異世界でウサギダンジョン始めました
第46層 落とし穴deトーク
 
「さて、と。一旦落ち着いて状況を整理しようか」
「きゅい!」
「うぅ・・・痛い・・・」
杖でスコーン!と景気よくぶん殴った頭を抱えて呻いてるやつも居るが努めて無視していく方向で。
そもそも勘違いで人に不名誉な疑惑をかける方が悪いし、シルフの頭がイタイのは周知の事実だからな。気にかける必要も無い。
「ん~。穴の底は直径5m程の円形で、高さが目測で6mぐらいかな?それなりに高いけど、冒険者ならよっぽど打ち所が悪くない限り死にはしないだろう高さだな」
「きゅいきゅい」
勿論俺は除く。モンスターの攻撃ならドレスで軽減出来るけど落下ダメージは減らせないからなぁ。
こぅ・・・スカートがばっ!と広がって落下傘代わりになればいいのに・・・頭から落ちてたから無理か。
「一番手っ取り速い脱出方法はシルフに壁を登ってもらう事なんだが・・・ご丁寧に壁から入り口までちょっと離れてるから厳しいかなぁ」
「きゅい~」
俺らが落ちてきた穴は6Mある穴底と中心を同じにした直径2m程の大きさの円だ。
シルフが蜘蛛かネズミの様に壁を這って登ったとしても壁の頂点から穴の縁までは2mの長さがあるわけだ。
流石のシルフも壁にへばりついている状態から2mも跳ぶのは無理だろうしな。ネズミ返しならぬシルフ返しってわけだ。
まったく。これでシルフが蜘蛛子だったらワンチャンあったのに。なんで風の精霊って名前で空も飛べないのかね?あ、そうか胸にでっかい重りが付いてるからか。ならば俺がその重りを取ってあげよう!
「お、おねぇちゃん・・・?な、なんか目が怖いんだけど!?お姉ちゃんの身に何が起きたの!?なんで両手をわきわきさせながら近づいてくるの!?普通に身の危険を感じるんだけど!?」
「いや、良かれと思って。言わば善意だよ善意。オドロキホ○スケ的善意だよ」
「えっ、誰!?聞いたことも無い人だし、その人からは悪意しか無いよ!」
「むぅ。”身軽になれクリティカルヒット”がダメなら外道魔法のポーズする?俺は別にどっちでもいいんだけど」
「外道魔法のポーズってなに・・・?そんな魔法知らないし、知ってても絶対に使いたくないよ・・・というか、やっぱりお姉ちゃん落ちたときに頭をぶつけてない?大丈夫?膝枕いる?」
「・・・膝枕は要らんけど、頭を打って混乱している可能性は否定しきれなくなってきたな・・・」
何故か俺の知らない単語がぽろぽろと口から零れてくる・・・この落とし穴には精神魔法系のトラップでも張られていたのか?にしては効果が地味すぎるし俺よりも魔法抵抗が低いシルフが狂ってないのはおかしいか。
となるとやっぱりシルフの自前のクッションが衝撃を吸収しきれなかったのが原因だな。
ちっ、役に立たないおっぱいめ。
「ちっ、役に立たないおっぱいめ」
「膝枕の話だったよね!?流石にお姉ちゃん相手でも乳枕までは許可してないよ!?」
おっと、うっかり本音が。
というか、乳枕ってなんだよ。初めて聞いたぞそんな忌々しい単語。俺が呟いた言葉からそんな連想を一瞬でするなんて、いやらしいなぁシルフは。
「・・・なんだろう。凄く不本意な勘違いをされている気がする・・・」
「お互い様だろ。そんな事より脱出の方法を真面目に考えてみようか」
「う、うん。そうだね・・・」
「きゅい!」
差し当たっての危機こそ無いものの、元々深入りをするつもりは無かったから食料は一日分ぐらいしか持ってきていない。
水は俺の魔法で出せるとしても、俺達が餓死する前に偶然ここを通りがかった冒険者が助けてくれる事にかけるのは流石に希望的に過ぎる。
「さっき全周囲の壁を軽く調べてみたが抜け穴とかは無さそうだな。やっぱり脱出するなら俺らが落ちてきたあの穴からって事になりそうだな」
「う~ん。定番だと肩車とか?」
「・・・俺とシルフが肩車しても3mに届くかどうかぐらいだと思うんだが?」
残り3mどうするんだよ。
