異世界でウサギダンジョン始めました

テトメト@2巻発売中!

第0層 幼女神降臨

 
・・・最期に見た光景は坂道を高速で転がり落ちてくる大量の丸太だった。
配管工のおっさんじゃあるまいし、ただの高校生である俺じゃ、跳躍して避けることなんて当然できず丸太の波に飲み込まれたところで肉体の感覚が途切れた。

―――またアイツを泣かせちまったかな―――

駆けぬけた走馬灯の最後。
大粒の涙を流す幼なじみの顔がやけに鮮明に思い浮かぶ。

―――やめてくれよ。俺はその顔に弱いんだよ―――

ロウソクが消える間際に一瞬激しく燃え上がり急速に萎んで消え去るように、既に死んでいる筈の俺の精神も萎んで消えていく・・・

―――だから・・・最期ぐらいは笑って―――




久遠寺くおんじ じゅん享年17歳。
積み荷の荷崩れに巻き込まれて若くして命を落とした。




-------------------------------------

「は~い。みんな~起~き~て~!あ~さ~で~す~よ~!」

はずだった。

「・・・あ、あれ?俺は丸太に轢かれて死んだはずじゃ・・・」

萎んで消える筈だった俺の魂が再び息を吹き返し、目を覚ましたのはどこまでも続く真っ白な、病的なまでに真っ白な空間だった。

「・・・ここは・・・?確か俺は運転でファンブルを出して谷底に落ちたはずじゃ・・・うっ、頭が・・・」
「私は応急手当でファンブル出されて死んだはず・・・うっ、胸が・・・」
「拳銃でファンブル出て爆死したはず・・・うっ、右腕が・・・」

そしてどうやらここで目が覚めたのは俺だけじゃ無いらしい。

それぞれ、頭や、胸や、腕を押さえて、うめきながら立ち上がった人影は俺以外に20程だな。男女半々ぐらいの割合で年齢層もバラバラ。でも、幼児や老人は居ないな。一番若くて中学生ぐらいか。
・・・全く知らない人とはいえ傍に誰かが居るってだけで多少は落ち着くな。
こんな真っ白ワールドに一人で放置されるとか、考えただけで恐ろしいしな。

というか、俺以外のメンツの死因が酷いんだが、全員クトゥルフの時空から跳んできたのか?
てか、絶対打ち合わせしてただろこいつら。
俺なんてただ丸太に轢き殺されただけだぞ?

・・・うん。なんか俺もじゅうぶん酷い気がしてきた。幸運と目星と聞き耳と回避と跳躍でファンブル出たんじゃあるまいな・・・

「は~い。みんなが静かになるまでに15分かかりましたよ!」

死んだはずの自分が生きていることに戸惑いザワザワと騒いでいた周りの人達も、ひとまず自分の体の無事を確認すると、それ以上なにをすればいいのかも分からず、次第にこの謎空間はシーンと静まり返った。

すると、それを待っていたように(実際待っていたんだろうが)白い床からヌゥ~とこれまた真っ白い女の子が生えてきて、小学校の担任みたいな事を言ってきた。
あら、かわいい。せんせーごっこかな?

付けてもいない腕時計をぺちぺちと叩きながら、ぷりぷりと擬音が付きそうなかわいらしいお遊戯を披露しているこの女の子(10歳前後ぐらいかな?)をぎゅってして、すりすりしたい気持ちが湧き上がるが、たぶんこの子は俺達に状況を説明するために出てきてくれたんだろうと思って黙ってることにした。
次に通報されたら退学にするって言われたしね。まぁ、110番が繋がるかは分からないけど。通報されなきゃ犯罪じゃないんですよ。

「・・・ん~と。それじゃあまず、みんなが一番気になってる事から教えよっか♪」

一通り怒った演技をして満足したのか、目の前の女の子はやっと話を進めてくれた。

・・・ちなみに最初はてんでバラバラに立っていると思っていた俺達は真ん中がくり貫かれた円状にバラバラに立っていて、円の中心に沸いて出た女の子の方を見ている感じだな。
いい感じに配置されているので全員の位置から、女の子の姿をよく見ることができる。
・・・だれが配置したのかは知らないがグッジョブだな!

