負け組だった男のチートなスキル
第三十三話 お仕事
「ううぅん、良く寝た」
今までの疲れが相当溜まっていたのか、昨日の夜はほとんど覚えていないほど直ぐに眠りについたようだ。しかも、既に陽が昇りきっているところを見ると、かなり遅く起きたみたいだ。森の中では警戒しっぱなしだったため、こんなことはほとんど出来なかったので、気分は最高に良好だった。
「お目覚めですか? コウスケ様」
扉の外から、ナリオスの声が聞こえた。ずっとそこにいて見張っていたのではないのかと思うほどの反応の速さだ。
「はい、お陰様で良く眠れました」
「それは良かったです。時間も時間ですし、お昼ご飯からでよろしいですか?」
「はい、わざわざすいません」
「いえいえ、お疲れのご様子だったので仕方がありませんよ」
ナリオスはそれだけ確認した後、直ぐにどこかへ立ち去って行った。飯の支度でもするのだろう。今までの森での自給自足生活から一転して、至れり尽くせりな現状に、直ぐに慣れてしまいそうで怖い。
苦笑いを浮かべながらコウスケは軽く伸びをしながら立ち上がり、窓の外を眺めた。昨日とは違い、村人たちがせっせと外に出て働いている様子が伺える。昨日は時間も時間だったので偶然外に出る者がいなかったのだろう。
一つだけ気になることといえば、皆、長耳族であるということだ。差別をしない村だと言っていたので、てっきり三種族はいると思っていなのだが、やはりここは長耳族の領域なので、村も例外ではないらしい。
その後、コウスケは外でせっせと働く人々を尻目に窓の外を穏やかな気持ちで眺めていた。久々なほのぼのとした時間は大切にしたい。
「コウスケ様。お食事の準備が出来ました」
「はい、今行きます」
そろそろ空腹感が生まれていたところなのでちょうど良いタイミングだった。腹時計はあまり狂っていないと知れて少し安心した。
昼食も昨日の夕食と見劣りしないほど種類が豊富だった。そして昨日と同じようにナリオスはコウスケが食事をしている時には一切手を付けなかった。
「ごちそうさまでした。あの、長耳族には他人と一緒に食事をとってはいけないとかの決まりとかあるんですか?」
さすがに気になったコウスケはナリオスへ問いかける。
ナリオスは一瞬ポカンとした顔をしたが、直ぐに穏やかな笑顔に変わって答える。
「決まりというほど絶対的なものではありませんが、そうですね、あまり一緒に食卓を交えての食事はしませんね」
「そうなんですか」
やはりそういった慣習のようなものがあったらしい。こういうのをカルチャーギャップというのだろう。
「では、私は少し用事があるので夕食時にまた」
「どこか行くんですか?」
無賃で滞在している身のため、手伝えることがあるのなら手を貸したいという気持ちからの質問である。
「では、少し外に出ましょうか」
「はい、分かりました」
首を傾げながらもコウスケはナリオスの後をついて行く。
「見ての通り、この里には魔よけの木が植えられていないのです」
「どうしてなんですか?」
そういえば、里に入ったときに不快な臭いがしなかったことを思い出した。その理由はあの木の有無だったのか。
「それは、色々と事情がありますが、まあ簡単に言ってしまうと、この里は正規の里ではないのです」
「え?」
少し複雑な雰囲気を漂わせるナリオス。これは聞いてはいけない話だったのでは、とコウスケは少し後悔する。
「この里の歴史に関係することですが、差別思考の強い南地区に住まっていて差別を反対する我々の先祖が、その差別思考の根付いている里から抜け出し、一から作り出した里だという歴史から来ています」
いわゆるロイヒエン王国にいたクリアたち革命団と似たようなものなのだろう。
「ですが、魔よけの木の苗木は、族長から認められた里長しか受け取ることが出来ません。そのため、非正規のこの里では魔よけの木が手に入らなかったのです。そのため村人全員で毎日、魔物からの警戒をしておるのです」
