県立図書館のお話
現れた夏蜜の父親である義兄。
しばらくして、揚羽の父親の紋士郎と義兄の圭典が姿を見せる。
軽薄な彼を揚羽は実は好きではなかった。
金遣いが荒く、時々気の強い姉が喧嘩をしては瑠璃を抱いて実家に戻ってくるのである。
あまりいい気はしないのは仕方がないだろう。
その上、キザで、浮気だなんだと問題を起こすのだ。
だがいつもは派手な格好をすることが多い圭典が、青白い顔で小さくなって紋士郎の後ろを歩いてくる。
「揚羽‼どうだ‼」
「あ、父さん……」
その前を、ベッドが押されてくる。
「失礼します‼強い打ち身と骨折です。頭を打っています‼退いてください‼」
「夏蜜ちゃんは‼」
揚羽は追いかける。
「お兄さん、これから治療に入ります。お待ちください」
「傍について居てあげたいんです‼お願いします‼」
すがるように頼み込む。
「邪魔をしないのでしたら、構いませんが、大騒ぎや携帯は持ち込み禁止です‼」
「じゃぁ‼」
スマホを父親に押し付け、追いかけていった。
「渡邊さん。お久しぶりです。何年ぶりでしょうか?」
シスターは微笑むと、紋士郎に頭を下げる。
「私は、ほたる園の園長の里中と申します。夏蜜ちゃんを小学校1年生の頃からお預かりしております。お父様である渡邊さんが奥さんをなくされて、育てられないと。3年前にご結婚の際には、新しい奥さんが『子供はいらない』とおっしゃっておられたとうかがっております」
「私は、この圭典の妻の父、吉岡紋士郎と申します。あの、身内をかばうと思われても仕方ありませんが、娘は、娘の立羽は夏蜜ちゃんの事を聞いたときに、『引き取りたい』と圭典に何度も頼んだんです。私も、血は繋がっていないにしても娘の娘、孫だと賛成しました。しかし、圭典が『前の奥さんの両親が引き取っていて養子に出した』と言い張っていたのです。私どもも、残念に思っていたのです。嘘ではありません‼」
必死にいい募る。
そして、
「圭典‼どういうことだ‼説明せんか‼」
「えっ……あの……か、家族で話し合いませんか?この人他人でしょ?」
黒田を示す。
黒田は、3人に名刺を差し出す。
「申し訳ございません。私は県立図書館の司書、黒田一狼と申します。幼稚園の頃から、夏蜜ちゃんが通ってきておりまして、娘のように可愛がっておりました。これは、実は私の古い電子辞書をプレゼントしたのです」
夏蜜のバッグから取り出して示す。
「これは、司書の女性職員が私の私物でしたので武骨な蓋を夏蜜ちゃんに似合うようにかわいく飾ってあげたいと、色々と。喜んでくれて、大事にしてくれて嬉しいです。実は、今回は、備品の取り替えの時期で特に重くて、ガタガタと音がして古い脚立を取り替えようと思っていた矢先に、夏蜜ちゃんが足を滑らせて落ちたのです。背中を打ち付けた上に、起き上がろうとして今度は脚立が上に……。私どもの不備が原因です。その為に、一緒に頭を軽くでありますが打った揚羽君と共にこちらに参りました」
「へぇ……」
目がキラッとする圭典。
「じゃぁ、夏蜜を怪我させたってことで訴えてもいいってことか……」
「訴えられても仕方がありませんが、貴方にその資格はあるのでしょうか?」
「なんだと?あいつは俺の娘だぞ‼」
食って掛かる圭典に、
「育てていない、あんたが言うんじゃないわ‼バカ亭主‼」
背後から女性の声が響く。
ハイヒールではなく、普段着にエプロン、そして娘を抱いた姿の立羽は近づくと、手ではなく拳を翻した。
ゴーン‼ともガーンともつかぬ音が響き、よろめく。
「私は何度も、『夏蜜ちゃんに会いたい』『夏蜜ちゃんに妹の瑠璃を見せたい』『出来たら一緒に住みたい』って何度も何度も頼んだわよね?貴方何て言った?」
「立羽……」
「軽々しく私の名前を呼ばないで‼もう離婚よ‼嘘つきで借金まみれ、浮気ばっかり‼その上、大ケガをしてる夏蜜ちゃんの事を心配せずにお金の計算?冗談じゃないわ‼即離婚‼離婚‼離婚‼」
立羽はシスターを見ると、深々と頭を下げる。
「申し訳ございません。私が、夏蜜ちゃんの義理ではありますが母の立羽と申します。この子が妹の瑠璃です。夫の嘘を信じ、夏蜜ちゃんを引き取ることを怠りました。私の責任です。申し訳ございません」
「立羽さんですね……もっと早くこちらも、この方の嘘偽りを信じなければ良かったと後悔しております。こんなに酷いことになってしまって……」
