負け組だった男のチートなスキル
第三十一話 亜人の国
老人から別れた後、しばらくの間歩いたが、今のコウスケはどこにどの国があるか知っている。それだけで、未だに生い茂る森の中でも前向きに歩いていくことが出来た。
三つの亜人種が連合している国だと言っていたが、首都のようなものが三つあるのだろうか。もしそうだとしたら、まず見てみたいのは、獣人族だ。まず地球にはいない人種であるのはもちろんのこと、まあそれは長耳族も小人族も同じことだが、長耳族はキィンクを見たし、小人族は小さい人の想像でいい。加えて言えば、コウスケは動物が以前から好きだった。一人の自分にはそれぐらいしか癒してくれる存在がいなかったといえばそれまでだが。
それにしてももうすぐ森が開けてくるころだと思っていたのだが、今の所その気配すらない。確か西に進めばアルカナ連合にたどり着くはずなのだが。とはいっても、あの老人の持っていた地図、今はコウスケの手元にあるが、セントリア公国の領地までしか詳しい表記がされていない。つまりアルカナ連合領の部分は形はあるものの、どこに何があるのかは分からないのだ。もしかすると国全体が森で覆われている可能性すらある。
「最近、人里にいるより自然の中にいる方が長い気がする」
コウスケの言うことはもっともで、洞窟に続いて森、一度町に立ち寄ったものの、一日と経たず森に帰ってきた。以前の生活では考えられないことだが、容姿さえも変わってしまっている今では、もはや地球人の高月光助はもう存在しないのかもしれない。
もう、何度目の夜が来ただろうか。未だに人里らしきものは見当たらない。とはいえ森で過ごすことにもう慣れているため、サバイバル術は自然に身についてく。野宿だって苦ではなくなったし、獣狩りもお手のものだ。ただ料理スキルだけが文明人にあるまじきものだが、それについては目を瞑りたい。
「『超感覚』」
これも『強化』と同じように馴染みのスキルとなっていた。特に自然の中にいる時は重要だ。五感が研ぎ澄まされる感覚は、どこか心地が良い。
『強化』の場合は、鋭くなりすぎて気持ちが悪くなるので、こちらを優先して使っていた。
「この臭いは……」
不快な臭いがコウスケの鼻に届いた。これは確か魔よけの木だったか。ということは人が住んでいる里がある可能性が出てきた。
「相変わらず臭いな」
その臭いに顔を顰め、コウスケは『超感覚』を解除した。このままでは鼻が捻じ曲がりそうだった。
それにしてもその魔よけの木が、進むにつれてその数を増していき、尋常ならざる臭いを発している。これでは、魔物はおろか人さえ寄り付かない。故意に植えているのか、やりすぎてしまったか。どちらか定かではないが、排他的の種族ということも踏まえると、わざと人が寄り付かないようにそうしている可能性がある。
「相当だ」
予想以上に外部者と関係を持ちたくない植えっぷりだ。
コウスケの顔に苦笑いが浮かぶ。
「そこにいるのは誰だ!」
そんな中、ようやく人の声が聞こえてきた。その声音からかなり警戒されていることが伺えるため、両手を挙げて無害だということをアピールした。
「……魔人だと? どうして魔人がここに」
やはり他種族は歓迎されないようで、その声からは戸惑いの声が聞こえる。しかも一向に姿を見せないことから、やはり警戒は解いていないようだ。
「……どこから来た?」
「セントリア公国」
実際はセントリア経由のロイヒエンから来たのだが、ロイヒエン王国と亜人の関係性は悪いと判断し、そう答えた。
「この里に何用だ?」
「泊まれる場所を探している」
「泊まるだと? ここがどこか分かっているのか?」
「アルカナ連合国」
予想以上にガードが高い。あのセントリア公国のガードの甘さが笑えてくる。
「分かっていてその態度か……魔人、この国が他種族に対して良い思いを抱いていないのは知っているだろ? ならば今すぐ立ち去れ」
「では、せめて他の町に行く方角でも教えていただけませんかね?」
このまま必要に交渉を続けてもあの警戒しきった態度では無理だと判断したコウスケは、妥協案を提示した。
