県立図書館のお話
夏蜜のこれからのこと
扉が開き、静かに姿を見せたのは母の真澄。
「揚羽……大丈夫なの?」
「あぁ、母さん」
気の強い姉の立羽に良く似た顔立ちをしている。
「何か、立羽が泣きながら電話してきたのよ。でもね、そんな時にあのバカ男帰ってきて、言い訳しつつ人の家のタンスをあさろうとしたから、警察呼んでおいたわ」
「警察……その場にいなくて良いの?」
「おばあちゃんがいたからね」
離れに住む曾祖父の義妹、福実である。
「で、この子が?」
近づいてきた真澄が、痛々しい少女の姿に顔をしかめる。
「何て事を……可哀想に……」
「夏蜜ちゃんだよ。そう言えば、瑠璃が、そこで寝てる……」
「フニャァァ~‼」
ソファで眠っていた瑠璃が、目を覚ました。
お腹が空いたのか、もしくはおむつが不快なのか……。
「はいはい。瑠璃」
手慣れたように孫を抱き上げあやす。
すぐに泣き止んだ瑠璃はキョロキョロと周囲を見回し、
「ダァァー‼キャァァァ~‼」
何故か、揚羽は瑠璃に好かれている。
揚羽はプリプリしていたがふにゃふにゃの赤ん坊に最初は怖々だったが、今では父親の圭典よりも瑠璃は懐いている。
「瑠璃?ごめんよ。兄ちゃん、首の捻挫の可能性があるからだっことかダメだと思う」
「うぅぅ~‼」
拗ねたように唸る赤ん坊に、真澄は宥めながら近づき、
「瑠璃ちゃん。お姉ちゃんの夏蜜ちゃんよ」
「だぁぁ?」
「お姉ちゃん。なっちゃん」
「たーう」
「あらお利口ね」
頭を撫でると、オムツを確認し、
「あらあら。取り替えないとね」
言いながら、ソファで、立羽が置いていった荷物の中身を確認すると新しい紙おむつと取り替える。
「これを捨ててくるわ。それに、瑠璃が騒いではいけないでしょ?ちょっと出てくるから……ついでに飲み物を買ってくるわ。何がいい?」
「うーん。お茶。夏蜜ちゃんは二本買ってきてくれる?スポーツドリンクと、甘い炭酸ジュース。ストローも」
「はいはい。看護師さんの控え室で聞いてみるわ。じゃぁ、瑠璃ちゃん?お兄ちゃんとお姉ちゃんに行ってきますってばいばいしましょうね」
瑠璃の手を振り、真澄が出ていく代わりに、シスターと父の紋士郎と黒田が姿を見せる。
「父さん。シスター、黒田さん」
「揚羽……一応、家で引き取ることになったよ」
「本当ですか?でも、俺の妹になるんでしょうか?」
「いや。一時的で、落ち着いたら夏蜜ちゃんに、決めて貰うことにしようと思ってね」
紋士郎は、引き取ることになった夏蜜を覗き込む。
「容態は?」
「先、目が覚めて、義兄さんの事を会いたくない、怖い、嫌だって言っていたよ。殴るって怖いって……」
「何てことだ……わしは、お前があの時、立羽には悪いが、義兄と呼びたくないと言った意味が……ようやくわかった気がするよ」
紋士郎はため息をつく。
「わしらの娘として育てても戸籍だけは、夏蜜ちゃんを福実叔母さんの養女にと思ってな。福実叔母さんは、陸也叔父さんと子供がおらんかったけんな……」
「陸也叔父さん……」
竹原陸也。
曾祖父の弟で、親戚になる竹原家に養子に行き、福実と結婚したが、すぐに徴兵され戦死した。
一人残された福実は再婚することなく、陸也の想い出と面影を求めて生きている。
時々福実は、揚羽を見つめ、
「陸也さんにようにとるわ。揚羽は。エェ男や」
笑いじわを見せる。
「でも、ばあちゃん大丈夫かな?」
「わしは、許せんのや‼しらなんだ事だったとは言え、孫に迎えてもかまんと言うとったのに‼しかもその前から……可愛がって、大事にしてあげたいんや‼」
