負け組だった男のチートなスキル
第五十七話 二次災害
叫んだのはあのヨハネだった。
そのヨハネが一人だけ立ち上って、涙を流しながらこちらを睨みつけていた。まるで仇を見るように。
「どうしたんだよ、ヨハネ」
ドランが叫ぶ。
「聞いたんだ、そこの男が他の行動を塞いで回ってるって」
いつものヨハネとは違い、しっかりとした物言いで言葉を述べていく。
「それが一体どうしたんだよ」
ドランは困惑した様子でヨハネに尋ねる。コウスケも訳が分からなかった。
「分からないのか? そこの魔人族が他の坑道を閉ざしたせいで、こっちの坑道に魔物が集中したんだよ!」
「え……」
ヨハネの言葉を聞いたドランはコウスケを見る。いや、この場全ての人がコウスケのことを見ていた。
通常ならただの言いがかりだというようなタイミングだ。だがヨハネの告げた内容が内容で、その言葉に説得力を持たせることになっている。
「……コウスケさんのせい?」
「そうだ!」
ドランは茫然とした様子で呟いた。
今のドランの精神状態に、トランの今の言葉はとても響いてしまったらしい。
だが動揺したのはドランだけではない。指摘を受けたコウスケも当てはまっていた。
「そうか……」
失念していた。
坑道を塞げば全て解決すると思っていた。いや、それだけじゃない。この機会に槍などの文化を薦められれば良いと……いや違う。何よりコウスケの心を刺激したのは、人を救ってるのだという充実感、爽快感だ。それらを行ったという快感がコウスケの心には確かにあったのだ。
だがそれだけではないような気もコウスケの中にはあったが、その引っかかりは出てこない。
とはいえそれらのことがあったがゆえに先のことを全く考えつくことが出来なかったのだ。
「俺の……」
――行動の結果がアービスを殺した。
そう口を開こうとした瞬間、その言葉を遮るかのようにドランが口を開いた。
「違う!」
それはまるで自分に言い聞かせているような声音だった。
「ドラン、事実は事実だよ」
そんなドランにヨハネの淡々とした声音が続いた。
ドランはそんな態度のヨハネに声をあげる。
「そもそもは、ヨハネ、お前が――」
「やめろ!」
そのドランの言葉を遮ったのはコウスケだった。
ドランの泣き顔とヨハネの驚き顔がコウスケの目に入る。
ドランがそれ以上言ってしまえば、この二人の関係は壊れることは目に見えて分かっていた。それにその言葉はこの空気を改善させてくれるような言葉ではない。一時的にヨハネを怯ませることが出来るのだろうが、恐らくヨハネはその感情を乗り越えてこの場に現れた。となるとむしろその先の言葉を言ってしまえば、この言い合いが過激化し、言い合いだけに留まらなくなる可能性さえある。
今の状況でそれだけは避けなければならない。
「コウスケさん……」
唇を噛み締めて呟くドラン。
コウスケはそんなドランの脇をすり抜け、ヨハネの方に歩み寄っていく。
「な、何だよ。殴って黙らせようってか」
ヨハネはオドオドした様子でコウスケに言葉を投げかける。
そしてコウスケはヨハネの前にたどり着く。
「ヨハネ」
「っひ」
コウスケがそう呼びかけだけなのに、ヨハネは尻餅をついた。それだけで相当コウスケに対し恐怖心が芽生えていることが分かる。
「残る坑道はいくつだ」
「……え?」
「残る坑道だ」
コウスケの問いにヨハネは思わず顔を上げた。彼にとっては予想外の質問だったのだろう。
「ひ、一つ」
「そうか」
コウスケはそれだけ聞くとヨハネの元を離れた。そしてこの場から立ち去っていく。
「コウスケさん! どこに行くんですか?」
ドランの声が聞こえた。だがコウスケは振り返ることなく進み続ける。
「コウスケさん!」
「ドラン、ヨハネ、お前らは喧嘩じゃなくてアービスの弔いでもしろ」
ただそれだけ言い残しコウスケはこの場から立ち去っていった。
「はぁ」
息を一つ吐き、コウスケは顔を前に向ける。こんなに深刻な状況になったのは図らずも自分の責任だ。それだけは清算しておかなければならない。
コウスケは『強化』した聴覚で残る騒ぎを見つける。騒ぎは直ぐに見つかった。どうやらまだ戦いは続いているようだ。
「魔力はねえが」
今回は塞ぐのではなく巣を叩く。それなら魔法など必要なく『強化』一つで力押しきれるはずだ。
残る一つの坑道の前は、先ほどより悲惨な現場ではなかった。どういうわけかここの坑道は入り口が広く、それでいて対応する人数も多い。
コウスケは息を少し吐き、未だ戦い続けている小人族たちの前へと躍り出た。
「な、何だお前は!?」
「ま、魔人族だと!?」
似たような反応をする人々。
とりあえずその人たちについては後回しだ。