「わたしの名前は”テメトト”遊戯の女神テメトトだよ♪体重とスリーサイズは、ヒ、ミ、チュッ♪えへっ♪」

ズキュゥ~ン!!

と、矢が刺さる音があちこちから聞こえた気がした。
もちろんその内の1本は俺のハートからだ。
なにあの幼女神様。めっちゃかわいいんですけど!めちゃきゃわなんですけど!!

丸太に潰されて死んだ事とか、ここがどこなのかとか、もうど~でもいいや~。あはははは~

・・・いや、さすがによくないな!家に帰れなきゃ幼女神様をお持ち帰りできないじゃないか!

「・・・え~と、幼、じゃなくって、テメトトちゃん?ここがどこで、俺達はどうしてここに居るのか、お兄ちゃんに教えてくれるかな?」

ゆっくりと幼女神様に近づき、手を膝に置いて、顔の高さを幼女神様に合わせてにっこりスマイル。

「・・・い、行きやがった。あの野郎。この状況で初対面の幼女に躊躇無く話しかけに行ったぞ!事案が怖くないのか!?」(ひそひそ)
「・・・なんというコミュ力の高さだ。俺達に出来ない事を平然とやってのける。そこに痺れる。憧れるぅ!」(ひそひそ)
「・・・え?うそ・・・あ、あれってまさか・・・いや、でも・・・」(ひそひそ)

ふっ、お前らに足りないのは!情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてなによりも速さが足りない!
・・・とか、なんとか脳内でドヤ顔をしてみたんだが、目の前の幼女神様が泣きそうなんだけどどうしよう。
俺が話しかけて直ぐはにこっと、太陽の様な笑顔を見せてくれたんだけど、急に曇り空になってきた。もうすぐ降り出しそう。

「ぐすんっ・・・」
「て、テメトトちゃん?どうしたの?ほら、怒らないからお兄ちゃんに言ってごらん?」

「うぅ・・・ぅんとね。あのね・・・」

いつでも防犯ブザーを取り上げられるように脳内シュミレーションしつつの俺の問いかけに、雨に濡れている子犬の様な目で俺を見上げながらテメトトちゃんが必至に言葉を紡ごうとしている。
なにこの愛らしい生き物。ぜひお持ち帰りしたい。

「・・・えっとね。お兄ちゃん達はね。もうお家には帰れないの・・・」
「「「「あぁ~・・・」」」」

まぁ、状況的にそんな気はしていた。だって夢だと言うにはあまりにも生々しく、この体には死の記憶が刻み込まれているもの。
あの体験を単なる夢だとはとても思えない。むしろこうして生きている今の方が夢だと言われたほうがしっくりくる。

・・・はっ!つまりここは天国か!?幼女神様が治める幼女天国!?なにそれ逝きたい!

「・・・つまり俺達は本当に死んじゃったんだね。でも、それはテメトトちゃんの所為じゃないんでしょ?」
「もちろんだよ!そもそもお兄ちゃん達の世界に対しては殆ど権限を持って無いもん!」

よかった。最近はうっかりやら、手違いやらで人を殺しまくる神ばっかりだからな。テメトトちゃんがそうじゃなくって本当によかった。

「じゃあ何も問題は無いな!俺達が死んじゃったのは俺達の運が無かったからだ。なぁ、みんな!」

「おう!もちろんだぜ!」
「かわいい女の子が泣きそうなんですもの。ここで拒むなんてOTONAとしてありえないわね」
「ね、ねぇ。じゅ・・・」
「「「同士お兄ちゃんよ!我らも皆、心は1つよ!!」」」

いいねぇ~。痺れるねぇ。この場に呼び出された殆どの人がグッと親指を突き上げて答えてくれた。
子供は宝。古事記にもそう書かれているしね。

・・・でも、野太い声での”お兄ちゃん”の合唱は止めようか。背筋がヒヤッとするから。

「それで?テメトトちゃんはどうして俺達をここへ呼んだの?なにか理由があるんでしょ?」
「うん!えっとね。お兄ちゃん達にね。わたしの世界の魔力を調律して欲しいの!」