「魔人、国から出るという選択肢はないのか?」
「ある国に行く過程なので」
「ある国? ……シセイ魔王国か」
恐らく魔人族という容姿を見ての判断だったのだろう。いまいち世界の地理が分からないが、その発言からアルカナ連合から一番近い、魔人の国はシセイ魔王国ということらしい。
「ならば目指すべきは北だ」
ぶっきらぼうな説明が飛んだ。それでも教えてくれただけでも有り難い。
「分かりました」
コウスケはそれ以上刺激を与えないよう直ぐに立ち去った。直ぐに休めないのはやはり堪えるが、仕方がない。この場で騒ぎを起こしてしまえば、二つもの国を敵にまわしてしまいかねない。もちろんその一つはロイヒエン王国は入っている。正確に言えば、まだ敵にまわったわけではないが、勇者を半殺しにしたことが明るみになれば指名手配級の犯罪者になってしまいかねないという懸念を含めての話である。
再びコウスケは森の中を歩み始めた。北へ向かへばいいのだが、どのくらいの距離が必要なのかは知らない。もしかすると国を横断するくらいの距離であるなら、数か月で済むとは思えない。そう思うとゾッとしてきた。
「このまま野生に帰化しそうだよ」
皮肉気にそんなことを呟いてみる。ただ実際にそうなってもおかしくないほど森の中を放浪しているのだ。もはや森好きとかいうそういうレベルではない。
そう考えてテンションが低くなっている時でも、魔物は出てくる。襲ってくるものはそのまま殺し、逃げる奴は追わずに見逃す。何しろ面倒くさいからだ。異世界に来たばかりの頃に、楽しみながらレベル上げに熱中していた頃がとても昔に思えてくるほど、あの頃の光助と今のコウスケとの考えはかけ離れていた。
「おい、魔人」
トボトボと歩いているコウスケの元へ、先ほどの声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、かなり美形な男がたっていた。髪色といい耳の長さといい、間違いない、長耳族だ。
「なんでしょう?」
「お前、このままシセイ魔王国を歩いて目指す気か?」
「そのつもりですが」
コウスケがそう答えると、その長耳族の青年は呆れた表情でため息を吐いた。
「あのな、ここはアルカナ連合国の南側だぞ? この世界の最北端にあるシセイ魔王国に歩いていくなんて、何年かけて行くつもりだ」
「最北端?」
「ああ、それすらも知らんのか」
呆れっぱなしの青年。コウスケは絶望した。老人からある程度の知識は得ていたが、流石に世界地図までは持っていなかったので、国の位置とか分かるわけがないのだ。
「これだから魔人は……」
ボソリと青年が呟く。やはり他種族に対して何か先入観を持っているようだ。
「それで、何のようでしょうか?」
先ほどの発言は聞かなかったことにして、質問を飛ばした。すると青年の眉間に皺が入り、口を開く。
「何のようだと? 折角忠告しにやってきたってのに……」
今の発言を訳してみると、心配だから様子を見に来たと解釈しておく。
「何だ? 変な顔をしやがって」
「いえいえ、わざわざありがとうございます」
好意には素直に感謝しておいたほうが良い。
「あ、ああ、分かれば良いんだ」
青年はまさか感謝されると思っていなかったのか、動揺していた。難儀な性格のようだ。
「魔人、名は?」
青年から名を尋ねられる。アヴェン、と言いかけたところで、ここでは偽名を使う必要がないことに気づき、口を開いた。
「コウスケ」
「コウスケ? 変な名前だな」
もう変な名前で良い。
「コウスケ。俺たちの里に他種族は入れられない。それは分かってくれ」
「分かってますよ」
「だが、ここから少し西に進めば魔人でも入れる里はある。そこに行けばいい」
「分かりました、ありがとうございます」
「っ、あ、ああ」
やはりお礼を言われ慣れていないのか、直ぐに口ごもる男。
「あ、そうだ。一つだけ忠告しておく。絶対に南には進むな」
「南に? どうしてですか?」
「どうしてもだ。それに南に行っても森が続くばかりでお前の目的のものはない」
「分かりました」
