異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー
5-4 重役
「えっと、これは一体どういう状況なのかな?」
「勇二、喋ってないで手を動かせ。これが終わるまで帰れねぇぞ」
唐突だが、勇二たちは今冒険者ギルドリユニオン支部、ギルド長の執務室にいる。
彼らが座る質のいいソファの前のテーブル、そのテーブルの上には大量の書類がこれでもかと積まれていた。
「いや、どうしてこうなったのか説明がほしいな、と」
「どっかの誰かさんが約束事を安請け合いしたからだ」
「……すんませんでした」
書類をめくる手を止めた朝日が静かに勇二を睨み付けると、勇二は数十分前の自分の行動を深く反省した。
事の発端は勇二たちがギルドにやって来たところまで遡る。
-------------------------------------------------------------
商業の街、リユニオンの中心部にある冒険者ギルド、リユニオン支部。
扉の前に立った勇二はゆっくりとした動作で扉を開け放つ。
「えっと、ただいま戻りましたー」
勇二がそう言葉を発した瞬間、冒険者ギルド内の視線が一斉に彼に集中した。
朝日や未希たちは勇二のを盾にするようにその背中の後ろに隠れている。
もっとも勇二よりも背の高い朝日は隠れているとは言えない状態ではあるが。気分の問題なのだろう、多分。
「か……」
「か?」
「帰ってきたぞ!『銀騎士』と『白の聖女』が!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」
「わっ!な、なに!?」
突如としてギルド内から巻き起こった喝采に勇二は思わず後退り、頬を引きつらせる。
「大人気じゃないか」
「いや、どうしてこうなってるのか、自分でもわかってないんだけど」
そう言って朝日がからかえば勇二は微妙な表情になり困惑の色を深める。
「それは私が説明するわ」
騒々しいギルドの奥から凛とした声を響かせ一人の女性が勇二たちの前まで歩み寄る。
「ギルド長……」
青い髪にエルフ特有の長い耳、冒険者ギルド リユニオン支部ギルド長のレイーネだ。
彼女が一歩進むごとに周囲の冒険者たちが押し黙り、ギルド内が静寂に包まれていく。
その光景はこの冒険者ギルドにおいての力関係を表すものだった。
「久しぶりね。アサヒ、探し物は見つかったかしら?」
「ああ。お陰様で割と苦労せずに見つけることができたよ」
口元に薄く笑みを張り付けながら朝日の方に顔を向けるレイーネ。
朝日はプイとそっぽを向きながらそれに応える。
「ふふっ。相変わらず可愛げのない子ね。カヤもお帰りなさい」
「は、はい。ただいま戻りました。レイーネさん」
「あら、貴方の妹はしっかりとただいまが言えるみたいだけど?」
「知るか。てか、いいのか?勇二たちが置いてきぼりになってるぞ」
朝日はボディーランゲージでボケっとしたまま突っ立っている勇二と未希の方にレイーネの視線を促す。
「おっと、いけないいけない。すっかり忘れてたわ」
レイーネはそう言って口元に浮かべた微笑みを僅かに深めると勇二と未希に真っ直ぐな視線を向ける。
「ユージ、ミキ。お帰りなさい。よく生きて戻ってきてくれたわね」
「あ、えっと、その、……どうも」
レイーネの真っ直ぐな視線を向けられた勇二はキョドりながら小さく返す。
「事情は大体把握しているわ。とりあえず報告を聞きたいから、そうね……私の執務室にいらっしゃい。私は先に行って書類の準備をしてくるから、貴方達は受付嬢に案内してもらってね?」
そういうが早いかさっさと踵を返してギルドの奥に引っ込んでいくギルド長。
その場に残された四人は暫く間呆然としていた。
が、朝日が一足早く正気を取り戻し、先行してギルドに奥に向かっていったことで他の三人もハッとして朝日の後ろに続いていった。
-------------------------------------------------------------
受付嬢の一人にギルド長の執務室に案内させれた四人。
四人の前に立つ受付嬢は扉を軽くノックした。
 「ギルド長、三人をお連れしました」
 「ええ。入っていいわよ」