「お父さんの強い熱意に、それに、お姉さまやお母様の誠実さに、夏蜜ちゃんもすくすくと成長できるのではと思ったのです。夏蜜ちゃんには辛い目には遭ってしまいましたが、家族と出会えたと……そう思えるようにと……」
「本当は私が引き取っても良いのですが、嫁に尻に敷かれとりましてね」
黒田の軽口に笑う。
「それに、元気になったら、夏蜜ちゃんと揚羽君が一緒に図書館に来てくれるとうれしいですね」
「あ、そうします。でも、学校は……」
「転校するしかないでしょう。元気になり次第、新しい学校に……。荷物は私物は然程ありませんが……」
「引き取りにうかがいますわ。園長先生。本当に申し訳ございません。わしらのわがままを……」
深々と紋士郎と真澄が頭を下げる。
「いいえ。お話をうかがって、吉岡さんのご家族の想いを知ることができました。夏蜜ちゃんもお兄ちゃんやお姉さんや妹さんができてうれしいでしょう」
「では、今日は荷物は無理だと思いますが、車ですのでお送りします。黒田さんもいかがですか?真澄はどうする?」
「立羽が戻ってくるでしょう。立羽と帰ります。園長先生、黒田さん。本当にご面倒とご迷惑をおかけしました」
真澄は頭を下げる。
「夏蜜ちゃんは、私の娘として可愛がってあげようと思います。揚羽?何か言うことは?」
「え?あぁ、えっと、手を繋いで図書館に通うようにします」
緊張感のない一言に、ぶっと吹き出す。
「お前は全く……しっかりせんか‼妹だぞ」
「だから手を繋いでですよ。あ、ぐずってる……父さん。園長先生、黒田さんもありがとうございました」
頭を下げる……が、
「いてて‼首が‼」
「揚羽君も安静にね?」
3人は部屋を出ていったのだった。
「揚羽……大丈夫なの?」
「あぁ、母さん」
気の強い姉の立羽に良く似た顔立ちをしている。
「何か、立羽が泣きながら電話してきたのよ。でもね、そんな時にあのバカ男帰ってきて、言い訳しつつ人の家のタンスをあさろうとしたから、警察呼んでおいたわ」
「警察……その場にいなくて良いの?」
「おばあちゃんがいたからね」
離れに住む曾祖父の義妹、福実である。
「で、この子が?」
近づいてきた真澄が、痛々しい少女の姿に顔をしかめる。
「何て事を……可哀想に……」
「夏蜜ちゃんだよ。そう言えば、瑠璃が、そこで寝てる……」
「フニャァァ~‼」
ソファで眠っていた瑠璃が、目を覚ました。
お腹が空いたのか、もしくはおむつが不快なのか……。
「はいはい。瑠璃」
手慣れたように孫を抱き上げあやす。
すぐに泣き止んだ瑠璃はキョロキョロと周囲を見回し、
「ダァァー‼キャァァァ~‼」
何故か、揚羽は瑠璃に好かれている。
揚羽はプリプリしていたがふにゃふにゃの赤ん坊に最初は怖々だったが、今では父親の圭典よりも瑠璃は懐いている。
「瑠璃?ごめんよ。兄ちゃん、首の捻挫の可能性があるからだっことかダメだと思う」
「うぅぅ~‼」
拗ねたように唸る赤ん坊に、真澄は宥めながら近づき、
「瑠璃ちゃん。お姉ちゃんの夏蜜ちゃんよ」
「だぁぁ?」
「お姉ちゃん。なっちゃん」
「たーう」
「あらお利口ね」
頭を撫でると、オムツを確認し、
「あらあら。取り替えないとね」
言いながら、ソファで、立羽が置いていった荷物の中身を確認すると新しい紙おむつと取り替える。
「これを捨ててくるわ。それに、瑠璃が騒いではいけないでしょ?ちょっと出てくるから……ついでに飲み物を買ってくるわ。何がいい?」