「じゃあ、私の肩の上に立つ感じで!」
「・・・立って手を伸ばしたとしても4mにも届かないな」
後2m足りん。
「それなら私の伸ばした手の上に立てばいいんだよ!これなら届くよ!」
「お前の手は2mも伸びるのか。それは知らなかったな」
手が2mって生活しづらそうだなぁ。小回りが一切効かなそう。
「むぅ・・・なら私が手を伸ばすのと一緒にお姉ちゃんがジャンプすればいいんだ!ちょこっと足りない数十センチなんて後は勇気で補えばいいんだよ!幸い時間はいくらでもあるし成功するまでチャレンジあるのみだよ、お姉ちゃん!」
「なぁ、シルフ・・・」
「ほら!早く私の手に乗って!大丈夫。お姉ちゃんぐらいなら軽く持ち上げられるから!」
「いや、そうじゃなくってな・・・」
「あ、靴は流石に脱いでね?お姉ちゃんが上に登れたらちゃんと投げてあげるから!」
「その前に俺の話を・・・」
「そんなに心配しなくても、スカートの中を覗いたりはしないから安心してよ!さっ乗って乗って!」
「・・・黒より黒く、闇より暗き漆黒にわが深紅の混交・・・」
「すみませんでしたぁ!ちゃんとお姉ちゃんの話を聞きますぅ!!」
シルフがスライディング土下座で謝ってきたので、ふんっと鼻を1つ鳴らして圧縮していた魔力を開放してやる。
まったく・・・人が話そうとしている所を3回も邪魔するだなんてうっかり貧乳キャラにされても文句は言えないんだぞ!
「はぁ・・・シルフ。お前は前提条件をいくつも間違えているぞ。だからその作戦じゃあ何度やっても絶対に成功しない」
「えぇ~?そう?私も一回や二回で成功するとは思っていないけど、何十回もやればきっと出来るって!」
はぁ~、これだから乳に全ての栄養を取られてる子は・・・
・・・あれ?じゃあ、乳に栄養を取られていないのに身長が伸びない俺の栄養は一体どこに・・・
吸われてる・・・?まさか俺の摂取した栄養を奪って成長しているというのかあの乳は!
許すまじ・・・!許すまじシルフの乳!絶対に、絶対に奪われた俺の栄養は取り戻してみせるからな!絶対にだ!!
「また唐突に私の胸に強い視線を感じるし・・・お姉ちゃんはアレだよね。私の胸を嫌いとか口では言ってるけど、一周回って大好きだよね。好きな子にはイタズラしちゃうタイプだよね」
「・・・我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より・・・」
「わぁ!待って待って!ちょっと洒落にならない魔力が籠もってるから!お姉ちゃんごとみんな生き埋めになっちゃうから!!」
シルフが青ざめた顔で縋りついてきたので、ふんっと鼻を1つ鳴らして圧縮を再開した魔力を開放してやる。
まったく・・・あんまりにも気色悪い事をシルフが口走るものだから全身にキモイぶつぶつが出ちゃったじゃないかよ。
「・・・アレルギー反応が出るほど嫌われている事を嘆くべきか、それでも仲良く2人旅を続けられている事を喜ぶべきなのか判断に迷うよ・・・」
「プラマイ0でいいんじゃね?というか、シルフが脱線させる所為で本題がまったく進まないんだが?ウサギちゃんなんて暇すぎて隅っこの方で寝てるぞ」
「くぅ~」
クルンと丸まって寝ているウサギちゃんはお目目をつむって耳を伏せている所為もあってもこもこの塊にしか見えないな。
パッとみヌイグルミにしか見えない程の完成されたかわいさだけど、規則的に上下する背中と小さく聞こえる寝息から確かに生きている事が伝わってきて、無性に愛でたくなってくる。
「なにアレ。ウサちゃん可愛すぎ!今すぐ、ぎゅってしたいけど可愛い寝ている所をもっと見たい欲求が~!あぁ~どうすればいいの!」
「知らんがな。少なくとも代わりに俺を抱きしめようとしない限りはどうでもいいし」
「・・・!」
おい止めろ。「その手があったか!」って顔で俺を見るんじゃない。ジリジリ近づくのを止めろ!怖いから!悪魔の微笑みにしか見えないから!
