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TraumTourist-夢を渡るもの-

舘伝斗

1-13 VSウォート

 わたる結華ゆいかがアロガンと向かい合っている頃、別の異空間ではカトラとロットがグレーの髪をソフトモヒカンにしたガタイのいい大男、ウォートと向き合っていた。

「ふむ、君たちの目的はなんだ?」

 今にも飛び掛からんとするロットと、そのロットを何時でも庇うことが出来るように隙を見せないカトラにウォートは排除ではなく対話を求める。

「目的?そんなもの、この世界の今の状況を見れば分かるじゃろ!」

「それは生物の石化を指してるのか?」

「白々しい!それ以外に異変など見当たりはせんじゃろ!」

 ウォートの質問にロットは怒り心頭といった風に返す。
 だがウォートはその言葉を少し頭のなかで反芻する。

「では、君たちがこの異変を解決するために動いているとしよう。何故俺たちと敵対する?」

「そんなもの、この異変の犯人がお前たち夢の誘いアインレイダンだからに他ならんだろうが!」

「証拠はあるのか?」

「ぐっ、それは・・・」

 ウォートの明らかな詭弁、だが、かといってこの異変の犯人が夢の誘いアインレイダンだという確実な証拠がないのも事実。
 ロットはその事実に言葉につまる。

「はぁ、お嬢様。簡単に論破されないでくださいよ。」

 横から聞こえるカトラの呆れ声に、怒りと羞恥が相まってロットの顔は赤く染まる。

「確かにあなたの言う通り、この異変の犯人が夢の誘いアインレイダンであるという確証はありません。」

 赤くなったロットを放置してカトラはウォートとの会話を引き継ぐ。

「ほぅ、お前はそれを理解しながらも立ちはだかると?」

「えぇ、何しろ私が遣えているのはズィノバー家ですから。あなたたちと敵対するのにこれ以上の理由はいります?」

 カトラの台詞にウォートは少し雰囲気を鋭くする。

「そうか。何やら嫌な色で全身コーディネートしていると思ったら、貴様達・・・だったとはな。と言うことはそっちのが奴の娘か。」

 ウォートはそういうと上着を脱ぎ捨てる。

「なっ!?」

 上着の下から現れたらその光景にロットは目を反らす。
 ウォートの上着の下にはタンクトップに包まれたはち切れんばかりの筋肉だけでなく、露出している肩や腕だけ見ても無数の傷が刻まれていた。
 その傷は全て同じ方向、胸に向かって伸びていた。

「その傷はまさか・・・」

「そうだ。これは30年ほど前に今のの当主、ズィノバー・カーゼンに付けらた傷だ。奴のユニークスキルである"紅芒一閃こうぼういっせん"によってなぁ!
 お前たちが奴の関係者であるなら、こちらとしても是非殺しておきたいところだ。」

 カトラの言葉にウォートは忌々しそうにそう告げ、話は終わりだとばかりにその身に魔力を纏う。

 フッ

 瞬間、アロガンと違い静かな、それでいて同等以上の速度でウォートはロットに迫る。
 その手には何時の間にか鈍色のナックルダスター、所謂メリケンサックが嵌まっていた。