「うーん。お茶。夏蜜ちゃんは二本買ってきてくれる?スポーツドリンクと、甘い炭酸ジュース。ストローも」
「はいはい。看護師さんの控え室で聞いてみるわ。じゃぁ、瑠璃ちゃん?お兄ちゃんとお姉ちゃんに行ってきますってばいばいしましょうね」
瑠璃の手を振り、真澄が出ていく代わりに、シスターと父の紋士郎と黒田が姿を見せる。
「父さん。シスター、黒田さん」
「揚羽……一応、家で引き取ることになったよ」
「本当ですか?でも、俺の妹になるんでしょうか?」
「いや。一時的で、落ち着いたら夏蜜ちゃんに、決めて貰うことにしようと思ってね」
紋士郎は、引き取ることになった夏蜜を覗き込む。
「容態は?」
「先、目が覚めて、義兄さんの事を会いたくない、怖い、嫌だって言っていたよ。殴るって怖いって……」
「何てことだ……わしは、お前があの時、立羽には悪いが、義兄と呼びたくないと言った意味が……ようやくわかった気がするよ」
紋士郎はため息をつく。
「わしらの娘として育てても戸籍だけは、夏蜜ちゃんを福実叔母さんの養女にと思ってな。福実叔母さんは、陸也叔父さんと子供がおらんかったけんな……」
「陸也叔父さん……」
竹原陸也。
曾祖父の弟で、親戚になる竹原家に養子に行き、福実と結婚したが、すぐに徴兵され戦死した。
一人残された福実は再婚することなく、陸也の想い出と面影を求めて生きている。
時々福実は、揚羽を見つめ、
「陸也さんにようにとるわ。揚羽は。エェ男や」
笑いじわを見せる。
「でも、ばあちゃん大丈夫かな?」
「わしは、許せんのや‼しらなんだ事だったとは言え、孫に迎えてもかまんと言うとったのに‼しかもその前から……可愛がって、大事にしてあげたいんや‼」
「お父さんの強い熱意に、それに、お姉さまやお母様の誠実さに、夏蜜ちゃんもすくすくと成長できるのではと思ったのです。夏蜜ちゃんには辛い目には遭ってしまいましたが、家族と出会えたと……そう思えるようにと……」
「本当は私が引き取っても良いのですが、嫁に尻に敷かれとりましてね」
黒田の軽口に笑う。
「それに、元気になったら、夏蜜ちゃんと揚羽君が一緒に図書館に来てくれるとうれしいですね」
「あ、そうします。でも、学校は……」
「転校するしかないでしょう。元気になり次第、新しい学校に……。荷物は私物は然程ありませんが……」
「引き取りにうかがいますわ。園長先生。本当に申し訳ございません。わしらのわがままを……」
深々と紋士郎と真澄が頭を下げる。
「いいえ。お話をうかがって、吉岡さんのご家族の想いを知ることができました。夏蜜ちゃんもお兄ちゃんやお姉さんや妹さんができてうれしいでしょう」
「では、今日は荷物は無理だと思いますが、車ですのでお送りします。黒田さんもいかがですか?真澄はどうする?」
「立羽が戻ってくるでしょう。立羽と帰ります。園長先生、黒田さん。本当にご面倒とご迷惑をおかけしました」
真澄は頭を下げる。
「夏蜜ちゃんは、私の娘として可愛がってあげようと思います。揚羽?何か言うことは?」
「え?あぁ、えっと、手を繋いで図書館に通うようにします」
緊張感のない一言に、ぶっと吹き出す。
「お前は全く……しっかりせんか‼妹だぞ」
「だから手を繋いでですよ。あ、ぐずってる……父さん。園長先生、黒田さんもありがとうございました」
頭を下げる……が、
「いてて‼首が‼」
「揚羽君も安静にね?」
3人は部屋を出ていったのだった。
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