その言葉を聞き受付嬢は扉を開ける。
そこでは執務用の机の上で何やら書類を書き上げているギルド長がいた。
「ちょっと散らかってるけど好きに座りなさい。ああ、あなたは通常業務に戻っていいわよ。お茶出しは自分でやるから」
「かしこまりました。では、失礼します」
一礼してその場を後にする受付嬢を尻目に勇二たちは執務室の中に足を踏み入れる。
彼女は先程、部屋が散らかっていると口にしていたがそんなことは全くなかった。
壁際にある本棚と食器棚はきれいに整頓されており、地面には誇り一つないのが見て取れる。
唯一、散らかっているところが見当たるとすればそれは彼女が今まさにいる場所、執務机の一か所のみだった。
「とんでもない量だな。それは王都に送る用の書類か?」
「ええ。先の騒動の報告書よ。一応独立してるとはいっても、ここは大陸内の街の一つだからね。なにかあったら報告しないと」
書類に目を向けたまま朝日の疑問に答えるレイーネだが、その姿には先程ギルド内の喧騒を収めたカリスマ性はみじんもなかった。
「えっと、なんだかさっきと雰囲気が違いますね」
「当たり前じゃない。肩肘張って生活するのは疲れるのよ?あなたもいつか重役に就けばわかるんじゃない?」
「ねぇ……『異界の勇者』さん?」
次の瞬間、勇二は反射的に腰の鞘から剣を抜き放っていた。
未希も杖を取り出して臨戦態勢をとっている。
「おい、レイーネ」
「あら?少しからかいすぎたかしら?」
「……朝日、なんでその人がそのことを知ってるの?この世界の人はまだ僕たちが召喚されたことを……」
「ああ、知らねぇよ。民衆はな」
「それってどういう……?」
「民衆は知らなくても国の重鎮たちは知っているってことだ。多分、他の大陸もな」
「「!?」」
朝日の言葉に驚いた顔をする勇二と未希。
華夜の表情に動きがないことから察するに彼女はこのことを察していたようだ。
「で、でも国の重鎮っていうなら冒険者ギルドの支部長が知ってるっていうのは……!」
「あ、もしかして知らないのか、お前ら?」
「なにがさ!」
「こいつ、妖精国の元重鎮だぞ」
「は?」
「どうも、妖精国元魔法宰相、レイーネ・アクトリスよ。改めて宜しくね。杉崎勇二君、宮内未希さん」
to be continued...
「勇二、喋ってないで手を動かせ。これが終わるまで帰れねぇぞ」
唐突だが、勇二たちは今冒険者ギルドリユニオン支部、ギルド長の執務室にいる。
彼らが座る質のいいソファの前のテーブル、そのテーブルの上には大量の書類がこれでもかと積まれていた。
「いや、どうしてこうなったのか説明がほしいな、と」
「どっかの誰かさんが約束事を安請け合いしたからだ」
「……すんませんでした」
書類をめくる手を止めた朝日が静かに勇二を睨み付けると、勇二は数十分前の自分の行動を深く反省した。
事の発端は勇二たちがギルドにやって来たところまで遡る。
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商業の街、リユニオンの中心部にある冒険者ギルド、リユニオン支部。
扉の前に立った勇二はゆっくりとした動作で扉を開け放つ。
「えっと、ただいま戻りましたー」
勇二がそう言葉を発した瞬間、冒険者ギルド内の視線が一斉に彼に集中した。
朝日や未希たちは勇二のを盾にするようにその背中の後ろに隠れている。
もっとも勇二よりも背の高い朝日は隠れているとは言えない状態ではあるが。気分の問題なのだろう、多分。
「か……」
「か?」
「帰ってきたぞ!『銀騎士』と『白の聖女』が!」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」
「わっ!な、なに!?」
突如としてギルド内から巻き起こった喝采に勇二は思わず後退り、頬を引きつらせる。
「大人気じゃないか」
「いや、どうしてこうなってるのか、自分でもわかってないんだけど」
そう言って朝日がからかえば勇二は微妙な表情になり困惑の色を深める。
「それは私が説明するわ」
騒々しいギルドの奥から凛とした声を響かせ一人の女性が勇二たちの前まで歩み寄る。
「ギルド長……」
青い髪にエルフ特有の長い耳、冒険者ギルド リユニオン支部ギルド長のレイーネだ。
