異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー
0-6 物語の始まり
「では、これより転生の儀式を始めましょう」
頭を下げた後しばらく女神はそのままだったが頭をあげた後、まるで憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔でそういった。
輝かしい笑顔を浮かべる女神とは逆に何事かと身構える一同だったが...
「さて、では始めましょうか」
女神はそんな勇二達の様子など気に留める様子もなく儀式を進行させる。
「――――――――!」
空中に手をかざした女神は、手のひらに光を集める。
するとそこには銀色に輝く長杖が握られていた。
「これからアナタ達の行く世界は未知の領域です。だからこそ、先程話したように貴方達に『ギフト』を与えます。あ、ただし一つ注意点があります」
「「注意点...?」」
揃って首を傾げる勇二と未希。
朝日は黙って二の言葉を待つ。
「ええ。これから与える『ギフト』ですが、もしかすると最初のうちはチカラの効力が少なかったり、小さかったり、短かったりするかもしれません」
「「へ?」」
「あ、あくまでも最初のうちは、ですよ?転生して最初のうちは『ギフト』が体にまだ馴染んでいないので」
「つまり、『ギフト』が身体に馴染みさえすれば効力も効果時間も本来の物に戻り最大限のパフォーマンスを発揮できる、と?」
「えぇ、そのはずです。と、いっても皆さんがどんな『ギフト』を得るかは分からないので何とも言えませんが……」
「なるほど、な」
興味なさげな朝日に女神は不満げな様子だ。
「あれ?もしかして興味なかったりします?そういうの」
「ああ。触らぬ神に祟りなしを信条に生きてきたからな。訳の分からないことや、関係のないこと、面倒なことにはなるべく首を突っ込まないようにしてんだ」
「ま、大体こいつのせいで無意味になったがな」と目を細めながら視線を横にやる朝日。
彼の鋭い目線を向けられた勇二は乾いた笑いを浮かべながら少しだけ冷や汗をかく。
またもや蚊帳の外に弾き飛ばされた女神は小さく肩を落とし「私、一応女神……」と小さな呟きを漏らした。
「はぁ…まぁいいです。とにかく時間もあまりないので早めに済ませてしまいましょう」
女神はそう言うと右手に持った長杖を天高く構えると小さく何事かを呟き始めた。
次の瞬間朝日達の周りを光の奔流が包み込んだ。
あまりの眩しさに三人はそろって目を瞑る。
光が消え去り視界良好となった後も三人は暫く未だにチカチカしている目を押さえていた。
「はい、これでギフトの添付は終了です」
「はい、じゃねぇよ!失明するわ!」
「あ、言い忘れてました。激しい光が発生するので目を閉じておいた方が―――」
「「「言うのが遅いっ!」」」
「まぁまぁ、それは置いといてですね。それぞれの『ギフト』の内容が分かりましたよ」
「強引に話を逸らしやがった…」
朝日は思わずジト目で女神を睨み付けるが、当の女神は一向に目を合わせようとしない。
「えっと…それで、それぞれどんな『ギフト』が手に入ったんですか?」
このままでは埒が明かないことを悟った勇二は女神に話の続きを促す。
「あ、そうでしたね。ではまず、誰から行きますか?」
「はいはいはい!私から教えてください!」
そう言って元気よく手を上げて返事をしたのは未希であった。
見れば目元の腫れもすっかり引いている。
「未希さんに与えられた『ギフト』は……『慈愛のギフト』と、『純愛のギフト』ですね」
「じゅ!、純愛!?」
「ええ。心当たりは…あるようですね」
「あ、あわわわわわ!」
女神の問いに若干頬を染めながら慌てふためく未希。
その視線は自然と勇二に向いた。
視線を向けられている当の勇二はそんな未希の視線に首を傾げている。
「朝日、僕は何で未希に見つめられてるんかな?」
「…お前のそれ、ここまでくると尊敬の念すら覚えるぞ」
「?」
再び首を傾げる勇二。
この男の鈍感加減ここに極まり、といったところか。
「それで、お次はどなたにしますか?」
「あ、じゃあ僕で」
未希の次は勇二だった。
