負け組だった男のチートなスキル
第五十五話 プレゼンテーション
「どいてください」
すぐそばにいる小人族の肩に手を置いて言った。
「ああ?」
ただでさえ気が立っているこの現場で、その物言いは不味かったようだ。
現に小人族の男は不機嫌そうな顔をこちらに向けてきていた。ここで時間を取られるのは不味いのだが。
だがそれも一瞬のことだった。直ぐにコウスケが魔人族と知るや、口が開き唖然とした表情となる。こんな時は魔人族の容姿を持って良かったと思うコウスケだった。
「ま、魔人族? どうしてここに」
「今はそれどころじゃないはずですよ」
少し強めの口調でコウスケは言った。
さらに戸惑う小人族を押しのけて前へ進んでいく。次々とすれ違う人々の張りつめた顔が変わっていく様は結構面白く、しばらく見ていても飽きないかもしれない。
「交代です」
結構な人ごみをかき分けて最前線にたどり着いたコウスケは、最前線で戦っている小人族の背中を叩いて告げた。
反射的に振り向いた男。戦いの最中というのに、その男はこちらの顔を見るなり硬直する。
「な、何で?」
「そんなことはいいから」
戦闘中余所見をした男の尻拭いをするように、半ば強引に小人族を後ろへ追いやって前線に立った。
それと同時に隣で戦っていた小人族たちも手を止めこちらを見てくる。その様子を見て思わず苦笑いを浮かべるコウスケ。
戦いよりも気を取られることなんて早々ない、はずなのに小人族たちはこちらに注目してくる。彼らにとっては戦いよりも魔人族の方が珍しいらしいようだ。
「よそ見するくらいなら下がっていてください」
そんな彼らに容赦なくコウスケはそう言った。巻き添えになってしまっては目も当てられないからだ。
その後、自分は迫り来る魔物の大群を目の前に槍を構えた。
名前 コウスケ・タカツキ
種族 異世界魔人
レベル 57
体力 普通
魔力 並
攻撃力 強化状態
防御力 強化状態
敏捷力 強化状態
スキル 技能創造 隠蔽 鑑定 聖域 強化 吸収 転化
槍を構える中で、コウスケはついでにステータスも確認しておく。久しぶりに見るステータスだったが特に変わった項目はないようだった。
今見るべき項目は二つだ。
とりあえずレベル。レベルについては相変わらず上昇しにくい段階に突入しており爆発的には上がっていない。
そして今一番気になっていた項目。それは魔力の箇所だ。コウスケは前回の戦いで魔力の枯渇状態によりぶっ倒れた。それがもし継続しており枯渇のままだったなら、当然のことながら魔法は出せない。つまり魔力が枯渇状態であったら、前回のように魔法で一気に駆除したり坑道を塞いだりといったことは出来ないのだ。
だがその懸念には至らずに済んだ。それはコウスケの魔力が、完全には回復していないものの、ステータス表記には並程度までには回復しているのを確認できたからだ。万全ではないとはいえある程度の魔法は放つことが出来るはずだった。
とはいえ、最後の始末として坑道を塞ぐ程度の魔力を残しておかないといけない。つまり戦闘中、魔法は自重すべきであることは確かだった。
「ファイア」
と思った傍から魔法を発動させるコウスケ。何もやけになったわけではない。魔法の狙いはあのキリの無い程いる魔物の群れではなく、魔法の対象はコウスケの持つ槍だ。
いつものように赤黒い炎が黒槍に迸る。禍々しいその見た目からか、小人族たちが息を呑んだのが聞こえた。
救世主や勇者、英雄と呼ばれる者たちが持つ武器のイメージはこの世界ではどうなっているか分からないが、コウスケのいた日本では間違いなく煌く聖剣を思い浮かべるだろう。対してコウスケの持つその槍は真っ黒。何なら、禍々しい赤黒い炎がその周りを纏っている。
勇者と言うより魔王に近い。しかもコウスケが魔人族であることから、ますますそれに説得力を与えていることは間違いない。
コウスケ自身、本来なら他人にどう思われようとも構わない。だが今は長耳族関係によって小人族からのバックアップを得るために、信用を勝ち取らなければならない状況だ。
なのでもし魔王が小人族にとって憎き相手ならば、自分がその憎き魔王と思われてしまうのは非常に不味かった。
