異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー
4-2 雨
「さて、そろそろ出発するか」
穏やかな朝食も終わり、食後のお茶を飲んで一息ついた頃。
朝日がそう口を開き立ち上がった。
「あ、朝日」
「あ?どうした?」
「いや、出発するのはいいんだけど、雲行きが怪しいよ?」
勇二の言葉を聞いた朝日は無言で土壁の中に埋め込まれたガラスの窓から空を覗き込む。
するとそこからは薄暗い曇天の空が窺えた。
「…さっきまで晴れてたような気がするんだが?」
「最近こういうことが多いってギルドで他の冒険者が話してよ?」
「マジかよ…これじゃあ今日はここで二泊目だな」
朝日はそう言って大きな溜息をつくと先程まで自分の座っていた椅子に腰を下ろす。
「まぁまぁ、もう秋の始めだし天候が不安定なのは仕方ないんじゃない?」
そう言って勇二が朝日を慰める。
「そうですよ。女心と秋の空なんてことわざもあるでしょう?ね、兄さん?」
華夜もそう言って朝日をフォローする。
「でも外も雨だと何にもすることがないね」
そう言ってテーブルの下で足をばたつかせる未希。
「やること、なぁ?オレに関しては消費した魔法陣の補充作業があるからなんとでもなるんだが?」
「朝日ずるーい!あ、私もやってみたい!」
「ダメだ」
「えー、なんでさー!」
「おまえがやると碌な物が出来そうにないからだよ!使ってるインクだって特殊なもので大金貨数枚はするんだからな?」
「「マジで!?」」
朝日のその言葉に驚く勇二と未希。
「旅の途中でポンポン使っちゃったんだけど…」
「安心しろ。それを見越してあの量だ」
「えっと、あの量の魔法陣で大体幾ら分のインクを使ったの?」
「さぁな?大金貨二枚くらいじゃねぇか?」
肩をすくめてそう答えた朝日はなんとなく窓の外を眺める。
一瞬、テーブルに突っ伏している勇二が目に映ったが気にしない。
その視線の先では既にポツリポツリと雨が降り始めていた。
「降ってきましたね…」
「ああ。まぁ、この『家』は強化した土で作られてるから雨漏りの心配はしなくていいがな」
朝日はそう言ってテーブルの上にあった紅茶に手をつける。
「うん、美味い。華夜、上手になったな」
朝日は紅茶を一口飲むとそれが華夜の淹れたものだと気づいたようで、優しく華夜の頭を撫でる。
「ありがとうございます。兄さん」
対する華夜はしおらしく微笑む。
すっかり兄弟の空間形成しだした二人に、勇二と未希は置き去りをくらっている。
「あ、そうだ。ねぇ、朝日」
命知らずというかなんというか、勇二が切り出した。
この男、真の勇者である。
「あ?どうした?」
しかし、当の朝日は予想に反してブチギレたりはしなかった。
いや、キレてはいるが抑えているといったほうが正しいか。
よく見れば眉がぴくぴくと動いているのが分かる。
それを見た雄二は内心冷や汗をかく。
「いや、そういえば別行動し始めてからの朝日がどんな冒険をしたのか知らないなと思ってさ。ほら、華夜ちゃんのこととか」
「あ、私も聞きたい!」
「は?なんでそんなこと聞く必要があんだよ」
しかし、対する朝日は話したくないのか眉をしかめてそんなことをいう始末。
「だって…どうせ朝日のことだから僕たちの情報はしっかりと握ってるんでしょ?」
「当たり前だ」
「じゃあ、私たちにも朝日の情報を知る義務があると思う!」
「権利じゃなくて義務かよ…」
朝日はジト目で勇二と未希を睨みつけるが逆に睨み返された。
しかし、そんなところに救世主が現れた。
「まぁまぁ、兄さん。こんな天気ですることもないですし、余興程度にはちょうど良いのでは?」
勇二達側に。
「華夜、お前…」
「兄さん。情報の伝達と共有は人間関係を築くうえで大事なことですよ?」
「グッ!?」
華夜の口から出た正論に思わず狼狽える朝日。
今の朝日は四面楚歌、針のむしろ状態であった。
「わーったよ。話せばいいんだろう話せば…」
そう言って諦めたように両手を上げ降参のポーズをとる朝日。
「ただ、半年の事を一気に話すと長くなるし、なによりオレがめんどくせぇ。話すのは華夜と会う直前のところからでいいか?」
朝日の言葉に一同は頷く。
「分かった。それじゃあ、話してやる」
朝日はそう言って憂鬱そうにため息をついた。
to be continued...
