異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-3 森のくまさん

勇二と未希が出発してから数時間。
空に段々と朱がさしてきたころ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「未希!そんなに叫んでたら舌噛むよ!」
二人は猛ダッシュで街道を走っていた。
「だって!なんでこんなところに‘森のくまさん,がいるの!?ていうかなんで追いかけてくるの!?私たち何も忘れ物はしてないよ!?」
「その言い方だとすんごいファンシーに聞こえるけど実際僕たち命のピンチだからね!?」
そう叫ぶ二人の後ろにはヒグマと同じ、いやそれ以上に大きい熊が追ってきていた。
この熊の名はフォレストベア。
ゴブリンキングと同じランクCに分類される魔物だ。
「未希!見えるだけで何体いる!?」
「え!?えっと、四体だよ!」
勇二はそれを聞き、腰のベルトに括り付けた鞘から剣を抜くと、立ち止まり後ろに振り返る。
「逃げていても仕方がない、迎え撃つよ!」
勇二はそういうが早いかフォレストベアのもとに突っ込んでいく。
「これでもくらえ!『フラッシュ』!」
フォレストベアのもとに走り寄った勇二は一言のキーワードを発した。
勇二の言葉とともに発せられたそれは眩い光。
朝日が考案した目潰し用の魔法だ。
「ガォウ!?」
その光をまともに見たフォレストベアは視界を奪われ混乱している。
「もう!勝手に突っ込んでいかないでよ!『ストーム』!」
未希はそんなことを言いながらも前に寄った街で新調したばかりの金属製の杖を構え、魔法を発動する。
彼女の魔法はフォレストベアを吹き飛ばすことはかなわなかったが足元にあった木切れや小石などを巻き上げフォレストベアの体に傷をつける。
「これで最後!」
勇二はそう言って一度、剣を構えなおし剣を持つ手とは逆の手で腕輪の緑色の石に触れる。
「夢現流魔法剣術『飛翔剣』!」
勇二の放ったそれはいつだったかウィリアムが自身に放った技だ。
この技はまだ自分たちが王城に滞在しているとき、朝日が書庫で見つけてきた本に書いてあった。
本のタイトルは表紙がボロボロになっていたために分からなかったが、その中には『夢現流魔法剣術』と呼称される剣術について書かれていた。
魔法剣術、それは魔法と剣技を組み合わせることによって生まれた剣術だ。
世界には魔法剣術の流派がいくつか存在しており『夢現流』という流派もまたその一つだ。
数ある流派の中で『夢現流』という流派は苦手とする魔法を剣術を交えて補い、強力な技として放つ流派のようだ。
例えば、風属性。
風属性の中級魔法には『ウィンドカッター』という風の刃で敵を斬り裂く攻撃魔法がある。
しかし、実はそれを使える者は意外と少ない。
この世界において魔法使いというのは希少な存在であり、さらに中級魔法を放つだけの素質を持つ者があまり多くないためだ。
その点を踏まえれば勇二や未希などは破格の存在と言える。未希に関しては既に中級魔法の詠唱破棄をやってのけているのだから。
しかし、その欠点を補うのが『夢現流魔法剣術』だ。
先ほど例に出した『ウィンドカッター』。
この魔法は先に言ったように風の刃を敵に向かい放つ魔法だ。
『夢現流魔法剣術』を扱うために必要なものはある程度の剣の腕とその属性に対する適性のみ、と朝日の見つけてきた本にはあった。
例えば風属性の適性を持つ者なら、自身の周りにそよ風を生み出せるだけでも構わないのだ。
自身の魔力で生み出した風を己の握る剣に纏わせ、それを斬撃として飛ばす。
それこそが何時ぞやのウィリアムが放ち、先程勇二が放った魔法剣術『飛翔剣』の正体だ。
己の魔法と剣により疑似的に自身の使えない魔法を発現させる、それが『夢現流魔法剣術』なのだ。
閑話休題。
勇二がフォレストベアの首を狙い放った『飛翔剣』はにその場にいた四体のフォレストベアの首を寸分違わず切り落とした。
ちなみに今回勇二は風属性の魔石によって風を生み出し、魔法剣術を完成させたが本当はここまでうまくはいかなかったりする。
少なくとも魔石の魔力を自身の魔力のように扱うのはおいそれとできるものではない。
それがなせるのも勇二の才能故だろうが。
「あー、疲れたぁー」
そう言ってその場に腰を下ろす勇二。
「疲れたぁー、じゃないよ!」
「痛ぁ!?」
しかし次の瞬間、勇二は後頭部に走った鈍痛に思わず頭を押さえる。
「全くもう!一人で先行しないでって言ってるじゃん!」
未希はそう言って金属製の杖を再び勇二の頭に振り下ろす。
「ごめんっ、ごめんなさい!だから杖で叩くのは勘弁してください!金属製だからケッコー痛いんですそれ!」
「知らないよ!」
未希はそう言って思いっきり杖を振り下ろす。
先ほどまでは手加減をしていたが今度は一切の手加減なしだ。
「危なっ!?」
しかし勇二は未希の本気のフルスイングに感づいたのかそれを避ける。
「なんで避けるの!?」
「流石に当たったらただじゃ済まないからだよ!?」
勇二はそう言って未希から少し距離を取りながらフォレストベアの死骸に触れる。
「うん、血抜きは大丈夫そうだね。綺麗に倒したから毛皮なんかは高く売れそうだ。未希?熊の手って食べたことある?」
「むぅー、無いけどさぁ。なんか話を逸らされた気がして釈然としない…」
「ははは、気のせい気のせい。それにしても…」
「ん?勇二、どうかしたの?」
「うーん。いや、なんでフォレストベアがこんなところにいるのかな、と」
「あー、確かに。なんでだろうね?」
「ここに来る前の森では何回か見かけたことがあったけど、基本的にフォレストベアは森から出ないしね」
「あの森、木の実も獣もそれなりにいたよね?」
「うん。それなんだよね。朝日なら雑学とかそんな感じで何か知ってるかもしれないけど、残念ながら僕たちには見当がつかないね」
勇二はそう言いながらフォレストベアの毛皮や牙、爪などの部位をダガーを使って剥いでいく。
ここに来るまでに何回も行った作業だ。慣れたものである。
(でも、ホントになんでこんなところにフォレストベアが…悪いことの前触れじゃなければいいんだけど…)
勇二はそんなことを頭の片隅で考えながらも剥ぎ取りを進めていく。
その後、未希も加わりフォレストベア四体の剥ぎ取り作業が終わったのはそれから半刻ほどたった後だった。

to be continued...

コメント

  • ノベルバユーザー248000

    男でも女でも流石に鉄で殴るのは引く

    0
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