異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-14 不穏な影

「ふぅ···大体こんなものでしょうか」
勇二達が件の少女を発見したのとほぼ同時刻、そう小さく呟いた白黒モノクロな少女は自身の両の手に持った二つの短剣を腰の鞘に収める。
彼女の足下には、多数の気を失った傭兵達が倒れ込んでいた。
モノクロな少女ことラックは二人と別れた後、迫り来る傭兵達と戦い続けていた。
しかし、そこは寄せ集めの兵。
実力にもバラツキがある為、倒すこと自体はとても容易だった。
問題点としては数がとてつもなく多かったことだろう。
倒しても倒しても湧いてくるのだ。
いくら弱くても、精神的もくるものがある。
「今頃あのお二人は会場でしょうか?」
ラックはそう言いながら二人が駆けて行った方を見やる。
すると...
「っ!?今のは!?」
驚いた様子でラックが見上げた空には数本の巨大な竜巻があった。
幸いにもその竜巻はすぐに消え去ったが、ここから離れた場所にあるオークション会場からは大きな悲鳴のようなものが聞こえてきた。
しかしラックにはその竜巻を起こした本人に心当たりがあった。
「ミキさん、でしょうね···」
ラックはそう言って溜息をつく。
「やはり、私の予想以上に数がいたのでしょうね···今のは大方、傭兵達の注意を逸らすためのものでしょうね」
どうやらラックにも二人の行動の意図が掴めたようだ。
「それにしても、勇二さんの言葉に載せられやすいとは聞いてましたが···ここまでの魔法が使えることは聞かされてませんね」
そう言ってここには居ない、自分をこの街にけしかけた人物のことを脳裏に思い浮かべるラック。
「成程、『あの人』の言う通り。こちらの予想を軽々と超えていく人達ですね」
そんな独り言を呟きながらラックは目を細め周囲を警戒する。
「この気配···魔物でしょうか?それとも···」
ラックが小さくそう呟くと、辺りに植えられた木が微かに揺れた。
「そこですか···」
それを逃すことなく察知したラックは太ももに括りつけたポーチの中から赤い魔石を取り出した。
ここに来る時に使った爆発するアレである。
本来なら爆発音を考慮し躊躇するものだか、ラックは今更だとそれを割り切り無言でそれを揺れた木の方へ放り投げる。
「『起動』」
短くキーワードだけを呟くと、たちまち木のあった場所で爆発が起こった。
爆発による砂埃が起こる。
すると、その中から人間大サイズの影が伺えた。
砂埃が晴れたそこにいたのは、勇二達がこの街に来る途中に襲われた魔物、フォレストベアであった。
だが、そのフォレストベアは普通の個体と比べると少しばかりか毛の色が濃く、体躯も大きかった。
「変異種、ですかね?珍しいですけどなんでここに···?」
ラックは街の地下であるここに魔物が侵入していることに疑問を抱く。
「どうにしろ、このままでは地上にでてきてしまう可能性もあります···!」
ラックは一度その思考を頭の隅に追いやり腰の鞘から短剣を抜き放ち逆手に構える。
「と、いうことです。行きますよっ!」
こうしてラックと森のくまさ...フォレストベアの戦いが始まった。

to be continued...

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