音楽初心者の僕がゲームの世界で歌姫とバンドを組んだら
Track.03 まるで魔法をかけられたように
そういえばこのゲームは、デフォルトで何曲か用意されており、『始まりの唄』はその中の一つだ。滑らかなバラード調の曲で、歌詞もまさにこれからの始まりを示すようなものになっている。本来ならそれらはちゃんとメロディーがついているのだけれど、楽器が今この場にはないのでリアラはそれをアカペラで歌った(出会った時もアカペラだったけど)。
それなのに何でだろう、彼女が歌うと耳の中に自然とメロディーが流れてくる。チュートリアルの際に少しだけ聞かされたとはいえ、彼女の歌声を聞くと、それすらも超えてしまいそうなメロディーが僕の頭に流れていく。
更にもう一つ驚かされたのが、目を閉じてみた際に浮かんできた光景だ。先程まで夕焼けが見える高台にいたというのに、今僕の目の前に広がっているのは、辺り一面に広がる草原。僕はまるで魔法をかけられたかのように、その場に立っていた。しかもその草原の中には彼女がいるのだ。一体どうしたらこんなにも素晴らしい光景が目の前に広がるのだろうか?
「ふぅ……」
時間も忘れ、その光景に魅入られていると、いつの間にか歌が終わっていた。曲自体そんなに長くない気がするのに、もう十分くらいあの場にいたような感覚に襲われていた。
「いかがでしたか? カオル君」
歌い終わって少し落ち着いた後に、リアラさんが感想を求めてくる。それに対して僕は、わずか数分の出来事に興奮が収まらず、
「す、すごい」
「え?」
「すごいよ! リアラさん」
感情を爆発させた。
「まさかこんなにもすごいなんて思わなかったよ僕。最初に聞いた時もそうだったけど、リアラさんは天才だよ! こんな僕とバンドを組むのが勿体無いくらい」
「そ、そうですか? そう言ってくれると、なんか嬉しいです」
あまりに感情を爆発させる僕に対して、恥ずかしそうにそう答えるリアラさん。僕はなんて素晴らしい人に出会ってしまったのだろうか。これならきっと、いいバンドを組むことができる。そして、僕たちのバンドをこのゲームで一番にしてみせるんだ。きっと。
「やろうリアラさん」
「な、何をですか?」
「メンバーを増やして、このゲームで一番のバンドになろう! 僕たちの手で」
「は、はい!」
勢い任せで無茶な事をいう僕に対して、リアラさんは優しくそう答えてくれるのだった。
これが僕たちのバンドの始まりである。
■□■□■□
リアラさんとまた明日も合う約束をして、今日はログアウトする事になった。興奮も冷め上がらないまま現実世界に戻ってきた僕は、わずか数時間の間に起きたこと全てがどれも素晴らしすぎて、部屋で一人跳ね上がっていた。
(今日はなんて素晴らしい日なんだ)
まさかゲームを始めた初日から、こんなにも素晴らしい体験ができるなんて感動的だ。しかもようやく手に入れたVRMMOの世界で、だ。恐らくこの先も楽しいことが続いていくんだろうな……。
(楽しいこと……か)
現実では辛いことばかりが起きているのに、どうしてゲームの世界では辛いことが少ないのかたまに疑問に思う。あくまでゲームの世界だからと言われれば片付くかもしれないけど、現実世界もそうであればいいなと思うことがある。こんな辛い思いばかりするくらいなら、いっそゲームの世界にい続けてもいいのかもしれない。
ブー ブー
ベッドの上で一人でそんな事を考えていると、ふと携帯電話がなった。誰からだろうか?
「もしもし?」
「あ、やっとでた。何回電話かけたと思ってるのよ」
「ごめん、ごめん」
電話の主は、僕の友達の里中千由里だった。どうやら僕がゲームで遊んでいる間に、何度も電話をかけてきたらしい。着信履歴くらい確認しておくべきだったかな。
「で、どうしたの? 電話なんかかけてきて」
「どうしたの? じゃないわよ! こっちは毎日心配して電話かけてあげているのに、どうしてそういうこと言えるのかしら」
「別に悪気はないって」
「悪気はない? そう思っているなら行動に表してよ! 皆がどれだけ心配かけていると思うのよ」
「心配なんて……してないよきっと」
特にあの二人に限ってそんな事は絶対にない。正直千由里の心配だって、余計なお世話だって思っているくらいだ。僕は僕の人生を歩んでいるのだから、余計な心配はしないでほしい。たとえそれが、間違っているとしても、だ。
「ねえ薫、あんたいつまでそういうの続けるつもりなの?」
「いつまでって、いつまでもだよ。僕はこれからもこれは続けていくつもりだよ」
「どうして……どうしてそんなこと言うの? 私や竜介はあんたの味方なのに、どうして信じてくれないのよ」
「そんなの僕の勝手だよ。誰を信じようが信じまいが、二人には関係ないこと。それだけ言いに電話したならもう切るよ」
「あ、ちょっとかお……」
僕は千由里の答えを待たずに電話を切った。
「はぁ……」
携帯をそこら辺に投げ捨て、僕はため息を吐いた。彼女が言っていることは全て正論なのかもしれないけど、僕は一度決めたことは変えるつもりはない。決して二人を信じていないわけじゃないけど、僕には僕なりの理由があるのだから、放っておいて欲しい。
(もうあそこに、僕の居場所はないんだ)
僕立花薫は、現在高校三年生。季節は春。とある事がキッカケで、学校には通わずに一人部屋で引きこもってゲームをしている駄目な人間です。
それなのに何でだろう、彼女が歌うと耳の中に自然とメロディーが流れてくる。チュートリアルの際に少しだけ聞かされたとはいえ、彼女の歌声を聞くと、それすらも超えてしまいそうなメロディーが僕の頭に流れていく。
更にもう一つ驚かされたのが、目を閉じてみた際に浮かんできた光景だ。先程まで夕焼けが見える高台にいたというのに、今僕の目の前に広がっているのは、辺り一面に広がる草原。僕はまるで魔法をかけられたかのように、その場に立っていた。しかもその草原の中には彼女がいるのだ。一体どうしたらこんなにも素晴らしい光景が目の前に広がるのだろうか?
