異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

1-26 旅立ち

今日はいよいよ出発の日。
朝日達の魔王殺しの冒険の始まりの日である。
天気は雲一つない晴天だ。
「ん?あぁ、もう朝か」
そう言って朝日は目を覚ました。
部屋を見渡せば二人はまだ寝ているのか寝息が聞こえる。
「…起こすとうるさいし、先に食堂にでも行くか」
そういって朝日は枕元にあった服を素早く身につけると、そのまま部屋を出て行った。
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食堂についた朝日が目にしたのは修羅場だった。
忙しなく給仕や料理人が動き、テーブルに食器などを並べ食事の準備をしていたのだ。
「まずったか?いや、いっそこのまま一度書庫に…」
「あ、アサヒ様、おはようございます」
そんなことを呟き、扉に向き直り食堂を出ていこうとしたところで誰かに声を掛けられた。
「ん?ジェーンか、どうした?」
「いえ、このような時間に起きられるのは珍しいと思いまして」
「そうか?というか、これは何だ?」
そういって朝日は忙しなく動き回る給仕たちを指さす。
「朝食の準備でございます」
「いや、明らかにただの朝食って雰囲気じゃねぇだろ」
「朝食の準備でございます」
「………そうか」
どうやらジェーンは一歩も譲るつもりは無いようだ。
「ところでミキ様とユージ様はどちらに?」
「寝てるぞ、昨日のアレがよっぽど疲れたんだろ」
「成程、それで…」
そんなことを話ていると扉の奥の廊下からドドドド、という足音が聞こえてきた。
「お、噂をすれば、だな」
そういって朝日は扉から少し離れる。
次の瞬間、扉は大きく開け放たれ、勇二と未希が姿を現した。
「朝日、ここにいたんだ、部屋にも書庫にもいないからびっくりしたよ」
そんなことを言いながら汗をぬぐう勇二。
「勇二ー、速いってばー」
その横で息を整えながら友人文句を言う未希。
「ったく、疲れるくらいなら走ってくるなっての」
そんな二人の様子を見てため息をつく朝日。
「勇者様方、朝食ができておりますので頂いてください。本日は立食形式ですので好きなものをお取りください」
そんないつも通りのやり取りに、若干躊躇いながらジェーンが入ってきた。
ジェーンの言葉にテーブルの方を見て見ると...
「わぁ、フルーツがいっぱい!それに白いパンも!」
「おぉ、流石出発日。豪華だね」
「いや、いくらなんでも奮発しすぎだろ」
そこには、大量の軽食やフルーツがあった。
「お食事が終わりましたら国王の間に移動となりますので、準備するものがありましたらお申し付けください」
そういってジェーンが下がりその場は三人だけとなった。
「よし、じゃあさっそく食べよう!」
「いっただっきまーす!」
「……こんな大量の料理、この国の財政が不安になるな」
その後三人は思い思いに料理を口に運んでいく。
料理の味は、まぁ当然ながら美味かった。
三人は食後の紅茶を飲みながら給仕に入り用なものを持ってきてもらう。
その間に三人は今後の冒険について夢を広げていた。
「やっぱり冒険者だからネコ探しとかするのかな!?」
「この世界の観光地ってキレイなものが多いんだって!」
「ネコ探しは前世でたくさんしたろうが、あと観光地はそのうち行くことになるだろうから落ち着け」
興奮している様子の二人をなだめる朝日。
するとそこにジェーンがやってきた、ウィリアムも一緒だ。
「国王様がお待ちです、国王の間に移動いたしましょう」
その言葉に朝日達は頷き食堂を後にした。
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朝日達は再び無駄にデカい扉の前にいた。
「国王様、勇者様方をお連れしました」
いつかのようにウィリアムが声を張り上げそう告げるとすぐに返事が返ってきた。
「分かった、通せ」
その言葉を聞くと同時に開かれる扉。
そこには国王と数人の騎士たちがいた。
「とうとうこの日がやってきたな勇者様方よ、旅立ちの準備は十分か?」
そういって国王はニヤリと笑う。
「さてユージ殿よ、確か貴殿はあの時『魔王と戦うまでに力をつけ、絶対に魔王を倒し世界の人々を救う」といったな?」
その言葉はもちろん覚えている。
本当に魔王を倒せるのか、ときかれた時に答えたものだ。
「はい、確かに」
「今もその言葉に曇りはないか?」
「ありません」
すかさず即答する勇二。
その目はとても純粋で真っ直ぐだった。
「はっはっは!成程、もしかしたら本当にあり得るかもしれんのぅ。魔王殺しを成す日が」