「勇二さんですね?勇二さんの『ギフト』は……『守護のギフト』に『破邪のギフト』、それに『正義のギフト』ですね」
「あー、うん。納得だな」
「守護はともかくとして、破邪に正義って……少し買い被りすぎじゃない」
「いや、お前にぴったりだと思うぞ?少なくともオレと未希は」
そう言って勇二をからかう朝日。
破邪に関しては予想外だったが、守護や正義といった点では概ね予想通りなゆうじのぎふと勇二の『ギフト』。
「さて、それでは最後は朝日さんですね」
「ああ、さっさと済ませてくれよ」
「ええ。といってもハッキリ言ってあなたが一番予想できませんでしたよ。なんですか、この訳の分からないギフトは」
「勿体ぶらずに早く教えろ」
「せかさないでください。あまり文句の多いお「いいから早くしろ」あ、ハイ」
無駄な話をして話を引き延ばそうとする女神をひと睨みで黙らせる朝日。
神の位につくものを睨んだだけで黙らせる男。
もしかしたらこの三人の中で一番の大物は勇二ではなく彼なのかもしれない。
「えっとですね?朝日さんの『ギフト』は『記録のギフト』となってます」
「こいつらは二つ以上だったのに、オレは一つだけなのか?」
「誠に遺憾である」と眉をひそめる朝日。
女神は内心冷や汗をかきながら「まぁまぁ」と朝日の宥める。
「先程も申しましたが『ギフト』を得るにはそれなりの器が必要になります。そこのお二人はたまたま人よりも器が大きかったため複数の『ギフト』を得ることができましたが、普通はあなたのように一つ手に入れるのがやっとのはずです」
「ふーん?」
信用していない風な視線を向けてくる朝日。
女神はそんな朝日からサッと視線を逸らし無理やり話題を変える。
「ちなみに、その『ギフト』。もちろん心当たりはおありで?」
「…ああ」
そう言って俯くようにして頷く朝日。
その声にはどこか陰りが感じられた。
「えっと、朝日さん?どうかしましたか?」
「いや、何でもない。…それにしてもその『ギフト』の使い方がよく分からんのだが?」
「あ、それに関してはご安心ください。朝日さんの『ギフト』の場合、常時発動型ですので発動を意識する必要はありません」
「ふーん。便利なもんだな」
「逆に勇二さんと未希さんは任意発動型の『ギフト』です。能力の開放の仕方には個人差がありますので何とも言えませんが、とにかくイメージしてください」
「イメージ?」
「ええ。アナタ方がこれから行く世界には魔法があります。その魔法の性質を理解さえすれば能力を開放することは造作もないかと……」
「「うーん?」」
女神の説明に分かったような分からなかったような顔で首をかしげる勇二と未希。
そんな二人に微苦笑を浮かべながら女神は手に握った銀の長杖を再び大きく振った。
「さて、『ギフト』もアナタ方に授けたところで、そろそろ転生の時間と致しましょう。最後に何か知りたいことはありますか?私の知り得る限りを教えましょう」
知りたいこと、と言われた三人は黙って下を向く。
はっきり言って、知りたいことが多すぎてどれを聞いたらいいのかわからないというのが現状だ。
しかし、朝日だけは落ち着きのない様子で視線を上下させて挙動不審になりながら平静を装っている。
見かねた勇二がその場で勢いよく挙手をする。
「はーい、女神様。朝日が聞きたいことがあるそうです」
と、朝日に無理やり話題を振る。
「はい、なんでしょう」
女神は柔和な笑みを浮かべ朝日に問いかける。
先ほどまで冷静でいた朝日がそわそわしているのに気付いたのだろう。
勇二は軽く朝日の脇腹を小突き催促する。
「っ!……たく、わかったよ。お節介なヤツだ」
勇二に小さく文句を言いってから朝日は女神に向き直る。
「女神、単刀直入に聞かせてもらう。オレの妹は、『華夜』はどうしてるんだ?生きているのか、死んでいるのか。生きているならどこで何をしているのか。死んでいるならどうして死んだのか。もし死んでいるのならその魂に会うことはできるのか……」
その内容は東山朝日という青年にとっての全てだった。
すべてを失った少年の、唯一手の中に残ったモノ。
あの世界でやり残してきた唯一の心残りだ。
朝日はそれを少し早口でまくしたてる。
そして...
