TraumTourist-夢を渡るもの-
1-12 VSアロガン
カトラの魔法により世界から隔絶された空間に三つの人影があった。
人影の内二つはそれぞれ手に持つ武器でしのぎを削っていた。
向かい合う人影の片方は、逆立てた金髪で元々鋭い瞳をさらに鋭くして目の前の敵を睨んでいた。
もう片方の人影は、耳に掛かる程度の茶色みを帯びた髪で、生来持つ優しげな瞳に剣呑な雰囲気を覗かせ、目の前の男と相対していた。
「私の事も忘れてないかしらっ!」
金髪の男の背後から、少し砂にまみれてはいるが、肩に掛かる、元は綺麗な黒だと分かる髪を持つ女性の垂れ目がちな瞳が敵をロックオンし、両手に持つ銃が火を吹く。
ガンッガンッガンッ
「鬱陶しいっ!」
ミキッ
チュチュ、チュインッ
だが金髪の男は鍔迫り合いをしながらも女性の銃撃を空いている 左手の拳で弾く。
「きゃっ!」
「結華!」
素手で弾いた弾の内、一発が黒髪の女性の足元に飛んでいく。
無論金髪の男の左手には傷一つない。
「おらっ!油断してる場合じゃねぇぞ!」
ガィンッ
「ぐっ!」
結華の悲鳴に気を取られ少し力が緩んだ瞬間、アロガンが僕を馬鹿げた力で弾き飛ばす。
「ホント、どんな化け物だよ。」
僕はアロガンに吹き飛ばされ距離が空いた為に出来た隙に痺れの残る手に視線を落とす。
手に持つ剣は今の衝撃で少し欠けていた。
(この剣って確か強度重視で鍛冶屋から貰ったやつだよな?あいつどんだけ馬鹿力だよ。もうこの剣を攻撃には使えないな。)
ゾクッ
僅かに剣に意識が行った瞬間に感じる死の予感。
本能に従い大きく横に飛びながら元いた場所に視線を向ける。
「俺を前に余所見とは余裕だなぁ!舐められてんのかぁ?」
そこにはいつの間にか距離を詰めていたアロガンが剣を振りきった状態でこちらを見ていた。
「余裕な訳無いだろっ!"首狩り"!」
「温い攻撃だなぁ!!」
ガィン
僕は右手の剣をそのままに、左手にナイフを倉庫機能から呼び出して技を放つ。
しかしその攻撃はアロガンの剣の柄でかちあげられ上へと流され、重心が持っていかれる。
(こいつ、ただの脳筋じゃないっ。)
「ガラ空きだぜっ!」
ヒュッ
力業から一転、研ぎ澄まされた刺突が無防備な腹部に迫る。
「くっ!」
「渉!」
ガガンッ
スパッ
僕の腹部に迫るアロガンの突きを結華から放たれた弾丸が捉え、突きは脇腹を掠めていく。
「鬱陶しいなぁ!雑魚は寝てろよぉっ!」
アロガンは突きを外されながらも体勢を保ちつつ、未だ体勢が立て直せていない僕から意識を外し、先に邪魔な結華を排除しに掛かるため少し足に力を溜める。
(ここだっ!"身体制御"、"一閃"!)