「・・・ごめん。テメトトちゃん。ちょっと何言いたいのか分からないや」
「「「・・・」」」コクコク
「うんっとね。えっとね・・・」

俺達から無言の圧力を感じてか(無論圧力なんてかけてない気のせいだ)わたわたと意味の無い言葉を繰り返すテメトトちゃんをなんとか宥めて聞いた話を纏めたらこうだ。

1.テメトトちゃんの管理する世界になんらかの理由(おそらく外界からの他の神の接触が原因らしい)で世界規模の大災害が起こった。

2.大災害自体は10年前に収束したが、世界中の魔力(俺達の世界でいう竜脈みたいなものと言われたがよく分からん)がグチャグチャになり、種類の違う魔力が干渉しあうことで、天候が超不安定になったり、強力な魔物が高頻度で発生したりと小さな災害が世界中で起こった。

3.テメトトちゃんは世界のシステムの復旧で手一杯なのに、全世界で同時多発的に発生する小さな災害を無視して地上の生き物を全滅させる訳にもいかず、困りきったテメトトちゃんは母親である地球の神に相談した。

4.相談を受けた地球の神は、本職の神の力には遠く及ばないものの、ある程度魔力や神力を扱える才能を持つ善良な魂を輪廻の輪からちょちょいと選び出し、テメトトの世界を25に分けて、魔力の分割制御をさせることにした。

5.地球から送られてきた25の魂に現在の状況を説明中←今ココ

ちなみに召喚されたのが日本人ばっかりなのは、同じ国出身の方が何かと協力しやすいだろうという理由と、日本人の血に神族の血が混ざりまくっているため、神力が比較的濃いからだそうだ。
人間と定期的に交わっている日本の神ぇ・・・
それだけ交わってりゃ、八百万やおよろずも神が出来るわな。いや、それは意味が違うか。

とりあえずココまでがテメトトちゃんから聞いた過去の話。
そしてココからがテメトトちゃんが俺達に依頼したい未来の話。

6.俺達の中からテメトトちゃんの世界へ行ってもいいよって人にテメトトちゃんの世界に移動してもらう。嫌だって言う人は別の魂と交換してもう。

7.テメトトちゃんの世界はすでに面積が均等になるように25に等分してあるので、テメトトちゃんの独断と偏見で決めたエリアを担当してもらう。

8.テメトトちゃんの世界に移動した後は世界に渦巻く多様な魔力を調律するためにダンジョンを運営してもらう。

9.ある程度成長したダンジョンコア同士は接触させる事で互いの特性を統合し1つのコアとなる特性があるため。最終的には25のエリアを治めたダンジョンコアを全て統合し世界中の魔力を1つに統合してもらう。ただし、ダンジョンコアは成長すればするほど成長速度が下がるのでコア同士の統合はエリアを制覇するまで封印する。

10.ダンジョンコアを集めて世界中の魔力を1つに統一するか、テメトトちゃんの手があいて直接世界の魔力を調律できたら依頼達成になり、テメトトちゃんが叶えられる範囲でなんでも1つ願いを叶えてくれる。もちろんテメトトちゃんに協力した25人全員分だ。薄い本が厚くなるな!

と、ここまでがテメトトちゃんが俺達に頼んだこと。
んで、次がテメトトちゃんの世界におけるダンジョン運営及びダンジョンコアの解説だな。

ダンジョンとはダンジョンコアから魔力の供給を受け、ダンジョンコアを防衛するために存在する生きた迷宮である。

ダンジョンの核であるダンジョンコアは周囲の魔力を吸収し、己の魔力に変換する特性を持っているため、このダンジョンコアを守り成長させる事が俺達の目的となる。

ダンジョンコアを成長させる方法はダンジョンを深く広く作ったり、ダンジョンモンスターと呼ばれる生き物を沢山生み出したりしてダンジョンの魔力を消費すること。ダンジョンコアに、『もっと沢山魔力を作らなきゃ!><』って思わせる事が大事らしい。

生きた迷宮というだけあり、使えば使う程成長して、使わないと衰える。ダンジョンの拡張ばっかりしてたら強いモンスターが作れないし、モンスターばっかり作ってたらダンジョンの拡張のコストが上がっていくらしい。
ダンジョンの項目毎に熟練度が設定されている感じだと思えば分かりやすいかね?