穏やかな朝食も終わり、食後のお茶を飲んで一息ついた頃。
朝日がそう口を開き立ち上がった。
「あ、朝日」
「あ?どうした?」
「いや、出発するのはいいんだけど、雲行きが怪しいよ?」
勇二の言葉を聞いた朝日は無言で土壁の中に埋め込まれたガラスの窓から空を覗き込む。
するとそこからは薄暗い曇天の空が窺えた。
「…さっきまで晴れてたような気がするんだが?」
「最近こういうことが多いってギルドで他の冒険者が話してよ?」
「マジかよ…これじゃあ今日はここで二泊目だな」
朝日はそう言って大きな溜息をつくと先程まで自分の座っていた椅子に腰を下ろす。
「まぁまぁ、もう秋の始めだし天候が不安定なのは仕方ないんじゃない?」
そう言って勇二が朝日を慰める。
「そうですよ。女心と秋の空なんてことわざもあるでしょう?ね、兄さん?」
華夜もそう言って朝日をフォローする。
「でも外も雨だと何にもすることがないね」
そう言ってテーブルの下で足をばたつかせる未希。
「やること、なぁ?オレに関しては消費した魔法陣の補充作業があるからなんとでもなるんだが?」
「朝日ずるーい!あ、私もやってみたい!」
「ダメだ」
「えー、なんでさー!」
「おまえがやると碌な物が出来そうにないからだよ!使ってるインクだって特殊なもので大金貨数枚はするんだからな?」
「「マジで!?」」
朝日のその言葉に驚く勇二と未希。
「旅の途中でポンポン使っちゃったんだけど…」
「安心しろ。それを見越してあの量だ」
「えっと、あの量の魔法陣で大体幾ら分のインクを使ったの?」
「さぁな?大金貨二枚くらいじゃねぇか?」
肩をすくめてそう答えた朝日はなんとなく窓の外を眺める。
一瞬、テーブルに突っ伏している勇二が目に映ったが気にしない。
その視線の先では既にポツリポツリと雨が降り始めていた。
「降ってきましたね…」
「ああ。まぁ、この『家』は強化した土で作られてるから雨漏りの心配はしなくていいがな」
朝日はそう言ってテーブルの上にあった紅茶に手をつける。
「うん、美味い。華夜、上手になったな」
朝日は紅茶を一口飲むとそれが華夜の淹れたものだと気づいたようで、優しく華夜の頭を撫でる。
「ありがとうございます。兄さん」
対する華夜はしおらしく微笑む。
すっかり兄弟の空間形成しだした二人に、勇二と未希は置き去りをくらっている。
「あ、そうだ。ねぇ、朝日」
命知らずというかなんというか、勇二が切り出した。
この男、真の勇者である。
「あ?どうした?」
しかし、当の朝日は予想に反してブチギレたりはしなかった。
いや、キレてはいるが抑えているといったほうが正しいか。
よく見れば眉がぴくぴくと動いているのが分かる。
それを見た雄二は内心冷や汗をかく。
「いや、そういえば別行動し始めてからの朝日がどんな冒険をしたのか知らないなと思ってさ。ほら、華夜ちゃんのこととか」
「あ、私も聞きたい!」
「は?なんでそんなこと聞く必要があんだよ」
しかし、対する朝日は話したくないのか眉をしかめてそんなことをいう始末。
「だって…どうせ朝日のことだから僕たちの情報はしっかりと握ってるんでしょ?」
「当たり前だ」
「じゃあ、私たちにも朝日の情報を知る義務があると思う!」
「権利じゃなくて義務かよ…」
朝日はジト目で勇二と未希を睨みつけるが逆に睨み返された。
しかし、そんなところに救世主が現れた。
「まぁまぁ、兄さん。こんな天気ですることもないですし、余興程度にはちょうど良いのでは?」
勇二達側に。
「華夜、お前…」
「兄さん。情報の伝達と共有は人間関係を築くうえで大事なことですよ?」
「グッ!?」
華夜の口から出た正論に思わず狼狽える朝日。
今の朝日は四面楚歌、針のむしろ状態であった。
「わーったよ。話せばいいんだろう話せば…」
そう言って諦めたように両手を上げ降参のポーズをとる朝日。
「ただ、半年の事を一気に話すと長くなるし、なによりオレがめんどくせぇ。話すのは華夜と会う直前のところからでいいか?」
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