だがしかし、今はそんな事を考える間もなく魔物が次から次へと迫ってきている。
そのためコウスケは色々と考え事をしながら、魔物相手に槍で突き刺しては投げ、投げては戻したりと『強化』状態での力技で魔物軍団に対処していた。
一人の力技だけであれほどの大群に対応出来るのにもちゃんと理由がある。こういった防衛線では、数が物を言う場合は当然だが、幸いこの坑道は狭い。そのためせっかく数で勝る魔物の軍団もごり押しと言うわけにはいかないのだ。それゆえ数で劣る小人族たちも何とか持ちこたえていた。
それでも剣ではなく槍などの様々な武器を使っていたのなら、もっと効率的に立ち回れたと思うのだが。
とりあえず愚痴を言いたくなる気持ちを堪えて戦うコウスケ。
「す、すげえ」
「魔人族……」
後方からそう言った声がささやかれ始めた。コウスケにとってはそれはとても好都合だった。信用を得るためにはまず自分の好感度を上げることに越したことはない。
後は魔人族に対しての好感度だけではなく槍にも移行してほしいのだが、そう上手くいくかは人の感性によるものなので難しい。
そもそも今まで一切剣以外を認めてこなかった人たちがいきなり槍を持つ男に救われたくらいで心変わりするのか。その問いには答えなどあるわけではないが、ある程度の効果はあるのではないかとコウスケは考えていた。
実際にコウスケのいた地球でも、ガラケーと呼ばれる携帯電話からスマホに移行するのも、始めはスマホを携帯とは認めていない風潮があったような気がする。だがそれが最終的に爆発的に普及したのは、機能性を皆が認め始めたからに違いない。
ならばこうしてコウスケが槍を振るっていわばプレゼンして槍の印象を良くする方法もあながち間違いではないのだ。
「はあああっ!」
声を発しながらコウスケは槍を力強く投げた。
投げられた槍は次々と魔物を貫通していき、かなり後ろの方まで飛んでいった。貫通力がある槍だからこそ出来る戦術だ。恐らく剣では鞘などがあるため上手くは行かないだろう。
それに投げてもあの槍はこうして手元に戻ってくる。
とはいえそれらには色々と条件が整わないと実行できないのは確かだ。コウスケの『強化』に匹敵する程の肩力は必須になり、もちろんこの槍と同じように戻ってくる性能も必要になってくる。たった二つなのだがそれが極めて難しいのは明らかだった。
「やりすぎるのもダメか……」
後方でポカンと口を半開きにして硬直する小人族たちを尻目にコウスケは呟いた。あまりにも規格外の使い方は逆効果だと判断した。
「ならこっちか」
と呟き、突如コウスケは坑道の壁にもたれ掛かりながら、道具袋の中をゴソゴソと探り始めた。
「ちょ、ちょっとこっちに来る!」
当然コウスケがのん気に道具袋に手をつっこんでいる間にも魔物は侵攻を続けてくる。もちろんコウスケの方に来る魔物は自分で対処するが、向こう側にいる魔物にはどうしても手が届かないのでスルーしていた。
つまり今までコウスケの戦いを観戦していた小人族たちの方へ魔物が流れ込み始めたのだ。
突然の魔物の襲来に小人族は慌てて剣を構えるが、色々と準備不足が否めない状況だった。
そうして小人族たちの方へ魔物が一体襲いかかろうとした瞬間。
ドンッと爆発音が坑道内に響いたと思えば、魔物がそのまま倒れこんだまま動かなくなった。
「ギリギリセーフ」
その声の方へ小人族たちは視線を向ける。もちろん声の主は手に銃を持ったコウスケだった。
「あ、あれは?」
目の前で披露された摩訶不思議な現象と武器らしき物に、小人族は困惑の色を隠せない。どうやらヨハネの作った火縄銃は一般的には公開されていないようだ。
「銃って名前の武器だよ。覚えておいて損はないと思うね」
再び小人族の方へ迫る魔物に対して引き金を引き、魔物の命を奪い取る。
もちろんコウスケが魔物を小人族たちに仕向けたのはわざとだった。こうすることによって、より銃の利点を分かってくれると思ったからだ。
「まあこれでプレゼンテーションは終わり」
コウスケは近くの魔物を始末し、再び坑道の中央に立って言った。
「後片付けだ」