そして、ダンジョンが生き物からではなく、世界から魔力を吸っている以上、ぶっちゃけある程度ダンジョンを成長させたいだけならダンジョンに入り口を作る必要は無い。

地下深くで細々と運営している分には特殊な魔物以外の攻撃は殆ど受けないらしいから最初はそうやって戦力を蓄えるのも手だが、俺達はいずれ必ず地上に出なくちゃいけない。

なぜなら俺達の目的はダンジョンをある程度成長させる事では無く、全世界を俺達のダンジョンで統一することだからだ。だから俺達以外のダンジョンは潰して吸収しなくちゃならない。悲しいけどこれ。戦争なんだよね。

吸収の方法は簡単。相手のダンジョンコアを砕いて自分のダンジョンコアにくっ付けるだけ。前記の統合と違うところは互いの存在を認め合って1つのダンジョンコアに共存するのが統合で、一方的にエネルギーとして取り込むのが吸収だな。

なら野良ダンジョンも統合をすればいいじゃない!と思うが、俺達のダンジョンコアが安全確実に統合できるのは元がテメトトちゃんが作ったダンジョンコアだからであり、野良ダンジョンと統合をしても魔力が多い方のダンジョンコアに吸収されるのがオチらしい。
統合とは1つの体に複数の魂を入れるようなものだと説明されて納得した。ダンジョンコアも生きてるんだもんな。元々そういう風に設計されているのでもなければ、そんなデタラメ出来るわけがないな。

次にダンジョンでの俺達の扱いだが、ダンジョンマスターというモンスター扱いになる。ダンジョンマスターとは基本的に動けないダンジョンコアに代わり、モンスターに指示を出したり、外敵と戦ったりする時のリーダーだな。ダンジョンを生き物に例えたらダンジョンマスターが頭脳で、ダンジョンコアが心臓って感じらしい。

ちなみに右も左も分からない俺達の為にダンジョンマスターをもう1体おまけで付けてくれるらしいから、俺達のダンジョンは頭脳が2つある事になるな。
ケルベロス・・・いや、オルトロスか。最終的には25人の倍で50の頭脳を持つダンジョンになるわけだな。なにそれ怖い。
まぁ、基本各自に最初に振り分けられたエリアの統治で手一杯になりそうな気はするけどな。たぶん。

次に俺達が死んだ場合の話だが、ダンジョンコアさえ生きていれば何度でも蘇生出来るらしい。ただし、ダンジョンマスターの蘇生には大量の魔力を使うし、装備はロストするから、あまり死なない方がいいらしいが。

・・・いや、例え魔力を消費しなかったとしても死にたくは無いよ。ゲームじゃ無いんだから。まぁゲームみたいな話ではあるが。

そしてダンジョンコアが破壊された場合だが、これは問答無用でゲームオーバーだ。蘇生は無しで同じエリアの別の場所から再スタートになる。大丈夫。次の俺達はきっとうまくやるでしょう。

ゲームオーバーが5回を超えたら諦めることも出来るらしい。その場合は次の魂が呼び出されて、仕事の引継ぎが終わりしだい、今の俺達は輪廻に帰るそうだ。手間がかかるからなるべく諦めないで欲しいが、何百年もエリアの統一が出来ないほうが困るらしい。
まぁ、人には向き不向きがあるからなぁ。それでも本人が諦めるっていうまでは見守ってくれるとかテメトトちゃんマジホワイト会社。というかエリア統一って百年単位のプロジェクトだったのかよ。モンスター化に伴い不老不死になるらしいけど、百年後の自分とかなにも想像できねえなぁ。

アニメやマンガだと、不老不死の存在は死にたがっていたりするけど、そのときこそ諦めるをすればいいんだしな。
あれ?死ぬ手段があるってことは不老不死じゃないのか?そもそも死んでも復活するってだけで、死にはするんだしな。・・・まぁいっか。そんな事はどうでもいいしな。重要なことじゃない。

「・・・と、纏めるとこんな感じか?あと何か説明することはある?」
「ん~と。ダンジョンの作り方は向こうで、パートナーに教えてもらえるし・・・あっ!ダンジョン属性を決めておいて欲しいかな!」

「・・・ダンジョン属性?」

ダンジョン属性ってなんだ?火属性だと火山。みたいな感じか?

