異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

1-21 魔法の練習

「ん、もう朝かぁ」
勇二はそんなことを呟きつつ目を覚ます。
体を起こし軽く体をほぐす。
横のベットに目を向ければ穏やかな寝息を立てて眠っている未希がいた。
そして部屋の扉の前に轢かれたシーツには朝日が...
「って、いないし」
ベットから立ち上がりシーツに触れてみる。
「冷たい…」
と、言うことは。
「朝日は昨日ボクが寝た後に抜け出したってことだね」
昨日の晩、朝日が部屋に入っても「俺には寝る場所がない、だから見張りをやる」などと断固として寝ようとしなかったため、部屋の扉の前にシーツを引き「ここなら見張りもできるし、寝れるし問題ないよね?」と言いくるめてそこで寝かせたのだが…
完全に裏目に出たようだ。
「うーん、たぶん昨日の様子だと書庫にいるのかな?」
だとすれば迎えに行って文句を言うべきだろう。
そう考えた勇二はさっそく枕元に置かれた服に着替え、未希を残し部屋を後にした。
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結果から言うと案の定、朝日は書庫にいた。
朝日は勇二に見つかった途端とてつもなく嫌そうな顔をしていた。
どうやら勇二の考察通り、朝日は勇二が寝てからすぐ書庫に向かったようだ。
つまるところ一徹したのだ。
そして今、勇二達は食堂にいる。
そこでは昨日とは違い明るく騒がしい朝食風景が伺えた。
席順も今まで通りに戻っている。
「でねでね、昨日はメイドさんたちにいろんな料理を教えてもらったんだ!」
「へぇ、僕はずっとウィリアムさんと稽古だったかな?」
昨日と比べると雲泥の差だ。
「……楽しく会話中のところわりぃがちょっといいか?」
「ん?朝日、どうしたの?」
「いや、昨日国王に聞いたことなんだが…」
ここで朝日は昨日国王から聞いたことを二人に話す。
「って訳だ」
「ふーん」
朝日から聞いた内容に勇二と未希は興味なさげだ。
「ふーんって、お前も当事者なんだが?」
そういって朝日は勇二をとがめるが...
「いや、出発の件は何となくわかるとしても、魔王については何も言えないよ?」
「あのなぁ・・・」
呆れた様にため息をつく朝日。
「で、朝日はどう考えてるの?」
「何がだ?」
「魔王について」
勇二の問に朝日は少し考える素振りを見せ、再び口を開く。
「なぁ、お前達はあの女神の言った事、覚えてるか?」
思い出されるのはこの世界に来る前の真っ白な空間だ。
「あの時、女神は魔王が目覚める度に力を増すと言っていた」
「…ってことは、朝日はそれが原因だと思ってるの?」
勇二の言葉に朝日は小さく頷く。
「ま、こんなのは確信のないただの仮説だ。忘れてくれ」
そう言って朝日は食べ掛けだった朝食に再び手を付ける。
「ま、国のお偉いさんや朝日が考えてわかんないんじゃあしょうがないか」
そう言って勇二も朝食を再開する。
先程から一言も発していない未希は会話そっちのけで食べ続けている。
なぜ国王と朝日を同列に数えたのかは謎だが、そういうものかと納得して置く朝日。
どうせ詳しく問い詰めたところでまともな答えが返ってくるとも思えないのだ。
そんなところに数人のメイドがやってきた。