ザシュッ
「ぐっ!」
ドッ、ズザザッ
僕は技能により強制的に体勢を立て直し、アロガンの意識が自分に向いていないことを良いことに、溜め中の足を薙ぐ。
結果、アロガンの溜めは中途半端になり結華と僕の中間辺りで転倒し、更に足の傷で機動力を失う。
「渉、今のは?」
その隙に近くに寄って来た結華が僕の不自然な体勢制御について訊ねる。
「いってぇなぁ!ちくしょう!くそがぁっ!」
アロガンは片足を庇いながら立ち上がりこちらを睨み付ける。
「本当はお前ら程度に使う気はなかったけど、気が変わった。お前たちには、特にお前には、俺の総てをかけてこの世の中を去ってもらう!」
そういってアロガンは手に持つ剣を僕の方に突きつける。
-"傲慢なる者"-
ゴオッ
瞬間、アロガンの体からこれまでとは比べ物にならないほどの殺気が撒き散らされる。
「なんだっ!?」
突然の変化に僕の口からは、そんな在り来たりな言葉しか出てこない。
「あれは、ユニークスキル・・・ダメだわ、ああなった彼には勝てないっ。」
アロガンから放たれる殺気によって顔から血の気が引いている結華が、未だに戦う意思を失わない僕の袖を引っ張る。
「私はあれを止められる人物を、私たちのリーダー以外見たことない。」
「結華。」
僕は既に腰が引け、今にも武器を投げ出しそうな結華の肩を抱く。
ピクッ
「・・・渉。」
(あぁ、結華。そんな泣きそうな顔するなよ。僕まで逃げ出したくなるじゃないか。)
そんな言葉を飲み込み、僕は結華の肩を抱く手に力を入れる。
「結華、大丈夫だ。」
-我願うは土-
僕は詠唱しながらあのアロガンに勝つ算段を探る。
「渉?」
-土は強固な壁となる-
(恐らくこれからはあれのせいで、さっきのように溜めの瞬間に出来る隙を狙うことはまず無理だろう。ならこの折れかけの剣もナイフも役に立つか怪しいな。)
-壁は総てを遮り聳え立つ-
詠唱の最終段階に入り、ふと、結華の両手に収まる懐かしき武器が目に止まる。
-"土壁封陣"-
ゾゾゾッ
詠唱が終わると地面から僕の魔力が混ざった土がゆっくりと結華の足元から上がってくる。
「結華、最後に会ったときは命を脅かす相手が毒だったから僕は無力でそれは役に立たなかったけど、今度こそそれで君を命の危機から救ってみせるよ。」
そういって、足元から迫った土で腰の辺りまで覆われた結華が何かに驚いたよう固まるその手から、二丁の拳銃をそっと借りる。
「少し窮屈だけど、少なくともその中は安全だと思う。」
何て言ったって過去にユニークスキルの攻撃を防いだからね。と僕は心の中で呟く。
「だから、信じて待っていて。」
首の高さまで土壁に覆われた結華にそういうとようやく結華が反応を見せる。
「待って!ダメだよ渉っ!本当に死んじゃうよ。」
「大丈夫だ。」
そういって僕は魔力を強める。
ゾゾゾッ
魔力に呼応するようにゆっくりと形を形成していた土壁が急速に完成に近づき、瞬く間に六畳程のドームになる。
「・・・大丈夫。」
僕は最後にそう呟き今まで動かなかったアロガンへ視線を向ける。
「ずいぶん優しいんだな。」
「俺だって別れの挨拶くらいはさせてやるさ。」
その質問にアロガンが、さもお前は死ぬといった風に返してくる。
「さて、そろそろこの世とのお別れをしろよ?」
そういってアロガンが周囲に無造作に撒き散らしていた殺気を僕に集中させる。
「っ!」
僕はその殺気に本能的な恐怖を感じ、体がすくんでいることに気がつく。
アロガンの顔を見るに向こうもその事に気がついている。
(せめて結華が逃げ切ることが出来るところまでダメージを与えて・・・いや、弱気になるな!心だけは折られるな!"精神制御"、"身体制御")
技能の発動と共に先程まで感じていた恐怖が僕の中から排除され、目の前の敵を倒すこと以外の感情を感じなくなり、体も思うがままに動かせるようになる。
「いいねぇ!何をしたのか分からないがお前の体の硬直は解けたようだな。死ぬ覚悟でも出来たか?」
僕の変化に気づいたアロガンの質問を無視して僕はいつでも動けるように構える。
「責めて十秒は持ってくれよ?はぁっ!」
ドンッ
アロガンがただ一歩踏み込むだけで、僕たちの間にあった10メートル以上の距離が無くなる。
(速いっ!)
「うぉぉっ!」
アロガンは雄叫びと共に手に持つ剣を目にも止まらぬ速度で振り抜く。
ゴォッ
だが、その剣先は僕に当たらない。
身体制御は、僕の知覚可能な速度でなら自由に体を動かすことが出来る。
つまりアロガンの攻撃が認識できる限りは僕に攻撃が当たることはない。
ガガガガンッ
攻撃を避けたことで僅かに開いた胸に僕は銃弾を撃ち込む。
「っつぁっ!」
アロガンは咄嗟に射線から飛び退くが間に合わず、胸に食らうはずだった銃弾を脇腹に食らう。
「さっきの突きのお返しだ。」
アロガンはそのまま再び大きく距離を取る。
といっても僕からしては、であってアロガンからすれば一歩の距離であることに代わりはない。
今の一連の交錯でわかったが恐らくアロガンはまだユニークスキルに振り回されている。
それでも麒麟児よりは遥かに高いレベルで使いこなしているが。
(僕に付け入る隙があるとしたらアロガンの反応速度が僕と同程度か少し遅いってことか。人は己の反応速度を越えて行動できない。このまま消耗戦で削りきってやる!)
