異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-27 報酬と宿

勇二と未希がギルドの奥の部屋に行くとそこには母の膝に座り髪を梳かれているハーフエルフの少女、シェリーがいた。
「あ!ゆーじおにいさん!」
勇二達が部屋に入ったことにいち早く気付いたシェリーは母のもとから飛び降りると勇二達のもとに駆けだした。
「元気そうで何よりだよ、シェリーちゃん」
勇二はそう言ってすぐ近くまで来たシェリーの頭を軽く撫でてやる。
シェリーはどこかくすぐったそうにしながらもそれを甘んじて受け入れる。
「シェリー?こっちにいらっしゃい。お兄さんとお姉さんに言うことがあるでしょ?」
シェリーの母、リースがそう言うとシェリーは「あっ!」と思い出したように呟きリースのもとに戻っていく。
「ユージさん、ミキさん。私の娘を助けていただき、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました!」
リースがそう言って恭しく頭を下げ礼を言うとシェリーもそれを真似して可愛らしく頭を下げる。
「どういたしまして。僕としても救出が間に合ってよかったです。本当はこれはラックの功績でもあるんですけど…」
そう言って勇二は今自分達が入ってきた扉に視線をやる。
「えぇ、話は聞いております。私も彼女の報酬をどのように払うか悩んでおりまして…」
「え?報酬、ですか?」
勇二と未希が首を傾げると対するリースは一度頷き、微笑んで話を続ける。
「仕事には対等の対価が支払われて初めて仕事というのですよ?と、言っても私にできることはそれほど多くはありませんが…」
「いや、でもそんな…」
「ユージさん?謙遜するのは美徳ですが、あまりやりすぎると相手に対する侮辱になりますよ?」
「…すみません」
「分かればよろしい!なら、そうですね…お二人は今夜の宿はお決まりで?」
その言葉に勇二と未希は合わせて首を横に振る。
「いいえ。残念ながら」
「宿を決める前に出て行っちゃったからねー」
そもそもの話、ギルドに入ったのは素材の換金のためであることを完全に忘れている二人。
「それなら、今晩の宿と…そうですね、冒険者ですから防具や武器を扱うお店に口利きをしましょう」
冒険者家業を営む者にとってはかなりプラスの報酬だ。
「え?そんなことできるんですか?」
思わず勇二は聞き返す。にわかには信じられなかったのだろう。
どう見たって目の前の女性はそう言った方面の事が得意であるとは思えなかったのだ。
「ええ。これでも商人の妻ですから。顔は意外に広いんですよ?宿に関してもそれなりのもてなしができると思いますよ?」
(ん?もてなしって…?どういう意味だ?)
勇二はリースの言葉の中に違和感を感じたのか、思わず首を傾げる。
「あ、それよりも他の子供達がどうなったか分かります?私たちギルドについてからすぐにここに案内されたから話を聞けてなくて」
しかし、勇二の疑問は未希のその発言によって霧散した。
「ええ。どうやら、他の子供達も近隣の村や町攫われていたようで…今、緊急の依頼としてその子供達をもといた村や町まで送り届けるクエストを発行したようです」
「ってことはもう出発してる子もいるってこと?」
「いえ。今日のところはギルドの方で子供達を保護、明日の早朝に出発するそうですよ」
「…商人ってすごいんだね。気になる情報がポンポン出て来るよ」
「朝日が悪徳商人には気をつけろと言った意味が少しだけわかった気がする」
少しでいいのか、未希よ。
「さて、それではそろそろ向かいましょうか?」
「え?向かうってどこに?」
勇二が思わずそう聞き返すとリースは悪戯っぽい笑みをつくり、うたた寝し始めたシェリーを背におぶってやる。
「しっかりしているように見えて意外と抜けてますねユージさんは」

「今晩の宿ですよ」

to be continued...

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