異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

0-5 選択

目の前で突然頭を下げた女神。
沈黙がその場を支配する。
この女神は先程、今「願いを聞き入れてほしい」そう言った。
つまり自分たちには選択する権利があるということだ。
だが、本当に選択する権利があると言うのなら確かめなくてはいけないことがある。

「一つ、いいか?」

そう朝日が切り出す。

「アンタは願いを聞いてほしい、そう言ったよな?つまり今こっちには選ぶ権利があるってことでいいんだよな」

その言葉にコクりと頷く女神。どうやら先ほどの憶測は間違っていなかったようだ。

「じゃあ質問だ。もし、もしもオレたちが異世界に行くことを拒んだ場合オレたちはどうなる」

異世界に行くにしてもいかないにしてもこの質問はしなければならない。

「そうですね、結論から言いますとそのまま地球に転生します。もちろんすべての記憶を抜き取ってから、となりますが」

すべての記憶を抜き取ってから、その言葉に思わず悔しさが隠し切れない様子の朝日。

「…そうか、分かった。聞きたいことは聞けた。それで、お前らはどうするんだ?」

先ほどの質問から何やら考えるそぶりを見せている勇二と未希に振り返り、一応二人がどうするのか聞いてみる朝日。
すると勇二は少しすまなそうな顔をして話し始める。

「二人が死んだのは半分、僕が巻き込んだようなものなのに申し訳ないけど……僕は行こうと思う」

なぜ?とは聞かない。
その理由など分かり切っているからだ。

「だって「聞こえた『助けを求める声』を無視するわけに話いかないから」………え?」

勇二の言葉を朝日が被せるようにして遮った。
しかしその言葉は…

「はは、僕の言いたいことはお見通しかい?朝日?」

勇二は少し困ったような、だがそれがたまらなく嬉しいような顔をしながら朝日に問いかける。
その問いに朝日は、ふんっとそっぽを向きげんなりしたような表情になる。

「当たり前だ。これでもオレはお前の親友を自負してるんだ。そのぐらい簡単にわかる。なめんな」

んで?と朝日は続ける

「当然、勇二が行くんだ。お前もいくんだろう?未希」

朝日の言葉に未希は

「うんっ」

と弾んだ声でうれしそうに答えた。
未希の答えも朝日にとっては予想の範囲内のものだった。
なにせ、未希はどこに行くにも常に勇二の傍らにいたのだ。
朝日が勇二の隣に立つ以前から。
ならば、この状況で未希がどうするかも分かりきったことだ。

「それで、朝日はどうするの?」

いつも通りな二人の姿に呆れていると先ほど自分がした質問が返ってきた。

「あ?まぁ、そうだな。あの世界で果たすべき目的も志半ばで終わっちまったし、このまま消えても未練はねぇが……お前ら二人だけだと余計な面倒事を起こしかねんからな。仕方ねぇ、オレも一緒に行ってやるよ」

頭をガシガシと掻き、面倒くさそうな声音で答える朝日。
だが...

「えー、ホントは自分が寂しいだけじゃないの?」

勇二が実にいい笑顔をしながら肘でウリウリとわき腹をついてきた。

「っは、笑止。寂しいわけあるかっての」

そっぽを向きながら答える朝日。
ついでに関節技をキメるのも忘れない。
首を固定されながらもニヤニヤとした笑みを崩さない勇二。
素直じゃないなね、朝日と勇二のやり取りを微笑ましげに見つめる未希。
またもや蚊帳の外の女神。
アウェイ感が漂うこの女神、いい加減少し涙目である。

「んっん!あの、そろそろ話を戻していいですか?」

完全に忘れ去られていた女神だが、再びわざとらしい咳払いによって話を戻す。
もはや見慣れた光景である。

「さて、では改めてお聞きします、私の願いを聞き入れてくださいますか?」

その言葉に三人はただ『女神 リクシル』の瞳を静かに見つめ続ける。
長い沈黙、だがそれは三人の肯定の意を示していた。

「…ありがとうございます」

女神は静かに頭を下げたのだった。


to be continued...

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