「お前の10秒ってずいぶんと長いんだな。」
「あぁ?」
余程格下に舐められるのが気に障ったのだろう、僕の挑発にアロガンは鋭い瞳を更に細める。
「お前は跡形もなく消してやるっ!はぁっ!」
ドンッ
アロガンは再び間合いを一足で詰め、これまた同じように剣を振り抜く。
(相変わらず速い、が、なんだ?さっきよりも若干だが速度が・・・)
僕は先程より遅い斬撃に疑問を抱くがアロガンの脇腹の傷が目に入る。
(傷で動きが鈍っている?ならっ!)
ガガがガガガガンッ
僕も先程と同じように斬撃を避け、今度はアロガンが回避する瞬間まで銃弾を撃ち込む。
「つぅ!」
アロガンは再び認識できない速度で飛び退き、今度は僕の遥か後方で膝をついていた。
(そうか、わざと近づくことで負傷する範囲を狭めたのか。だが、その分傷が深いはずだ。いけるっ!)
「死ねっ雑魚がぁぁ!」
ドンッ
三度目の突撃、アロガンは何の捻りもなく、更に速度を下げて剣を振る。
「そこだっ!」
僕はこれまでの二回で覚えた感覚を元に回避後アロガンの頭部が来るであろう場所に向けて発砲しようとする。
カチッ
「っ!?」
弾切れ、その言葉が脳を過り、今度はこちらに出来た隙をアロガンは見逃さない。
「がぁっ!」
ドゴッ
「ぐはっ。」
アロガンの拳が僕の腹に叩き込まれ、今度は僕が遥か後方で膝を付く。
「ぐっ、ごほっ、がはっ!」
ビチャッ
僕は膝を付いた姿勢で地面にこれでもかと喉を上がってきた血を吐き出す。
(まずいっ、肋骨が折れたのもそうだけど、今の一撃で何かの臓器もやられた。しかも弾切れ。くそっ、完全に弾数のことを忘れてた!)
「ははっ。捉えたぞ!武器もないその状況で次は何を見せてくれる?はっはっ!」
アロガンを見ると、腕を脱力したように下げ裂けるほど口角を持ち上げ笑っていた。
(なんだ?確かに余裕を取り戻した?いや、あいつだって傷が浅い訳じゃ・・・っ!)
アロガンの態度に不信感を抱いた僕はアロガンの脇腹と肩口に与えた傷を見るが、そこで傷から血が出ていないことに気づく。
よく見ると傷口の肉が盛り上がっていた。
(くそっ、あいつ弾を出さずに傷だけ塞いだのか!後遺症とか考えないのかよっ!)
僕はアロガンのあまりの行動にまさに開いた口が塞がらない。
だが何時までも蹲っていては、いつ追撃が来るか分からないため足に力を込めて立ち上がる。
(大丈夫だ。例え骨が折れても"身体制御"がある内は痛みにさえ耐えれば問題なく動ける。魔法もある。回避しながら攻略方法を見つけてやる!それに・・・僕は負けられない。)
「お前を倒して僕は結華を守るっ!」
「そして、イザベラと平和に暮らすんだっ!」
暮らすんだっ・・・すんだっ・・・んだっ・・・
ドンッ
アロガンの後方の結華の居るドームが爆ぜ、カトラによって作られた空間が割れた・・・。
戌亥渉 18歳
称号:密航者・借金を背負う者・夢を渡る者・死を見た者・チャラ男の玩具・脱兎・耐える者・獣に認められし者・サバイバー・野生児・復讐を胸に刻む者・到達者