「ナリオスさんもそれに?」
「はい、村長とはいえサボるわけにはいきません。それに最近魔物の目撃数が増えておりまして、人手が足りない状況ですので」
色々複雑な現状を持つ里らしい。だから昨日は村人たちは外に出ていなかったのかもしれない。魔物退治に疲れきっていたという可能性だ。
普通ならこんな面倒くさいこと手伝う義理なんてないし、手伝うくらいなら里から出るくらいするのだが、今回は結構な恩を受け取ってしまったのだ。無償で。こんな忙しい中、旅人一人泊めるだけでなく、食事まで準備してくれるなんて相当大変なはずだ。
面倒くさいことはお断りなのだが、恩知らずにはなりたくない。その葛藤が少しの間コウスケの心の中で渦巻くが、直ぐに答えを出した。
「その仕事、任せてもらっていいですか?」
「いえいえ、旅人の方に手伝ってもらうというのは」
「いいんです、くれた恩を返すだけですから」
「……そうですか、ではお願いします」
ナリオスからの同意が得られたコウスケは、早速森の方へ向かうべく歩みを進めた。
「今から行くのですか?」
ナリオスは手ぶらであるコウスケを見たのか、驚いた様子でコウスケへ言葉を飛ばす。
だが、コウスケには摩訶不思議な道具袋がある。
「大丈夫ですよ、これがありますので」
コウスケはその道具袋を手でポンと叩いてナリオスへ見せた。通じるかどうか分からなかったのだが、ナリオスの顔を見ると通じたことが分かった。
「それは収納袋ですか。なるほどそれなら」
「ひとまず魔物の出どころを調べてきます」
「お気をつけて下さい」
村から出るところで、ナリオスはコウスケへお辞儀をして見送ってくれた。何だか偉い人になった気分になる。
そんな視線を受けながらコウスケは森へ入っていった。
「まずは『超感覚』で」
嗅覚と聴覚を駆使に魔物を探す。あちらこちらから足音が聞こえるが、それは恐らくあの里の住人たちだと思われる。彼らも生きるために農業などをやらないといけないはずなのに、こうして時間を取られている。その現状を少しでも改善してあげたい、という温かい気持ちがコウスケの中に久々に差し込んだ。
「いた」
魔物特有の不快な臭いを捉えたコウスケは、その方向へ走った。幸い、里の住人は近くにいないため、後をつけるという手も使える。
魔物の巣まで案内してもらうのだ。魔物が集団で生活するのかは分からないが、手がかりがない以上やってみる価値はある。
「オオカミ型か」
魔物の姿を捉えると、その魔物はお馴染みのオオカミの魔獣だった。珍しく群れで動いているところだった。もしかすると、親玉がいるのかもしれない。そう思い、コウスケは魔物たちに気づかれないようにゆっくりとした足取りで魔物たちの後を追った。匂いでバレないように風下に立ち、目で見つからないように後ろ付近にいる。
今出来る最大限の隠密行動だ。とはいえバレたらバレたで殺せばいいのだからそこまで慎重になるほどではないのだが。
「何だ?」
あまり声を出してはバレてしまうのだが、呟かざるを得ないものをコウスケは目撃した。
魔物を追って行きついた先は、もう何かの縁ではないかと思うが、洞窟だった。洞窟自体は、嫌な感情が湧くだけで、特に変な感じはしない。だが、しばらくそこで張っていると、次々と魔物がその洞窟内に入っていくのだ。それも別の種類の魔物もだ。
明らかにおかしい。あの洞窟の中には全ての魔物を統率する何かがいるのだろうか。
何も準備せず突っ込むのは危険だが、このことを里に報告しても、動揺や混乱が生まれるだけで何も良いことがない。
ならば、ここで準備を整えて行くしかない。コウスケはそう判断し、道具袋に手を突っ込み短剣を取り出した。槍だと、洞窟が狭かった場合に逆に不便になってしまうと考えたからだ。
「よし、行くか」
一息吐いて、コウスケは恩返しするために行動を開始した。
