異世界でウサギダンジョン始めました

テトメト@2巻発売中!

第25層 ギルマスの秘策

「ずみばぜんでじだぁ・・・どうか許じてくだじゃい・・・」
「いや、俺達はなんとも無かったし・・・というか、往来の真ん中で土下座される方が困るわ」
「きゅい?」
「ふへへ~♪」

俺は現在、両手に買った食料や服を。胸にトリップ中の燈火をぶら下げながら、泣きながら土下座をしているおっさんを見下ろして困ってる。実に困ってる。
おっさんを泣かせるのは俺の主義に反しないのでどうでもいいんだが、周りの目も痛い。誰かなんとかしてくれ・・・

・・・何故おっさんが泣きながら土下座をしているのかというと、ヘアピンを撫でては、にへらと顔を綻ばせる事を延々くり返している燈火をぶら下げたまま、道を歩いていたら、突然回転跳躍しながら俺達の頭上を飛び越えたおっさんが俺の前で土下座の格好で着地したからである。
何を言っているのか分からないと思うが、俺にもわけがわからない。頭がどうにかなってしまいそうだ。

「くぁwせdrftgyふじこlp」
「既に言語としてなりたってねぇ・・・」
「じゅんにぃすき~♪」

そして燈火もしつこい。既に相手をするのも疲れたけど、嫌とは言えない自分の性が憎い。もう無視するか。そうしよう。

んで、このおっさんなんだが・・・そもそも誰だよ。出会いがしらに土下座されるような相手には覚えはないぞ。

おっさんは土下座しながら号泣会見ばりに泣き叫ぶばかりで、ポツポツと10円ハゲがある頭頂部しか見えないからだれか分からん。
もう放置でいいかな。土下座中なら立ち去ってもバレないだろうし。いたいけな幼女と違ってむさいおっさんなら放置しても許されると思うしな。

「待って!待ってくれ!ここでキミ達に赦してもらえないと俺死んじゃうから!いやマジで!秘書に殺される!」
「いやいや、知らねーよ!秘書との喧嘩に俺を巻き込むな!ええい、HA☆NA☆SE!」

そっと後ずさって距離を取ろうとしていた俺の動きに気づいた見知らぬおっさんが俺の足に縋り付いて引き止めてくる。
俺におっさんに抱きつかれて喜ぶ趣味は無いので、最近垂直跳びで5m程跳躍できるようになった脚力をフルに使って蹴り飛ばそうとしたんだが、土下座をやめたことで見えたおっさんの顔に見覚えがあったので振り上げた足はそのまま地面へ着地した。

「おっさん・・・まさかあのおっさんか!」
「きゅい!」
「くんかくんか。ふぅ・・・」

顔に見覚えはあったけど、名前を知らないから結局おっさんになってしまった。
ほら、あれだ。前回冒険者ギルドで絡んできてサクラにメチャクチャにされたおっさん。

・・・まさか、あの時の復讐か!?
武力じゃ勝てないから、往来の真ん中で大の大人が泣きながら土下座をして縋り付いてくるという自爆での精神攻撃を!?
このおっさん・・・できる!

「きゅいー!」
「ふべら!」

おっさんの顔を見た瞬間戦闘スイッチが入ったサクラが、俺の頭の上から跳び蹴りでおっさんの後頭部を踏みつけ。地面が一瞬たわむ程の衝撃でおっさんの顔面を地面に叩き付けた。

・・・って、ちょっと!まずいですよサクラさん!前回はこのおっさんから吹っかけられたから、ちょっと過剰気味な正当防衛ですんだけど、先制攻撃はまずいって!

はっ!まさかこれすらもおっさんの策略の内!?これが孔明の罠か・・・
・・・よし。逃げよう。そうしよう。

「ちょっ!待って!いや本当に!待ってぇぇえええ!」
「待てと言われて待つ奴がいるか!さらばだ!」
「きゅい~!」
「すりすり。ちゅっちゅ」

これ以上おっさんの術中に嵌るわけにはいかないからな。ではスタコラサッサーっと。

「お待ちください」

しかしまわりこまれた!