「ダンジョンはダンジョンモンスターにとってお家みたいなものでしょ?だから、ダンジョンにあらかじめ属性って形で方向性を決めておけば、ダンジョン属性にあったフロアが作りやすくなるし、モンスターも作りやすい上に活き活きすごせるんだよ!」
「ほへ~。すげえなダンジョン属性。でも、属性を固定しちゃったら選択肢が狭まっちまって弱くなるんじゃないか?例えばダンジョン属性が火なら火に耐性のある装備で固められたら手も足も出なくなるとかさ」

「今回のダンジョン属性はそんなに小さな範囲で指定するわけじゃないから大丈夫だよ!特攻武器や耐性防具は指定範囲が広がれば広がる程効果が下がるから、ダンジョン属性の所為で絶対不利になるってことは無いし、あとは皆の腕しだいだね。それに、ダンジョン属性以外のフロアやモンスターもボーナスが付かないだけで作ることはできるしね」
「ふ~ん。”今回の”ってことはいずれ増えるんだね。それで選べる属性は何があるんだ?」

「最初は選んでもらうダンジョンの属性は癖の少なめな3つの内から選んでもらおうかな?コアが破壊された時にダンジョン属性も変えられるようにしておくから今は好きなのを選んでもらえばいいからね」

「まず1つ目は動植物系ダンジョンだね。
メリットは、雌雄揃えたらダンジョンの魔力を使わなくても数が増やせることと、餌を用意すれば維持にかかる魔力がちょこっとで済むこと。
デメリットは、固体の能力が低めなことと、同種族以外は連携が取りづらいこと。餌が用意できないと維持にかかる魔力が多いことと、病気になったり、老衰で死んじゃうこと。

代表的なのは、オオカミさんとか、ウサギさんとか、食人植物さんとかかな?ドラゴンさんとかも生き物に分類されるね。環境が整ったら一気に数が増えるから、物量に物を言わせた攻撃が得意だよ。でも同じ種族以外はあんまり仲が良くないから、戦力として配置したいのなら別のフロアに分けて配置しないとダメだね。
オオカミさんと、ウサギさんと、食人植物さんを一緒に配置したら食人植物さんがウサギさんに食べられてウサギさんがオオカミさんに食べられてお腹いっぱいご飯を食べて沢山子供を産んだオオカミさんばっかりのフロアになっちゃうよ。オオカミさんは肉食だから、ウサギさんが全滅しちゃったら維持魔力が沢山必要になっちゃうね。
食物連鎖の管理が大事になる属性だね」

ふ~む。食物連鎖ね。ヒツジの村とか、勇者がなまいきなゲームとか大好きだし、これでもいいな。管理がなかなかに大変そうだが。フロアが少ない内は植物と草食系動物を基本に育てるべきだな。テメトトちゃんが言うみたいに、オオカミとウサギと植物を一緒に飼ったりなんかしたら、オオカミが・・・オオカミが・・・あれ?何故か脳内生存競争の結果ウサギが勝ったぞ?なにがあったし。
もふもふか?もふもふが強さの秘訣なのか!?

「2つ目は魔動物質系ダンジョンだね。
メリットは、止まっている間は維持にかかる魔力が少ないことと、状態異常にならないことと、疲労が無いこと。自我が無いから命令には絶対服従なこと。
デメリットは、動いている間は維持にかかる魔力が多いことと、1体作るのにかかる魔力がすごく高いこと。自我が無いから命令されていないことはやらないこと。

代表的なのはゴーレムとか、戦車とか、人型ロボとかかな。生き物じゃない、機械や物質系は大体含むよ。
1体作るのに沢山の魔力を使う代わりに、強いモンスターが作れるね。アダマンタイトゴーレムの軍団なんて作ったら、ドラゴンをダース単位で用意しても勝てないかもしれないけど、代わりに運用には莫大な魔力も必要になるね。
魔力の管理が大事になる属性だね」

ハイコストハイリターンな属性なんだな。自由に使える魔力が増えるまでは大変だろうけど、魔力が余ってきたら一気に強力になる大器晩成型の属性なんだな。
というか戦車ってなんだよ。それはモンスターなのか?ん~、魔力で動く物質なら全部魔道物質系になるのか。他の属性のモンスターも作れるって話だったし、何の属性を選ぶにしろあとでバイクは作ろうかね。
異世界っていわれて想像していたよりも近代的な生活が出来そうな予感がするな。