「ふぅ……」
時間も忘れ、その光景に魅入られていると、いつの間にか歌が終わっていた。曲自体そんなに長くない気がするのに、もう十分くらいあの場にいたような感覚に襲われていた。
「いかがでしたか? カオル君」
歌い終わって少し落ち着いた後に、リアラさんが感想を求めてくる。それに対して僕は、わずか数分の出来事に興奮が収まらず、
「す、すごい」
「え?」
「すごいよ! リアラさん」
感情を爆発させた。
「まさかこんなにもすごいなんて思わなかったよ僕。最初に聞いた時もそうだったけど、リアラさんは天才だよ! こんな僕とバンドを組むのが勿体無いくらい」
「そ、そうですか? そう言ってくれると、なんか嬉しいです」
あまりに感情を爆発させる僕に対して、恥ずかしそうにそう答えるリアラさん。僕はなんて素晴らしい人に出会ってしまったのだろうか。これならきっと、いいバンドを組むことができる。そして、僕たちのバンドをこのゲームで一番にしてみせるんだ。きっと。
「やろうリアラさん」
「な、何をですか?」
「メンバーを増やして、このゲームで一番のバンドになろう! 僕たちの手で」
「は、はい!」
勢い任せで無茶な事をいう僕に対して、リアラさんは優しくそう答えてくれるのだった。
これが僕たちのバンドの始まりである。
■□■□■□
リアラさんとまた明日も合う約束をして、今日はログアウトする事になった。興奮も冷め上がらないまま現実世界に戻ってきた僕は、わずか数時間の間に起きたこと全てがどれも素晴らしすぎて、部屋で一人跳ね上がっていた。
(今日はなんて素晴らしい日なんだ)
まさかゲームを始めた初日から、こんなにも素晴らしい体験ができるなんて感動的だ。しかもようやく手に入れたVRMMOの世界で、だ。恐らくこの先も楽しいことが続いていくんだろうな……。
(楽しいこと……か)
現実では辛いことばかりが起きているのに、どうしてゲームの世界では辛いことが少ないのかたまに疑問に思う。あくまでゲームの世界だからと言われれば片付くかもしれないけど、現実世界もそうであればいいなと思うことがある。こんな辛い思いばかりするくらいなら、いっそゲームの世界にい続けてもいいのかもしれない。
ブー ブー
ベッドの上で一人でそんな事を考えていると、ふと携帯電話がなった。誰からだろうか?
「もしもし?」
「あ、やっとでた。何回電話かけたと思ってるのよ」
「ごめん、ごめん」
電話の主は、僕の友達の里中千由里だった。どうやら僕がゲームで遊んでいる間に、何度も電話をかけてきたらしい。着信履歴くらい確認しておくべきだったかな。
「で、どうしたの? 電話なんかかけてきて」
「どうしたの? じゃないわよ! こっちは毎日心配して電話かけてあげているのに、どうしてそういうこと言えるのかしら」
「別に悪気はないって」
「悪気はない? そう思っているなら行動に表してよ! 皆がどれだけ心配かけていると思うのよ」
「心配なんて……してないよきっと」
特にあの二人に限ってそんな事は絶対にない。正直千由里の心配だって、余計なお世話だって思っているくらいだ。僕は僕の人生を歩んでいるのだから、余計な心配はしないでほしい。たとえそれが、間違っているとしても、だ。
「ねえ薫、あんたいつまでそういうの続けるつもりなの?」
「いつまでって、いつまでもだよ。僕はこれからもこれは続けていくつもりだよ」
「どうして……どうしてそんなこと言うの? 私や竜介はあんたの味方なのに、どうして信じてくれないのよ」
「そんなの僕の勝手だよ。誰を信じようが信じまいが、二人には関係ないこと。それだけ言いに電話したならもう切るよ」
「あ、ちょっとかお……」
僕は千由里の答えを待たずに電話を切った。
「はぁ……」
携帯をそこら辺に投げ捨て、僕はため息を吐いた。彼女が言っていることは全て正論なのかもしれないけど、僕は一度決めたことは変えるつもりはない。決して二人を信じていないわけじゃないけど、僕には僕なりの理由があるのだから、放っておいて欲しい。
(もうあそこに、僕の居場所はないんだ)
僕立花薫は、現在高校三年生。季節は春。とある事がキッカケで、学校には通わずに一人部屋で引きこもってゲームをしている駄目な人間です。
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