今までの疲れが相当溜まっていたのか、昨日の夜はほとんど覚えていないほど直ぐに眠りについたようだ。しかも、既に陽が昇りきっているところを見ると、かなり遅く起きたみたいだ。森の中では警戒しっぱなしだったため、こんなことはほとんど出来なかったので、気分は最高に良好だった。
「お目覚めですか? コウスケ様」
扉の外から、ナリオスの声が聞こえた。ずっとそこにいて見張っていたのではないのかと思うほどの反応の速さだ。
「はい、お陰様で良く眠れました」
「それは良かったです。時間も時間ですし、お昼ご飯からでよろしいですか?」
「はい、わざわざすいません」
「いえいえ、お疲れのご様子だったので仕方がありませんよ」
ナリオスはそれだけ確認した後、直ぐにどこかへ立ち去って行った。飯の支度でもするのだろう。今までの森での自給自足生活から一転して、至れり尽くせりな現状に、直ぐに慣れてしまいそうで怖い。
苦笑いを浮かべながらコウスケは軽く伸びをしながら立ち上がり、窓の外を眺めた。昨日とは違い、村人たちがせっせと外に出て働いている様子が伺える。昨日は時間も時間だったので偶然外に出る者がいなかったのだろう。
一つだけ気になることといえば、皆、長耳族であるということだ。差別をしない村だと言っていたので、てっきり三種族はいると思っていなのだが、やはりここは長耳族の領域なので、村も例外ではないらしい。
その後、コウスケは外でせっせと働く人々を尻目に窓の外を穏やかな気持ちで眺めていた。久々なほのぼのとした時間は大切にしたい。
「コウスケ様。お食事の準備が出来ました」
「はい、今行きます」
そろそろ空腹感が生まれていたところなのでちょうど良いタイミングだった。腹時計はあまり狂っていないと知れて少し安心した。
昼食も昨日の夕食と見劣りしないほど種類が豊富だった。そして昨日と同じようにナリオスはコウスケが食事をしている時には一切手を付けなかった。
「ごちそうさまでした。あの、長耳族には他人と一緒に食事をとってはいけないとかの決まりとかあるんですか?」
さすがに気になったコウスケはナリオスへ問いかける。
ナリオスは一瞬ポカンとした顔をしたが、直ぐに穏やかな笑顔に変わって答える。
「決まりというほど絶対的なものではありませんが、そうですね、あまり一緒に食卓を交えての食事はしませんね」
「そうなんですか」
やはりそういった慣習のようなものがあったらしい。こういうのをカルチャーギャップというのだろう。
「では、私は少し用事があるので夕食時にまた」
「どこか行くんですか?」
無賃で滞在している身のため、手伝えることがあるのなら手を貸したいという気持ちからの質問である。
「では、少し外に出ましょうか」
「はい、分かりました」
首を傾げながらもコウスケはナリオスの後をついて行く。
「見ての通り、この里には魔よけの木が植えられていないのです」
「どうしてなんですか?」
そういえば、里に入ったときに不快な臭いがしなかったことを思い出した。その理由はあの木の有無だったのか。
「それは、色々と事情がありますが、まあ簡単に言ってしまうと、この里は正規の里ではないのです」
「え?」
少し複雑な雰囲気を漂わせるナリオス。これは聞いてはいけない話だったのでは、とコウスケは少し後悔する。
「この里の歴史に関係することですが、差別思考の強い南地区に住まっていて差別を反対する我々の先祖が、その差別思考の根付いている里から抜け出し、一から作り出した里だという歴史から来ています」
いわゆるロイヒエン王国にいたクリアたち革命団と似たようなものなのだろう。
「ですが、魔よけの木の苗木は、族長から認められた里長しか受け取ることが出来ません。そのため、非正規のこの里では魔よけの木が手に入らなかったのです。そのため村人全員で毎日、魔物からの警戒をしておるのです」
「ナリオスさんもそれに?」
