異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

2-17 勧誘とこれから

ゴブリン討伐作戦から帰還した朝日達はギルドで依頼達成の報告をしに来ていた。
『世界樹の木陰』のメンバーとは別行動だ。
ちなみに犠牲者たちの遺体は『世界樹の木陰』のメンバー達の後から来た兵士たちが無事に町まで運んできている。
「あ、よかった無事だったんですね」
朝日たちが受付に近づくといつもの受付嬢がこちらに気付いたのか話しかけてきた。
「ゴブリンキングが出たと聞いていたんですが…無事に退けたようで何よりです」
朝日たちの無事を確認した受付嬢がそういって捲くし立てるが三人は微妙な表情になる。
「退けたというか……、まぁ話すよりも現物を見た方がわかるだろう。報告と換金を頼む」
「はい、畏まりました!」
朝日は腰に下げた討伐部位を入れた麻袋を受付に置く。
「確認してくれ」
「はい、では失礼いたします。っ!?」
そういって麻袋を開けた受付嬢の表情は驚きに包まれる。
当然だろう。
なにせ、麻袋の中にはゴブリンだけでなく、道中で狩ったフォレストウルフやラージラビットの討伐部位も入っていたのだから。
種類もそうだが数もかなりのものがある。驚かないほうが無理があるといえよう。
更には...
「これって、まさかゴブリンンキングの耳!?倒されたんですか!?」
そう、その中にはゴブリンキングのものもあった。
本当はジョウに譲ろうとしたのだが頑なに「お前たちの手柄だ、俺はいらん」と言い張るのでこちらが持つことになったのだ。
「あぁ、まあな。それよりも早く済ませてくれないか?俺達だいぶ疲れてるんだ」
朝日がそう言って急かすと受付嬢は少し困った顔をする。
「すみません。依頼の達成報酬にこちらの討伐部位の金額を合わせますと今すぐ払うことができないのです。誠に申し訳ないのですが明日またこちらにいらしてくれますか?その時にお渡しますので」
「そんな金額になるのか?」
「はい、実は…」
受付嬢の言った金額に朝日は思わず固まる。
「え、朝日?幾らだったの?」
「…んか…枚と、………か…枚」
「へ?」
「金貨四枚と大銀貨六枚、だ」
「!?」
次に固まるのは勇二と未希の番だった。
「あのー、それで。明日でもよろしいでしょうか?」
「え、ええ。そうしてください。……なんかどっと疲れたね、帰ろうか」
「激しく同意。さっさと帰るぞ」
「さーんせーい」
そう言って朝日達がギルドから出ようとしたところある者たちとすれ違った。
「お?お前等、今帰りか?」
それは『世界樹の木陰』のメンバー達だった。
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「で、お前達はこれからどうするつもりなんだ?」
所変わって、ここは宿屋『旅人の根城』の食堂。
彼らとすれ違った後、自分達は宿で休むと伝えるとついてきたのだ。
今彼らは食堂の長机に向かい合って座っている。
「どうするつもりって?」
勇二が怪訝そうな顔をして首をかしげる。
「これからの予定はあるのかってこと。この街で狩りを続けるのか、他の街に行って狩をするのかってこと」
それに答えたのは『世界樹の木陰』斥候役の少女だった。
「えっと、どうなの朝日?」
勇二が聞いてくる。
「そうだな。こっちとしては、しばらくこの街に滞在した後、他の街に移動しようと思ってる」
「…行く場所は決まっているのか?」
次に聞いてきたのは彼らのパーティの壁役の巨漢。
「未定だ。これから決める。どこかいい場所を知らないか?」
今度は朝日が聞き返す。
するとジョウは少し難しそうな顔をする。
「そうだなぁ、そこで相談があるんだが…」
「相談?」
「ああ、お前達さえよければオレたちのパーティに加入しないか?」
「「「は?」」」
言われた事態を理解するのに朝日達は数秒を要した。
「パーティって、俺達はまだDランクだぞ?」
「ん?ああ、加入については問題ないぞ?基本的にパーティに入るのにランク制限はないからな」
「いや、そうではなくてだな」
噛み合わない会話に一瞬頭を押さえる朝日。
「安心しろ。お前達の実力はオレがよく知っている」
「……悪いが、オレ達はいろいろ訳アリでな。やらなくちゃならんことが沢山あるんでな。悪いが断らせてもらう」
こちらを注視するジョウを真剣な表情で見返しそう言う朝日。
朝日の発したその言葉にジョウはため息をつく。
どうやらこの結末は何となく予想通りだったらしい。
「そうか、分かった。あまり詳しく詮索しないことにしよう。その方がお互いにもいいんだろう?」
ジョウは少しばかり未練があるような顔をしていたが、スッパリと諦めたのか、切り替え次の話に移ることにしたようだ。
「えっと、いい場所だったな?おい、地図をくれ」
そう言うとジョウは斥候の少女から地図を受け取り長机に広げる。
人間国の地図だった。
「ぶっちゃけ、今のお前たちの実力で言えば、この街付近の魔物じゃ力不足だ」
そう言ってジョウが指したのは地図の上の国境付近の街。
「この街なんでどうだ?魔物の強さはこの街より格段に上だが、恐らくお前達ならここにたどり着くころには簡単に、とは言わんが相手取るのに苦戦はしないだろう」
「……人間国最大の商業の街、確か名前はリユニオン、だったか。ここから付近の街に寄ったとして、大体三ヶ月くらいか?」
「ああ、そのくらいになるだろうな。行く先々で依頼を受けながら進むとしたら尚更だ」
朝日は少し考え込み地図を見つめる。
「すると辿るルートは……」
「いや、ここはこのルートを行った方が……」
「武器のメンテナンスや消耗品の補充を考えると……」
すっかり話し込む二人。
その様子を生暖かい目で見つめる仲間たち。
「うちのリーダーが済まないな」
巨漢が謝罪してくる。
「い、いえ。パーティに誘ってくれたことや、こうして旅の内容を考えてくれてることには感謝してますから」
「そうか、そう思ってくれると助かる」
「ゆーじー、私もう部屋に戻っていいー?」
勇二が巨漢と斥候の少女と話していたところに眠たげな未希の声が聞こえた。
「あー、そうだね。ちょっと朝日?」
いつもよりも若干間延びした声に未希の眠気への限界が近いことに気付いたのか勇二はいまだに話し込んでいる朝日に声を掛ける、が。
「気付いてないし…」
朝日は気付かづに、ジョウとの会話を続けている。
未希はすでに半分以上寝ている。
そんな未希を見ていると自分まで眠くなってきた。
どうしようかと考えた勇二に助け船が来た。
「えっと、彼には私達から言っておくから部屋に戻ってもいいんだよ?」
それは斥候役の少女だった。
「ほう?お前が気づかいとはこれまた珍しい。だが、こちらが押し掛けたのも事実。我々の事は気にせずにゆっくり休むといい」
巨漢が斥候の少女をからかいながらそう言う。
「はは、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます」
そう言って勇二は立ち上がり、もう完全に寝てしまった未希をおぶってその場を後にした。
その後姿を黙って見つめる二人。斥候の少女に関してはどこか視線が熱っぽい気もするが...
その場に残った二人はその後、朝日とジョウの話が終わるまで待ち続けるのであった。


「ほへぇ、私と身長変わんないくらいなのにあんなに力があるんだぁ」
「……惚れたか」

to be continued...

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