そういってどこか遠い目で宙を見つめる国王。
そして数秒間瞑目すると国王は目を開きウィリアムの方をちらりと見やる。
その視線の意図に気が付いたのかウィリアムは一度国王の間から出て行った。
そして数分後、彼は手に三つの麻袋のようなものを持ってやってきた。
「勇者様方どうぞこれを…」
ウィリアムはその三つの袋を其々三人に手渡たす。
「これは?」
朝日が問う。
「それは魔道具でな、巷では『道具袋アイテムストレージ』と呼ばれている魔道具だ。物が無限に入るでな、市場に流れれば金貨千枚はくだらないだろうな」
「「「!?」」」
その言葉の意味を理解してか三人は驚愕の表情を浮かべる。
「どれ、中を開けてみるといい、これからの冒険に必要なものが入っておるぞ」
その言葉に三人は一斉に袋を開け中に手を入れてみる。
すると、無限の拡張された空間の中で手に当たるものがあった。
迷わずそれを取り出すと...
「すごい、剣だ本物の」
「これは…杖だね」
「こいつは?って金貨じゃねぇか!?」
三人は中に入っていたものを次々と取り出していく。
主に中に入っていたものは
・剣や杖などの武器
・革鎧と布のコートとローブ
・回復薬などを入れるポーチ
・数日分の携帯食料(干し肉など)
・金(金貨五枚)
などだった。
「お?ボクは革鎧だね」「オレはコートだ」「私はローブだったよ?」
袋を開けた三人はさっそく、中に入っていた装備品を確認している。
そんな三人の姿を少し遠い目で見ていた国王がウィリアムに命じてあるものを朝日に手渡す。
「ん?これは?」
「アサヒ殿、これをルシフルが其方にと」
「おぉ、できたのか流石だな」
朝日が受け取ったそれは鉛色の腕輪だった。
その腕輪には五色の宝石がはめ込まれていた。
「なにそれ?」
「あ?まぁ、そのうち分かる」
そんな感じでワイワイと騒ぎ出す三人。
国王は一度おっほん、というわざとらしい咳払いで自分の方に注意を向けさせる。
「さて、贈り物も済んだところでそろそろ話を進めよう」
その言葉に朝日達は耳を傾ける。
「これから勇者様方には我が国の領地であるリザーブという町に行っていただきたい」
「リザーブ、確かここから馬車で一週間ほどの街だったか?」
「相違ない。この前も言ったが、その街で冒険者として活動していただきたい。先代の勇者たちのように」
その言葉に少しだけ、自分たちが今から旅立つのだという実感がわいてきた三人。
「さて、では勇者様方、私に付いて来てほしい」
そういって国王は王座から立ち上がり扉に向かって歩いていく。
護衛の騎士たちがそれに続く。
朝日達は黙って国王にについていく。
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国王の後に続きたどり着いたのは王城の裏庭、その噴水の前。
国王は振り返り、黙って三人の事を見つめる。
そして、噴水の方に向き直ると何やらブツブツと呟いた。
次の瞬間、そこにあった噴水が縦に割れた、噴水のあった場所には階段があった。
「この階段はどこに通じているんだ?」
「この階段は非常用の脱出経路でな、外壁の一角が出口になっている、そこに馬車が止めてあるのでそれに乗っていただきたい」
王城から出ていくのはさすがに目立つからな、と国王は補足説明をする。
「王都の住民には何にも言っていないのか?」
「ああ。民衆には勇者が召喚されたということが知れては混乱を招く。それに、貴殿達の旅の妨げになってはかなわんからな」
そう言ってカラカラと笑う国王。
朝日達は一度お互いの顔を見合わせて一列に整列する。
「国王様、今までお世話になりました!」
勇二が筆頭にそう言うと三人は頭を下げた。
顔を上げると、そこには驚いた顔をした国王がいた。
国王は一度頭を振り朝日達の瞳を今一度見直す。
そして口を開いた。
「勇者様方、どうかこの国に、世界に平和を!」
朝日は、それは国王としてではなく、この世界に生きる一人の人間としての言葉だと気付く。
朝日は勇二に目配せする。
勇二はかるく頷き口を開く。
「分かってますよ国王様、必ず世界を救います、だから」

「ちょっと、いってきます!」

まるで散歩に行くかのような軽いその言葉にぽかんと口を開ける国王、しかし次の瞬間には口角を吊り上げニヤリと笑う。
「あぁ、くれぐれもよろしく頼む!ユージ殿、アサヒ殿、ミキ殿」
その言葉に勇二達はコクリと頷くと階段に消えていった。
勇二たちの姿が見えなくなると二つに割れていた噴水は元に戻り、王城の裏庭には国王と護衛の騎士数人だけが残った。

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