「わ、我が名はユウ!FWO随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を」
「遅い!!」
ば、バカな!いつの間に後ろに!?やめっ・・・ヤメロォー!
「むふぅ~・・・で?私の作戦の何がダメなんだっけ?なんかもうどうでも良くなってきた気もするけど」
「・・・どうでもよくは無いだろう。失敗したら俺が地面にダイブするはめになるんだし」
流石にそれで死にはしないだろうけど骨折ぐらいは平気でしそうなんだよなぁ。
シルフと違って俺は繊細なんだよ。だから後ろから抱きしめて後頭部に柔らかな物質を押し付けるのは止めて下さい。俺のガラスハートに入ったヒビが毎秒大きくなっていってるから!
「大丈夫だって。お姉ちゃんが自由落下する速度よりも私が駆け寄って抱きとめる方が速いから!問題ナシだよ!」
「そもそも掲げたシルフの手の上に立てるバランス感覚が俺には無いの。更にその不安定な状況から跳べとかよっぽど訓練してなきゃ無理だから!」
シルフが呼吸するのに合わせて”ふにゅんふにゅん”と押し付けられる感触が忌々しくてしょうがない。
いっそサラシでも巻かせるか・・・?いや、だがシルフだぞ?たかがサラシ程度シルフの乳圧にかかれば内側から弾け飛ばすに違い無い。
そんな現場に立会いでもしたら・・・溢れる憎悪を抑えきれる気がしないな。
「え~?私なら出来そうなんだけどなぁ・・・」
「そりゃシルフならできるかもしれんけど、俺には無理だ。それにもし奇跡的に上手くいって穴の縁に手が届いたとしよう。んで?そこからどうするんだ?」
この超至近距離でシルフに捕まったら逃げられないのも何とかしたいんだけどなぁ・・・
身体能力じゃまったく敵わないし、詠唱するより杖を取り上げられて放り投げられる方が速いし。
威力は低くていいから0距離で速効で発動できる魔法が欲しいなぁ。今度雷系の魔法でも探してみるか。
「どうって・・・普通に上に上がって持ってきてるロープで私を上げてくれればいいよ?あ、ロープはどこかに縛って貰えれば自力で上がれるから大丈夫だよ?」
「うん。まずな。根本的にな・・・俺腕の力だけで体を持ち上げられないからな?それできるのもそれなりに鍛えている人だけだからな?」
鉄棒を使っての懸垂なら辛うじて出来なくもないが、穴の縁に指をかけただけの姿勢から体を穴の上に持ち合げるとか普通に無理だから。
俺の体がシルフと違って重しの付いていない軽量モデルだったしても無理な物は無理だからね!