「分かったなら、さっさと行け」
「ありがとうございます」
お礼を送りコウスケは先に進んだ。
後ろから、やはり口ごもる声が聞こえ、少しだけ頬を緩ませた。
三つの亜人種が連合している国だと言っていたが、首都のようなものが三つあるのだろうか。もしそうだとしたら、まず見てみたいのは、獣人族だ。まず地球にはいない人種であるのはもちろんのこと、まあそれは長耳族も小人族も同じことだが、長耳族はキィンクを見たし、小人族は小さい人の想像でいい。加えて言えば、コウスケは動物が以前から好きだった。一人の自分にはそれぐらいしか癒してくれる存在がいなかったといえばそれまでだが。
それにしてももうすぐ森が開けてくるころだと思っていたのだが、今の所その気配すらない。確か西に進めばアルカナ連合にたどり着くはずなのだが。とはいっても、あの老人の持っていた地図、今はコウスケの手元にあるが、セントリア公国の領地までしか詳しい表記がされていない。つまりアルカナ連合領の部分は形はあるものの、どこに何があるのかは分からないのだ。もしかすると国全体が森で覆われている可能性すらある。
「最近、人里にいるより自然の中にいる方が長い気がする」
コウスケの言うことはもっともで、洞窟に続いて森、一度町に立ち寄ったものの、一日と経たず森に帰ってきた。以前の生活では考えられないことだが、容姿さえも変わってしまっている今では、もはや地球人の高月光助はもう存在しないのかもしれない。
もう、何度目の夜が来ただろうか。未だに人里らしきものは見当たらない。とはいえ森で過ごすことにもう慣れているため、サバイバル術は自然に身についてく。野宿だって苦ではなくなったし、獣狩りもお手のものだ。ただ料理スキルだけが文明人にあるまじきものだが、それについては目を瞑りたい。
「『超感覚』」
これも『強化』と同じように馴染みのスキルとなっていた。特に自然の中にいる時は重要だ。五感が研ぎ澄まされる感覚は、どこか心地が良い。
『強化』の場合は、鋭くなりすぎて気持ちが悪くなるので、こちらを優先して使っていた。
「この臭いは……」
不快な臭いがコウスケの鼻に届いた。これは確か魔よけの木だったか。ということは人が住んでいる里がある可能性が出てきた。
「相変わらず臭いな」
その臭いに顔を顰め、コウスケは『超感覚』を解除した。このままでは鼻が捻じ曲がりそうだった。
それにしてもその魔よけの木が、進むにつれてその数を増していき、尋常ならざる臭いを発している。これでは、魔物はおろか人さえ寄り付かない。故意に植えているのか、やりすぎてしまったか。どちらか定かではないが、排他的の種族ということも踏まえると、わざと人が寄り付かないようにそうしている可能性がある。
「相当だ」
予想以上に外部者と関係を持ちたくない植えっぷりだ。
コウスケの顔に苦笑いが浮かぶ。
「そこにいるのは誰だ!」
そんな中、ようやく人の声が聞こえてきた。その声音からかなり警戒されていることが伺えるため、両手を挙げて無害だということをアピールした。
「……魔人だと? どうして魔人がここに」
やはり他種族は歓迎されないようで、その声からは戸惑いの声が聞こえる。しかも一向に姿を見せないことから、やはり警戒は解いていないようだ。
「……どこから来た?」
「セントリア公国」
実際はセントリア経由のロイヒエンから来たのだが、ロイヒエン王国と亜人の関係性は悪いと判断し、そう答えた。
「この里に何用だ?」
「泊まれる場所を探している」
「泊まるだと? ここがどこか分かっているのか?」
「アルカナ連合国」
予想以上にガードが高い。あのセントリア公国のガードの甘さが笑えてくる。
「分かっていてその態度か……魔人、この国が他種族に対して良い思いを抱いていないのは知っているだろ? ならば今すぐ立ち去れ」
「では、せめて他の町に行く方角でも教えていただけませんかね?」
このまま必要に交渉を続けてもあの警戒しきった態度では無理だと判断したコウスケは、妥協案を提示した。
「魔人、国から出るという選択肢はないのか?」
「ある国に行く過程なので」
