異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-1 朝焼けとハプニング

「っふ!、っはぁ!、てぃや!」
空がだんだんと白み始めてきた早朝。
森の中にポツリと佇む土造りの小屋の前でただ平すら無心に剣を振るう少年の姿があった。
その剣には一切の迷いがなく、少年が剣を振るごとに起こる風はその一振り一振り全てが最高に研ぎ澄ました一撃であることを示していた。
「はぁあ!」
そして最後の一撃として放たれた横なぎの一閃は、偶然目の前に舞い込んできた木の葉をキレイに両断するに至った。
少年は剣を振りぬいたままの姿勢で数秒間静止した後、居住まいを正し、剣を鞘に収めた。
少年、杉崎勇二はその場で再び数秒間瞑目した後、なんとなく空を見上げた。
そこには美しい朝焼けが目前に広がっていた。
彼のその姿は以前と比べ身長も伸び、雰囲気もどこか大人びたものになっていた。
使徒の襲来から数か月、勇二は再開の地であるリユニオンの街に向け着々と歩みを進めていた。
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「ふぅ…、未希ー?そろそろ起きた?」
勇二は外で一通り体を拭いた後、家屋の中にいる自身の旅の相方でもあり幼馴染でもある少女に声を掛ける。
「…寝てるね、完全に」
そう言って勇二は内心呆れつつも土の扉を開け中の様子を確認する。
もちろんノックをするのを忘れない。
部屋に入ると案の定そこでは一人の少女が寝袋の中でかわいらしい寝息を立てながら眠りについていた。
「一応予定じゃ、速めに出ようっていう約束だったんだけどなぁ」
そう言いつつも勇二は足音を立てないようにゆっくりとした動作で少女のもとに近づいていく。
「そりゃっ!起きろ!」
そんな少し変わった掛け声とともに、勇二は自分の人差し指を少女の柔らかいほっぺに突き立てる。
「むにゅー」
しかし、いまだに少女は目を覚まさない。
「……なんでだろうね。デジャヴを感じるのは気のせいかな」
そんなことを独り言ちながら勇二は少女の耳元に顔をよせ小さな声で囁く。
「未希、そろそろ起きないと未希の恥ずかしい過去を耳元で囁くよー」
そんな声に少女、未希の耳がピクと反応した気がするが勇二は構わず続ける。
「あれは未希が小学生のころ、授業にいねむr「わー!わー!分かったから!起きるからやめてってば」…やっぱり起きてたね」
勇二が途中まで言ったところで未希が勢いよく頭を上げその口をふさぐ。
「耳元で黒歴史暴露するのホントやめて!?くすぐったいし恥ずかしくて死にそうになるんだから!」
顔を真っ赤にして抗議する未希だが当の勇二はどこ吹く風だ。
ちなみにこの話の続きは、ただ単に授業中に居眠りをしていて先生の事をお母さんと呼んでしまったというだけである。まぁ、黒歴史には変わりはないが。
「それより早く準備しちゃって。早くいかないと夜までに街にたどり着けないよ」
勇二はそんなことを言いながら部屋に置いていた道具袋アイテムストレージから取り出した鉄製の胸当てと手甲を身に着ける。
「むぅ、分かったから。早く出て行ってよ、着替えずらいんだけど…」
そういって未希は愛用しているローブを胸元に抱き寄せ、軽く勇二を睨み付ける。
そんな未希に対し、軽く肩をすくめながら勇二は小屋から出ていく。
残った未希は二度寝をしたい欲求に駆られつつも渋々支度を開始した。
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「…おそいなぁ。未希、準備まだー?」
勇二は道具袋からコンロのような魔道具や、調理器具を取り出し朝食の準備を整えながら小屋の中にいる未希に問いかける。
女の支度は長いとは言うが、今日はいつにもまして長い。
「……返事が返ってこない。まさか、二度寝してる?」
二人で旅を始めた当初にもこんなことがあったのを思い出した勇二はゆっくりと扉に近づき、一応ノックをして静かに扉を開ける。