「なるほど・・・総評するとお姉ちゃんの身体能力が足りないから脱出は無理ってこと?」
「まぁ、だいたいそんな感じ」
魔法の制御と効率ならそうそう負ける気はしないが、身体能力だけはどうにもならなくてなぁ。
満足に成長するだけの栄養にすら事欠いているのにどうして筋肉が付こうかって話だよ。
いや、本当俺が食べた料理の栄養はどこに消えてるんだろうなぁ。シルフみたいにオヤツを山の様に喰ってこそいないものの、一人前ぐらいはギリギリ食べているのになぁ。やはりシルフの乳に吸われているとしか・・・むむぅ。シルフが産まれてからずっと一緒に居たけどたまには離れて検証してみるべきか・・・?ここを抜け出したら心友に相談してみようかな。
「筋力が足りないのなら鍛えればいいんだよお姉ちゃん!」
「・・・シルフは何十年この落とし穴で生活する気なんだ?」
「十年単位!?たかが懸垂だよ!?」
「たかがじゃねーよ!俺が腕立て伏せ10回出来るようになるまでに何年かかったと思ってるんだ!」
うぅ・・・筋トレのために腕立て伏せをしようとして出来なかったトラウマが・・・
腕立てと腹筋は出来なくともスクワットなら出来る!って10回やった時点で力尽きて翌日筋肉痛で酷い目にあったトラウマも一緒に蘇ってきた。
だが、今なら重かった杖も一人で振り回せるようになったんだ。何事も勉強だな。
というわけで死んでくれ。すまないね。戦争なんだ。
「ん?どうしたのお姉ちゃん。急に悪い顔して」
「いや、なんか急に悪魔の様な微笑みをしなきゃいけない気になってな。もしかしたら存在Xからの精神汚染を喰らっているのかもしれない・・・」
「なにそれいみわかんない」
「だな。まぁ戯言はさておき、食料が一日分しか無い以上長期戦は無理だな」
「背負って持ち歩かないといけないから必要分以上は持ち込みにくいからね。しょうがないよ」
あと荷物を圧迫しすぎると戦利品を入れるスペースが無くなるのも問題なんだよな。荷物運びとしては俺は無能だし。
ただ不幸中の幸いとして、食料の入ったバッグをシルフが担いだままだったのは助かった。
強敵や足の速い敵と戦うときはいつもその辺に投げ捨ててるからな。今回はたかがスライムと侮ってくれたおかげで助かったな。
・・・まぁ、たかがスライムと侮ったせいで周囲確認を怠って落とし穴に落ちた訳だからとても賞賛は出来ないわけだけど。
「持ってきたおやつもボーパルちゃん達と一緒に食べちゃったしなぁ・・・もっと持ってくればよかったよ」
「・・・運ぶのはシルフだから俺はいいけど、ほどほどにしておけよ?」
シルフはいくら食べてもぽっちゃりにもムキムキにもならないよな~。やっぱり余剰の栄養は全て胸に貯蓄されているのか・・・?
俺から栄養を吸い上げるだけじゃ足りないというのかこのモンスターは・・・
いや、待てよ?シルフの胸が有り余る栄養を吸って貯めているというのならば最悪の場合は・・・
「俺がシルフの胸を吸うしかないのか・・・!」
「ふぁい!?えっ!?何がどうしてそんな結論になったの!?なんでそんなに嫌々覚悟を決めてるの!?私の胸を吸っても何も出ないよ!?はっ!つまりは私を孕ませたいというお姉ちゃんの遠まわしな欲求!?」
「ちゃうわ。単に考えてた事が口から漏れただけだから安心しろって」
「なんにも安心できないよ!?」
ギャーギャー騒ぐシルフを無視して脱出の方法の続きを考える。
物理での脱出ができないなら魔法での脱出か?俺が使える魔法は火と水だけなんだよなぁ。風が使えれば空を飛んで脱出できたし、土が使えれば落とし穴を底上げして脱出できたかもしれないのに・・・
「水魔法で落とし穴中を水で満たして泳いで出るか・・・?でも一発で満水にはできないだろうし、使い切った魔力を回復するまでずっと立ち泳ぎし続けるとかマジ無理」
「私へのセクハラがサラッと無視されてる・・・はぁ。まぁ泳ぐの事態は私が背負っててもいいけど、お姉ちゃんの体力がもつかが心配だね」
「だよね。冷水に何時間も浸ってたらふやけてふにゃふにゃになる自信があるよ」
