第72話 Our Diary

4月6日

高校生活初日。
転校生というものはそんなに珍しいものなのだろうか。多くの生徒が私のもとに集まってきた。
そこで、まずするのは、好感度と興味度の確認。
自分のクラスは、あらかた好感度を確認する作業を終えた。
人の顔と、スマホを交互に見るという行為は少し怪訝に見られないかと心配していたが、大丈夫なようだった。

……あと補足。彼がいた。ティアから聞く、彼の好感度があまりにも低かったので少し接触してみた。
見る限り、告白というのはなかなかに効果があったので、明日は彼と付き合っていると全校に噂を流すとしよう。


4月8日

今日、彼の家へ朝から向かった。
鍵や、侵入経路の確保、家の場所までの案内はすべてティアがしてくれ、スムーズに事は進んだ。
その後、ショッピングモールへ。
弱いくせに、私を守ろうと不良に突っ込んだり……まったく、昔と変わっていないな。
あと、「もっと楽に生きていいよ」と彼が言っていた。
なにを言っているのだろうか、自分が、一番、人のことを考えて、人の為に、辛い生き方をしているくせに。
……涙が、止まらなかった。


4月9日

今日は、ティアと相談していた例の「紗空作戦」を実行した。
計画通り、ティアが化けた紗空の告白を彼の前で受け入れ、彼を混乱させることに成功した。
これで、彼の好感度がどう変動するかを見るための作戦だったが、やはりやりすぎだっただろうか。
……演技とはいえ、彼に怒鳴るのは少し胸が痛む。


4月13日

今日は、彼の幼馴染だという女の子と初めて会った。
とても、綺麗な子で、少し妬けてしまう。
……あと、バスの車内で、彼がキスをしようとしてきた。
はっきり言って、嬉しかった。
けど、今の私にそんな資格なんてないんだ。
だから、家に来た彼をきつい言葉で突き放した。
好き、なんて決まり文句……あまりにも真っ直ぐすぎて、突き放した後、少し泣いた。


4月24日

いつもの日常。たくさんのクラスメイトに囲まれて、ワイワイ話して、たくさん笑って。
でも、その楽しい時間の合間、一瞬頭をよぎるのだ。
……どうせこの人たちも、いつかは消えちゃうんだろうな、って。
そう考えてると、どうもうまく笑えない。
悲しい顔をしてるのを、彼に見られなかっただろか。


5月2日

以前、存在を消してしまったご近所の家を見て回った。
私が、少し仲よくしただけなのに、消えてしまった人たち。
以前。とても前までは。
すこし小高くなっている私の家からは、近所の家の光が多く見え、とても幻想的な風景を作っていた。
だが、今は。
決して、そこに明かりは灯らない。

5月27日

今日、彼と、その幼馴染とティアで遊園地へ行った。
ティアにばかり構って、彼を嫉妬させてやろうという作戦だったのだが、あまり成功とは言えなかった。
……というか、待って、私。どうして、彼を振り向かせようなんてしているの？
それに、あの観覧車に乗ったのは久しぶりだった。
彼と乗る、久しぶりの観覧車は、とても心地よかった。


6月10日

今日は、彼が元気がないようだった。
どうやら、あの幼馴染と何かがあったらしい。
どうせまた、自分が傷つかないため、なんていう理由をこじつけ、自分を犠牲にして人を助けたに違いない。
彼自身が自覚無くとも、その行動一つ一つに、どうすれば人を傷つけないで済むかという心遣いがこもっている。
……もう少し、自分のことも考えてよ。


7月9日

今日は体育祭。
彼が玉入れでかなり活躍していた。
と、言ってもどうせティアの仕業だろうけど。
……かっこよかった。


7月13日

今日は、映画へ彼と、名無というクラスメイトと共に行った。
最初からわかってはいたが、名無の目的は私だったようだ。
それに、彼を傷つける行為までに及んだ。
許せなかった。
彼が殴られたとき、辛くて、苦しくて、どうしようもなかった。
……だから、私は名無を消した。


8月22日

今日は、私のファンクラブを名乗る男たちに連れられ、山へ行った。
そこでは、銃を使ってするゲームを私をかけて行ったようだ。
最初は、ただの遊びだと聞いていた。
だけど、外から聞こえてくる銃声を聞いてると、心配になって、彼がまた酷いことされているんじゃないかって、怖くなって。
……また、人を消した。
そのゲームの首謀者たちの好感度を上げて、存在を消し去った。


10月5日

今日、高校の生徒会長がある男子生徒を呪いで消した。
直後、彼女は悲痛なほど泣きじゃくっていた。
……私にも、人を消す度にあれほど悲しんでいた時期があったのだろうか。
あまりにも人を消しすぎて、感覚がおかしくなってるのかもしれない。
怖いよ。

11月1日

文化祭の本番。
準備から、彼と一緒に作業したり、彼に……頼ってもらったり、はっきり言って楽しかった。
なんだか、これが青春なのかな。私でも、こんな青春を味わっていいのかな、と思った。
姫様なんて、柄じゃないけれど、彼が王子ならそれでもいいかな。
あと、今から私の家で打ち上げをする予定。
彼と……私の大好きな馨くんと、もう少し楽しい時間を過ごせたらいいな。