Rank1 0RP 3,205円 38,860TP
「ザースト:セダン」
戦闘力 279
生活力 32
学習能力 7
魔力 86
夢力 1
固有:密航
技:首狩り・投擲・乱切り・一閃・属性剣・天地断
技能:頑丈・逃げ足・自然回復(超)・簡易道具作成・隠形・気配感知・威圧・流水・危機感知・身体制御・精神制御
魔法:2級水魔法・2級土魔法・3級召喚魔法(獣)・4級魔法同時使用(2)
ザースト滞在時間1037日目
人影の内二つはそれぞれ手に持つ武器でしのぎを削っていた。
向かい合う人影の片方は、逆立てた金髪で元々鋭い瞳をさらに鋭くして目の前の敵を睨んでいた。
もう片方の人影は、耳に掛かる程度の茶色みを帯びた髪で、生来持つ優しげな瞳に剣呑な雰囲気を覗かせ、目の前の男と相対していた。
「私の事も忘れてないかしらっ!」
金髪の男の背後から、少し砂にまみれてはいるが、肩に掛かる、元は綺麗な黒だと分かる髪を持つ女性の垂れ目がちな瞳が敵をロックオンし、両手に持つ銃が火を吹く。
ガンッガンッガンッ
「鬱陶しいっ!」
ミキッ
チュチュ、チュインッ
だが金髪の男は鍔迫り合いをしながらも女性の銃撃を空いている 左手の拳で弾く。
「きゃっ!」
「結華!」
素手で弾いた弾の内、一発が黒髪の女性の足元に飛んでいく。
無論金髪の男の左手には傷一つない。
「おらっ!油断してる場合じゃねぇぞ!」
ガィンッ
「ぐっ!」
結華の悲鳴に気を取られ少し力が緩んだ瞬間、アロガンが僕を馬鹿げた力で弾き飛ばす。
「ホント、どんな化け物だよ。」
僕はアロガンに吹き飛ばされ距離が空いた為に出来た隙に痺れの残る手に視線を落とす。
手に持つ剣は今の衝撃で少し欠けていた。
(この剣って確か強度重視で鍛冶屋から貰ったやつだよな?あいつどんだけ馬鹿力だよ。もうこの剣を攻撃には使えないな。)
ゾクッ
僅かに剣に意識が行った瞬間に感じる死の予感。
本能に従い大きく横に飛びながら元いた場所に視線を向ける。
「俺を前に余所見とは余裕だなぁ!舐められてんのかぁ?」
そこにはいつの間にか距離を詰めていたアロガンが剣を振りきった状態でこちらを見ていた。
「余裕な訳無いだろっ!"首狩り"!」
「温い攻撃だなぁ!!」
ガィン
僕は右手の剣をそのままに、左手にナイフを倉庫機能から呼び出して技を放つ。
しかしその攻撃はアロガンの剣の柄でかちあげられ上へと流され、重心が持っていかれる。
(こいつ、ただの脳筋じゃないっ。)
「ガラ空きだぜっ!」
ヒュッ
力業から一転、研ぎ澄まされた刺突が無防備な腹部に迫る。
「くっ!」
「渉!」
ガガンッ
スパッ
僕の腹部に迫るアロガンの突きを結華から放たれた弾丸が捉え、突きは脇腹を掠めていく。
「鬱陶しいなぁ!雑魚は寝てろよぉっ!」
アロガンは突きを外されながらも体勢を保ちつつ、未だ体勢が立て直せていない僕から意識を外し、先に邪魔な結華を排除しに掛かるため少し足に力を溜める。
(ここだっ!"身体制御"、"一閃"!)