「3つめは魔法生物系ダンジョンだね。
メリットは、ダンジョン以外からも魔力を吸収して維持にかかる魔力に代用できることと、外部から吸収した魔力が一定になったら数を増やせること。同種以外でも連携が取れること。病気や老衰が無いこと。
デメリットは、外部から魔力を補給出来ないと維持にかかる魔力が多いことと、魔力が無くなるとすぐに死んじゃう事。

代表的なのは、スライムとか、ゴーストとか、フェアリーとかだね。他の属性と違って魔力の枯渇=死だから積極的に外に出るか、獲物をダンジョン内に誘い込んで魔力を補給する必要があるよ。
他のダンジョンのモンスターから魔力だけ奪ってくることとかもできるね。まぁ、吸収できるならしたほうがお得だけど。
ダンジョンの外の管理が大事になる属性だね」

全員が魔力ドレイン持ちの侵略が前提の属性かぁ・・・まぁ、他の属性でも侵略は必須だし、外部に魔力を吸収に行かなきゃダメって訳じゃ無いけど、なかなかに厳しいんじゃないか?フェアリーとかめっちゃ気になるけど。
維持の魔力が足りない=死ってのもなぁ。動植物系なら餌が無くなったからといって突然死ぬわけじゃないし、魔動物質系は動かなくなるけど、また魔力を注げば動き出すんだろうな。魔力ドレインを食らって一番ヤバイのって魔法生物系なんじゃね?
うん。初期で魔法生物は無いな。一回ゲームオーバーになったらまた考えよう。

「とりあえず、ここで説明するのはこれぐらいだね。みんな理解できたかな?」

テメトトちゃんの問いかけに、今まで必至にノートを取っていた俺以外のメンバーが低い唸り声のような返事をする。ちょっと分かりにくかったところは俺から質問したり、同じ内容を口にしたり、話を脱線させたりしてメモる時間を稼いだんだが大丈夫だったかね?

・・・え?俺はメモを取らなくてもいいのかって?俺が幼女の言葉を一語一句忘れるはずがないじゃないですかー。やだー。

「分からない事があったら、あっちに行った後にパートナーに聞いてもらえればいいからね。とりあえずダンジョン属性を決めてね。これは大事なことだからどれだけ時間をかけてもいいし、みんなで相談して決めてもいいよ~」

テメトトちゃんがそういうと、いままで必至にメモを取っていたみんなが一斉にがやがやと騒ぎだした。

「ロボは男のロマン!魔動物質系を選ぶしかないな!」
「男のロマンと言えばドラゴンだろ!グリフォンとかペガサスとかもいいなぁ」
「折角だから俺はこの赤い魔法生物系を選ぶぜ!」
「敵の返り血で真っ赤なんですね。分かります」
「ウサギさんで埋め尽くされたフロア・・・イイネ!」
「もふもふは正義だもんね。私も動植物系にしようかしら」
「繁殖があるって事は仔ウサギとかも居るってことでしょ?むぅ、でも折角の異世界なら魔法生物も見てみたいし・・・むむむ」
「フェアリーがすっごい気になる。ちっこかわいい妖精なのかな?妖精さ~ん!!」
「緑タイツのおっさんは帰ってくれないか」

・・・なにこのカオス。
直前に死んでるってのにみんな元気だなおい。ん?そういえば俺も、自分が死んだ記憶を持ってるのに割りと平静だな。自分が死ぬ体験だなんて不定の狂気に陥ってもおかしくない気がするんだが・・・
・・・やめようか。俺が蝶になるの夢をみた人間だったとしても、人間になる夢を見た蝶だったとしても現在いまが何か変わるわけじゃない。
とりあえずさっさとダンジョン属性を決めてしまおう。といってももう俺の中じゃ決まってるんだがな。

「じゅんにい!」
「はえ?」

背後から突然大きな声で名前を呼ばれた所為でなんともマヌケな声が漏れてしまった。
名前?あれ?俺ここにきてから一度も名乗ってないと思うんだが。というか俺を”じゅんにい”って呼ぶのって・・・

「じゅんにい!やっぱりじゅんにいだぁ。じゅんにぃだよぅ。ふえぇぇ~」
「え?あれ?・・・もしかして・・・燈火とうかか?」

俺の顔を見た瞬間俺に縋り付いて泣き出したコイツは真見まけん 燈火とうか。俺の2つ年下の幼馴染だ。
2つ年下・・・だった筈なんだが、今は俺と同い年ぐらいに見える。あぁ、そうか。燈火が死んだ瞬間が俺より2年ほど遅かったのか。

