異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

4-16 校門と出会い

午前の授業を受け、昼食を取り、午後の授業を終えた朝日。
彼は放課後になると教室を飛び出し、小中高の校舎をつなげている通路を通って初等部の校舎に直行した。
目的は勿論、華夜のお迎えである。
「あ、アサヒ先輩だー!」
初等部の校舎に入ったところで顔見知りの子供たちに声をかけられた。
その子供たちは華夜の友達で、度々華夜が家に連れてくることがあったため覚えていたのだ。
「こんにちは。華夜、いるかな?」
少しだけ背をかがめ、目線を合わせるように話しかける朝日。
目線を合わせるといっても朝日自身、身長はそこまで高いわけでないため本当にほんの少しだ。
「ううん?カヤちゃんならさっき校門のところに走ってたよー?」
「あー、出遅れちゃったかぁ。おっけー。ありがとねっ!」
そういって踵を返し校門に向かおうとする朝日。
「「うわっ!?」」
校門に向けて朝日が丁度走りだしたその時、廊下の陰から一人の少年が飛び出してきた。
飛び出してきた少年とぶつかりそうになった朝日だが、まだそれほどスピードが出ていなかったことが幸いし、ぶつかる前に立ち止まることができた。
見れば廊下の陰から現れた彼もなんとか勢いを殺すことができたのか、転ぶことなくその場に佇んでいた。
「あー。ゴメンね?怪我はないかい?」
「え?あ、うん。」
「それは良かった!それじゃあ僕はこれで!」
そういうが早いか中等部の校舎へ走っていく少年。
その少年の後姿を見ながら朝日は呆気にとられていた。
「杉崎くん、だよね?いまのって」
そう言って少年の走り去っていった方を見やる朝日。
彼の名前は杉崎 勇二。
朝日は直接の面識はないが、同級生で同学年の中でも一際有名な生徒だ。
人助けをしては遅刻し、人助けをしては授業に遅れ、人助けをしては問題を起こすといった『優良問題児』なのだ。
良いことをしているだけに頭ごなしに叱ることもできず学級担任の頭を盛大に悩ませている生徒で、成績自体は非常に優秀で運動神経も抜群なため、結果として教師達の頭を更に悩ませる原因となっている。
彼の急いだ様子からして十中八九人助けの最中なのだろう、と朝日は大体のあたりをつける。
「っと、いけない!華夜を待たせてるんだった!」
彼の走っていった方を暫らく呆然と見つめていた朝日。
しかし、それも束の間。
華夜との約束を思い出した朝日は慌てて中等部の玄関へ向かい、校門へと足を急がせるのだった。
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朝日が校門へ向かうと、そこには華夜ともう一人の少女がいた。
その少女は身長が低く、華夜と同学年に見えないこともないが、中等部の制服を着ている所を見ると少なくとも自分とは同い年かそれ以上ではあるようだ。
よく見れば、二人はどこか楽しそうに話をしていた。
「ゴメン、華夜。ちょっと遅れちゃった」
楽しそうに話をする二人には申し訳ないと思いつつも朝日は華夜に声をかける。
「あ、お兄ちゃん。遅いよ、どこ寄り道してたの?」
そう言って少女から視線を外し朝日の方に顔を向ける華夜。
不満げな声音から察するに放課後に入ってからずっと待っていたようだ。
「いや、ちょっと人とぶつかりかけて…」
「…大丈夫なの?怪我してない?」
朝日の顔をのぞき込むようにして聞いてくる華夜。
その瞳からは朝日のことを心配しているのが見て取れる。
朝日はそんな華夜に「大げさだなぁ」と苦笑しつつ頷いて見せる。
「うん。さっきも言ったけど、ぶつかりかけただけだから」
「そっか。大丈夫ならいいかな?」
そういって安心したように微笑む華夜。
その笑顔を見た朝日の胸中は既に『うちの妹、マジ可愛い』という思考で占領されていた。
若干トリップしかけた朝日を現実にと留めたのは先ほどまで華夜と話していた少女だ。
「あなたが東山さんのお兄さん?」
「へ?あ、うん。そうだけど…?」
それがどうかしたの?と首をかしげる朝日。
「いやー、仲がよさそうだなぁーって」
「ありがとう」
どこかのネット掲示板なら(即答)とつきそうなレベルの速さで肯定する朝日。
華夜はそんな朝日の脇を軽く小突くと少女に向かって小さくお辞儀をする。
「それでは兄が来たので私はこれで」
「うん。さようならー」
「はい、さよならです!宮内先輩!」
「!?」
華夜の口から洩れたその言葉に思わず目を見開き、宮内先輩と呼ばれた少女の方を見て硬直する朝日。
「み、宮内さんって、あの宮内さん?」
「?」
頭の上に疑問符を浮かべる少女。
それを見た朝日は言葉を選んで言い直す。
「ほら、あの、杉崎君といつも一緒にいる…」
「うん。そうだよ。勇二と会ったの?」
「う、うん。なんか中等部の方に走っていったけど?」
「もー!一緒に帰ろうって言ったのにー!!」
そういって一人憤る少女、
宮内、という苗字を聞いて最初に思い浮かんだのは先程偶然出会った少年だ。
目の前にいる少女は先程の少年、杉崎 勇二の幼馴染の『宮内 未希』。
校内有数の美少女かつ『問題優良児』№2だ。
勿論、№1は勇二だ。
勇二と未希の二人は基本的にいつも一緒に行動しており、今日のように一人で見かけるのは非常に稀だ。
どうやら、今日は彼が未希との約束をポカしたらしい。
「とりあえず、二人は気をつけて帰ってねー」
「宮内先輩はこれから杉崎先輩のところに?」
「まーね。おいていったオシオキをしなきゃ!」
そういってイタズラっぽい笑みを受かべると、未希は足早に校舎の方へ歩いていく。
暫らくその様子を見つめていた朝日と華夜だったが、二人はどちらともなく視線を合わせると頷き合い示し合わせたように全く同じ言葉を口にした。

「「……帰ろっか?」」


to be continued...

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