異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-38 再戦、剣の使徒

倒壊した街の、瓦礫の中。
そこに広がる異様な緊張感の中で勇二と未希は剣の使徒と対峙していた。
「ふん。なぜここにいる、か。馬鹿げたことを聞くものだ」
「なに…?」
「私がここにいる理由など、私の存在が何であるかを知っていれば簡単にわかる事だ。そうであろう?」
「この町を魔物に襲わせたのも、それを餌に僕達を誘き寄せたのも全ては魔王のためだ、と?」
そう言った勇二は顔を僅かに顔を顰めながら、剣の柄に手を掛ける。
「ああ。相違ない。以前は杖や盾共に邪魔されたが今回はそうはいかん。今度こそ魔王様の崇高なる計画の邪魔を阻止するために貴様ら勇者を殺してやる」
そう言って剣の使徒は背負った大剣を手に取るとおもむろに地面に突き刺した。
「前は私が慢心していたために、あのような異端者イレギュラーに痛手を受けたが、今度はそうはいかん。全力で殺しに行くぞ」
次の瞬間、二人は剣の使徒から以前とは比べ物にならない凄まじい覇気と殺気が放たれたことを感じ取り、思わず一歩その場から後退った。
「未希…全力で行くよ」
勇二は背中に冷たいものを感じながら軽鎧の籠手の中から小さなお守りを取り出して未希に視線を送る。
見れば、未希もローブの右腕の袖をめくり手首につけられた腕輪を空気中に晒していた。
「未希は僕が守る」
「勇二は私が支える」
高らかにそう宣言する二人の持つお守りと腕輪が激しく光り輝き、銀と白の光が二人を包み込む。
その光が晴れた後、そこにいたのは銀色の騎士と白い聖女だった。
勇二の装備していた鉄製の胸当ては銀色の軽鎧に変わり、手に持つ長剣も銀色の輝きを放っている。
未希は着こんでいたくすんだ白いローブが純白のものに変わり鉄製の杖も装飾のついたものに変わっている。
女神に与えられた力を解放した姿。
能力を解放し、銀色の輝きを放つ騎士の姿になった勇二は何やら不満そうな顔で未希を見る。
「未希…この掛け声いるのかな?」
「気分と雰囲気は大事だよ?」
対する未希はニッコニコだった。
「はぁ…っと。敵の目の前でする話じゃなかったね。お待たせ、剣の使徒」
勇二は手の持つ剣を軽く振り回しながらごく自然に、フランクな感じで今まで一度もこちらに攻撃を仕掛けてこなかった剣の使徒に話しかける。
「ふん。またしてもその面妖な術か…一体どういった仕組みかは知らんが、これから死ぬものに興味はない」
剣の使徒はそう言うと地面に突き刺した剣を抜き、軽く横に一閃する。
その剣圧だけで周囲の瓦礫が崩れ落ちる。
「正々堂々正面から相手してやろう。来るがよい、勇者!」
こうして勇二と未希、そして剣の使徒との戦いが幕を開けたのだった。
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最初に仕掛けたのは勇二の方だった。
「はぁ――」
勇二は剣を中段に構えるとその場で瞑目し、体内の魔力に意識を集中させる。
そして...
「駆けろ、閃光の如く。貫け、千鳥の如く。夢現流魔法戦闘術『迅雷』」
次の瞬間、勇二は全身に雷を纏って剣の使徒へ斬りかかった。
「ック…!その技は『剣聖』の…!」
剣の使徒は勇二の強化された動きに素早く反応しその剣を己の大剣で防ぐ。
「雷属性の魔力で全身を覆い、瞬発力と腕力を瞬時に強化したか…」
剣の使徒は勇二の剣を受け止めた後、鍔迫り合いに持込み己の大剣のお重みで勇二を押しつぶそうとするが...
「甘い!夢現流魔法剣術『飛翔剣・迅雷』!」
勇二は鍔迫り合いをしながら右腕に嵌めた腕輪の風属性の魔石に魔力を通し、ゼロ距離で『飛翔剣』を放つ。
しかし、その飛翔剣は勇二の纏う雷の力を得て強化された状態で放たれた。
「なに!?」
傍から見れば、捨て身の行動。
それを間近で見た剣の使徒は一瞬だけ反応が鈍りその攻撃をまともに食らってしまう。
辺り一面を砂埃が覆う。
「勇二っ!」
それを見た未希は悲痛な声を上げて砂埃の中心に近づこうとする。
「ぐあっ!」
しかし、それは砂埃の中から勇二が吹っ飛んで来たことで意味のない行動となった。
勇二は勢いをそのままに瓦礫の中に突っ込むが、何とか持ち直したのか若干ふらつきながらではあるが立ち上がった。
「勇二、ちょっと待っててね…『キュア』」
未希はすぐさま勇二のもとに駆けよると体の至る所から出血している勇二に治癒魔法をかける。
治癒魔法により、少しだけ傷の癒えた勇二は忌々しげに剣の使徒がいるであろう砂埃の中を睨み付ける。
「未希、気をつけて…」
「勇二?」
「多分だけど、前に戦った時のアレは本気じゃない…だけど、ヤツは今から」

「本気で来るよ…!」

勇二がそう言った瞬間、剣の使徒を覆っていた砂埃が一瞬にして晴れた。
その中心にいるのは勿論、剣の使徒なのだが...
「様子が、おかしい?」
未希の言う通り、目の前にいる剣の使徒は体を前後に揺らし、夢遊病患者のように覚束ない足取りでその場をふらつきうわごとのように何かを呟いている。
「この私が、こんな小僧風情にてこずるだと…?クククッ、クハハハハハ!」
そして、一瞬その場で動きを止めると、背を沿って高笑いを浮かべた。
「ああ、すまないな勇者よ。どうやら私は、未だに慢心を抱いていたらしい。心から詫びよう」
だから、と剣の使徒は続けさまにこういった。

「今度こそ本気て殺してやろう」と。

to be continued...

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