彼女が一歩進むごとに周囲の冒険者たちが押し黙り、ギルド内が静寂に包まれていく。
その光景はこの冒険者ギルドにおいての力関係を表すものだった。
「久しぶりね。アサヒ、探し物は見つかったかしら?」
「ああ。お陰様で割と苦労せずに見つけることができたよ」
口元に薄く笑みを張り付けながら朝日の方に顔を向けるレイーネ。
朝日はプイとそっぽを向きながらそれに応える。
「ふふっ。相変わらず可愛げのない子ね。カヤもお帰りなさい」
「は、はい。ただいま戻りました。レイーネさん」
「あら、貴方の妹はしっかりとただいまが言えるみたいだけど?」
「知るか。てか、いいのか?勇二たちが置いてきぼりになってるぞ」
朝日はボディーランゲージでボケっとしたまま突っ立っている勇二と未希の方にレイーネの視線を促す。
「おっと、いけないいけない。すっかり忘れてたわ」
レイーネはそう言って口元に浮かべた微笑みを僅かに深めると勇二と未希に真っ直ぐな視線を向ける。
「ユージ、ミキ。お帰りなさい。よく生きて戻ってきてくれたわね」
「あ、えっと、その、……どうも」
レイーネの真っ直ぐな視線を向けられた勇二はキョドりながら小さく返す。
「事情は大体把握しているわ。とりあえず報告を聞きたいから、そうね……私の執務室にいらっしゃい。私は先に行って書類の準備をしてくるから、貴方達は受付嬢に案内してもらってね?」
そういうが早いかさっさと踵を返してギルドの奥に引っ込んでいくギルド長。
その場に残された四人は暫く間呆然としていた。
が、朝日が一足早く正気を取り戻し、先行してギルドに奥に向かっていったことで他の三人もハッとして朝日の後ろに続いていった。
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受付嬢の一人にギルド長の執務室に案内させれた四人。
四人の前に立つ受付嬢は扉を軽くノックした。
 「ギルド長、三人をお連れしました」
 「ええ。入っていいわよ」
その言葉を聞き受付嬢は扉を開ける。
そこでは執務用の机の上で何やら書類を書き上げているギルド長がいた。
「ちょっと散らかってるけど好きに座りなさい。ああ、あなたは通常業務に戻っていいわよ。お茶出しは自分でやるから」
「かしこまりました。では、失礼します」
一礼してその場を後にする受付嬢を尻目に勇二たちは執務室の中に足を踏み入れる。
彼女は先程、部屋が散らかっていると口にしていたがそんなことは全くなかった。
壁際にある本棚と食器棚はきれいに整頓されており、地面には誇り一つないのが見て取れる。
唯一、散らかっているところが見当たるとすればそれは彼女が今まさにいる場所、執務机の一か所のみだった。
「とんでもない量だな。それは王都に送る用の書類か?」
「ええ。先の騒動の報告書よ。一応独立してるとはいっても、ここは大陸内の街の一つだからね。なにかあったら報告しないと」
書類に目を向けたまま朝日の疑問に答えるレイーネだが、その姿には先程ギルド内の喧騒を収めたカリスマ性はみじんもなかった。
「えっと、なんだかさっきと雰囲気が違いますね」
「当たり前じゃない。肩肘張って生活するのは疲れるのよ?あなたもいつか重役に就けばわかるんじゃない?」
「ねぇ……『異界の勇者』さん?」
次の瞬間、勇二は反射的に腰の鞘から剣を抜き放っていた。
未希も杖を取り出して臨戦態勢をとっている。
「おい、レイーネ」
「あら?少しからかいすぎたかしら?」
「……朝日、なんでその人がそのことを知ってるの?この世界の人はまだ僕たちが召喚されたことを……」
「ああ、知らねぇよ。民衆はな」
「それってどういう……?」
「民衆は知らなくても国の重鎮たちは知っているってことだ。多分、他の大陸もな」
「「!?」」
朝日の言葉に驚いた顔をする勇二と未希。
華夜の表情に動きがないことから察するに彼女はこのことを察していたようだ。
「で、でも国の重鎮っていうなら冒険者ギルドの支部長が知ってるっていうのは……!」
「あ、もしかして知らないのか、お前ら?」
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