ユエとリィアンの冒険

ノベルバユーザー173744

ママのおしゃれ。

ママは、お洋服に無頓着。
そこら辺にあれば、サイズが合えば何だって着る。

リィアンたちには入れ替り立ち替り着ぐるみロンパースを探しては、譲ってもらったりしているのにである。

「ママー‼お洋服はぁ?」
「ん?デニムパンツに長袖のねこさんTシャツ‼」
「なんで‼おしゃれは‼おしゃれ‼」
「ほら、ねこさんおしゃれ‼」

表から裏までネコネコネコのTシャツは紺の布で、白い線で描かれているが、おしゃれとは言いがたい。

「もっと可愛い~の着よう?ねぇママ?」

ユエはママを見上げる。

「エェ?ほらバッグも最近こだわりが……」

示す。

前は巨大なバッグだったのだが、がま口バッグになった。
それも、おしゃれだがダークグレーに白い英語の文字が踊る。

「暗いよ~⁉ママ。ママもっと可愛いの着て欲しいなぁ……ユエは」
「そうだよママ。せっかく月花げっかが来たんだもん。ママ、昔みたいにだっこの写真とるように、可愛いかっこうして?リィアンもママの淡い色のお洋服見たいなぁ……」
「ママ‼月花と写真‼可愛い可愛いしようね‼」
「えぇ、ママおばちゃんだよぉ?それに、お洋服も……」

タンスではなく、なぜかクローゼットの中の段ボールのなかに、テディベアを作るぬいぐるみ用の布のなかに埋もれているのは、

「……薄いボレロ……ママ、結婚式の出席者じゃないんだから」
「エーじゃぁ……」
「それは、水着‼しかもブルーのビキニ‼ダメじゃん‼」

それからも、

「デニムのすれすれ短パンにボディースーツ……ママ、こんな格好で何してたの?」
「ウェイトレス!」
「犯罪だよ~⁉他には?」
「うーん……」

出してきたのは男物のデニムのシャツ、チェックのシャツ、これまた男物のTシャツ……着古した感がありまくりである。

「この間、3000円で半袖に上に着られる春用の毛のワンピースが二組買ったから。デニムは、傷だらけだけどファッションと思えばいいし、あとは、スパッツ‼」
「おーい、皆~‼リサイクルに回してくださーい」
「さーい‼リサイクルって、何?」

ユエにリィアンは、

「最近はスーパーに古着を持っていくと預かってくれる場所とかがあって、それを引き取ってリサイクルして、リメイクしたり、古い着物だったら布を裂いて、1本の太い糸にしてそれで織り上げた『裂き織り』という、方法で織り直した布で服を作ったり、バッグを作ったりするんだって」
「へぇーそうなんだ。でも、ママのシャツ……穴空いてるし……くたびれてるよ?」
「だからこれは、油を捨てたり、するときに使うんだよ。それに雑巾がわりにとか」
「ふんふん……ママ、良かったね」
「よくないよぉ~‼ママの夏のパジャマ‼ないじゃない~‼」

取り返そうとするママから兄弟はひらりと逃げる。

「この間譲ってもらったのあるでしょ」
「着替え‼着替え‼」
「って、いつまで溜め込んどくの。指令‼『ママはシャツかスモッグか、好きな服を二枚購入すること‼新品、古着問わず‼』」
「エェェ~‼」
「『柄は花柄‼』」
「ちょ、無理~‼」

首を振り、訴える。

「ママはボーダー柄か、無地、もしくはTシャツは文字とかくらい……花柄嫌なら、水玉……」
「もっと無理~‼ママ、水玉って水疱瘡みずぼうそうとか、あせもとか、はしかとか、アレルギーとかの湿疹しっしんみたいで、見るのもあまり好きじゃない……」
「ドット柄か花柄二つにひとつ‼」
「……似合わないのに……」

ベソベソと呟く。

「思い込み。はーい。ママ、いってらっしゃーい‼今日も病院でしょ?男物じゃなく、可愛いのだよ⁉」
「意地悪ぅ……」

言いながら、イジイジと出ていった。
要らない服は一旦お風呂場に入れておき、ユエたちはうんしょっと、タンスの中身を確認し言葉を失う。

「これ、何?」
「あぁ、ママの趣味の空き缶集め。ふたつきの缶を集めるんだ。で、お宝入れるって」
「中身は⁉」

リィアンは確認するが、缶の中には缶、その中も缶。

「マトリョーシカ‼」
「まどろーしか‼」
「違うの‼ロシアの工芸品で、お人形の中にはお人形がパカパカ開けると出てくるんだよ」

で、最後の缶の中には、

「……『オーストラリアの1セント硬貨』……何故?」
「昔、ウェイトレスをしていたときにお客様にいただいたんだと。良いことがあるよってさ」
「……ふーん……」

リィアンは思う。
ママは幸せなのだろうか?
この小さい硬貨を、こんな風に何重にも重ねた缶に納めて、幸せなのだろうか……。

首を振ったリィアンは、

「この缶は全部、出しちゃって、服入れる、服入れる‼」
「ほーい‼で、缶は?」
「こっちの箱に入れて、何かに使う」

そして、順番に入れていく。
ママのタンスは籐製のタンス3つ。
そのうち大きいものに服全般と、タオルは一番よく使うお風呂場の前の棚の上に移動。
ハンドタオルも、その横。そうすれば入れれるものは増える。

「くつ下に、上着はここで、シャツは下」
「どんなになるだろうねぇ?ママ」

ワクワクするユエに、リィアンは、

「可愛いと思うよ絶対」



お昼が過ぎて、ママが帰ってきた。

「おかえりなさい‼ママ‼お洋服は?」
「あ、えっとねぇ……ワンピース」

ぴらっと出したのは、花柄は花柄でも、主な布地の色は沈んだ濃緑色で、白い花びらのシックなデザイン。

「エェェ~‼ママ‼せっかく‼」
「いや、これは昔風の柄で、襟元がかわいかったの。216円だったし‼」
「力一杯値段言わないでよ」

リィアンは拗ねる。

「まぁまぁ。こっちは、シックでしょ?で、こっちは可愛い系なの」

ぴらっと広げたのは、生成きなりの生地の長袖と背中も生成り。
でも、前が、可愛い花柄のシャツワンピース。
着て見せてクルッと回る。

「これは可愛いでしょ?皆と写真とるのもおかしくないもん、ね?」
「うん‼」

喜んでいた僕たちにママは一言。

「216円だった~‼お得だった~‼」



これがなければいいのに……残念、ママ。

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