「ある国? ……シセイ魔王国か」
恐らく魔人族という容姿を見ての判断だったのだろう。いまいち世界の地理が分からないが、その発言からアルカナ連合から一番近い、魔人の国はシセイ魔王国ということらしい。
「ならば目指すべきは北だ」
ぶっきらぼうな説明が飛んだ。それでも教えてくれただけでも有り難い。
「分かりました」
コウスケはそれ以上刺激を与えないよう直ぐに立ち去った。直ぐに休めないのはやはり堪えるが、仕方がない。この場で騒ぎを起こしてしまえば、二つもの国を敵にまわしてしまいかねない。もちろんその一つはロイヒエン王国は入っている。正確に言えば、まだ敵にまわったわけではないが、勇者を半殺しにしたことが明るみになれば指名手配級の犯罪者になってしまいかねないという懸念を含めての話である。
再びコウスケは森の中を歩み始めた。北へ向かへばいいのだが、どのくらいの距離が必要なのかは知らない。もしかすると国を横断するくらいの距離であるなら、数か月で済むとは思えない。そう思うとゾッとしてきた。
「このまま野生に帰化しそうだよ」
皮肉気にそんなことを呟いてみる。ただ実際にそうなってもおかしくないほど森の中を放浪しているのだ。もはや森好きとかいうそういうレベルではない。
そう考えてテンションが低くなっている時でも、魔物は出てくる。襲ってくるものはそのまま殺し、逃げる奴は追わずに見逃す。何しろ面倒くさいからだ。異世界に来たばかりの頃に、楽しみながらレベル上げに熱中していた頃がとても昔に思えてくるほど、あの頃の光助と今のコウスケとの考えはかけ離れていた。
「おい、魔人」
トボトボと歩いているコウスケの元へ、先ほどの声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、かなり美形な男がたっていた。髪色といい耳の長さといい、間違いない、長耳族だ。
「なんでしょう?」
「お前、このままシセイ魔王国を歩いて目指す気か?」
「そのつもりですが」
コウスケがそう答えると、その長耳族の青年は呆れた表情でため息を吐いた。
「あのな、ここはアルカナ連合国の南側だぞ? この世界の最北端にあるシセイ魔王国に歩いていくなんて、何年かけて行くつもりだ」
「最北端?」
「ああ、それすらも知らんのか」
呆れっぱなしの青年。コウスケは絶望した。老人からある程度の知識は得ていたが、流石に世界地図までは持っていなかったので、国の位置とか分かるわけがないのだ。
「これだから魔人は……」
ボソリと青年が呟く。やはり他種族に対して何か先入観を持っているようだ。
「それで、何のようでしょうか?」
先ほどの発言は聞かなかったことにして、質問を飛ばした。すると青年の眉間に皺が入り、口を開く。
「何のようだと? 折角忠告しにやってきたってのに……」
今の発言を訳してみると、心配だから様子を見に来たと解釈しておく。
「何だ? 変な顔をしやがって」
「いえいえ、わざわざありがとうございます」
好意には素直に感謝しておいたほうが良い。
「あ、ああ、分かれば良いんだ」
青年はまさか感謝されると思っていなかったのか、動揺していた。難儀な性格のようだ。
「魔人、名は?」
青年から名を尋ねられる。アヴェン、と言いかけたところで、ここでは偽名を使う必要がないことに気づき、口を開いた。
「コウスケ」
「コウスケ? 変な名前だな」
もう変な名前で良い。
「コウスケ。俺たちの里に他種族は入れられない。それは分かってくれ」
「分かってますよ」
「だが、ここから少し西に進めば魔人でも入れる里はある。そこに行けばいい」
「分かりました、ありがとうございます」
「っ、あ、ああ」
やはりお礼を言われ慣れていないのか、直ぐに口ごもる男。
「あ、そうだ。一つだけ忠告しておく。絶対に南には進むな」
「南に? どうしてですか?」
「どうしてもだ。それに南に行っても森が続くばかりでお前の目的のものはない」
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