「申し訳ございません‼お願いいたします‼お願いいたします‼私は母失格かもしれません。ですが、チャンスをください‼私の娘として、引き取らせてください‼夫とは別れます‼二度と近づけないように致しますので‼」
必死に頭を下げる立羽に、シスターは悲しげに見つめる。
「夏蜜ちゃんは……心にも体にも深い傷を負いました。この状態でお返しは出来ません」
「ですが‼」
「他のお家の養女のお話があります。他の子にとも思いましたが、夏蜜ちゃんが意識を取り戻したら、確認して手続きをしたいと思っております」
「待ってくれ‼あいつは俺の娘だぞ‼」
圭典を四人が振り返り、
「黙れ‼親としてなにもせんかった人間が、大言を吐くな‼出ていけ‼」
「そうよ‼親失格が‼図図しい‼市役所に離婚届取りに行ってきなさいよ‼ついでに浮気相手との婚姻届もね?でも、慰謝料を全部戴くから‼」
「話の邪魔です。向こうにいってくれませんか?」
「そうですね。嘘つきで育児放棄の親は置いておいて前向きな話をしましょう」
シスターの静かだがきつい一言に、圭典は言葉を失う。
しっしっ‼
と妻に追い払われ、しかも目の前で堂々と、
「この娘の立羽が離婚をして、できれば、うちで引き取ることは出来ませんか?」
「お願いいたします‼」
「ですが……」
と話をされると、ムッとする。
「おいっ!あいつは……」
「うるっさいわ。黙っとらんかぁぁ‼」
紋士郎が怒声を浴びせる。
「あんなにチッサイ娘を育児放棄に、わしらを騙して、しかも立羽のことまで馬鹿にして‼貴様は鬼か‼しかも、立羽が子育てしよるんを尻目に、遊び放蕩、浮気‼もう許さん‼立羽が選んだ男やからと我慢しとったけど、揚羽の言う通りやったわ‼立羽と夏蜜ちゃんと瑠璃のための慰謝料と養育費、請求するわ‼今すぐ離婚届とってこんか‼」
普段は物静かな紋士郎の怒声に、竦み上がった圭典は逃げ出した。
その声に注意しに飛び出してきた看護師に、
「すみません。向こうで静かにしとりますけん。ゆるしてくらはいや」
頭を下げた紋士郎は、
「それじゃ、あっちにいって話しませんか?立羽。瑠璃をだっこしようわい」
「お父さんありがとう……本当に揚羽が言う通りやったわ……揚羽の言うことを信じとれば良かった……」
歩きながら呟く声は黒田の耳にしか届かなかったのだった。
軽薄な彼を揚羽は実は好きではなかった。
金遣いが荒く、時々気の強い姉が喧嘩をしては瑠璃を抱いて実家に戻ってくるのである。
あまりいい気はしないのは仕方がないだろう。
その上、キザで、浮気だなんだと問題を起こすのだ。
だがいつもは派手な格好をすることが多い圭典が、青白い顔で小さくなって紋士郎の後ろを歩いてくる。
「揚羽‼どうだ‼」
「あ、父さん……」
その前を、ベッドが押されてくる。
「失礼します‼強い打ち身と骨折です。頭を打っています‼退いてください‼」
「夏蜜ちゃんは‼」
揚羽は追いかける。
「お兄さん、これから治療に入ります。お待ちください」
「傍について居てあげたいんです‼お願いします‼」
すがるように頼み込む。
「邪魔をしないのでしたら、構いませんが、大騒ぎや携帯は持ち込み禁止です‼」
「じゃぁ‼」
スマホを父親に押し付け、追いかけていった。
「渡邊さん。お久しぶりです。何年ぶりでしょうか?」
シスターは微笑むと、紋士郎に頭を下げる。
「私は、ほたる園の園長の里中と申します。夏蜜ちゃんを小学校1年生の頃からお預かりしております。お父様である渡邊さんが奥さんをなくされて、育てられないと。3年前にご結婚の際には、新しい奥さんが『子供はいらない』とおっしゃっておられたとうかがっております」
「私は、この圭典の妻の父、吉岡紋士郎と申します。あの、身内をかばうと思われても仕方ありませんが、娘は、娘の立羽は夏蜜ちゃんの事を聞いたときに、『引き取りたい』と圭典に何度も頼んだんです。私も、血は繋がっていないにしても娘の娘、孫だと賛成しました。しかし、圭典が『前の奥さんの両親が引き取っていて養子に出した』と言い張っていたのです。私どもも、残念に思っていたのです。嘘ではありません‼」
必死にいい募る。
そして、
「圭典‼どういうことだ‼説明せんか‼」
「えっ……あの……か、家族で話し合いませんか?この人他人でしょ?」
黒田を示す。
黒田は、3人に名刺を差し出す。
「申し訳ございません。私は県立図書館の司書、黒田一狼と申します。幼稚園の頃から、夏蜜ちゃんが通ってきておりまして、娘のように可愛がっておりました。これは、実は私の古い電子辞書をプレゼントしたのです」
