異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー
3-16 変異種2
「『起爆』」
ラックがそう呟くとフォレストベアの首に刺さった短剣、その柄に括りつけられた布の袋の中から激しい閃光が迸る。
その閃光は一瞬でその姿を炎へと変え、あたり一面に爆風を起こす。
「今のを耐えますか···」
爆風に体を押されながらラックは目の前の砂埃を睨みつける。
今は砂埃で見えていないが、ラックにはあのフォレストベアが生きているという確証があった。
「グガァァアァァア!!」
するとラックの思考を肯定するかのように砂埃の中からフォレストベアが現れた。
「···やはりランクCの魔物でも変異種は油断なりませんね」
ラックは忌々しげに呟いて目を細める。
その首筋の毛には焦げ跡のようなものが見えたがそれだけで、頭と胴はしっかりと繋がっていた。
「グラァァァァアァアァ!」
ラックから自分に注がれる視線に何かを感じ取ったのか、フォレストベアは一度雄叫びを上げると、ラックに対し右の前足を振り上げ、襲いかかる。
「おっと!」
ラックはそれを再び後ろに飛んで避ける。
「っ!?」
しかし、避けたはずのその一撃は反応が遅れた訳でもないのに肩を掠め、激しい痛みが走る。
(今のはいったい···?)
ラックが攻撃を受けたであろう場所を見ればそこには三条の傷があった。
「まさか、魔法ですか?」
先程の攻撃は事前に察知し、回避していたために当たるような距離にはなかった。
で、あればなぜ当たったのか。
答えは単純、魔法である。
変異種として生まれた魔物の中には魔法を扱えるようになるものもいる。
例えば、先程の攻撃。
切りかかる時に風属性の魔法を爪に展開していたらどうだろうか?
振り下ろされた爪はそのレンジを超えて対象の体に傷をつけることが出来る。
幸いにも、彼女の外套は魔物由来の素材で出来ていたためにそれほど被害はなかったが、もしそうでなければ腕が切り落とされていただろう。
「これは、ますます面倒ですね···」
ラックはそう言いながら傷口を抑え、フォレストベアの一挙一動を見逃さんとばかりに注視する。
普通の変異種であれば多少時間がかかっても無傷で討伐することが出来ただろう。
しかし、今回はそうもいきそうにない。
魔法を扱えるような魔物には基本的に魔法に対する耐性が備わっているのだ。
先程の爆発の中で生き残ったのもそれが原因だろう。
まぁ、耐性があってもなくてもラックの持つ魔石は先程のもので品切なわけであるのだが…
「これは、仕方ありませんよね?」
ラックはどこか諦めたように溜息をつきフォレストベアを睨みつける。
その瞳には先程の溜息とは不釣り合いな強い意志が宿っていた。
「『あの人』にダメだと言われているので使いたくはなかったのですが···人目がないのが幸いでしたね」
ラックはそう言ってフォレストベアのもとに一歩ずつ歩みを進めてゆく。
「私に本気を出させたこと、後悔させてあげます」
ラックがそう言うと彼女の『影』が急に蠢き出し、地面から地上にその姿を具現化させた。
「私の『影魔法』。とくとご堪能あれ」
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「拘束しなさい『影縛』」
ラックが短くそう命じると具現化した彼女の影は、一斉にフォレストベアに絡みつきその動きを束縛する。
「グ、グルゥゥゥウゥウウ!?」
またしても突然の出来事にフォレストベアは困惑の声をあげながら拘束を解こうともがき始める。
しかし...
「無駄です。動きを止めなさい『影縫』」
ラックによって紡がれた言霊に反応し、未だに蠢いめいたラックの影はフォレストベアの影に突き刺さった。
すると、影の拘束から逃れようとしていたフォレストベアの動きがピタリと止んだ。
「ふぅ···流石に『影縫』は魔力を消費しますね」
それを確認したラックは額に浮かぶ汗を拭いながらフォレストベアに近づいてゆく。
近くなる影と影。
その距離が一メートル程になったところでラックは一度立ち止まり、地面に膝をつく。
「『影袋』」
そしてそのまま自身の影に両手を入れる。
「うーんと?あ、ありました」
そう言ってラックが影から手を出すと、その両手には二本の白い短剣が握られていた。
「さて、それではクマさん。そろそろサヨナラです」
ラックはそう言ってフォレストベアの頭に飛びつくと一切の躊躇いもなく、その首を切りつけた。
先程の短剣では歯の立たなかった毛に覆われた皮は簡単に切り裂かれ、肉をも断った。
ラックが地面に着地するのと同時に後ろから大きなものが倒れる音がした。
「ふぅ、中々に強敵でした···」
ラックはそちらには振り返らず、勇二と未希の走って行った方を見やる。
すると、そこから怒号とも悲鳴ともつかない声が聞こえてきた。
「お二人はキチンと侵入出来たようですね。やり過ぎてないといいですが···」
ラックはそんなことを言いながら二人と合流すべく、駆け出した。
その場に残ったのは首を切り裂かれたフォレストベアの死骸のみだった。
to be continued...
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