「・・・」
「ふえぇぇ・・・じゅんにぃ・・・会いたかったよぅ・・・ずっと・・・ずっと・・・」

「・・・俺は会いたくなかった」
「・・・ふぇ?」

死後の世界こんなところで会いたくなんか無かったよ。なぁ燈火。なんで死んじゃったんだ」
「・・・そのセリフ。じゅんにいにだけは言われたくないかも」

・・・ごもっともで。

「むぅ・・・」
「もう!私の死因なんてどうでもいいでしょ!大事なのは今こうして私がじゅんにいに会えたってことだけなんだから!ぎゅぅ~!」

燈火の「ぎゅう~」に合わせて、俺の胸に回されていた燈火の腕がギリギリっと締まりだし、体の内側からミチミチと聞こえてはいけない音がしだす。
ちょっ、燈火さん!?俺が生きていた時よりも更に力が上がってませんか!?ら、らめぇえ!漏れちゃう!口から出てはいけないあれやこれやがでちゃうぅぅぅ!ビクンビクン!

「バクハツスレバイイノニー」(棒)
「いや・・・流石の俺もこの状況で爆発しろとは言いづらいな・・・」
「・・・うん。使命感を感じたから言ったけど、今は罪悪感が・・・」

「・・・突然の事故で死んでしまった兄。残された妹は叶わないと知りつつも、毎日兄との再会を希うこいねがう
「『会いたいよ・・・もう会えないの?じゅんにい・・・』」
「しかし妹のそのたった1つの願いも叶うことは無く。あっという間に月日は流れ兄と同じ歳になってしまう」
「『ふふ。今日から同い年だね。じゅんにい。もうお兄ちゃんとは呼ばせてもらえないのかな?代わりに来年からは私をお姉ちゃんって呼ばせてあげるね♪』」
「だが世界は妹のそんなちっぽけな願いさえも許してはくれなかった・・・」
「『ここは・・・病院?あ、お母さん!お父さん!どうしたの?なんで泣いてるの?それにどこを見て・・・あっ・・・』」
「涙を流す両親の視線の先にはベットに寝かせられ、既に冷たくなっている妹の姿があった」
「『・・・そっか。私死んじゃったんだ・・・お母さん・・・お父さん・・・親不孝な娘で、ごめんね・・・』」
「ふと何かの気配を感じて、両親はふいに視線を上げる。しかし、そこには既になにも存在していなかった・・」
「『・・・あれ?ここは?私は死んで・・・』」
「あの病室で確かに消滅した筈の妹の魂が再び覚醒する。そこはどこまでもつづく真っ白な空間だった」
「『!・・・じゅんにい!会いたかったよぅ!ずっと、ずっと!』」
「その真っ白な空間で妹はずっと求めていた兄と再会する。ずっと求めてずっとずっと夢見てきた兄の姿そのものだった」
「妹は思う。ここは天国に違いないと。今まで頑張ってきた自分を神様が天国に連れてきてくれたのだと」
「だが」
「世界は」
「希望を」
「許さない」
「『・・・俺は会いたくなかった』」
「『・・・え?』」
「『俺は会いたくなんかなかったよ』」
「『じゅん・・・にい・・・?』」
「兄との再会を喜ぶ妹に告げられたのは拒絶の言葉頭が真っ白になった妹はその場に崩れ落ち、意識を手放した・・・」
次回へ続くカミングスーン!」

「な、泣けるぅぅぅううう!」
「目から、目から汁が・・・」
「救いは!?救いは無いんですか!?」
「何故ハッピーエンドにしなかった!言え!」
「妹ちゃんかわいそう・・・」
「兄クズだな。死ねばいいのに。2回死ねばいいのに」
「マジか。俺お兄ちゃんのファンやめます」
「いや、待て。その”兄”と”お兄ちゃん”は別人だぞ我らのお兄ちゃんならこの残酷な運命を悲劇で終わらせたりなんかしない筈だ!」
「よし!皆で見守るんだ!この物語の真のエンディングを!」

「「「「「じー」」」」」

いや、見守ってねえで助けろや!!このままだと俺の背骨が圧し折れてジ・エンドだよ!デットエンド直行だよ!
というかお前ら今日が初対面とか絶対に嘘だろ!!どうやったら初対面の人間同士がアイコンタクトだけでリレー形式にセリフを繋げて物語を作れるんだよ!ここに来ていきなりドッキリの可能性が急浮上してきたぞ!