ザシュッ
「ぐっ!」
ドッ、ズザザッ
僕は技能により強制的に体勢を立て直し、アロガンの意識が自分に向いていないことを良いことに、溜め中の足を薙ぐ。
結果、アロガンの溜めは中途半端になり結華と僕の中間辺りで転倒し、更に足の傷で機動力を失う。
「渉、今のは?」
その隙に近くに寄って来た結華が僕の不自然な体勢制御について訊ねる。
「いってぇなぁ!ちくしょう!くそがぁっ!」
アロガンは片足を庇いながら立ち上がりこちらを睨み付ける。
「本当はお前ら程度に使う気はなかったけど、気が変わった。お前たちには、特にお前には、俺の総てをかけてこの世の中を去ってもらう!」
そういってアロガンは手に持つ剣を僕の方に突きつける。
-"傲慢なる者"-
ゴオッ
瞬間、アロガンの体からこれまでとは比べ物にならないほどの殺気が撒き散らされる。
「なんだっ!?」
突然の変化に僕の口からは、そんな在り来たりな言葉しか出てこない。
「あれは、ユニークスキル・・・ダメだわ、ああなった彼には勝てないっ。」
アロガンから放たれる殺気によって顔から血の気が引いている結華が、未だに戦う意思を失わない僕の袖を引っ張る。
「私はあれを止められる人物を、私たちのリーダー以外見たことない。」
「結華。」
僕は既に腰が引け、今にも武器を投げ出しそうな結華の肩を抱く。
ピクッ
「・・・渉。」
(あぁ、結華。そんな泣きそうな顔するなよ。僕まで逃げ出したくなるじゃないか。)
そんな言葉を飲み込み、僕は結華の肩を抱く手に力を入れる。
「結華、大丈夫だ。」
-我願うは土-
僕は詠唱しながらあのアロガンに勝つ算段を探る。
「渉?」
-土は強固な壁となる-
(恐らくこれからはあれのせいで、さっきのように溜めの瞬間に出来る隙を狙うことはまず無理だろう。ならこの折れかけの剣もナイフも役に立つか怪しいな。)
-壁は総てを遮り聳え立つ-
詠唱の最終段階に入り、ふと、結華の両手に収まる懐かしき武器が目に止まる。
-"土壁封陣"-
ゾゾゾッ
詠唱が終わると地面から僕の魔力が混ざった土がゆっくりと結華の足元から上がってくる。
「結華、最後に会ったときは命を脅かす相手が毒だったから僕は無力でそれは役に立たなかったけど、今度こそそれで君を命の危機から救ってみせるよ。」
そういって、足元から迫った土で腰の辺りまで覆われた結華が何かに驚いたよう固まるその手から、二丁の拳銃をそっと借りる。
「少し窮屈だけど、少なくともその中は安全だと思う。」
何て言ったって過去にユニークスキルの攻撃を防いだからね。と僕は心の中で呟く。
「だから、信じて待っていて。」
首の高さまで土壁に覆われた結華にそういうとようやく結華が反応を見せる。
「待って!ダメだよ渉っ!本当に死んじゃうよ。」
「大丈夫だ。」
そういって僕は魔力を強める。
ゾゾゾッ
魔力に呼応するようにゆっくりと形を形成していた土壁が急速に完成に近づき、瞬く間に六畳程のドームになる。
「・・・大丈夫。」
僕は最後にそう呟き今まで動かなかったアロガンへ視線を向ける。
「ずいぶん優しいんだな。」
「俺だって別れの挨拶くらいはさせてやるさ。」
その質問にアロガンが、さもお前は死ぬといった風に返してくる。
「さて、そろそろこの世とのお別れをしろよ?」
そういってアロガンが周囲に無造作に撒き散らしていた殺気を僕に集中させる。
「っ!」
僕はその殺気に本能的な恐怖を感じ、体がすくんでいることに気がつく。
アロガンの顔を見るに向こうもその事に気がついている。
(せめて結華が逃げ切ることが出来るところまでダメージを与えて・・・いや、弱気になるな!心だけは折られるな!"精神制御"、"身体制御")
技能の発動と共に先程まで感じていた恐怖が僕の中から排除され、目の前の敵を倒すこと以外の感情を感じなくなり、体も思うがままに動かせるようになる。
「いいねぇ!何をしたのか分からないがお前の体の硬直は解けたようだな。死ぬ覚悟でも出来たか?」
僕の変化に気づいたアロガンの質問を無視して僕はいつでも動けるように構える。
「責めて十秒は持ってくれよ?はぁっ!」
ドンッ
アロガンがただ一歩踏み込むだけで、僕たちの間にあった10メートル以上の距離が無くなる。
(速いっ!)
「うぉぉっ!」
アロガンは雄叫びと共に手に持つ剣を目にも止まらぬ速度で振り抜く。
ゴォッ
だが、その剣先は僕に当たらない。
身体制御は、僕の知覚可能な速度でなら自由に体を動かすことが出来る。
つまりアロガンの攻撃が認識できる限りは僕に攻撃が当たることはない。
ガガガガンッ
攻撃を避けたことで僅かに開いた胸に僕は銃弾を撃ち込む。
「っつぁっ!」
アロガンは咄嗟に射線から飛び退くが間に合わず、胸に食らうはずだった銃弾を脇腹に食らう。
「さっきの突きのお返しだ。」
アロガンはそのまま再び大きく距離を取る。
といっても僕からしては、であってアロガンからすれば一歩の距離であることに代わりはない。
今の一連の交錯でわかったが恐らくアロガンはまだユニークスキルに振り回されている。
それでも麒麟児よりは遥かに高いレベルで使いこなしているが。
(僕に付け入る隙があるとしたらアロガンの反応速度が僕と同程度か少し遅いってことか。人は己の反応速度を越えて行動できない。このまま消耗戦で削りきってやる!)