勇二は自分の皿に残っていた朝食を一気に平らげ、立ち上がる。
「さ、それよりも早く訓練場に行こうよ!」
「はいはい、分かったから落ち着けっての」
そんなことを言いながら朝日と未希も椅子から立ち上がり三人で訓練場に向かうのだった。
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向かった屋外訓練場にはルシフルがいた。
ルシフルは朝日達を見つける恭しく礼をした。
「ようこそいらっしゃいました勇者様方」
「おはようございます、ルシフルさん」
勇二が代表してあいさつをする。
「さて本日来ていただいたのはですね」
一度言葉切るルシフル。
「魔力制御や魔法の発動の練習をしていただくためです」
発せられたその言葉に勇二と未希は飛び上がる。
「やった、魔法だ!魔法の練習だ!」
「魔法か、戦い方の幅が広がるね」
片や楽しみで仕方ないという様子、片や戦闘の事を考えた脳筋。
そんな二人を呆れた目で見る朝日。
「お前ら、すこし静かにしろ、固まってんだろ」
その言葉に二人はルシフルの方を向く。
そこには二人のテンションの高さに驚き固まっている王宮専属神官がいた。
三人の視線にハッと我に返ったルシフル。
彼は少しわざとらしい咳払いをしつつ話を進めた。
話の内容といえば、勇者の早期の魔法習熟による生存率の上昇や、戦力の強化が主な目的で、副産物的のものでこの世界に存在する魔法や魔力に慣れてもらうためらしい。
「では、まず魔力量を測りましょうか」
そういって取り出したのは丸い水晶だ。
「こちらは魔力量測定用の魔道具でして、その中でも最も容量の大きいものなのです」
その言葉に一同は興味ありげな視線を向ける。
「さてまずはこれで魔力の存在について感覚的に理解してもらいましょう」
まずはどなたから、と視線を向けるルシフル。
もちろんトップバッターは...勇二である。
「じゃ、いつも通り僕が」
それを見てルシフルは一度頷き勇二の前に水晶を持っていく。
「ではこれに触れてください、触れたときに何かが流れている感覚がしたらそれが魔力です」
ではどうぞ、と言って水晶を手渡す
勇二はそれに触れた途端、体から何かが吸い取られていっ感覚を覚えた。
(これが、魔力!)
時間にして数秒、水晶に変化が起きた。
ピキッ、という音を立てヒビが入り始め、そして...
「うわっ」
砕け散ったのだ。
その光景を見たルシフルは、固まっていた。
「ははは、宮廷魔導士が触れてもヒビ一つ入らないこの水晶が砕けましたか、本当に規格外ですなぁ」
そう言って笑うルシフルの目は心なしか虚ろだった。
ちなみにこれは余談だが、この水晶一つで金貨六十枚、六十万ギル(六百万円)するらしい。
「さぁさぁ、次はどなたかな?」
もう一つ水晶を取り出し二人を見るルシフル。
もちろん次は未希だ。
結果から言うと割れた、朝日も同じくだ。
ルシフルは既に燃え尽きる寸前といったところだ。
「ははは、成程、今代の勇者様方は中々にやりますなぁ」
そんなことを言って遠い目をするルシフル。
元に戻すのに時間がかかったがここでは割愛することにしよう。
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ルシフルが正気を取り戻してから朝日達は魔力制御についての指導を受けていた。
とはいっても流石に先程感じた奇妙な感覚を忘れるはずもなく、三人ともこれに関してはすぐにマスターできた。
続いてはついに魔法の練習だ。
「いいですか?魔法の発動は先ほどの魔力制御の応用だと思ってください」
そういってルシフルは懐からステッキのようなものを取り出した。
「では見ていてくださいね?我が力の源の炎よ、彼の者を貫け『フレイムランス』!」
ルシフルがそう発した瞬間、空中に炎の槍が形作られる。
そして、炎の槍はそのまままっすぐ飛んで行き、的として設置された革鎧を貫いた。
「と、このように魔法の発動には詠唱が必要になります、魔法陣を使ったやり方もありますがそれはいずれ」
そういって朝日達の方に向き直るルシフル。
「うーん詠唱か、難しいなぁ」
そういって何か考え込む勇二。
「面白そう!えっと私が使える属性は…」
未希の方はさらに興味をそそられたのかブツブツ呟いている。
朝日はというと...
(うーん、確か俺は無属性も使えるんだっけか?)
などと考えていた。
実は先ほどの水晶の件でルシフルに自分は無属性の適性があることを知らされたのだ。
(まぁ、無属性魔法だとできることは限られるけどな…)
内心そう呟きながら朝日は瞑目し、集中する。
意識するのは先日、そして先程感じた魔力。
思い浮かべるはその後の事象。
体中をめぐる魔力を手に集中させる。
目を見開き標的を見据える。
そして言葉を紡ぐ。
「我が体内に宿る色無きチカラよ、弾丸となり彼の者を討て『フォースバレット』」
次の瞬間、彼の近くに無数の魔力でできた弾丸が浮かび、飛翔した。
その弾丸は標的となった革鎧を貫...かずに傷を付けるにとどまったが。
彼は自分の成功に内心歓喜しながら後ろを見る。
すると、そこには同じように魔法の発動を成功させこちらを見てガッツポーズをしている二人とそれを唖然の表情で見つめるルシフルがいた。
こうして魔法の練習をしながら今日一日は特に大きな出来事もなく進んでいくのだった。

to be continued...

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