異世界でウサギダンジョン始めました

テトメト@2巻発売中!

第7層 兵士の人

 
「よっし。それじゃあ今日は町の中へ入るぞ!」
「きゅい!」
「いってらっしゃいなの~!」

というわけで翌日。日が昇ってから直ぐにダンジョンの外へ出た俺とサクラは、ボーパルに見送られて出発し、昨日見つけた町の近くまでやってきていた。
昨日は探索重視のガチガチ装備だったが、今回は町の中の探索が主なので、DMで買った普通の服と普通の靴。普通の鉄剣を装備している。
俺は経歴不明の怪しい男な上に、その正体はダンジョンマスターというモンスターだからな。目立たないに越したことはないしな。

そういうわけで”普通の装備”を身につけているわけだが、意外な事に着心地は悪くない。
正直1回滅びかけた世界だし、魔法とかモンスターがある世界だから、文化レベルが中世ぐらいなんだろう。と、勝手に侮っていたが、俺が着ている様な服が普通レベルなら、思ったより文化レベルは高いのかもな。
おいしい料理とかも期待できるかな?DMで食料は出せるけど、食材かお弁当しかでないんだよな。偶には出来立ての料理を食べたいぜ。じゅるり。

「よし行くぞ!おいしいご飯が俺を待ってる!」
「きゅい!」

俺はモンスターだけど、人間と敵対する必要は無いしな。気楽に行こうか。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「こんちわー。町に入りたいんですけどー」
「きゅーいー」

俺とサクラは町をぐるりと囲っている市壁。その内の1つの門の所へとやってきた。
俺達の前に町の中へ入っていった人を見た感じ。門番っぽい兵士の人にお金を払えば中に入れそうだな。壁に囲まれた町へ入る方法なんか知らんし、簡単そうでなによりだ。

「む?見ない顔だな。行商人か?」

あっれ~?兵士の人にお金を渡して中へ入るだけの簡単なお仕事のはずだったのに想定外の質問が・・・まぁ、無難に返しとけばいいか。

「いえ、この町に住む知り合いに会いに来ただけです」
「・・・そうか。外から来たのなら、税金は銀貨3枚だな。そのウサギは?」
「きゅい?」

兵士の人の顔がなんか訝しげなんだが・・・てか怖い。顔が怖いよ。夜道で会ったら子供が泣くレベル。
まぁ、モンスターウサギを連れ歩いていたらそんな顔もされるか。

「この子は・・・ペットといいますか、家族といいますか・・・仲間?戦友?そんな感じです。生まれた時から一緒にいますので、俺の言う事はちゃんと聞きますし人間に危害は加えません。ねーサクラ?」
「きゅい!」

足元でキョロキョロしているサクラを胸に抱いて、ねー?と問いかけると、空気を呼んだサクラがビシッと手を挙げて兵士の人に挨拶した。あらかわいい。あらかわ。

「うむ。確かにおとなしいな。カゴに入れていないのは愛玩用の商品では無く従魔だからか・・・冒険者なのか?にしてもウサギを従魔にしてもなぁ・・・」

この兵士の人。独り言大きくない?
でも、ウサギは愛玩用の商品として町で売られてる。これが分ったのは大きいな。ならば俺がウサギを堂々と連れていてもおかしくないわけだしな。

「えーと、そろそろ行っても?」
「おう。銀貨3枚。確かに受け取った。ほら、従魔の証のタグだ。そのウサギの分りやすいところに付けておけ。それと冒険者ギルドはこのまま大通りを真っ直ぐ進めば正面にある。デカイ建物だから見れば分るはずだ」

兵士の人、顔に似合わず優しいな。
兵士の人にお金を渡すと、札のついた紐を渡された。札に書いてある絵はオオカミみたいだな。文字じゃないのは識字率の問題かね?
ちなみに、この世界のお金は事前にDMで出してある。ついでに貨幣価値も本で勉強済みだ。銀貨3枚はだいたい3千円ぐらいだな。町に入る値段として、高いのか安いのかは分らん。

「ありがとうございます。でも俺は冒険者じゃありませんよ?なにせ、ウサギのサクラにも劣る力しかありませんからね」
「きゅい?」

俺は苦笑いで肩を竦めながら兵士の人にそう言った。
冒険者が俺の考えるイメージと同じ存在なら、戦闘力は必須だろうし、俺向きじゃないな。俺の仕事はダンジョンの最奥でふんぞり返ってモンスターを召喚して育てることだしな。

「はっはっはー!お前なかなか面白いやつだな!ウサギなんて最近やっと喋れるようになった俺の娘でも倒せるぞ!」
「ま、マジですか・・・」
「きゅい~」ぽむぽむ

悲報。俺、この世界の幼女よりも弱いらしいです。サクラに足をぽむぽむされて慰められてしまった。サクラは癒し。

てかこの世界の生物が強すぎなんだよなぁ。
まぁ、理由は俺なりに考えてる。多分草食獣とかのスキルの所為だろ。
人間は雑食獣だと思うけど、このスキルを持っていれば食べるだけでレベルが上がるから、この世界の住人は生まれた瞬間からレベル上げをしているんだろう。だがこの世界に転移した俺は恐らくレベル1からスタートしたはず。つまりは産まれたばかりの赤子と同ステーテスって事だ。そりゃウサギにも負けるわ。

ちなみに今は生後60日ってところだな。そりゃあ幼女に力で負けるのも納得だ。レベルが違うもんな。
だが、俺は不老不死だ。正確には死んでも復活するだけど。人間と違って寿命が無いから永遠にレベルを上げられる。いつかは人間を追い越すことも出来るだろう。たぶん。

にしても・・・幼女に為す術もなく組み伏せられるか・・・有りだな。まぁ、幼女以外にも組み伏せられるだろうからノーサンキューだが。

もっとも今のは、自分のステータスも配下じゃない人間のステータスも確認出来ないから単なる予想だけどな。
町の中には自分のステータスを確認できる方法があるのかもしれないが、モンスターであることがバレたら面倒だからやめておこう。

「おうよ!葉の月になってから喋りだしたんだがな。これがもう可愛くて可愛くて!「ぱぱ~ぱぱ~」てな。俺の事を呼ぶわけよ!それからちっちゃなあんよを一生懸命動かしてな!大好きなパパの所へ頑張って歩いてきてな!俺にぎゅって抱きついてにっこり笑うわけだ!あれは天使だ!俺の娘は天使だったんだ!嫁と結婚したときも女神のようだと毎日思ったもんだが、女神の娘は天使が産まれたわけだ!来週は俺と嫁さんの結婚記念日なんだがな。家族3人で近くの花畑に―――」
「お、おう・・・」
「きゅい・・・」

うん。この兵士のおっさん。顔に似合わず悪い人では無いことは良く分かったんだが、俺達初対面だよな?急に家族自慢を始められてもどう反応すればいいのか分んないんだが・・・
と思っていたら、他の兵士さんが苦笑いで話相手を変わってくれた。
天使な娘さんのかわいいエピソードなら、いくらでも聞いてあげるんだが。おっさんと嫁さんの馴れ初めなんかどうでもいいしな。

さて、思わぬところで思わぬ時間を取られたが、無事に町へと入れたな。それじゃあ観光としゃれこみますか!

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