実際はそんなかわいいもんじゃないと思うけどね。体力を奪われて魔法を使える精神状態には無いだろうって事で。
「きゅい!」
うん?シルフと頭を突き合わせてちょっと真面目に脱出方法を考えていた所でついさっきまで気持ち良さそうにお昼寝をしていたウサギちゃんが割り込んできた。
今は遊んであげる余裕はちょっとしか無いんだけど・・・
それともここから脱出できるいい手でも思いついたのかな?なんてね。
「さて、と。一旦落ち着いて状況を整理しようか」
「きゅい!」
「うぅ・・・痛い・・・」
杖でスコーン!と景気よくぶん殴った頭を抱えて呻いてるやつも居るが努めて無視していく方向で。
そもそも勘違いで人に不名誉な疑惑をかける方が悪いし、シルフの頭がイタイのは周知の事実だからな。気にかける必要も無い。
「ん~。穴の底は直径5m程の円形で、高さが目測で6mぐらいかな?それなりに高いけど、冒険者ならよっぽど打ち所が悪くない限り死にはしないだろう高さだな」
「きゅいきゅい」
勿論俺は除く。モンスターの攻撃ならドレスで軽減出来るけど落下ダメージは減らせないからなぁ。
こぅ・・・スカートがばっ!と広がって落下傘代わりになればいいのに・・・頭から落ちてたから無理か。
「一番手っ取り速い脱出方法はシルフに壁を登ってもらう事なんだが・・・ご丁寧に壁から入り口までちょっと離れてるから厳しいかなぁ」
「きゅい~」
俺らが落ちてきた穴は6Mある穴底と中心を同じにした直径2m程の大きさの円だ。
シルフが蜘蛛かネズミの様に壁を這って登ったとしても壁の頂点から穴の縁までは2mの長さがあるわけだ。
流石のシルフも壁にへばりついている状態から2mも跳ぶのは無理だろうしな。ネズミ返しならぬシルフ返しってわけだ。
まったく。これでシルフが蜘蛛子だったらワンチャンあったのに。なんで風の精霊って名前で空も飛べないのかね?あ、そうか胸にでっかい重りが付いてるからか。ならば俺がその重りを取ってあげよう!
「お、おねぇちゃん・・・?な、なんか目が怖いんだけど!?お姉ちゃんの身に何が起きたの!?なんで両手をわきわきさせながら近づいてくるの!?普通に身の危険を感じるんだけど!?」
「いや、良かれと思って。言わば善意だよ善意。オドロキホ○スケ的善意だよ」
「えっ、誰!?聞いたことも無い人だし、その人からは悪意しか無いよ!」
「むぅ。”身軽になれクリティカルヒット”がダメなら外道魔法のポーズする?俺は別にどっちでもいいんだけど」
「外道魔法のポーズってなに・・・?そんな魔法知らないし、知ってても絶対に使いたくないよ・・・というか、やっぱりお姉ちゃん落ちたときに頭をぶつけてない?大丈夫?膝枕いる?」
「・・・膝枕は要らんけど、頭を打って混乱している可能性は否定しきれなくなってきたな・・・」
何故か俺の知らない単語がぽろぽろと口から零れてくる・・・この落とし穴には精神魔法系のトラップでも張られていたのか?にしては効果が地味すぎるし俺よりも魔法抵抗が低いシルフが狂ってないのはおかしいか。
となるとやっぱりシルフの自前のクッションが衝撃を吸収しきれなかったのが原因だな。
ちっ、役に立たないおっぱいめ。
「ちっ、役に立たないおっぱいめ」
「膝枕の話だったよね!?流石にお姉ちゃん相手でも乳枕までは許可してないよ!?」
おっと、うっかり本音が。
というか、乳枕ってなんだよ。初めて聞いたぞそんな忌々しい単語。俺が呟いた言葉からそんな連想を一瞬でするなんて、いやらしいなぁシルフは。
「・・・なんだろう。凄く不本意な勘違いをされている気がする・・・」
「お互い様だろ。そんな事より脱出の方法を真面目に考えてみようか」
「う、うん。そうだね・・・」
「きゅい!」
差し当たっての危機こそ無いものの、元々深入りをするつもりは無かったから食料は一日分ぐらいしか持ってきていない。
水は俺の魔法で出せるとしても、俺達が餓死する前に偶然ここを通りがかった冒険者が助けてくれる事にかけるのは流石に希望的に過ぎる。
「さっき全周囲の壁を軽く調べてみたが抜け穴とかは無さそうだな。やっぱり脱出するなら俺らが落ちてきたあの穴からって事になりそうだな」
