この時期にしか見られない夢の刻を壊す人

ノベルバユーザー173744

この時期にしか見られない夢の刻を壊す人

今日、6月4日、愛媛新聞の欄に、

『大量ホタル一夜でどこに』
『盗難?住民見回り開始』

と書かれていた。

住民の方がホタルの育成・放流を長年取り組んでいる愛媛県伊予市中山町の佐礼谷されだに地区の中山川上流……通称拝鷹川で、6月1日、1600匹ほどが飛んでいるのを確認していた地域のほたる保存会の人が確認、翌日は近所の方が変わった様子のない川を見回ったあと、そのまた翌日見回ると500匹~600匹に激減していたと書かれていた。

水かさが浅い場所のホタルは一気に姿を消し、深い場所では残っていたらしい。



それを見て愕然とした。

何てことだろう……。
ほたるは、近年本当に数が激減し、一時期本当に絶滅しかかっていた。
ほたるは本当にきれいな川でしか生きられない、繊細かつ優しい生き物なのだ。

ほたるが見られる地域は、昔一時期使っていた農薬散布等を変えたり、山が荒れて川が汚れるのを防いだり、夏の台風で卵が流されるのを避けるため、ほたるの乱舞の時期が終わると一時的に避難させ、卵を孵化させたりして放流するなど地域一丸となって見守っているのだ。

それほどまでして失われつつあったほたるの乱舞取り戻したいと、儚い命の炎を再びこの川でと、保存会の方はご苦労もたくさんあったに違いない。
それなのに、どうしてこの地域にようやく羽を広げ飛び立ち、ほのかな明かりをともす短い命を燃やし、恋人を探すほたるを誰が大量に奪い取るのだろう。
ようやく、30年かけて増やしてきたのだという人々の暖かい思いを、このようなひどい行為で踏みにじるのだろう。

この場所は、実は去年も500匹が一気にいなくなったということで、見回っていたのだという。

その上、この地域では来週ほたるまつりを行う予定であったらしい。
でも、この川の周辺には案内できないと書かれていた。



私もほたるを見つけたときには帽子でそっとすくい、しばらくの間、心の中で迷っている道筋を問いかけたいと手の中でほのかな明かりを見つめていた事もある。

でもそれはほんのひとときで、手を差し出し恋人の待つ川の方に放つ。

「ありがとう……来年は子供が帰ってくるといいね」

そう言いながら、川の上をフワリフワリと瞬く光を目で追う……。



ほたるを、その川から奪う人は、自然を奪う人で、命を奪う人で、未来を見られない人だと思う。

コメント

  • ノベルバユーザー603725

    焦らされるのも醍醐味です。
    登場人物たちの関係に期待します。

    0
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