「はい、村長とはいえサボるわけにはいきません。それに最近魔物の目撃数が増えておりまして、人手が足りない状況ですので」
色々複雑な現状を持つ里らしい。だから昨日は村人たちは外に出ていなかったのかもしれない。魔物退治に疲れきっていたという可能性だ。
普通ならこんな面倒くさいこと手伝う義理なんてないし、手伝うくらいなら里から出るくらいするのだが、今回は結構な恩を受け取ってしまったのだ。無償で。こんな忙しい中、旅人一人泊めるだけでなく、食事まで準備してくれるなんて相当大変なはずだ。
面倒くさいことはお断りなのだが、恩知らずにはなりたくない。その葛藤が少しの間コウスケの心の中で渦巻くが、直ぐに答えを出した。
「その仕事、任せてもらっていいですか?」
「いえいえ、旅人の方に手伝ってもらうというのは」
「いいんです、くれた恩を返すだけですから」
「……そうですか、ではお願いします」
ナリオスからの同意が得られたコウスケは、早速森の方へ向かうべく歩みを進めた。
「今から行くのですか?」
ナリオスは手ぶらであるコウスケを見たのか、驚いた様子でコウスケへ言葉を飛ばす。
だが、コウスケには摩訶不思議な道具袋がある。
「大丈夫ですよ、これがありますので」
コウスケはその道具袋を手でポンと叩いてナリオスへ見せた。通じるかどうか分からなかったのだが、ナリオスの顔を見ると通じたことが分かった。
「それは収納袋ですか。なるほどそれなら」
「ひとまず魔物の出どころを調べてきます」
「お気をつけて下さい」
村から出るところで、ナリオスはコウスケへお辞儀をして見送ってくれた。何だか偉い人になった気分になる。
そんな視線を受けながらコウスケは森へ入っていった。
「まずは『超感覚』で」
嗅覚と聴覚を駆使に魔物を探す。あちらこちらから足音が聞こえるが、それは恐らくあの里の住人たちだと思われる。彼らも生きるために農業などをやらないといけないはずなのに、こうして時間を取られている。その現状を少しでも改善してあげたい、という温かい気持ちがコウスケの中に久々に差し込んだ。
「いた」
魔物特有の不快な臭いを捉えたコウスケは、その方向へ走った。幸い、里の住人は近くにいないため、後をつけるという手も使える。
魔物の巣まで案内してもらうのだ。魔物が集団で生活するのかは分からないが、手がかりがない以上やってみる価値はある。
「オオカミ型か」
魔物の姿を捉えると、その魔物はお馴染みのオオカミの魔獣だった。珍しく群れで動いているところだった。もしかすると、親玉がいるのかもしれない。そう思い、コウスケは魔物たちに気づかれないようにゆっくりとした足取りで魔物たちの後を追った。匂いでバレないように風下に立ち、目で見つからないように後ろ付近にいる。
今出来る最大限の隠密行動だ。とはいえバレたらバレたで殺せばいいのだからそこまで慎重になるほどではないのだが。
「何だ?」
あまり声を出してはバレてしまうのだが、呟かざるを得ないものをコウスケは目撃した。
魔物を追って行きついた先は、もう何かの縁ではないかと思うが、洞窟だった。洞窟自体は、嫌な感情が湧くだけで、特に変な感じはしない。だが、しばらくそこで張っていると、次々と魔物がその洞窟内に入っていくのだ。それも別の種類の魔物もだ。
明らかにおかしい。あの洞窟の中には全ての魔物を統率する何かがいるのだろうか。
何も準備せず突っ込むのは危険だが、このことを里に報告しても、動揺や混乱が生まれるだけで何も良いことがない。
ならば、ここで準備を整えて行くしかない。コウスケはそう判断し、道具袋に手を突っ込み短剣を取り出した。槍だと、洞窟が狭かった場合に逆に不便になってしまうと考えたからだ。
「よし、行くか」
一息吐いて、コウスケは恩返しするために行動を開始した。
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