「っ!?」
その扉の先で目にしたものに勇二は絶句すると同時にひどく赤面した。
そこにいたのは下着姿で寝袋の上に横たわり安らかな寝息を立てている未希の姿だった。
その手元を見ればローブが握られていたため一応着替える気はあたようだ。眠気には勝てなかったようだが。
「やっぱり寝てるし…ていうか、この状況どうしよう…」
そう言って勇二は手のひらで顔を覆い、なるべく未希の方を見ないように顔を逸らす。
しかし、やはり気になるのかどうしてもその視線を未希に向けてしまう。
その視線が真っ先に向かったのはこの数か月で成長した彼女の胸元だ。
以前は胸が薄いことをコンプレックスとしていた彼女だが、今となってはそんな過去はなかったとでも言わんばかりの成長を遂げていた。
まぁ、実際のところはその成長した胸部も実はそれほど大きいというわけでもなく、あくまで平均より少し大きいくらいである。
決して以前のものが小さすぎたとか、そんなことは言ってはいけない。
そんなことはさておき、勇二は今現在困り果てていた。
このまま未希の起きるのを待っていては夜までに街につくことは確実に不可能だ。
しかしこのまま未希を起こしても面倒なことになるのは一目瞭然。
一体どうしたものかと勇二が頭を抱えていると...
「っん、うにゅー」
などという奇妙な声を出して未希が寝返りをうった。
その際に手に持ったローブがいい具合に体にかかり、先程とは違った何とも言えない雰囲気を発していた。
その姿に勇二は思わず顔を手で押さえ目を逸らす。
「はぁ、ホントにどうしよ。って、いうか早くしないとホントに夜までにたどり着けなくなっちゃう。…仕方ない、ここは腹をくくろうか」
勇二はそう言って考える素振りを見せると覚悟を決めたのか未希のもとに歩み寄る。
「未希ー、速く起きないとさっきの続きを言っちゃっ!?」
しかし、その途中で思わぬハプニングが起きた。
未希のもとに歩み寄る途中で寝袋を踏みつけバランスを崩してしまったのだ。
なるべく未希の方を見ないように意識しすぎたことで足元がおろそかになっていたのだろう。
勇二は持ち前の運動神経でどうにか転ばないようにするが、時すでに遅し。
勇二はそのまま未希の上に倒れ込んでしまった。
「いてててて。っと未希、おはよう。大丈夫?」
勇二は自分が倒れたことで下敷きになってしまった未希に気遣う言葉を掛けるが...
当の未希は何が起こったのかわかっていないのか惚けた表情だ。
しかし、頭が覚醒してくるのに従って自分が今置かれている現状に気付いたのか次第に赤面し始める。
「えっと、勇二おはよう。あの、その、そろそろどいてもらえる、かな?特に、その、胸、とか」
勇二は最初、未希の言っている言葉の意味が理解できなかった。
しかし、自分の手元を見たことでやっとその言葉の意味を理解するに至った。
見下ろした勇二の手元には未希の胸があった。
それを認識すると同時に勇二は無意識の内にその手の平の感触を感じ取っていた。
下着越しでもわかる弾力に指先から感じ取れる滑らかな肌の感触。
「って、うわ!?ご、ごめん今すぐ離れるから!」
「う、うん。っん!?」
そこまで感じ取ったところで勇二は思わずその場から勢いよく飛退いた。
その際に手に力が入ったためか思わず未希の口からは悩ましい、艶やかな声が漏れる。
その場に微妙な沈黙が流れる。
「えっと、その、改めておはよう。勇二」
未希が赤面しながらそう言えば、
「う、うん。おはよう未希」
勇二も同じく顔を赤くしながらそう答える。
「えっと、朝ごはんの準備があるから先に出てるね。なるべく早く出てきてね?」
そう言って再び流れた気まずい空気を払拭するかのように勇二は駆け足で部屋の中から出て行った。
「……勇二のえっち」
その場に一人残された未希はいまだに高鳴る胸を抑え、一人小さくそうつぶやくのだった。

to be continued...

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