「頼む、教えてくれ」
そう言って、頭を下げた。
その様子に女神は思わず目を見開いている。
この空間に来てから、事あるごとに女神である自分に不遜な態度を崩さず無礼を働いてきた朝日。
そんな彼がこうして頭を下げてきたことに驚いたのだろう。
先ほどまでの朝日なら、女神はにっこりと微笑んで軽くからかってやるつもりだった。
しかし、目の前でこうして頭を垂れ肩を震わせている少年にそんな愚を働くことなどできまい。
女神はもう一度朝日の下げられた頭を見て小さくため息をつく。
「はぁ、分かりました。ですが、私があなたに伝えることができるのは極論だけですよ?」
その言葉に勢いよく頭をあげる朝日だが、女神は構わず続ける。
「アナタの妹である東山華夜さんですが、既にアナタ達の世界にはいません。アナタの前から姿を消した日に存在が消失しています」
女神の口から発せられたのは衝撃の真実。
「なら……」と言葉を挟もうとした朝日だったが、話はまだ終わっていない。
「加えて今回は特例ですが、本来死者同士では魂と魂が接触して変質する恐れがあるため、直接面会することはできないんです。だから、朝日さん。あなたはここで妹さんに会うことはできません」
「そんな……」
女神の口からでた非情な言葉に打ちひしがれる朝日
しかし、まだ話は終わっていなかった。
「ですから、もし会えたとしたらそれはきっと来世になるでしょう」
その言葉に朝日はとどめを刺されたような気分になる。
心が砕けそうになった朝日だが、女神の言葉に引っかかりを覚えていた。
「来世?……それってまさか!」
しかしその言葉を女神は再び遮り、手に持った長杖を床に突き立た。
「さあ、もう質問はありませんね?これよりアナタ達は歴代の使者達が転生した場所に転移します」
すると真っ白な空間の朝日たちの真下に魔法陣が浮かび上がる。
勇二は地面に座り込んでいた朝日に手を差し伸べる。
「さ、行こうよ朝日。世界を救いに、人を助けに、華夜ちゃんを探しに、ね?」
「楽しい楽しい冒険の始まりだ!ってね」
満面の笑みでそう言った未希も勇二と同じように手を差し伸べる。
つられて朝日も笑い、その手を取って立ち上がる。
久しぶりに心から笑った朝日は小さく宣言するように呟いた。
「あぁ、そうだな。それじゃあ第二の人生で『探し物』の続きと行きますか」
そんなにぎやかな三人を見て女神は床に刺さった長杖を抜き取り、床にコンッと軽くぶつけ、祈るように長杖を構える。
「あ、そうだ。あちらの世界に着いたら、私からのささやかなプレゼントがありますので、是非とも受け取ってくださいね?」
「「「プレゼント?」」」
「ええ、プレゼントです。ま、それはあとのお楽しみということで……皆さん、どうかあの世界をお願いします」
女神の言葉に三人がうなずく。
その言葉を最後に三人の姿が真っ白い部屋から掻き消えた。
「行ってらしゃいませ。そしてようこそ『異世界ザナン』へ…」
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頭を下げた後しばらく女神はそのままだったが頭をあげた後、まるで憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔でそういった。
輝かしい笑顔を浮かべる女神とは逆に何事かと身構える一同だったが...
「さて、では始めましょうか」
女神はそんな勇二達の様子など気に留める様子もなく儀式を進行させる。
「――――――――!」
空中に手をかざした女神は、手のひらに光を集める。
するとそこには銀色に輝く長杖が握られていた。
「これからアナタ達の行く世界は未知の領域です。だからこそ、先程話したように貴方達に『ギフト』を与えます。あ、ただし一つ注意点があります」
「「注意点...?」」
揃って首を傾げる勇二と未希。
朝日は黙って二の言葉を待つ。
「ええ。これから与える『ギフト』ですが、もしかすると最初のうちはチカラの効力が少なかったり、小さかったり、短かったりするかもしれません」
「「へ?」」
「あ、あくまでも最初のうちは、ですよ?転生して最初のうちは『ギフト』が体にまだ馴染んでいないので」
「つまり、『ギフト』が身体に馴染みさえすれば効力も効果時間も本来の物に戻り最大限のパフォーマンスを発揮できる、と?」
「えぇ、そのはずです。と、いっても皆さんがどんな『ギフト』を得るかは分からないので何とも言えませんが……」
「なるほど、な」
興味なさげな朝日に女神は不満げな様子だ。
「あれ?もしかして興味なかったりします?そういうの」
「ああ。触らぬ神に祟りなしを信条に生きてきたからな。訳の分からないことや、関係のないこと、面倒なことにはなるべく首を突っ込まないようにしてんだ」
