異世界でウサギダンジョン始めました
第47層 越えてはならない一線
「きゅいきゅい!きゅ~い。きゅい!」
「ふむふむ。ウサちゃんを?穴の・・・上・・・なるほど!その手があったね!」
「きゅい!」
「・・・シルフお前、今のでよく分かったな」
俺にはきゅいきゅい鳴きながら両手をわちゃわちゃさせているようにしか見えなかったウサギちゃんのボディランゲージだが、シルフには何か感じるところがあったらしく、ウサギちゃんの意図をおそらく正確に読み解くことに成功していた。
やっぱりあれなのかね。思考レベルが同じぐらいだからこそ通じ合う部分があるのかね。
「むむっ?お姉ちゃんが意味深な顔をしている。さては私の洞察力に恐れをなしてるんだね!」
「まっさか~。単にシルフはウサギちゃんと同レベルの思考回路なんだろうなと思っただけだよ」
「そんな~・・・私の行動が全てプリチーで愛らしいだなんて褒めすぎだよぅ~♪」
「褒めてねぇよ。バカにしてるんだよ。可能な限りよい意味に取らなくていいから。俺の素直な気持ちをそのまま受け取ってくれ」
俺はシルフにたいしては素直な気持ちを伝えるようにしてるからな。取り敢えずもげればいいと思う。それが無理なら萎め!そしてその分の栄養を俺にプリーズ!
「きゅい・・・」
「あっ、ひどい!お姉ちゃんが遠回しにウサちゃんの事バカって言った!これは24時間耐久こちょこちょの刑に処すしかないかも・・・」
「ち、違うぞ?俺はただシルフをバカにしただけで、ウサギちゃんに含むところは無いからね?本当だよ?」
小さな肩を落としてしょんぼりとしている様に見えるウサギちゃんを必死に宥める俺。
あっれ~?なんでこんな事に?シルフをバカにする為にウサギちゃんと同レベルの知能だってディスったらシルフが喜んでウサギちゃんが落ち込んだんだけど。
つまりシルフよりもウサギちゃんの方が賢い・・・?
・・・どうしよう。我が妹ながら否定できない・・・
「ま、まぁそれはさておき、ウサギちゃんだけ外に出して大丈夫なのか?危なくないか?」
「あ、誤魔化した!」
うっさいな。お前の為を思って話題を逸らしてやっているのになぜ気づかない。そんなんだから”シルフ”って言われるんだぞ。
「シルフは悪口じゃないよ!?な・ま・え!私の麗しい名前だから!」
「・・・sirufu。【名詞】バカの意。またはそれ相応の人物の総称。sirufulで形容詞」
「やめて!?そんな頭良さそうな本に書いてあるみたいな表現しないで!?本当にそんな意味みたいに思われるから!」
「【例文】She is so siruful 【意味】彼女はこの上なく愚かだ」
「ねぇ、そう言う高度なバカの仕方止めない・・・?なんてツッコミをすればいいのか咄嗟に思いつかないんだけど・・・」
え~?しょうがないにゃぁ。次からはシルフでも分かる程度のバカに仕方を見極めていこう。
「きゅい~・・・」
「あ、大丈夫忘れてないよ。それで、ウサちゃん一人で外まで逃げれそう?」
「きゅい、きゅいきゅい!きゅい!!」
「・・・うん。なんか大丈夫そうだよお姉ちゃん」
「それは俺でも分かった」
ウサギちゃんが”えっへん”って胸を張ってるもんな。かわいい。
まぁ、ここら辺に出てきたモンスターは各種スライムだけだしウサギちゃんだけでも逃げる事は可能かなぁ・・・
「よし、じゃあ任せたウサギちゃん!俺達の運命は君にかかっている!」
「私達の命・・・預けたよ。ウサちゃん」
「きゅい!」
戦場へ行く戦友を見送る様に敬礼をする俺達。俺達の反応もたいがいだけどウサギちゃんもノリがいいなぁ。どうせパーティを組むならやっぱりノリのいい人がいいよね。戦場でこそ笑いは大事だよね。常に張りつめてる人と四六時中一緒にいるとか息が詰まって無理!特に今までがシルフと2人旅だったからな。このノリに慣れちゃってもう変えられないって。