いや、おっさんは背後でみっともなく這いつくばったままだけど。

俺達の前に道を塞ぐように現れたのは仕事が出来る女!って感じのカッチリした服装をした表情の乏しい女性だな。
ちっ、まさか伏兵まで用意していたとは。あのおっさん。どこまで・・・!

「・・・あなたは?」
「きゅい?」
「はぁはぁ・・・んっ」

俺はいつでも逃げられるように全身を緊張させたまま。訝しげな視線を隠しもせずに女性を睨みながら尋ねる。

「これは失礼しました。私の名前はアメリア。この町の冒険者ギルドのマスターの秘書をしているものです。この度はあなた方をギルドマスターとの会談の場に招待するために参りました」

くっ!公的立場を使ってきただと!?あのおっさんはどこまで用意周到なんだ!
だがあのおっさんは1つ勘違いをしている。俺は冒険者ではない!つまりこの呼び出しに応じる必要性は限りなく低いということだ!たぶん!

「・・・俺がその誘いに応じるとでも?」

罠だとわかっていて飛び込むやつはいない。そんな奴がいたら是非見てみたいぜ。

「会談の場にはおいしい菓子を用意してございます。そちらのお連れ様もきっとお喜びになられるでしょう」
「ん?お菓子?・・・甘いの?」

「はい。遠く離れた樹海にのみ生息する熊蜂の巣から僅かに取れる大変甘くておいしいハチミツを大量に練りこんだ、それはそれは甘くて頬が蕩けそうになるほどおいしいクッキーでございます」
「じゅんにぃ・・・!」

あ、燈火が落ちた。
燈火はこっちの世界に来てから甘いものに飢えていたからなぁ。
俺にはよく分からんが、燈火にとって甘いものが摂取できないのは死活問題らしい。

俺的には何故か休日には俺の家にいる燈火が自分で焼いたホールケーキを丸ごと食べている所を見るだけで胸焼けしそうだったんだけどな。
実害は無かったから放置してたけど。

「もちろんそちらのウサギ様の分もご用意させてもらっています。従魔用の最高級のオヤツに加え、街中で花弁を食べる姿を何度か目撃されていたようですので、様々な種類の花や、樹木の花弁を集めてあります」
「きゅい!」

あ、サクラも落ちた。
燈火とサクラの2人がかりでキラキラとした期待の眼差しを俺に向けてくる!まぶしい!

「また、私と一緒に来ていただけるのならば、あなた様の後ろで這いつくばっているゴミ虫が二度とあなた達に付き纏わないようにしっかりと調きょ・・・もとい、躾をしておきましょう」
「ちょっ!?アメリア君!?約束が違わないかい!?アメリアくんんん!?」

俺の後ろでおっさんが喚いているが、アメリアと名乗る女性はそ知らぬ顔でスルーしている。
仲間割れか・・・?いや、どうもおっさんが一方的に切られた感じだけど。
どうでもいいけど、調教を躾に言いなおしたところで対して変わってなくない?本当にどうでもいいけど。

「じゅんにぃ・・・!」
「きゅい・・・!」

「はいはい。わかったわかった。それじゃあアメリアさん?その会談の場所とやらへ案内してくれますか?」
「はい。かしこまりました」

アメリアさんはペコリと小さく頭を下げると「こちらです」と俺たちを先導して歩き出した。向かう先は恐らく冒険者ギルドだろう。

「ちょっ!待て!俺を置いて行くなよ!というかボウズ!今すぐ考え直せ!クッキーとオヤツは俺も用意してやるから最後の条件だけは取り消すんだ!!」

背後でおっさんの慟哭が聞こえるが、アメリアさんを真似してスルーする。
そもそもクッキーとオヤツはアメリアさんが既に用意してあるのに、代わりのものを用意するから最後の条件を取り消せとか、こっちは損しかないやん。
今は俺たちの方に負い目があるから通報はしないでおいてやるから、早くどっか行かないかなぁ。

「・・・ん?なぁにじゅんにぃ?目と目が合った瞬間好きだと気づいたの?一万年と二千年前から愛してたの?」
「・・・いや、なんでもない」

ぶっちゃけストーカーは1人で間に合ってるんだよなぁ・・・

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