カノジョの好感度が上がってないのは明らかにおかしい

陽本奏多

第67話 Her Diary

3月31日

今日は家族みんなで遊園地!
楽しかったし、特に夕焼けがきれいだったなぁ……。
でも私、なんだか疲れてたみたいで、お母さんたちから離れたところで気を失って倒れてたみたい。
お医者さんは疲れてただけだって。お父さんからちょっぴり叱られた。
まったく、馬鹿だなぁ。
か、彼のこと? し、知らないし! ……というか、途中からどこに行ったんだろ?
ま、いっか! どうせ明日会えるし。

4月4日

今日から私も中学生! それで、いつものように彼に話しかけたら、なぜか無視された。いつもは楽しくお話ししてたのに、なんで? ……私、何か悪いことしたかなぁ。
だけど、一人の女の子と仲良くなったよ。メガネをかけてて、ちょっと小柄なかわいい子! これからも仲良くしたいなぁ。

4月5日

困った。前お母さんに買ってもらった携帯が壊れちゃった。調べたら、ウイルス? みたいなのが入っちゃったみたい。お母さんに相談したけど、なにもないって言われた。
どうして? お母さんたちにはあの子が見えないの?

4月6日

今日も彼から無視された……。
酷いんだよ。私がいくら話しかけても、目を合わせてもくれないの。
しかも、携帯のウイルスはたくさん喋ってうるさいし……。なんなの? こうかんど、って。

4月14日

日記書くの忘れちゃってた。
今日は女の子の友達とたくさん遊んだよ。
それと、何人か話しかけてくれた。……もう、彼のことなんか知らないんだから……。

4月17日

彼って、誰……?
今日、久しぶりに日記を読み返してみた。
その中に書かれてる彼、って誰のことだろう。
なんだか、頭の片隅にあるのに、どうしても思い出せない。
……というか、同じ学校なら毎日見てるはずだよね?
なんでわからないんだろう……。

4月29日

友達の女の子と明日、買い物に行く約束した!
実は明日、その子の誕生日だから、サプライズで驚かすんだ!
喜んでくれるといいなぁ……。
……あと、例の彼のことを思いだした。
彼の名前は、朝倉馨だ。

4月30日

意味わからない。
今日買い物に行って、友達のことサプライズで驚かせたんだ。
なんだか、あの子とっても喜んでくれたみたいで、すっごく嬉しそうだったんだよ?
あんまり小学校では人と遊ぶことなんて無かったんだって。
でもその後。
なんだかピカッ、って何かが光って、目の前が真っ白になったの。
そのあと、目を開けたらその子はもういなくなってた。
勝手に消えるなんてひどいよ……

5月2日

学校に行ったら、あの子がいなくなってた。
学校に来てもないし、みんなに訊いてもそんな子知らないって。
でも、あの子が座ってた机もあるんだよ?
絶対何かがおかしいって……。
そうだ。あと、馨くん、って人もいなかった。
もうなんだか、その人のことも忘れかけてる。
私、こんな記憶力なかったっけ。

5月22日

またあの、ぴかっ、ってのがあった。
その後、携帯のウイルスがいっぱい喋ってたけど、何言ってるかわからない。
こうかんどって何かを明日お父さんに訊いてみよう。

6月30日
私の誕生日。
お父さんもお母さんもお祝いしてくれた。
……でも、ケーキのろうそくをふーって吹いたとき。
また、あのピカッ、っていうのが起きた。
そのあと、目を開けたら、お母さんもお父さんもいなかった。
……怖いよ。

7月21日

携帯のウイルスがやっとちゃんと説明してくれた。
私は、どうやら呪いにかかっちゃったみたいだ。
それも、私を好きだと思ってくれる人を、消しちゃう呪い。
……今日は学校休んだ。
親戚のおばさんが身の回りのお世話してくれてるけど、なんでお父さんたちのこと覚えてないの……?

8月1日

夏休みはいい。
学校に行かなくていいから。
わたしのせいで、クラスの半分の人がいなくなった。
なのに、先生もそれに気づいていない。
頭、おかしいんじゃないの?
……もう、いや。だれとも話さない。だれとも関わりたくない。
……誰も、消したくない。
そうだ。もう一生、部屋から出ないでいよう。

9月1日

学校が始まった。
もう、部屋から出ないつもりだったけど、ウイルスがうるさかったから、学校に来た。
もう、だれとも話さない。話しかけられても、全部無視した。
……あと、ウイルスにも名前があるみたい。ティア、だったかな?

9月19日

調子乗ってる、だって。
前は、私をかわいいかわいいって言ってくれてた子が、何人かの女の子と一緒にそう言ってきた。
なんでよ。私は、あなたたちを消さないために、だれとも話そうとしてないんでしょ?
それなのになんで私が悪口なんか言われなきゃいけないの?
……助けてよ、馨くん。

10月3日

ティアが、好感度について詳しく教えてくれた。
その好感度が一定を超えると、あのピカッが起こって、人が消えるんだって。
そんなことがわかってるのなら、早く教えてくれればいいのに。
……というか、人が消えることが普通になってる自分が嫌だ。

10月28日

また、一人の子を消しちゃった。
他のみんなは私をいじめるのに、その子だけ優しくしてくれたから……。
私は、その子の優しさに頼っちゃ駄目だったんだ。笑って、話したりなんかしちゃいけなかったんだ。
……でも、待って。
もしかしたら。

10月30日

今日、私をバカにしてた子たちに謝った。
「ずっと無視してごめんなさい、って」
そうしたら、やっぱりあの子たちももう私に酷いこと言えないみたいだった。
ちょっとずつ、愛想笑いと嘘の褒め言葉を使って、彼女たちに近づいていこう。

11月4日

ちょっと寒かった今日。
前はあんなに私のこといじめてたのに、今はもうこんなに仲良し!
まったく、馬鹿だなぁ。
愛想笑いだって気づかないの?

11月10日

みんな消えた。
あの、私をバカにしてた子たちはみんなあのピカッで消えた。
物凄く、すっきりした。
本当に、嬉しかった。
……だけど、涙が止まらなかった。

11月29日

意味もなく、学校を休んだ。
言い訳は、頭痛。
だって、学校なんて行っても意味ないじゃん。
私のクラス、私一人だけだし。

12月9日

久しぶりに学校に行ったら、何事もなかったように私の学年は一クラス減っており、私は別のクラスに移されていた。
……ここでは、この前のあの子たちみたいに消すのはかわいそう。上手く、無視じゃない人と距離をとる方法を考えよう。

12月14日

なんで?
私は素っ気ない態度をとってたし、むしろ嫌な子みたいな態度取ってたよ?
なのになんで私に近づいてくるの!
ここ三日間で、クラスの半分が消えた。
あと、うちのおばさんも、近所の人たちもみんな消えた。
夜は、私の家の周りだけ真っ暗だ。

12月25日

携帯のウイルスに言われた通り、孤児院に入ることになった。
手続きなんかはすべてティアがやってくれたみたいだ。
今まで放置していたが、この子は一体なんなのだろう?

1月1日

ティアが教えてくれた。
この世の中には、私の呪いの効果がかからない人がいるってことを。
あと、この呪いに掛かっているのは私だけじゃないってことも。











4月5日

明日から高校生か。
孤児院も卒業して、今年から元の家で過ごすことになった。
新しい生活に心躍ったりは全くしない。
むしろ、久しぶりに見る明かりの点らないご近所の家を見ると、胸が張り裂けそうだった。

4月6日

高校生活初日――

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