 ゴォッ

 ウォートの一撃はその身に受けた傷の憎しみが籠っており、それでいてロットの幼い容姿に同情し一瞬で死ねるよう心臓を捉えていた。が、

 バシッ

「むっ?」

「お嬢様、せめて回避行動くらい見せてくださいよ。」

 そういってロットとウォートの間に割り込んだカトラによりその拳は受け止められるのだった。

「馬鹿者!あんな速度で迫られて反応できるわけ無いじゃろう!わらわの戦闘力は30に満たないのじゃぞ!」

 その言葉で瞬時にウォートは自分の敵は目の前の男だけと判断するが、ロットの言葉はそこで終わらなかった。

「魔力は1200に届いておるから魔法なら任せるのじゃ!」

「1200だと!?そんなことがあるわけ・・・」

「承知いたしましたお嬢様。ではいつも通り巻き込まないで・・・・・・・下さいね?」

 ウォートの言葉を遮るようにカトラは完全にロットの前に体を滑り込ませ、倉庫機能ストレージから愛剣を取り出す。

「まさかこの魔力、奴は戦闘力特化化け物だったが娘はそれ以上だというのかっ!?」

「憤怒のウォート、立ち止まってて良いのかっ?」

 ヒュッ

 ロットから放出される魔力にハッタリではないと気付かされた隙を付いたカトラの剣は、ギリギリでウォートの鼻先を掠めるにとどまる。

「ちっ!腐っても夢の誘いアインレイダン第4位か。この程度の動揺じゃあ首は取れないなっ!」

 カトラは剣を避けられ体勢が流れたことを利用して回転斬り、返し斬り、突きとトリッキーにウォートを攻め立てる。

 ヒュン、ヒュッ

 だが気を取り直したウォートには不意打ち以降剣先が掠めることすらなくなり、次第にカトラが押され始め防戦一方になっていく。

 ガヅッ

「まだまだ剣が隙だらけだ!」

 ウォートは、その巨体に似合わない軽やかなフットワークでカトラの剣を見切り、隙を付いてはカトラの命を奪わんとする鋭い一撃が襲い掛かる。

「ぐっ!俺でも時間稼ぎが精一杯か。」

 カトラはウォートの拳を受け続けた剣を持つ手に感じる痺れに限界を感じ、剣を細かく揺らし徐々に振り幅を大きくしていく。
 剣先がブレ、その様相は陽炎のようであった。

「はぁっ!"くゆつるぎ"」

「むっ?」

 ズシュッ

 振り幅の大きくなったカトラの剣から放たれる不可避の斬撃。
 その斬撃が遂にウォートを捉える。

「くっ、この技は奴の・・・」

 カトラに腕を切りつけられたウォートは傷を受けたことより身に覚えのある技に反応する。

「そうだ。カーゼン様の"紅芒一閃こうぼういっせん"だ。まぁ全く本家には及ばない児戯に等しいレベルだけどな。」

「おのれ、奴め。どこまでも俺の邪魔をしやがる!お前は許さんぞぉ!」

 ウォートの叫びにカトラはかなり大きく距離をとる。

「何をっ!?」

 -白炎火蛇ホワイトインフェルノ

 ゴォッ

 カトラが距離を開けた一瞬の後、ウォートに白炎の蛇が襲い掛かる。

「やったのか?」

 ロットの言葉に未だウォートの居た場所に剣を向けたまま動かないカトラ。

「お嬢様、こういう時にその言葉は・・・」

 ブオォッ

 カトラの言葉が終わる前に爆心地から魔力とは異なる力が吹き出し、爆発で巻き上げられた土煙を吹き飛ばす。

「なんだっ!あの炎の中で生きていたというのか!」

 ロットは自分の最強の魔法を破られたことに驚く。

「ほらね。お嬢様は知らないかもしれないですが今の台詞、フラグと言って相手の生存率を高めてしまうというものです。」

「なんとっ!この世界ザーストにはそのような魔法が!?」

「魔法というか、まぁそれでいいですが。で、どうしましょう?ウォートのやつ完全にユニークスキルを使用していますよ?」

 カトラとロットは再び爆心地に立つ所々皮膚の焼け爛れたウォートに意識を向ける。

「予想外だ。まさかカーゼンではなくその娘にユニークスキルを使用するとは。お前達の首をカーゼンへの土産として持って行き、その横に奴の首も飾ってやろう!」

 ゴウッとウォートの纏う闘気とも呼べるオーラが爆発的に跳ね上がり足元に無数の亀裂が入る。

 ドンッ

 パキパキッ

「嘘だろ?俺の異界に亀裂がっ!?」

「はぁっ!」

 パリィンッ

 ウォートの背後から・・・・放たれるオーラにより異界が崩れ去る光景をロットとカトラ、ウォートは傷まみれのわたると赤黒いオーラを纏った結華ゆいか、ユニークスキルを使用しているらしいアロガンと合流する。



 最終ラウンドが今幕を開ける。















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 紅芒一閃の元は四字熟語
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 光芒一閃・・・光がぴかっと一瞬光るように、事が急激に、また瞬時に移り行く形容。

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