「ま、大体こいつのせいで無意味になったがな」と目を細めながら視線を横にやる朝日。
彼の鋭い目線を向けられた勇二は乾いた笑いを浮かべながら少しだけ冷や汗をかく。
またもや蚊帳の外に弾き飛ばされた女神は小さく肩を落とし「私、一応女神……」と小さな呟きを漏らした。
「はぁ…まぁいいです。とにかく時間もあまりないので早めに済ませてしまいましょう」
女神はそう言うと右手に持った長杖を天高く構えると小さく何事かを呟き始めた。
次の瞬間朝日達の周りを光の奔流が包み込んだ。
あまりの眩しさに三人はそろって目を瞑る。
光が消え去り視界良好となった後も三人は暫く未だにチカチカしている目を押さえていた。
「はい、これでギフトの添付は終了です」
「はい、じゃねぇよ!失明するわ!」
「あ、言い忘れてました。激しい光が発生するので目を閉じておいた方が―――」
「「「言うのが遅いっ!」」」
「まぁまぁ、それは置いといてですね。それぞれの『ギフト』の内容が分かりましたよ」
「強引に話を逸らしやがった…」
朝日は思わずジト目で女神を睨み付けるが、当の女神は一向に目を合わせようとしない。
「えっと…それで、それぞれどんな『ギフト』が手に入ったんですか?」
このままでは埒が明かないことを悟った勇二は女神に話の続きを促す。
「あ、そうでしたね。ではまず、誰から行きますか?」
「はいはいはい!私から教えてください!」
そう言って元気よく手を上げて返事をしたのは未希であった。
見れば目元の腫れもすっかり引いている。
「未希さんに与えられた『ギフト』は……『慈愛のギフト』と、『純愛のギフト』ですね」
「じゅ!、純愛!?」
「ええ。心当たりは…あるようですね」
「あ、あわわわわわ!」
女神の問いに若干頬を染めながら慌てふためく未希。
その視線は自然と勇二に向いた。
視線を向けられている当の勇二はそんな未希の視線に首を傾げている。
「朝日、僕は何で未希に見つめられてるんかな?」
「…お前のそれ、ここまでくると尊敬の念すら覚えるぞ」
「?」
再び首を傾げる勇二。
この男の鈍感加減ここに極まり、といったところか。
「それで、お次はどなたにしますか?」
「あ、じゃあ僕で」
未希の次は勇二だった。
「勇二さんですね?勇二さんの『ギフト』は……『守護のギフト』に『破邪のギフト』、それに『正義のギフト』ですね」
「あー、うん。納得だな」
「守護はともかくとして、破邪に正義って……少し買い被りすぎじゃない」
「いや、お前にぴったりだと思うぞ?少なくともオレと未希は」
そう言って勇二をからかう朝日。
破邪に関しては予想外だったが、守護や正義といった点では概ね予想通りなゆうじのぎふと勇二の『ギフト』。
「さて、それでは最後は朝日さんですね」
「ああ、さっさと済ませてくれよ」
「ええ。といってもハッキリ言ってあなたが一番予想できませんでしたよ。なんですか、この訳の分からないギフトは」
「勿体ぶらずに早く教えろ」
「せかさないでください。あまり文句の多いお「いいから早くしろ」あ、ハイ」
無駄な話をして話を引き延ばそうとする女神をひと睨みで黙らせる朝日。
神の位につくものを睨んだだけで黙らせる男。
もしかしたらこの三人の中で一番の大物は勇二ではなく彼なのかもしれない。
「えっとですね?朝日さんの『ギフト』は『記録のギフト』となってます」
「こいつらは二つ以上だったのに、オレは一つだけなのか?」
「誠に遺憾である」と眉をひそめる朝日。
女神は内心冷や汗をかきながら「まぁまぁ」と朝日の宥める。
「先程も申しましたが『ギフト』を得るにはそれなりの器が必要になります。そこのお二人はたまたま人よりも器が大きかったため複数の『ギフト』を得ることができましたが、普通はあなたのように一つ手に入れるのがやっとのはずです」
「ふーん?」
信用していない風な視線を向けてくる朝日。
女神はそんな朝日からサッと視線を逸らし無理やり話題を変える。
「ちなみに、その『ギフト』。もちろん心当たりはおありで?」
「…ああ」
そう言って俯くようにして頷く朝日。
その声にはどこか陰りが感じられた。
「えっと、朝日さん?どうかしましたか?」
「いや、何でもない。…それにしてもその『ギフト』の使い方がよく分からんのだが?」
「あ、それに関してはご安心ください。朝日さんの『ギフト』の場合、常時発動型ですので発動を意識する必要はありません」
「ふーん。便利なもんだな」
「逆に勇二さんと未希さんは任意発動型の『ギフト』です。能力の開放の仕方には個人差がありますので何とも言えませんが、とにかくイメージしてください」
「イメージ?」
