異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-8 オークション会場へ

人間国最大の商業の街、リユニオン。
ここに奴隷商が根付いたのはこの街が出来て暫くの事であった。
当時、街の人間の殆どは商人だけで構成されていて一般人の住人は少なかった。
街もできたばかりで人手不足なところもあった。
普通の街ならば奴隷などなくとも日常はまわっていくものなのだが、ここは商人の街だ。
住人の商人の内、約半数近くは旅商人で構成されている。
その旅商人の中には街に店を持つ者もいる。
そのため行商の時期が被ることがあった場合には長い間、自分の店を開けておくことになる。
そして商人の中にはそれを良しとしないものが殆どだ。
そこに舞い込んできたのが奴隷商人だ。
この世界での奴隷は、犯罪を犯し捕まった『犯罪奴隷』や、その子供などが主になる。
奴隷は身体の一部に、行動を制限する『奴隷紋』という刻印があり、主人には抗うことができない。
さらに言うと基本的に人間国内では奴隷に関する法律は存在しないと言っていい。
あるとしても、最低限度の生活を保障するといったものだけだ。
殺しても罪に問われることはない。
それを知っていた奴隷商人は一斉に奴隷を買い集めた。
なにせ店を任せるのだ。用心深い商人たちの多くは当然の如く、決して裏切ることのない奴隷を選ぶ。
こうして次々と売れていく奴隷を見た商人の中に善からぬことを考える者がいた。
その商人はこう考えた。
小さな農村から若い男や村娘を連れ去り、奴隷として売り出せば、今のこの状況に便乗して金儲けができるのではないか、と。
商人というのは基本的に金で動く。
義理や人情で商売をするものも少なくはないが、やはり商人にとって一番に信用できるのは金なのだ。
そして、その商人の中には金のためなら何でも売るしなんでも買い取る、といった思念を持った商人もいる。
要するにその商人はそのタイプの商人だったのだ。
それからその商人は近くの農村に入り巧みな手口を使い、数人の村娘を攫った後、知り合いの奴隷商人と協力し村娘に奴隷紋を入れ人気のない場所でその奴隷を売りさばいた。
その後も遠方の村々にまで行き住民を攫ってはまた人気の少ない場所で売りさばくという行動をつづけた。
それから裏オークションとしてリユニオンの街の一部になるのにそう時間はかからなかった。
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「と、言うのが裏オークションの成り立ちです。まぁ、それっぽいものは街ができた当初からあったらしいですけどね」
「…………」
ラックからこの街の、裏オークションの成り立ちを聞いた勇二は表情を険しくしたまま拳を握り締める。
勇二達は今、裏オークションが行われている会場に足を急がせていた。勿論、情報源はラックだ。
また、聞くところによると裏オークションでは違法奴隷の他に麻薬、希少価値の高い魔物の素材などの表では手に入りずらいモノも出回っているらしい。
「この街が商人の町ということを考えると殲滅はあくまで最低限に抑えた方がいいですね。下手したら国の財にも響きかねませんからね」
ラックが今回の件についての注意点を説明する。
「…うん。まぁ、善処する」
対する勇二の返事は曖昧なものだ。
「勇二?善処するだけじゃなくてちゃんと手加減しなきゃダメだよ?」
そんな曖昧な返事をした勇二を未希が咎める。
「うっ、まさか未希に注意されるなんて…!」
そう言ってガクリと肩を落とす勇二。
「ちょっと待ってそれどういう意味!?」

「お二人とも。漫才をするのはいいですが、着きましたよ」

二人の夫婦漫才が始またところでラックは一度立ち止まり二人の方を見やる。
「着いたって…」
「ここは?」
困惑気味に首をかしげる二人の前には小さなボロ小屋があった。
「裏オークションの会場ですよ。尤も、ここはその入り口ですけどね」
ラックはそう言って躊躇うことなく小屋の扉をあけ放つ。
開いた扉から見えたのは小さなベッドや机と椅子などの家具だけだった。
ラックは開け放った扉から中に入ると小屋にあった机と椅子を動かし別のところに移動させる。
机の足があった床には丁度指が一本入るか入らないかくらいの小さな穴が二つあった。
ラックはその穴の内二つに指を入れ、それを横引っ張る。
するとその動きに合わせて床が横にスライドし、先程どいた机くらいの穴が現れた。
その穴の中には階段があった。
「隠し階段…?」
勇二が困惑気味にそう呟く。
「えぇ、その通りです」
ラックはその言葉に軽く頷き二人に向かって手招きする。
「裏オークションの会場は地下にあります。なんでも商人の力が弱かった当時、違法なものをバレないように取り扱えるように、とのことで地下になったらしいです」
「へー。ん?ラック、会場への入り口はここの一つだけなの?」
ラックの説明を聞いた未希が素朴な疑問を口にした。
「あー。それに関しては情報不足ですね。でも私の知る限り入口はここの他に五つほどありましたから…他にもあるんじゃないでしょうか?」
「うわー、商人ってすごいんだねー」
「ちなみに会場の方は当時の商人たちが個別に雇った魔法使い達の魔法で開けられたようです」
「…うん。取り敢えず商人のすごいのは分かったかな」
その話の内容に呆れながら勇二は穴の中を覗き込む。
「さてと、それじゃあ行きますか?」
勇二はそう言って二人の方を振り返る。
「ふふっ!勇二のその言い方まるで朝日みたーい」
その場で思ったことを口にする未希。
対する勇二は不満げな表情だ。
「茶化さないの、全く」
勇二はそう言いながら階段の一段目に足を踏み入れる。
「人助けを始めよう」

to be continued...

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