異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

2-26 覚醒

「ふん、己を犠牲にして仲間を守るか」
朝日の腕を切り落とし、血の付着した剣を見て使徒が言う。
「ねえ、起きてよ!朝日!死んじゃうよ!」
勇二と未希は必死に朝日をゆすり起こそうとしていた。
その声は殆んど絶叫と言っていいものだった。
「血が流れすぎてる……このままじゃ」
勇二はだんだん冷たくなっている朝日の体温を感じ取っていた。
そう呟く声音にはかなりの絶望が含まれていた。
「ごめんね…まだ魔力が回復してなくて……」
そう言った未希の表情は大分落ち込んだものだった。
仕方あるまい、二人は必死に死力を尽くして戦ったのだ。
現に勇二もほとんど満身創痍の状態で立つこともままならない状態だ。
「あのまま逃げていればこんな事にならなかったのに…ごめんね」
勇二はその言葉に言い返せないでいた。
生半可な言葉では未希を傷つけるだけだと分かっているからだ。
故に勇二は一度朝日を揺する手を止め、黙って未希の手を強く握る。
「安心しろ、ここで貴様らは終わるのだ。その後悔も直に消える」
「っ!」
いつの間にか自分たちの目の前まで来ていた使徒はそう言って大剣を上段に構える。
勇二はそれを見て剣を杖のようにして、ふらつきながらも立ち上がり一歩だけ前に出る。
未希もその足に縋り付くように寄り添う。
「今度こそ、これで終わりだ!」
その言葉とともに振り下ろされる剣を勇二は黙って見ていた。
目を閉じることなく黙ってその時を待ち続けた。
それが、せめてもの最後の抵抗だというように。
迫る死の瞬間。
しかし、それは再び覆された。
本当に勇二の頭に剣が当たるか当たらないかのスレスレの所に蒼白い半透明な壁のようなものが展開されたのだ。
「なに!?」
それには思わず剣の使徒も驚き、警戒し後退する。
「この壁、朝日の……」
勇二は目の前に展開されている半透明な物体には見覚えがあった。
それは朝日の『創造魔法クリエイトマジック』だ。
思わず朝日のほうを見る。
すると...
そこには銀色の髪をした少女のが朝日の前で佇んでいた。
「…君は誰なんだ」
「……………」
少女は勇二の問いに答えることなく倒れている朝日の右側にしゃがみ込む。
そして少女は朝日の右肩に触れ何やら詠唱のようなものを始めた。
「我、『魔剣サクリファイス』はこの時を以って七代目勇者東山 朝日をマスターとして認証し此処に契約を交わします」

「我がマスターの生涯に幸運があらんことを……」

少女がそういった瞬間朝日の周りを黒い竜巻が覆う。
「朝日!?」
二人が声を上げ駆け寄ろうとするも体に力が入らずその場に座り込んでしまう。
そして勇二は見た。
黒い竜巻が晴れた瞬間、そこにいた彼を。
鋭い目つき、こげ茶の髪の毛、細身な体つき。
右の肩口から先がすっぱりと無くなり血に濡れたコートを風に揺らし、闇のように黒く染まった‘右腕,を強く握る彼の姿を。
「まだ死なねぇよ。だからそんな顔すんじゃねぇよ勇二、未希」

to be continued...

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