異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-13 未希の成長、そして発見

ラックと別れた勇二達はそれからすぐに本来の目的地であるオークション会場のステージ裏まで来ていた。
そして勇二と未希は今、魔石と魔法陣によって作り出した段差に身をひそめながら傭兵達の隙を窺っていたのだが...
「うわぁ、ラックの言った通りだ…そこら中に傭兵がいるよ」
勇二の言う通り、商人達が商品を預けているテントが立ち並ぶそこには、多数の傭兵がその場を歩き回っていた。
「あそこにも結構な数がいた筈だけど…」
これは少し予想外だ、とばかりに勇二は表情を歪める。
勇二達トラックが別れた時点で十数人程の傭兵があの場に留まっていた。
あれだけの数がこの場から離れれば、本部となるこの場所は今頃少人数での警備しかしていないだろう、と考えていた勇二だがその予想は簡単に覆された。
その場にいる傭兵の数は先ほどの倍近くだ。
「勇二、どうする?」
未希が首をかしげて聞いてくる。
「これだけの数だと、バレずに侵入ってことも難しいからなぁ…」
完全に予想だにしなかった事態にため息をつき、肩を落とす勇二。
このままでは、せっかくラックが残って傭兵を引き付けてくれているのが無駄になってしまう。
そう考えたとき、勇二の頭の中に一つの案が浮かんできた。
それは...
「ねぇ、未希?」
「なに、勇二?」
「見切って大体どのくらいの距離まで魔法の発動できたっけ?」
「え?どのくらいって…」
「可能な限りでいいから、できるだけ遠くに、そうだな…『ストーム』の魔法を複数別々の場所に同時展開してほしいんだよ。それも威力高めのを…」
「…もしかして、私の魔法でここにいる傭兵さん達を誘いだすの…?」
勇二の作戦の内容を理解したらしい未希が首を傾げながら勇二の顔を伺う。
「未希…、今のだけで作戦の内容を理解できたんだ…」
対する勇二は驚いたような顔をしている。
「さすがにひどくない!?」
すかさず未希が抗議の声を上げるが...
「いや、だって、ねぇ…?」
勇二はそう言って未希から目を逸らす。
「むぅー。勇二の意地悪っ!」
すると、勇二のそんな反応がお気に召さなかったのか、未希は拗ねたようにそっぽを向いた。
「ははは、ごめんごめん」
すかさずそう言って軽く謝る勇二。
このまま拗ねられてはこの状況を打破できないと踏んでの判断だろう。こういう時に関しては本当に鋭い男である。こういう時に関しては。
「…できるだけでいいんでしょ?」
「へ?あ、うん。ラックのいる場所には撃っちゃだめだよ?」
「だいじょーぶ!」
未希はそういうと手に持つ長杖を掲げて集中するために目を瞑る。
過去に未希は魔法を同時に複数展開した経験がある。
一番最初にそれをやったのは剣の使途との戦いだ。
あの後、未希は勇二と共に旅をしながら修行を重ねていた。
その結果、初級魔法なら六つ、中級魔法なら四つまで同時展開できるようになっていた。
しかし、流石の未希でも中級魔法は鬼門だったらしく、同時展開できてもその分意魔法の力が弱まったりすることが多くあった。
そもそもの話、魔法の同時展開というのは魔法使いの中で優れた者達にしか扱えないものなのだ。
それを、この世界に来てから半年程度で扱えるようになっているということはハッキリ言って異常といえるのだが...
閑話休題。
勇二から頼まれたのは風属性中級魔法の『ストーム』だ。それも威力は強めのもの、遠隔からの発動ときた。
魔法の威力を上げて同時展開するというのは未だに未希が成功させたことのない試みだ。
しかし、今の未希には不思議と成功させる自信があった。
理由は単純。『勇二に頼られたから』だ。
恋する乙女侮るなかれ、ということだろう。
未希はゆっくりと目を開け、意識を集中させ、狙いを定める。
そしてつぶやくようにキーワードを口にする。
「……『ストーム』」
物静かな詠唱と共にソレは展開された。
オークションの会場の端の方に現れたそれは、四本の旋風。
それは発動してから暫くの内に消え去ってしまったがオークションの会場の方からは大きな騒めきとどよめきが聞こえてきた。
突然起こった台風と見紛うばかりの竜巻に傭兵達は驚きを隠せない様子である。
しかし、それも束の間。
すぐに正気に戻った傭兵達は行動を開始した。
竜巻の起こった場所の偵察だ。
こうして、その場から約半数の傭兵達がいなくなった。
そして...
「あれ?他の傭兵達もどんどんいなくなってく…?」
目撃したのは残った傭兵の複数名が先程勇二達が来た方向に走ってゆく光景だ。
「あっちに行ったってことは…ラックが頑張ってるんだね」
そういって一人笑みを作る勇二。
これは負けられない、と勇二の中の対抗心に火が付いた。
そんな中、未希がある光景を目撃する。
「勇二っ、あれ!」
未希が指さす先にいたもの、それは...
質のよさそうな服を着た太った中年の男。
そして、その後ろを、ロープでつながれたまま歩かされている、みすぼらしいボロ布を纏った子供達だ。
「あれは…」
そんな勇二の視線の先には一人の少女がいた。
肩にかからない程度の金髪、その髪を分けるようにして主張する小さく尖った耳、俯いた髪の隙間から見える茶色い瞳のハーフエルフの少女。
他にハーフエルフが見当たらないため彼女が件の少女ということで間違いないだろう。

「…見つけた」

勇二が小さく呟いた、怒気すら含んだその言葉。
「未希、絶対に助け出そう」
しかし、次の瞬間にはその怒気を飲み込み、小さく宣言するようにそう言うのだった。

to be continued...

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