「さらば~ウサちゃんよ~旅だ~つ君は~」
「急に歌うよ~」
いや、分かるよ?頭にいくつかキーワードが浮かんで、連想ゲームで歌が脳内再生されたんでしょ?でもそれを口に出す必要なくない?これだから脊髄反射で話す奴は・・・
「きゅい~!」
そして俺がシルフとコントをしている間にサラッと穴の上に脱出していたウサギちゃんがぴょこぴょこと脱出目指して探索に出ていった。
ウサギちゃん頑張れよ~。
ぱっぽ~(SE)
ウサギちゃんが旅立ってからしばらく。穴の中に取り残されていた俺達は。
「・・・」
「・・・」
暇を持て余していた。
「・・・暇だね」
「そうだね」
「そうだよ」
「・・・」
「・・・」
ウサギちゃんが旅立ってからどれぐらい時間が経ったのか。お腹は殆ど空いてないからそんなに経ってないはずなんだけど、すっかり話のネタが尽きた。
いつもは脱線しまくりでずっとコントをしてるんだが、脱線って言うのは本道ありきだからなぁ。
やる事なくなっちゃったら話すことも無くなるよ。
「・・・お姉ちゃん。あのね。聞いて欲しい事があるの」
「んん?どうしたんだシルフ?」
お互い向き合う様に穴の壁に背を預けて座っている俺とシルフだが、突然シルフが立ち上がり俺の近くへとやってきた。
「えっとね。今まで2人で色んなところを一緒に冒険したよね?」
「え?あ、うん。そうだな」
「大変な事もいっぱいあったけど、やっぱり楽しかったなぁ・・・ねぇ、お姉ちゃん。こんな時に言うのもなんなんだけど・・・私の素直な気持ち。聞いてくれる?」
「お、おう。いい、よ?」
俺の隣へと腰を下ろしたシルフがいつもの軽い雰囲気を脱ぎ捨て、その瞳に強い覚悟を示して俺の目を覗き込んでくる。
いつにない真剣なシルフの表情に話を聞く俺の方までちょっと緊張してきたほどだ。
「あのね?私ね?本当はね。今すっごく・・・っ!」
「ごくっ・・・」
感極まったのか胸の前で拳を握りしめて、言葉に力が籠っていくシルフ。場の緊張感が否が応にも高まり、シルフの声以外何も聞こえない静寂の中で、ピンと張りつめた空気に触れた肌がじんわりと汗ばむほどの中。シルフがいつに決定的なソレを口にした。
「私ね!すっごく!・・・すっごく、おしっこしたい・・・」
「あっ・・・」
あっ・・・(察し)
「今までずっとお姉ちゃんと2人旅してきて、常日頃からお姉ちゃんの事を女の子扱いして一緒のお布団で寝たり一緒にお風呂に入ったりしてきたけど、流石に漏らしちゃったら色々と後戻りできない気がして・・・!お姉ちゃん私どうしたらいいと思う・・・?」
「うん。ちょこちょこツッコミ所があった気がしたけど思ったよりもシルフが追い詰められてるのは分かった。と言っても俺が提供できるのは空の水筒ぐらいしか無いんだが・・・」
「無茶言わないでよ!私はお姉ちゃんと違って麗しの乙女なんだからね!分かってる!?」
「あ~、うん。すまん。今のは俺が悪かった」
いくらなんでもデリカシーが無さすぎる発言だったよな。シルフの無駄な演出からの肩透かしの所為で調子が狂っていた所為にしておいてくれ。
「そうだよ、まったく。せめてじょうごはセットで付けてもらわないと・・・」
「おい。それでいいのか、自称麗しの乙女さんよ。おい」
ヤバイ。食料が一日分しかないとか以前にシルフが女の子として色々とマズイ事になってる。
頼むウサギちゃん!一刻も早く救援を連れてきてくれ!じゃないとシルフが女の子として越えてはいけない一線を越えかねないから!!
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