・・・あ、やば・・・胸が・・・潰れ・・・口から・・・肺が・・・

「・・・と、燈火さん・・・?一旦。一旦手を離しましょう?大丈夫。話せばわかる」
「・・・やだ。もうなにがあってもはなさない」

あなたの締め付けの所為で俺は意識を手放しそうになっているんですがそれは。
ともかく、燈火が俺の顔を見るために若干拘束を弛めた今がチャンスだ!なんとか説得して脱出せねば!

「なにがあってもはなさないって言うけど、お風呂に入るときとか」
「一緒に入る」

「・・・寝るときは」
「一緒に寝る」

「・・・と、トイレ」
「一緒にする」

「・・・」(汗)
「大丈夫。じゅんにいは何も心配しなくていいよ。おはようからおはようまで、ず~と私が一緒に居てあげるからね。ふふふ・・・」

「や、やべえよ。ちょっと見ない間に幼馴染がヤンデレ化してるよ!へ、ヘルプミー!」

色彩の無い昏い瞳でふふふふふ・・・と笑いながら締め上げてくるとか怖すぎるんだけど!SAN値ピンチ!

「幼馴染・・・?」
「一緒にお風呂・・・?」
「一緒に寝る・・・?」
「なるほど」

「「「「「爆発すればいいのに!!」」」」」

お前らは本当に仲がよろしくていいですねぇ!!
ええい、俺に味方は居ないのか!?

「そうだ!テメトトちゃん!」
「むにゃむにゃ・・・はっ!ね、寝てないですよ?私を寝かせられたらたいしたものです!・・・くぅ」

あぁ。テメトトちゃんが妙に静かだと思ったら、おねむの時間だったのね。それじゃあ邪魔するわけにもいかないな。
・・・って言える状況じゃないんだよ!俺の背骨と肺がかかってるんだ!!

「起きてー!もうダンジョン属性の選択は終わったから俺をダンジョンに連れてって!!」
「・・・はっ!それじゃあお兄ちゃんを私の世界にとばすよ!え~い!」

テメトトちゃんの声に合わせて、俺の視界がホワイトアウトしていき、胸の圧迫感も消えた。ふぅ、なんとか逃げ切れたな・・・
テメトトちゃんの世界がどれぐらいの広さなのかは知らないけど。世界各地にランダムで配置されるんだ。次に会うのは何百年か後だろうな。それまでには頭も冷えてるだろう。冷えてるはず。冷えてると信じる。
・・・まぁ、ダンジョンコアを通じて連絡は取れるらしいから、話ぐらいはしておこう。俺が死んでからのことも気になるし。ちょっとビックリしただけで別に燈火の事が嫌いなわけじゃないしな。むしろ・・・

・・・今度会ったら謝っておこう。ま、次に会うのがいつになるかは分からないけどな。

-------------------------------------

「・・・ねぇ。女神様」
「あっ・・・ど、どうしよう。ま、まぁなんとかなるよね・・・?お詫びにあの子をつけておいてあげよう」(ぼそぼそ)

「女神様?」
「・・・うん?あ、テメトトちゃんでいいよ。お兄ちゃんもそう呼んでたしね」

「じゃあテメトトちゃん。私をじゅんにいの近くに飛ばしてください」
「ん~。もともと私の一存で決めるって言ってたし、他のみんながOKならいいよ?」

「「「「意義無し!!」」」」

「・・・じゃあ、あなたはお兄ちゃんのお隣のエリアだね!特別にエリアギリギリにぴったりくっ付けてあげるよ!行くよ~。え~い!」

テメトトちゃんの掛け声に合わせ、燈火の体が発光していき、目を開けていられないほどになる。

「今度こそ絶対に失敗しないんだから!待っててねじゅんにい!」

まばゆい閃光が収まり、みんなが目を開けたとき。既に燈火はこの世界から旅立っていた。

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