異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-6 面倒ごとは湧くようにやってくる

「えっと、それじゃあ換金お願いできますか?」
勇二はそう言って道具袋アイテムストレージからモンスターの討伐部位が入った袋を取り出しカウンターにポンッと置く。勿論、未希からの視線はスルーだ。
「っあ、はい!承りました!」
勇二の正面にいた受付嬢はカウンターの上に置かれた袋の大きさを見て正気に戻ったのかにこやかな笑顔で討伐部位の確認を始める。
しかし、中に入っていた討伐部位の確認をしていく内に受付嬢の表情はどんどん曇ったものになっていく。
「その、実に申し訳ないのですが、流石にこの量の討伐部位になりますと換金には少し時間がかかります」
「どのくらいですか?」
「どのくらいかと聞かれましても、私も十数匹種もの討伐部位をこんなに大量に換金した経験はありませんし、お生憎と今はギルド内に手の空いている職員がいないのです」
「ん、わかりました。それじゃあ明日になったらまた来ます」
そういって後ろを向き帰ろうとした勇二だが...
「あ、それじゃあついでに素材の買取もしてもらえませんか?」
どうせ時間がかかるならと勇二は前の町からここの街に来るまでの間に倒した魔物の素材を買い取ってもらおうと考えたのである。
「えっと、素材の量にもよります」
「その袋の中に入ってる討伐部位の数分ですよ?」
「誠に申し訳ありませんが、討伐部位の買取も明日にさせていただけませんか?今渡されてしまうと市場に流す前に品質が悪化してしまいますので」
「あー、成程。分かりました、それじゃあやっぱり明日になったら出直しますね」
勇二はそう言って今度こそギルドを出ようと後ろを振り返る。
「ラック?そういうことだから、今日はありがとね。また機会があったらよろしく」
「ええ、私はここに来る途中にあった『黄昏の牧場亭』に泊まっていますから御用があればお尋ねください」
「うん。それじゃ「す、すみません!」っおわ!?大丈夫ですか?」
勇二がラックと軽く別れの挨拶をしていたところに一人の女性が勇二とぶつかった。
その女性は衝撃に耐えることができなかったのかギルドの床に転び込んでしまった。
勇二は一瞬それに驚きつつもその女性に手を差し出す。
その女性はしばらくの間惚けていたが勇二の差し出した手に気付きその手を取り立ち上がる。
そして、女性は立ち上がると勇二の方には目もくれず受付嬢のもとに詰め寄った。
「お願いですっ!娘を助けてください!娘が、シェリーが奴隷商に!」
聞こえてきたのは切羽詰まったような声で放たれたそんな言葉。
「……奴隷商?」
勇二はその言葉を聞き大体の察しがついたのか、眉をひそめながらではあるがラックの方を見やる。
「…恐らく彼女の言う奴隷商というのは非合法な手段を使って、例えば攫うとかそんなことをして連れて来た人間を裏オークション売りさばいてる商人たちですね。まぁ、それはあくまで悪い方の奴隷商で、普通の奴隷商はそんなことしませんよ?普通の奴隷商が狙うのは没落貴族の跡取り娘とか、小さな農村から売られた子供くらいです」
「…狙われるのは子供だけ?」
「それに関しては何とも。ただ大人に比べて狙われることが多いのは事実ですね」
「非合法っていうのはつまり」
「はい。ぶちのめしても誰も文句は言いません。ただこの街にはそれが長い間暗黙の了解として根付いていたみたいで、一掃するのは恐らく不可能かと」
「その奴隷商は倒しちゃっても他の商人との関係には響かないんだよね」
「そうですね。この街に奴隷を買いに来るとしたら、それはお忍びの貴族くらいですから影響するとしたら外の貴族の方でしょうね」
まぁ、とラックは続ける。
「むしろその実績を買って関係を結ぼうとする商人もいるでしょうから、それを考えると影響がないとは言えませんね」
勇二はそこまで聞いた時点で殆んどこの後の行動を決めていた。
殆どというのは、その行動に対する許可を共に旅をする相棒に聞いていないからだ。
勇二は未希の方に目をやる。
それに対して未希は笑顔で握り拳の親指を立てる。
ゴーサインだ。
「僕達でよければ手をお貸ししましょうか?」
勇二は受付嬢になだめられながらも落ち着くことなく只々叫ぶように助けを乞う女性の肩に触れそう言うのだった。

to be continued...

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