「う~ん。定番だと肩車とか?」
「・・・俺とシルフが肩車しても3mに届くかどうかぐらいだと思うんだが?」
残り3mどうするんだよ。
「じゃあ、私の肩の上に立つ感じで!」
「・・・立って手を伸ばしたとしても4mにも届かないな」
後2m足りん。
「それなら私の伸ばした手の上に立てばいいんだよ!これなら届くよ!」
「お前の手は2mも伸びるのか。それは知らなかったな」
手が2mって生活しづらそうだなぁ。小回りが一切効かなそう。
「むぅ・・・なら私が手を伸ばすのと一緒にお姉ちゃんがジャンプすればいいんだ!ちょこっと足りない数十センチなんて後は勇気で補えばいいんだよ!幸い時間はいくらでもあるし成功するまでチャレンジあるのみだよ、お姉ちゃん!」
「なぁ、シルフ・・・」
「ほら!早く私の手に乗って!大丈夫。お姉ちゃんぐらいなら軽く持ち上げられるから!」
「いや、そうじゃなくってな・・・」
「あ、靴は流石に脱いでね?お姉ちゃんが上に登れたらちゃんと投げてあげるから!」
「その前に俺の話を・・・」
「そんなに心配しなくても、スカートの中を覗いたりはしないから安心してよ!さっ乗って乗って!」
「・・・黒より黒く、闇より暗き漆黒にわが深紅の混交・・・」
「すみませんでしたぁ!ちゃんとお姉ちゃんの話を聞きますぅ!!」
シルフがスライディング土下座で謝ってきたので、ふんっと鼻を1つ鳴らして圧縮していた魔力を開放してやる。
まったく・・・人が話そうとしている所を3回も邪魔するだなんてうっかり貧乳キャラにされても文句は言えないんだぞ!
「はぁ・・・シルフ。お前は前提条件をいくつも間違えているぞ。だからその作戦じゃあ何度やっても絶対に成功しない」
「えぇ~?そう?私も一回や二回で成功するとは思っていないけど、何十回もやればきっと出来るって!」
はぁ~、これだから乳に全ての栄養を取られてる子は・・・
・・・あれ?じゃあ、乳に栄養を取られていないのに身長が伸びない俺の栄養は一体どこに・・・
吸われてる・・・?まさか俺の摂取した栄養を奪って成長しているというのかあの乳は!
許すまじ・・・!許すまじシルフの乳!絶対に、絶対に奪われた俺の栄養は取り戻してみせるからな!絶対にだ!!
「また唐突に私の胸に強い視線を感じるし・・・お姉ちゃんはアレだよね。私の胸を嫌いとか口では言ってるけど、一周回って大好きだよね。好きな子にはイタズラしちゃうタイプだよね」
「・・・我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より・・・」
「わぁ!待って待って!ちょっと洒落にならない魔力が籠もってるから!お姉ちゃんごとみんな生き埋めになっちゃうから!!」
シルフが青ざめた顔で縋りついてきたので、ふんっと鼻を1つ鳴らして圧縮を再開した魔力を開放してやる。
まったく・・・あんまりにも気色悪い事をシルフが口走るものだから全身にキモイぶつぶつが出ちゃったじゃないかよ。
「・・・アレルギー反応が出るほど嫌われている事を嘆くべきか、それでも仲良く2人旅を続けられている事を喜ぶべきなのか判断に迷うよ・・・」
「プラマイ0でいいんじゃね?というか、シルフが脱線させる所為で本題がまったく進まないんだが?ウサギちゃんなんて暇すぎて隅っこの方で寝てるぞ」
「くぅ~」
クルンと丸まって寝ているウサギちゃんはお目目をつむって耳を伏せている所為もあってもこもこの塊にしか見えないな。
パッとみヌイグルミにしか見えない程の完成されたかわいさだけど、規則的に上下する背中と小さく聞こえる寝息から確かに生きている事が伝わってきて、無性に愛でたくなってくる。
「なにアレ。ウサちゃん可愛すぎ!今すぐ、ぎゅってしたいけど可愛い寝ている所をもっと見たい欲求が~!あぁ~どうすればいいの!」
「知らんがな。少なくとも代わりに俺を抱きしめようとしない限りはどうでもいいし」
「・・・!」
おい止めろ。「その手があったか!」って顔で俺を見るんじゃない。ジリジリ近づくのを止めろ!怖いから!悪魔の微笑みにしか見えないから!