すぐそばにいる小人族の肩に手を置いて言った。
「ああ?」
ただでさえ気が立っているこの現場で、その物言いは不味かったようだ。
現に小人族の男は不機嫌そうな顔をこちらに向けてきていた。ここで時間を取られるのは不味いのだが。
だがそれも一瞬のことだった。直ぐにコウスケが魔人族と知るや、口が開き唖然とした表情となる。こんな時は魔人族の容姿を持って良かったと思うコウスケだった。
「ま、魔人族? どうしてここに」
「今はそれどころじゃないはずですよ」
少し強めの口調でコウスケは言った。
さらに戸惑う小人族を押しのけて前へ進んでいく。次々とすれ違う人々の張りつめた顔が変わっていく様は結構面白く、しばらく見ていても飽きないかもしれない。
「交代です」
結構な人ごみをかき分けて最前線にたどり着いたコウスケは、最前線で戦っている小人族の背中を叩いて告げた。
反射的に振り向いた男。戦いの最中というのに、その男はこちらの顔を見るなり硬直する。
「な、何で?」
「そんなことはいいから」
戦闘中余所見をした男の尻拭いをするように、半ば強引に小人族を後ろへ追いやって前線に立った。
それと同時に隣で戦っていた小人族たちも手を止めこちらを見てくる。その様子を見て思わず苦笑いを浮かべるコウスケ。
戦いよりも気を取られることなんて早々ない、はずなのに小人族たちはこちらに注目してくる。彼らにとっては戦いよりも魔人族の方が珍しいらしいようだ。
「よそ見するくらいなら下がっていてください」
そんな彼らに容赦なくコウスケはそう言った。巻き添えになってしまっては目も当てられないからだ。
その後、自分は迫り来る魔物の大群を目の前に槍を構えた。
名前 コウスケ・タカツキ
種族 異世界魔人
レベル 57
体力 普通
魔力 並
攻撃力 強化状態
防御力 強化状態
敏捷力 強化状態
スキル 技能創造 隠蔽 鑑定 聖域 強化 吸収 転化
槍を構える中で、コウスケはついでにステータスも確認しておく。久しぶりに見るステータスだったが特に変わった項目はないようだった。
今見るべき項目は二つだ。
とりあえずレベル。レベルについては相変わらず上昇しにくい段階に突入しており爆発的には上がっていない。
そして今一番気になっていた項目。それは魔力の箇所だ。コウスケは前回の戦いで魔力の枯渇状態によりぶっ倒れた。それがもし継続しており枯渇のままだったなら、当然のことながら魔法は出せない。つまり魔力が枯渇状態であったら、前回のように魔法で一気に駆除したり坑道を塞いだりといったことは出来ないのだ。
だがその懸念には至らずに済んだ。それはコウスケの魔力が、完全には回復していないものの、ステータス表記には並程度までには回復しているのを確認できたからだ。万全ではないとはいえある程度の魔法は放つことが出来るはずだった。
とはいえ、最後の始末として坑道を塞ぐ程度の魔力を残しておかないといけない。つまり戦闘中、魔法は自重すべきであることは確かだった。
「ファイア」
と思った傍から魔法を発動させるコウスケ。何もやけになったわけではない。魔法の狙いはあのキリの無い程いる魔物の群れではなく、魔法の対象はコウスケの持つ槍だ。
いつものように赤黒い炎が黒槍に迸る。禍々しいその見た目からか、小人族たちが息を呑んだのが聞こえた。
救世主や勇者、英雄と呼ばれる者たちが持つ武器のイメージはこの世界ではどうなっているか分からないが、コウスケのいた日本では間違いなく煌く聖剣を思い浮かべるだろう。対してコウスケの持つその槍は真っ黒。何なら、禍々しい赤黒い炎がその周りを纏っている。
勇者と言うより魔王に近い。しかもコウスケが魔人族であることから、ますますそれに説得力を与えていることは間違いない。
コウスケ自身、本来なら他人にどう思われようとも構わない。だが今は長耳族関係によって小人族からのバックアップを得るために、信用を勝ち取らなければならない状況だ。
なのでもし魔王が小人族にとって憎き相手ならば、自分がその憎き魔王と思われてしまうのは非常に不味かった。
だがしかし、今はそんな事を考える間もなく魔物が次から次へと迫ってきている。