「ええ。アナタ方がこれから行く世界には魔法があります。その魔法の性質を理解さえすれば能力を開放することは造作もないかと……」
「「うーん?」」
女神の説明に分かったような分からなかったような顔で首をかしげる勇二と未希。
そんな二人に微苦笑を浮かべながら女神は手に握った銀の長杖を再び大きく振った。
「さて、『ギフト』もアナタ方に授けたところで、そろそろ転生の時間と致しましょう。最後に何か知りたいことはありますか?私の知り得る限りを教えましょう」
知りたいこと、と言われた三人は黙って下を向く。
はっきり言って、知りたいことが多すぎてどれを聞いたらいいのかわからないというのが現状だ。
しかし、朝日だけは落ち着きのない様子で視線を上下させて挙動不審になりながら平静を装っている。
見かねた勇二がその場で勢いよく挙手をする。
「はーい、女神様。朝日が聞きたいことがあるそうです」
と、朝日に無理やり話題を振る。
「はい、なんでしょう」
女神は柔和な笑みを浮かべ朝日に問いかける。
先ほどまで冷静でいた朝日がそわそわしているのに気付いたのだろう。
勇二は軽く朝日の脇腹を小突き催促する。
「っ!……たく、わかったよ。お節介なヤツだ」
勇二に小さく文句を言いってから朝日は女神に向き直る。
「女神、単刀直入に聞かせてもらう。オレの妹は、『華夜』はどうしてるんだ?生きているのか、死んでいるのか。生きているならどこで何をしているのか。死んでいるならどうして死んだのか。もし死んでいるのならその魂に会うことはできるのか……」
その内容は東山朝日という青年にとっての全てだった。
すべてを失った少年の、唯一手の中に残ったモノ。
あの世界でやり残してきた唯一の心残りだ。
朝日はそれを少し早口でまくしたてる。
そして...
「頼む、教えてくれ」
そう言って、頭を下げた。
その様子に女神は思わず目を見開いている。
この空間に来てから、事あるごとに女神である自分に不遜な態度を崩さず無礼を働いてきた朝日。
そんな彼がこうして頭を下げてきたことに驚いたのだろう。
先ほどまでの朝日なら、女神はにっこりと微笑んで軽くからかってやるつもりだった。
しかし、目の前でこうして頭を垂れ肩を震わせている少年にそんな愚を働くことなどできまい。
女神はもう一度朝日の下げられた頭を見て小さくため息をつく。
「はぁ、分かりました。ですが、私があなたに伝えることができるのは極論だけですよ?」
その言葉に勢いよく頭をあげる朝日だが、女神は構わず続ける。
「アナタの妹である東山華夜さんですが、既にアナタ達の世界にはいません。アナタの前から姿を消した日に存在が消失しています」
女神の口から発せられたのは衝撃の真実。
「なら……」と言葉を挟もうとした朝日だったが、話はまだ終わっていない。
「加えて今回は特例ですが、本来死者同士では魂と魂が接触して変質する恐れがあるため、直接面会することはできないんです。だから、朝日さん。あなたはここで妹さんに会うことはできません」
「そんな……」
女神の口からでた非情な言葉に打ちひしがれる朝日
しかし、まだ話は終わっていなかった。
「ですから、もし会えたとしたらそれはきっと来世になるでしょう」
その言葉に朝日はとどめを刺されたような気分になる。
心が砕けそうになった朝日だが、女神の言葉に引っかかりを覚えていた。
「来世?……それってまさか!」
しかしその言葉を女神は再び遮り、手に持った長杖を床に突き立た。
「さあ、もう質問はありませんね?これよりアナタ達は歴代の使者達が転生した場所に転移します」
すると真っ白な空間の朝日たちの真下に魔法陣が浮かび上がる。
勇二は地面に座り込んでいた朝日に手を差し伸べる。
「さ、行こうよ朝日。世界を救いに、人を助けに、華夜ちゃんを探しに、ね?」
「楽しい楽しい冒険の始まりだ!ってね」
満面の笑みでそう言った未希も勇二と同じように手を差し伸べる。
つられて朝日も笑い、その手を取って立ち上がる。
久しぶりに心から笑った朝日は小さく宣言するように呟いた。
「あぁ、そうだな。それじゃあ第二の人生で『探し物』の続きと行きますか」
そんなにぎやかな三人を見て女神は床に刺さった長杖を抜き取り、床にコンッと軽くぶつけ、祈るように長杖を構える。
「あ、そうだ。あちらの世界に着いたら、私からのささやかなプレゼントがありますので、是非とも受け取ってくださいね?」
「「「プレゼント?」」」
「ええ、プレゼントです。ま、それはあとのお楽しみということで……皆さん、どうかあの世界をお願いします」
女神の言葉に三人がうなずく。
その言葉を最後に三人の姿が真っ白い部屋から掻き消えた。
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