その坑道にいた魔物は、やはり坑道を塞いでしまったことにより数が増えているようで、奥の方まで見てもその行列が途切れる様子はなかった。
坑道が広いということは数が多いほうが勝つ可能性が高い。だがここは小人族側も人数が多いため持ち堪えていた。何故この坑道だけ特別な条件化にあるのかは分からないが、それはコウスケにとってはあまり好ましい状況ではなかった。
なぜなら、坑道が広いということは、コウスケが一人で飛び出した場合、数で勝る魔物側が有利になってしまうからだ。さらに範囲攻撃手段の魔法は使えないのを考えると、もはやコウスケに優位性は何一つない。
「最後の最後でこれか」
ため息をつきたくなる思いに駆られるコウスケ。だがもう既に前線で戦う小人族の前に飛び出した形であるため、前方からは魔物が押し寄せてきている。つまりため息をついている暇などなかった。
ひとまずこの大群をなぎ払っていかない限りは巣にはたどり着けなさそうである。
「はあああ!」
槍を手に持ち『強化』を使った腕力で魔物たちを蹴散らしていく。
何体も狂ったように突いては投げ飛ばし、蹴っては弾き飛ばし、殴っては蹴り飛ばした。
「な、何なんだ……」
困惑したような声が後ろの方から聞こえた。
それもそうだ。何の説明もなしに突然多種族の男が戦場に割って入り、自分達の代わりに魔物を殺していっているのだ。彼らにとっては有難いかもしれないが、その坑道は気味が悪いに決まっている。
だがそれに応対するほど暇ではなかった。それにそんな事をするより魔物を倒すことが優先だ。
そうしてコウスケは、小人族が呆然として見守る中魔物を蹴散らしていった。
「はぁはぁ」
魔物殺しから数時間ほど経っただろうか。かなりの魔物を殺したようだがまだまだ先は見えてこない。相変わらず気持ちの悪い行列を組んでこちらに迫ってきていた。
「いつまで……」
いくら『強化』を使っていようとも疲労はある。それに魔力が枯渇気味な状態も相まって、コウスケの身体は悲鳴をあげていた。
それでもコウスケは魔物殺しをやめなかった。しかし初めの頃よりはだいぶペースが落ちており、後ろで見ていた小人族もそれに気づくほどだ。
「……はあっ!」
最後の力を振り絞ったとばかりにコウスケは槍を投擲する。
しかし今のコウスケには槍の行方を確認する気力もなく、本日二度目となる魔力枯渇と疲労によってその場に倒れこんだ。
そのヨハネが一人だけ立ち上って、涙を流しながらこちらを睨みつけていた。まるで仇を見るように。
「どうしたんだよ、ヨハネ」
ドランが叫ぶ。
「聞いたんだ、そこの男が他の行動を塞いで回ってるって」
いつものヨハネとは違い、しっかりとした物言いで言葉を述べていく。
「それが一体どうしたんだよ」
ドランは困惑した様子でヨハネに尋ねる。コウスケも訳が分からなかった。
「分からないのか? そこの魔人族が他の坑道を閉ざしたせいで、こっちの坑道に魔物が集中したんだよ!」
「え……」
ヨハネの言葉を聞いたドランはコウスケを見る。いや、この場全ての人がコウスケのことを見ていた。
通常ならただの言いがかりだというようなタイミングだ。だがヨハネの告げた内容が内容で、その言葉に説得力を持たせることになっている。
「……コウスケさんのせい?」
「そうだ!」
ドランは茫然とした様子で呟いた。
今のドランの精神状態に、トランの今の言葉はとても響いてしまったらしい。
だが動揺したのはドランだけではない。指摘を受けたコウスケも当てはまっていた。
「そうか……」
失念していた。
坑道を塞げば全て解決すると思っていた。いや、それだけじゃない。この機会に槍などの文化を薦められれば良いと……いや違う。何よりコウスケの心を刺激したのは、人を救ってるのだという充実感、爽快感だ。それらを行ったという快感がコウスケの心には確かにあったのだ。
だがそれだけではないような気もコウスケの中にはあったが、その引っかかりは出てこない。
とはいえそれらのことがあったがゆえに先のことを全く考えつくことが出来なかったのだ。
「俺の……」
――行動の結果がアービスを殺した。
そう口を開こうとした瞬間、その言葉を遮るかのようにドランが口を開いた。
「違う!」
それはまるで自分に言い聞かせているような声音だった。
「ドラン、事実は事実だよ」
そんなドランにヨハネの淡々とした声音が続いた。
ドランはそんな態度のヨハネに声をあげる。
「そもそもは、ヨハネ、お前が――」
「やめろ!」
そのドランの言葉を遮ったのはコウスケだった。
ドランの泣き顔とヨハネの驚き顔がコウスケの目に入る。