「わ、我が名はユウ!FWO随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を」
「遅い!!」
ば、バカな!いつの間に後ろに!?やめっ・・・ヤメロォー!
「むふぅ~・・・で?私の作戦の何がダメなんだっけ?なんかもうどうでも良くなってきた気もするけど」
「・・・どうでもよくは無いだろう。失敗したら俺が地面にダイブするはめになるんだし」
流石にそれで死にはしないだろうけど骨折ぐらいは平気でしそうなんだよなぁ。
シルフと違って俺は繊細なんだよ。だから後ろから抱きしめて後頭部に柔らかな物質を押し付けるのは止めて下さい。俺のガラスハートに入ったヒビが毎秒大きくなっていってるから!
「大丈夫だって。お姉ちゃんが自由落下する速度よりも私が駆け寄って抱きとめる方が速いから!問題ナシだよ!」
「そもそも掲げたシルフの手の上に立てるバランス感覚が俺には無いの。更にその不安定な状況から跳べとかよっぽど訓練してなきゃ無理だから!」
シルフが呼吸するのに合わせて”ふにゅんふにゅん”と押し付けられる感触が忌々しくてしょうがない。
いっそサラシでも巻かせるか・・・?いや、だがシルフだぞ?たかがサラシ程度シルフの乳圧にかかれば内側から弾け飛ばすに違い無い。
そんな現場に立会いでもしたら・・・溢れる憎悪を抑えきれる気がしないな。
「え~?私なら出来そうなんだけどなぁ・・・」
「そりゃシルフならできるかもしれんけど、俺には無理だ。それにもし奇跡的に上手くいって穴の縁に手が届いたとしよう。んで?そこからどうするんだ?」
この超至近距離でシルフに捕まったら逃げられないのも何とかしたいんだけどなぁ・・・
身体能力じゃまったく敵わないし、詠唱するより杖を取り上げられて放り投げられる方が速いし。
威力は低くていいから0距離で速効で発動できる魔法が欲しいなぁ。今度雷系の魔法でも探してみるか。
「どうって・・・普通に上に上がって持ってきてるロープで私を上げてくれればいいよ?あ、ロープはどこかに縛って貰えれば自力で上がれるから大丈夫だよ?」
「うん。まずな。根本的にな・・・俺腕の力だけで体を持ち上げられないからな?それできるのもそれなりに鍛えている人だけだからな?」
鉄棒を使っての懸垂なら辛うじて出来なくもないが、穴の縁に指をかけただけの姿勢から体を穴の上に持ち合げるとか普通に無理だから。
俺の体がシルフと違って重しの付いていない軽量モデルだったしても無理な物は無理だからね!