そのためコウスケは色々と考え事をしながら、魔物相手に槍で突き刺しては投げ、投げては戻したりと『強化』状態での力技で魔物軍団に対処していた。
一人の力技だけであれほどの大群に対応出来るのにもちゃんと理由がある。こういった防衛線では、数が物を言う場合は当然だが、幸いこの坑道は狭い。そのためせっかく数で勝る魔物の軍団もごり押しと言うわけにはいかないのだ。それゆえ数で劣る小人族たちも何とか持ちこたえていた。
それでも剣ではなく槍などの様々な武器を使っていたのなら、もっと効率的に立ち回れたと思うのだが。
とりあえず愚痴を言いたくなる気持ちを堪えて戦うコウスケ。
「す、すげえ」
「魔人族……」
後方からそう言った声がささやかれ始めた。コウスケにとってはそれはとても好都合だった。信用を得るためにはまず自分の好感度を上げることに越したことはない。
後は魔人族に対しての好感度だけではなく槍にも移行してほしいのだが、そう上手くいくかは人の感性によるものなので難しい。
そもそも今まで一切剣以外を認めてこなかった人たちがいきなり槍を持つ男に救われたくらいで心変わりするのか。その問いには答えなどあるわけではないが、ある程度の効果はあるのではないかとコウスケは考えていた。
実際にコウスケのいた地球でも、ガラケーと呼ばれる携帯電話からスマホに移行するのも、始めはスマホを携帯とは認めていない風潮があったような気がする。だがそれが最終的に爆発的に普及したのは、機能性を皆が認め始めたからに違いない。
ならばこうしてコウスケが槍を振るっていわばプレゼンして槍の印象を良くする方法もあながち間違いではないのだ。
「はあああっ!」
声を発しながらコウスケは槍を力強く投げた。
投げられた槍は次々と魔物を貫通していき、かなり後ろの方まで飛んでいった。貫通力がある槍だからこそ出来る戦術だ。恐らく剣では鞘などがあるため上手くは行かないだろう。
それに投げてもあの槍はこうして手元に戻ってくる。
とはいえそれらには色々と条件が整わないと実行できないのは確かだ。コウスケの『強化』に匹敵する程の肩力は必須になり、もちろんこの槍と同じように戻ってくる性能も必要になってくる。たった二つなのだがそれが極めて難しいのは明らかだった。
「やりすぎるのもダメか……」
後方でポカンと口を半開きにして硬直する小人族たちを尻目にコウスケは呟いた。あまりにも規格外の使い方は逆効果だと判断した。
「ならこっちか」
と呟き、突如コウスケは坑道の壁にもたれ掛かりながら、道具袋の中をゴソゴソと探り始めた。
「ちょ、ちょっとこっちに来る!」
当然コウスケがのん気に道具袋に手をつっこんでいる間にも魔物は侵攻を続けてくる。もちろんコウスケの方に来る魔物は自分で対処するが、向こう側にいる魔物にはどうしても手が届かないのでスルーしていた。
つまり今までコウスケの戦いを観戦していた小人族たちの方へ魔物が流れ込み始めたのだ。
突然の魔物の襲来に小人族は慌てて剣を構えるが、色々と準備不足が否めない状況だった。
そうして小人族たちの方へ魔物が一体襲いかかろうとした瞬間。
ドンッと爆発音が坑道内に響いたと思えば、魔物がそのまま倒れこんだまま動かなくなった。
「ギリギリセーフ」
その声の方へ小人族たちは視線を向ける。もちろん声の主は手に銃を持ったコウスケだった。
「あ、あれは?」
目の前で披露された摩訶不思議な現象と武器らしき物に、小人族は困惑の色を隠せない。どうやらヨハネの作った火縄銃は一般的には公開されていないようだ。
「銃って名前の武器だよ。覚えておいて損はないと思うね」
再び小人族の方へ迫る魔物に対して引き金を引き、魔物の命を奪い取る。
もちろんコウスケが魔物を小人族たちに仕向けたのはわざとだった。こうすることによって、より銃の利点を分かってくれると思ったからだ。
「まあこれでプレゼンテーションは終わり」
コウスケは近くの魔物を始末し、再び坑道の中央に立って言った。
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