異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-30 リユニオンのギルド長

受付嬢にギルドから追い出されるようにして外に出た勇二達は冒険者ギルドの裏手にある大きな倉庫の前に立っていた。
「うわぁー。大きいねぇ」
それを見た未希がそう感想を漏らす。
「えっと…中にギルド長がいるらしいけど…」
勇二はそう言いながら倉庫の扉に手を掛ける。
「失礼しまーす…」
扉をゆっくりと開き、勇二はその開いた扉の間からひょっこりと顔をのぞかせ中の様子を窺う。
すると…
「ッ!?っは―――!」
勇二のその顔めがけ、上と右左の三方向からナニかが飛翔してきた。
勇二は扉を完全に開け放つと腰に下げた鞘から剣を抜き、それを斬りつける。
「…氷?」
勇二が斬りつけたのは小さな拳程度の大きさの氷だった。もっとも勇二に斬りつけられたことによりバラバラに砕け散っているが。
「おお!成程ねぇ…流石に異名持ちのルーキーはすごいもんだねぇ!」
一瞬のうちに行われたそれを讃頌するようにどこからか乾いた拍手と称賛の声が聞こえる。
「おおっと!こっちだよこっち!私はここだよ!」
勇二が声の主を探して周囲を警戒していると、再び声が聞こえた。
倉庫の中に声がこだまする中、勇二がなんとなくに上を見上げると、倉庫の天井の柱の上に一人の女性がいた。
「おお!そうそう、ここだよここ!今降りるから少し待っていてねぇ!」
女性はそう言うと天井の柱から飛び降りた。
「ちょっと!?」
「受け止めてくれてもいいんだよぉ?っていうか受け止めて―?死んじゃうから―」
じゃあ飛び降りるなよ!とツッコみたい気持ちで一杯の勇二は無言で未希に視線を向ける。
未希もその視線の意味を理解したらしく『道具袋アイテムストレージ』の中から長杖を取り出し地面に突き立てる。
「『ストーム』」
未希の詠唱により発動した魔法は女性が地面に落ちる寸前のところで発生し、もう一度女性を宙に飛ばす。
「のわぁ!?ぐぇ!?」
しかし、宙に飛ばすと言ってもそれほど魔力を込めた訳ではないので精々一メートルほど浮かせるのが限度だった。
そうして急落下からの不意打ちの上昇、そして地面への激突を経て目の前に現れた女性を勇二は注意深く観察する。
まず一番に視界に入ってきたのは鮮やかな、後頭部で結われた青い髪。
年齢は三十代ぐらいだろうが、その見立てがこの女性には通じないことをあるものが示していた。
それは髪を結っていることで露になった長く尖った耳の存在だ。
「アナタは一体…?」
「痛たたた。って、ん?私?」
地面に激突したお尻をさすっていた女性は勇二と未希を見て立ち上がるとよくぞ聞いてくれましたとばかりにニンマリと笑い立ち上がる。
「私はレイーネ。冒険者ギルド、リユニオンン支部のギルドマスターよ」
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「それで…そのギルドマスターが一体何の用ですか?」
手に持った剣を鞘に収め、軽くギルドマスターを睨みつける勇二。
「もう!そんなに邪険にすることないじゃない。異名持ちの新人が来るって聞いて試したくなっただけなんだから」
対するギルドマスターのレイーネは実に楽しそうな笑顔を浮かべている。
「はぁ…もういいです。それで、素材の買取をしてもらえると聞いて来たんですけど?」
それを見た勇二はこれ以上は時間の無駄になると察し話題を切り替える。
「あぁ、それなら特別に私が担当するわ。こう見えて素材の目利きはできるほうなの」
「それはいいんですけど、ギルドマスター自らですか…?」
「あら?意外かしら?私としては現役のルーキーにアドバイスをするいい機会になるから是が非でもやりたいところなのよねぇ」
「そうですか…それじゃあ、素材を出しますね。場所はここでいいですか?」
勇二がそう尋ねると無言で頷くギルドマスター。
勇二はそんなギルドマスターを尻目に勇二は『道具袋アイテムストレージ』から討伐部位の入った麻袋と大量の素材を取り出してゆく。
「お。おぉ…?」
その大量の素材の数々を目の前にしたギルドマスターは思わず困惑の声を上げる。
その間にも勇二は無言で『道具袋』の中から素材を次々と取り出してゆく。その中にはこの街に来る前に遭遇した森のくまさ...フォレストベアの死骸もあった。
「とりあえずこれだけです」
勇二はそう言うと一度素材を置いた場所から離れ、ギルドマスターのいる方へふり返る。
そこではギルドマスターがポカンとした表情をして立っていた。
「えっと…ギルドマスター?」
「っは!?ご、ごめんなさいね。いくら異名持ちのルーキーだからってまさか、ここまでのものとは思っていなかったから」
「あ、あとこれを見せればいくらか金額を上乗せしてくれると聞いたのですが…」
勇二が差し出したのは先ほどギルドの受付嬢から受け取った木版である。
「あぁ、木版ね」
ギルドマスターはその木版を受け取ると倉庫の地面に落ちていた石を拾い、その木版に何やら印をつけ始めた。
「それじゃあ、私はこの素材の山を仕分けなきゃいけないから先にギルドの方へ行っていてくれる?呼ばれてるはずよ?」
「ぁ、そう言えば…」
勇二はギルドマスターから木版を受け取ると小さくそんな事を呟いた。どうやら忘れていたようである。
「あなるべく、貴方達がギルドの中にいる内に終わらせるから少し待っていてね?」
「分かりました。よし、それじゃあ未希。行くよ」
「はーい!」
勇二とギルドマスターが話している間、手持ち沙汰だったのか先程まで目を細め、欠伸をしていた未希は勇二に声をかけられたことに嬉しそうに返事をする。
「では、失礼しました」
「失礼しましたー」
「あー、できればギルドのほうから応援呼んで来てくれてもいいのよー?」
おどけたようにそう言うギルドマスターに苦笑しながら倉庫を後にする二人だった。
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勇二達の過ぎ去った後の倉庫でギルドマスターは一人、二人の出て行った扉の方を見て微笑みを浮かべていた。
「あの反応速度と剣技、それにあの未熟ながらも洗礼された魔法…ユージ・スギサキとミキ・ミヤウチ、ね。なかなか面白い人材が出てきたじゃないの」
だけど、とギルドマスターは今度は先ほどとは対照的な、困り顔をしてぼやくように呟く。
「この素材の山。それにこの熊の死骸…本来、この辺りにはいないはずの魔物が出現し始めてる…面倒事も出てきたみたいね」
そんなギルドマスターの独り言は、虚しく倉庫の中に木霊した。

to be continued...

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