「お前の10秒ってずいぶんと長いんだな。」
「あぁ?」
余程格下に舐められるのが気に障ったのだろう、僕の挑発にアロガンは鋭い瞳を更に細める。
「お前は跡形もなく消してやるっ!はぁっ!」
ドンッ
アロガンは再び間合いを一足で詰め、これまた同じように剣を振り抜く。
(相変わらず速い、が、なんだ?さっきよりも若干だが速度が・・・)
僕は先程より遅い斬撃に疑問を抱くがアロガンの脇腹の傷が目に入る。
(傷で動きが鈍っている?ならっ!)
ガガがガガガガンッ
僕も先程と同じように斬撃を避け、今度はアロガンが回避する瞬間まで銃弾を撃ち込む。
「つぅ!」
アロガンは再び認識できない速度で飛び退き、今度は僕の遥か後方で膝をついていた。
(そうか、わざと近づくことで負傷する範囲を狭めたのか。だが、その分傷が深いはずだ。いけるっ!)
「死ねっ雑魚がぁぁ!」
ドンッ
三度目の突撃、アロガンは何の捻りもなく、更に速度を下げて剣を振る。
「そこだっ!」
僕はこれまでの二回で覚えた感覚を元に回避後アロガンの頭部が来るであろう場所に向けて発砲しようとする。
カチッ
「っ!?」
弾切れ、その言葉が脳を過り、今度はこちらに出来た隙をアロガンは見逃さない。
「がぁっ!」
ドゴッ
「ぐはっ。」
アロガンの拳が僕の腹に叩き込まれ、今度は僕が遥か後方で膝を付く。
「ぐっ、ごほっ、がはっ!」
ビチャッ
僕は膝を付いた姿勢で地面にこれでもかと喉を上がってきた血を吐き出す。
(まずいっ、肋骨が折れたのもそうだけど、今の一撃で何かの臓器もやられた。しかも弾切れ。くそっ、完全に弾数のことを忘れてた!)
「ははっ。捉えたぞ!武器もないその状況で次は何を見せてくれる?はっはっ!」
アロガンを見ると、腕を脱力したように下げ裂けるほど口角を持ち上げ笑っていた。
(なんだ?確かに余裕を取り戻した?いや、あいつだって傷が浅い訳じゃ・・・っ!)
アロガンの態度に不信感を抱いた僕はアロガンの脇腹と肩口に与えた傷を見るが、そこで傷から血が出ていないことに気づく。
よく見ると傷口の肉が盛り上がっていた。
(くそっ、あいつ弾を出さずに傷だけ塞いだのか!後遺症とか考えないのかよっ!)
僕はアロガンのあまりの行動にまさに開いた口が塞がらない。
だが何時までも蹲っていては、いつ追撃が来るか分からないため足に力を込めて立ち上がる。
(大丈夫だ。例え骨が折れても"身体制御"がある内は痛みにさえ耐えれば問題なく動ける。魔法もある。回避しながら攻略方法を見つけてやる!それに・・・僕は負けられない。)
「お前を倒して僕は結華を守るっ!」
「そして、イザベラと平和に暮らすんだっ!」
暮らすんだっ・・・すんだっ・・・んだっ・・・
ドンッ
アロガンの後方の結華の居るドームが爆ぜ、カトラによって作られた空間が割れた・・・。
戌亥渉 18歳
称号:密航者・借金を背負う者・夢を渡る者・死を見た者・チャラ男の玩具・脱兎・耐える者・獣に認められし者・サバイバー・野生児・復讐を胸に刻む者・到達者
Rank1 0RP 3,205円 38,860TP
「ザースト:セダン」
戦闘力 279
生活力 32
学習能力 7
魔力 86
夢力 1
固有:密航
技:首狩り・投擲・乱切り・一閃・属性剣・天地断
技能:頑丈・逃げ足・自然回復(超)・簡易道具作成・隠形・気配感知・威圧・流水・危機感知・身体制御・精神制御
魔法:2級水魔法・2級土魔法・3級召喚魔法(獣)・4級魔法同時使用(2)
ザースト滞在時間1037日目
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