異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

1-18 明日の予定

朝日が書庫にこもって四時間程経過した
「ふん、やはり異世界だと地球の気候とも違いがあるのか、興味深いな」
そんな朝日の独り言が書庫の中に響き渡る。
今彼が読んでいたのは世界を旅した冒険者の記録だ。
その本には各国の名所や、気候、特色などが書かれていた。
「まぁ、実際に城内の人間に聞いた方が早い気もするが…」
だが、目線の違いというのもあるしな、ということでその思考を中断する朝日。
「しかし、こういう時にはホントに役に立つ能力だな」
彼の能力は完全記憶。
どんなものでも一度記憶したら忘れない能力。
その能力の幅は視覚だけでなく、触覚から聴覚、嗅覚に味覚までどんなものでも記録できる優れものだ。
そんな感じに自分の手に入れた能力の有能さについて呆れていると不意に書庫の扉付近から聞きなれた声が響いた。
その声の主は...
「やっぱりお前か勇二…書庫では静かにしろよ」
「お前か、じゃないよ、もうすぐご飯だよ?」
国王との会談が大体十時から一時ほどまで、そのあと朝日だけが残りまた一時間、さらに昼食で三十分。
この時点で約二時半、さらに調べ物で四時間。
「ってことはもう六時か」
そう言われてみれば書庫の窓から差し込む光は薄暗くなっている、最もこの部屋には魔導ランプがあるため明るさについては気にならないのだが。
「そうだね、大体そのぐらいかな?それより、早く食堂行こうよ」
しかし、不便なものである。
なにせこの世界には時計がない。
いや、あるにはあるのだが、かなりの高級品のようだ。
この広い王城の中でさえ見かけたのは数台。
腕時計などもおそらくはないだろう。
「てか、今更だがお前、未希と仲直りしたのか?」
その朝日の言葉に「っう」とたじろぐ勇二。
どうやらまだのようだ。
「はぁ、早く謝っておけ、ていうか謝れ。俺が落ち着かねぇ」
そんな朝日の言葉にバツが悪そうに顔を逸らす勇二。
そんな勇二を置いて先に食堂に直行する朝日。
勇二はそのあとを慌てて追いかけるのだった。
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さて、所変わってここは再び食堂。
だがしかし、ここに昨日のような賑やかさはない。
あるのは異常な気まずさだけである。
周りの給仕も思わず黙り固まっている。
(…やっぱりやりずれぇ)
朝日もそんなことを考えながら食事を黙々と口に運んでいる。
そんな沈黙を破ったのは意外なことに勇二だった。
「あ、そういえば朝日、副団長さんが明日の予定だって、この紙」
そう言って勇二はポケットから折りたたまれた羊皮紙を取り出した。
「またか、どれどれ?」
そこに書いてあることに目を通す朝日。
「ふん、朝の流れは今朝と同じで、それが終わったら訓練場に行け、か」
今日の魔法適性の件から考えるに恐らく...
「魔法の練習か?」
その言葉に目を輝かせる二人。
「魔法の練習!?やった、よし!明日は早起きしよう!」
「魔法か、やっぱり練習しなきゃだよね?」
未希は明日が楽しみで仕方ないという様子、
勇二は魔法の訓練メニューでも考えているのだろうか真剣な顔つきだ。
「おいおい、今のはあくまで俺の考察だぞ?期待しすぎんなよって、聞いてねぇか」
二人のいかにも楽しみですっといった雰囲気に思わず苦笑する朝日。
気づけば二人はお互いに、こんな魔法を使いたいなどと語り合っている。
興奮のあまり今朝の事を忘れてるようだ。
(お?この調子なら仲直りももうすぐか?)
そんなことを考えながらアサヒはその微笑ましい光景を遠目に眺める。
ちなみにこのやり取りは二人が今朝の出来事を思い出しお互いに赤面するまで続いた。

to be continued...

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