夏蜜のバッグから取り出して示す。
「これは、司書の女性職員が私の私物でしたので武骨な蓋を夏蜜ちゃんに似合うようにかわいく飾ってあげたいと、色々と。喜んでくれて、大事にしてくれて嬉しいです。実は、今回は、備品の取り替えの時期で特に重くて、ガタガタと音がして古い脚立を取り替えようと思っていた矢先に、夏蜜ちゃんが足を滑らせて落ちたのです。背中を打ち付けた上に、起き上がろうとして今度は脚立が上に……。私どもの不備が原因です。その為に、一緒に頭を軽くでありますが打った揚羽君と共にこちらに参りました」
「へぇ……」
目がキラッとする圭典。
「じゃぁ、夏蜜を怪我させたってことで訴えてもいいってことか……」
「訴えられても仕方がありませんが、貴方にその資格はあるのでしょうか?」
「なんだと?あいつは俺の娘だぞ‼」
食って掛かる圭典に、
「育てていない、あんたが言うんじゃないわ‼バカ亭主‼」
背後から女性の声が響く。
ハイヒールではなく、普段着にエプロン、そして娘を抱いた姿の立羽は近づくと、手ではなく拳を翻した。
ゴーン‼ともガーンともつかぬ音が響き、よろめく。
「私は何度も、『夏蜜ちゃんに会いたい』『夏蜜ちゃんに妹の瑠璃を見せたい』『出来たら一緒に住みたい』って何度も何度も頼んだわよね?貴方何て言った?」
「立羽……」
「軽々しく私の名前を呼ばないで‼もう離婚よ‼嘘つきで借金まみれ、浮気ばっかり‼その上、大ケガをしてる夏蜜ちゃんの事を心配せずにお金の計算?冗談じゃないわ‼即離婚‼離婚‼離婚‼」
立羽はシスターを見ると、深々と頭を下げる。
「申し訳ございません。私が、夏蜜ちゃんの義理ではありますが母の立羽と申します。この子が妹の瑠璃です。夫の嘘を信じ、夏蜜ちゃんを引き取ることを怠りました。私の責任です。申し訳ございません」
「立羽さんですね……もっと早くこちらも、この方の嘘偽りを信じなければ良かったと後悔しております。こんなに酷いことになってしまって……」
「申し訳ございません‼お願いいたします‼お願いいたします‼私は母失格かもしれません。ですが、チャンスをください‼私の娘として、引き取らせてください‼夫とは別れます‼二度と近づけないように致しますので‼」
必死に頭を下げる立羽に、シスターは悲しげに見つめる。
「夏蜜ちゃんは……心にも体にも深い傷を負いました。この状態でお返しは出来ません」
「ですが‼」
「他のお家の養女のお話があります。他の子にとも思いましたが、夏蜜ちゃんが意識を取り戻したら、確認して手続きをしたいと思っております」
「待ってくれ‼あいつは俺の娘だぞ‼」
圭典を四人が振り返り、
「黙れ‼親としてなにもせんかった人間が、大言を吐くな‼出ていけ‼」
「そうよ‼親失格が‼図図しい‼市役所に離婚届取りに行ってきなさいよ‼ついでに浮気相手との婚姻届もね?でも、慰謝料を全部戴くから‼」
「話の邪魔です。向こうにいってくれませんか?」
「そうですね。嘘つきで育児放棄の親は置いておいて前向きな話をしましょう」
シスターの静かだがきつい一言に、圭典は言葉を失う。
しっしっ‼
と妻に追い払われ、しかも目の前で堂々と、
「この娘の立羽が離婚をして、できれば、うちで引き取ることは出来ませんか?」
「お願いいたします‼」
「ですが……」
と話をされると、ムッとする。
「おいっ!あいつは……」
「うるっさいわ。黙っとらんかぁぁ‼」
紋士郎が怒声を浴びせる。
「あんなにチッサイ娘を育児放棄に、わしらを騙して、しかも立羽のことまで馬鹿にして‼貴様は鬼か‼しかも、立羽が子育てしよるんを尻目に、遊び放蕩、浮気‼もう許さん‼立羽が選んだ男やからと我慢しとったけど、揚羽の言う通りやったわ‼立羽と夏蜜ちゃんと瑠璃のための慰謝料と養育費、請求するわ‼今すぐ離婚届とってこんか‼」
普段は物静かな紋士郎の怒声に、竦み上がった圭典は逃げ出した。
その声に注意しに飛び出してきた看護師に、
「すみません。向こうで静かにしとりますけん。ゆるしてくらはいや」
頭を下げた紋士郎は、
「それじゃ、あっちにいって話しませんか?立羽。瑠璃をだっこしようわい」
「お父さんありがとう……本当に揚羽が言う通りやったわ……揚羽の言うことを信じとれば良かった……」
歩きながら呟く声は黒田の耳にしか届かなかったのだった。
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