ドランがそれ以上言ってしまえば、この二人の関係は壊れることは目に見えて分かっていた。それにその言葉はこの空気を改善させてくれるような言葉ではない。一時的にヨハネを怯ませることが出来るのだろうが、恐らくヨハネはその感情を乗り越えてこの場に現れた。となるとむしろその先の言葉を言ってしまえば、この言い合いが過激化し、言い合いだけに留まらなくなる可能性さえある。
今の状況でそれだけは避けなければならない。
「コウスケさん……」
唇を噛み締めて呟くドラン。
コウスケはそんなドランの脇をすり抜け、ヨハネの方に歩み寄っていく。
「な、何だよ。殴って黙らせようってか」
ヨハネはオドオドした様子でコウスケに言葉を投げかける。
そしてコウスケはヨハネの前にたどり着く。
「ヨハネ」
「っひ」
コウスケがそう呼びかけだけなのに、ヨハネは尻餅をついた。それだけで相当コウスケに対し恐怖心が芽生えていることが分かる。
「残る坑道はいくつだ」
「……え?」
「残る坑道だ」
コウスケの問いにヨハネは思わず顔を上げた。彼にとっては予想外の質問だったのだろう。
「ひ、一つ」
「そうか」
コウスケはそれだけ聞くとヨハネの元を離れた。そしてこの場から立ち去っていく。
「コウスケさん! どこに行くんですか?」
ドランの声が聞こえた。だがコウスケは振り返ることなく進み続ける。
「コウスケさん!」
「ドラン、ヨハネ、お前らは喧嘩じゃなくてアービスの弔いでもしろ」
ただそれだけ言い残しコウスケはこの場から立ち去っていった。
「はぁ」
息を一つ吐き、コウスケは顔を前に向ける。こんなに深刻な状況になったのは図らずも自分の責任だ。それだけは清算しておかなければならない。
コウスケは『強化』した聴覚で残る騒ぎを見つける。騒ぎは直ぐに見つかった。どうやらまだ戦いは続いているようだ。
「魔力はねえが」
今回は塞ぐのではなく巣を叩く。それなら魔法など必要なく『強化』一つで力押しきれるはずだ。
残る一つの坑道の前は、先ほどより悲惨な現場ではなかった。どういうわけかここの坑道は入り口が広く、それでいて対応する人数も多い。
コウスケは息を少し吐き、未だ戦い続けている小人族たちの前へと躍り出た。
「な、何だお前は!?」
「ま、魔人族だと!?」
似たような反応をする人々。
とりあえずその人たちについては後回しだ。
その坑道にいた魔物は、やはり坑道を塞いでしまったことにより数が増えているようで、奥の方まで見てもその行列が途切れる様子はなかった。
坑道が広いということは数が多いほうが勝つ可能性が高い。だがここは小人族側も人数が多いため持ち堪えていた。何故この坑道だけ特別な条件化にあるのかは分からないが、それはコウスケにとってはあまり好ましい状況ではなかった。
なぜなら、坑道が広いということは、コウスケが一人で飛び出した場合、数で勝る魔物側が有利になってしまうからだ。さらに範囲攻撃手段の魔法は使えないのを考えると、もはやコウスケに優位性は何一つない。
「最後の最後でこれか」
ため息をつきたくなる思いに駆られるコウスケ。だがもう既に前線で戦う小人族の前に飛び出した形であるため、前方からは魔物が押し寄せてきている。つまりため息をついている暇などなかった。
ひとまずこの大群をなぎ払っていかない限りは巣にはたどり着けなさそうである。
「はあああ!」
槍を手に持ち『強化』を使った腕力で魔物たちを蹴散らしていく。
何体も狂ったように突いては投げ飛ばし、蹴っては弾き飛ばし、殴っては蹴り飛ばした。
「な、何なんだ……」
困惑したような声が後ろの方から聞こえた。
それもそうだ。何の説明もなしに突然多種族の男が戦場に割って入り、自分達の代わりに魔物を殺していっているのだ。彼らにとっては有難いかもしれないが、その坑道は気味が悪いに決まっている。
だがそれに応対するほど暇ではなかった。それにそんな事をするより魔物を倒すことが優先だ。
そうしてコウスケは、小人族が呆然として見守る中魔物を蹴散らしていった。
「はぁはぁ」
魔物殺しから数時間ほど経っただろうか。かなりの魔物を殺したようだがまだまだ先は見えてこない。相変わらず気持ちの悪い行列を組んでこちらに迫ってきていた。
「いつまで……」
いくら『強化』を使っていようとも疲労はある。それに魔力が枯渇気味な状態も相まって、コウスケの身体は悲鳴をあげていた。
それでもコウスケは魔物殺しをやめなかった。しかし初めの頃よりはだいぶペースが落ちており、後ろで見ていた小人族もそれに気づくほどだ。
「……はあっ!」
最後の力を振り絞ったとばかりにコウスケは槍を投擲する。
しかし今のコウスケには槍の行方を確認する気力もなく、本日二度目となる魔力枯渇と疲労によってその場に倒れこんだ。
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