「なるほど・・・総評するとお姉ちゃんの身体能力が足りないから脱出は無理ってこと?」
「まぁ、だいたいそんな感じ」
魔法の制御と効率ならそうそう負ける気はしないが、身体能力だけはどうにもならなくてなぁ。
満足に成長するだけの栄養にすら事欠いているのにどうして筋肉が付こうかって話だよ。
いや、本当俺が食べた料理の栄養はどこに消えてるんだろうなぁ。シルフみたいにオヤツを山の様に喰ってこそいないものの、一人前ぐらいはギリギリ食べているのになぁ。やはりシルフの乳に吸われているとしか・・・むむぅ。シルフが産まれてからずっと一緒に居たけどたまには離れて検証してみるべきか・・・?ここを抜け出したら心友に相談してみようかな。
「筋力が足りないのなら鍛えればいいんだよお姉ちゃん!」
「・・・シルフは何十年この落とし穴で生活する気なんだ?」
「十年単位!?たかが懸垂だよ!?」
「たかがじゃねーよ!俺が腕立て伏せ10回出来るようになるまでに何年かかったと思ってるんだ!」
うぅ・・・筋トレのために腕立て伏せをしようとして出来なかったトラウマが・・・
腕立てと腹筋は出来なくともスクワットなら出来る!って10回やった時点で力尽きて翌日筋肉痛で酷い目にあったトラウマも一緒に蘇ってきた。
だが、今なら重かった杖も一人で振り回せるようになったんだ。何事も勉強だな。
というわけで死んでくれ。すまないね。戦争なんだ。
「ん?どうしたのお姉ちゃん。急に悪い顔して」
「いや、なんか急に悪魔の様な微笑みをしなきゃいけない気になってな。もしかしたら存在Xからの精神汚染を喰らっているのかもしれない・・・」
「なにそれいみわかんない」
「だな。まぁ戯言はさておき、食料が一日分しか無い以上長期戦は無理だな」
「背負って持ち歩かないといけないから必要分以上は持ち込みにくいからね。しょうがないよ」
あと荷物を圧迫しすぎると戦利品を入れるスペースが無くなるのも問題なんだよな。荷物運びとしては俺は無能だし。
ただ不幸中の幸いとして、食料の入ったバッグをシルフが担いだままだったのは助かった。
強敵や足の速い敵と戦うときはいつもその辺に投げ捨ててるからな。今回はたかがスライムと侮ってくれたおかげで助かったな。
・・・まぁ、たかがスライムと侮ったせいで周囲確認を怠って落とし穴に落ちた訳だからとても賞賛は出来ないわけだけど。
「持ってきたおやつもボーパルちゃん達と一緒に食べちゃったしなぁ・・・もっと持ってくればよかったよ」
「・・・運ぶのはシルフだから俺はいいけど、ほどほどにしておけよ?」
シルフはいくら食べてもぽっちゃりにもムキムキにもならないよな~。やっぱり余剰の栄養は全て胸に貯蓄されているのか・・・?
俺から栄養を吸い上げるだけじゃ足りないというのかこのモンスターは・・・
いや、待てよ?シルフの胸が有り余る栄養を吸って貯めているというのならば最悪の場合は・・・
「俺がシルフの胸を吸うしかないのか・・・!」
「ふぁい!?えっ!?何がどうしてそんな結論になったの!?なんでそんなに嫌々覚悟を決めてるの!?私の胸を吸っても何も出ないよ!?はっ!つまりは私を孕ませたいというお姉ちゃんの遠まわしな欲求!?」
「ちゃうわ。単に考えてた事が口から漏れただけだから安心しろって」
「なんにも安心できないよ!?」
ギャーギャー騒ぐシルフを無視して脱出の方法の続きを考える。
物理での脱出ができないなら魔法での脱出か?俺が使える魔法は火と水だけなんだよなぁ。風が使えれば空を飛んで脱出できたし、土が使えれば落とし穴を底上げして脱出できたかもしれないのに・・・
「水魔法で落とし穴中を水で満たして泳いで出るか・・・?でも一発で満水にはできないだろうし、使い切った魔力を回復するまでずっと立ち泳ぎし続けるとかマジ無理」
「私へのセクハラがサラッと無視されてる・・・はぁ。まぁ泳ぐの事態は私が背負っててもいいけど、お姉ちゃんの体力がもつかが心配だね」
「だよね。冷水に何時間も浸ってたらふやけてふにゃふにゃになる自信があるよ」
実際はそんなかわいいもんじゃないと思うけどね。体力を奪われて魔法を使える精神状態には無いだろうって事で。
「きゅい!」
うん?シルフと頭を突き合わせてちょっと真面目に脱出方法を考えていた所でついさっきまで気持ち良さそうにお昼寝をしていたウサギちゃんが割り込んできた。
今は遊んであげる余裕はちょっとしか無いんだけど・・・
それともここから脱出できるいい手でも思いついたのかな?なんてね。
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