。リアラさんだって疲れているというのに、毎日のように夜遅くまで僕に色々と教えてくれていた。それはとても嬉しいことなんだけど、いつか彼女が倒れてしまうんじゃないかってちょっと怖い気持ちになる。それに僕自身の成長スピードも遅く、いつまでも彼女に迷惑をかけてしまいそうで、すごく申し訳ない気持ちになってしまう。
(やっぱり僕には向いてないのかな)
このゲームを始めて間もなく二週間が経とうとするが、うまくなっているような気がしない。だからやっぱりそういう事を考えてしまうことが最近増えてきてしまった。
「もしかして、また悩んでいるんですか?」
「うん……。僕には向いていないんじゃないかなって思い始めてさ」
「向いてないだなんて誰も思っていませんよ。カオル君ならきっと上手になりますよ。私をバンドに誘えるくらいの勇気の持ち主なんですから」
「そ、それは偶然なだけであって」
その勇気と実力は全くもって別物だ。たとえ僕に勇気があったとしても、そんなの何の力にもならない。
「もうカオル君は悩み過ぎなんですって。もっと私達を頼ってれればいいんですよ。いつでも協力しますから」
「頼りたいのは山々なんだけど、こんなリーダーで大丈夫なのかなって思ってさ。それにリアラさんには毎晩のように教えてもらっているから、迷惑じゃないのかなって」
「迷惑だなんて事はありませんよ!リーダーを支えるのが私達メンバーとしての役割なんです。変なプレッシャーとか考えないでください」
「うーん、そうは言われてもな……」
僕なんか頼りない人間なんだから、そんな人間を支えなくてもいいのに……。
「はぁ……。もう仕方がないですね」
「え?」
「カオル君だけには話しておきますね。私が何者なのかを」
「い、いきなりどうしたの?」
全くもって関係のない話のように見えるんだけど。それに何者かって、それは一体どういう意味なのだろうか?
「これは皆には絶対黙っておいてほしいのですけど、実は私」
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『実は私、この世界の人間であって、人間ではないんです』
リアラさんの衝撃的な告白から一夜が明け、今日もいつも通り二週間後に向けての練習。皆気合が入っている中で、僕は一人誰よりも気合を入れていた。彼女が言ったあの言葉の意味が、最初は意味が分からなかったけど、一晩考え続けてようやくその言葉の意味が分かったような気がした。
この世界の人間であって人間ではない、とはつまり彼女はゲームの世界での人間であり、現実では実在していな女の子だという事だ。
ではなぜそれを知って気合が入るのかって? それは恐らく彼女がこう伝えたかったのではないかと思ったからだ。
『元から自分がそういうキャラクターなだけで、才能とかはないから、自分だけ才能がない駄目な人間だって考える必要がない』
と。間違っているかもしれないけど、この言葉が僕の気持ちを少しだけ楽にしてくれた。才能の持ち主が集まっているとばかり思っていたこのバンドも、皆が皆そうじゃないって教えてもらえた。だからもう、何も怖いと感じることはないと思う。
「よし、今日も頑張ろう皆!」
「何やリーダー。今日はやけに気合入っとるな。先日まであんなに元気なかったのに」
「もしかしてリアラさん、彼に何か教えたんですか?」
「私は特に何もしていないですよ。ちょっとアドバイスをしただけです」
そう言うと彼女は僕に目配せをしてきた。どうやら彼女も、僕が自分の言葉の意味を理解してくれたことに満足してくれたらしい。よかった、間違った捉え方しなくて。
「で、今日は何の練習をするんやリーダー」
「今日は四人でセッションをしてみようと思う」
「え? 本当ですか?」
「うん。もう時間がないわけだし、四人で一度でも合わせておかなきゃって思って」
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