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TraumTourist-夢を渡るもの-

舘伝斗

1-6 VS麒麟児

 一週間の逃げ場のない野性動物たちとのサバイバル生活。
 ・・・これがキツかった。

 まず寝る間がない。
 獣たちも休息は摂るが奴らは昼行性の獣と夜行性の獣とで波状的に襲いかかってくる。

 召喚魔法由来だから数は減る一方だったけれど、野生の魔物が度々乱入してくるから辛いのなんの。

 召喚獣は倒すと消えるから食料の調達は野生の獣か果実だから乱入がなければ食料がないし、かといって乱入が多ければ死にかけるわでなんとも言いがたいジレンマだった。

 そんな地獄を乗り越え、というか僕ってまだこの世界に来て10日程しか経ってないのに命の危機に晒され過ぎじゃない?

 願わくば麒麟児きりんじとの勝負の後、50年ほど平和でありますように!


 と、そんな愚痴をガッツさんに垂れつつ僕たちが向かっているのはギルドの屋外訓練所。

「はぁ、憂鬱だ。何であんな厄介者麒麟児に絡まれることになったのか・・・」

「いや、なんというか、すまん。私のせいで。」

「あー、いや、別にイザベラさんを攻めるつもりはこれっぽっちも無いんですよ。」

 僕の口から漏れた不満を聞いたイザベラさんが力無く項垂れるのを慌ててフォローする。

「まぁいいじゃねぇか!確かに辛かったんだろうがそのお陰でわたるは力をつけられたんだろ?」

 ガッツさんは暗くなった雰囲気を払拭しようとバンバンと力強く僕の背中を叩く。

「まぁそれはそうですけど・・・」

 そう、確かに僕はこの一週間で驚くほど力をつけた。



 戦闘力  75
 生活力  14
 学習能力 5
 魔力   21
 夢力   1

 固有:密航

 技術:首狩り・投擲・乱切り・一閃

 技能:頑丈・逃げ足・自然回復(中)・簡易道具作成・隠行・気配感知・威圧・流水・危機感知

 魔法:3級水魔法・4級土魔法・5級召喚魔法(獣)・5級魔法同時使用(2)




 それこそ既にガッツさん戦闘力62なら余裕であしらえるくらいには。
 まぁ本人には言わないけど。

「そろそろ時間じゃないか?わたる、準備できてるか?」

 僕がガッツさんと話しているとカトラが今すぐにでも始めたそうにしている麒麟児きりんじを指差して言う。

「はぁ、ホントは嫌なんだけどな。」

「ふん!今更怖じ気づいたのか?」

 僕の呟きに目敏く、耳敏く?麒麟児きりんじが反応する。

「わかったよ。やるよ。やればいいんだろ?」

 その態度にイラッと来た僕はなげやりに答える。

「はじめからそう言えばいいんだ!じゃあ始めるか!神への祈りは済ませたか!」

 何でこいつはこんなに元気なんだろう。
 あ、好きな相手の前で力を見せつけられるからか。
 そう考えつつも僕は審判をしてくれる受付のおばちゃんに目配せすると麒麟児きりんじに向けて手を向ける。

「その前に!ひとついいか?」

「・・・今更命乞いは聞かないぞ?」

「いや、そうじゃなくてさ、今回の戦いって麒麟児きりんじが勝ったらイザベラさんにアピールできるっていうメリットがあるだろ?でも僕が勝っても何もメリットがなくないか?」

 僕の言葉に麒麟児きりんじは眉を潜める。

「ほう、俺に勝つつもりでいるのか?だが、そうだな。万が一、いや億が一俺に勝てたとして何が望みだ?」

 麒麟児きりんじの言葉に僕とカトラは内心ほくそ笑む。
 すなわち、掛かったな!と。

「いや、別に大したことじゃない。この勝負を殺し合いって形じゃなく決闘って形にして欲しいんだ。」

「決闘だと?はっ!つまり殺されたくないから決闘にして止めを刺されないようにってことか?ふんっ、所詮は雑魚か。まぁいいだろう。その決闘受けようじゃないか!」

 僕は小さくガッツポーズを取る。

「だが、決闘というからには何か掛けるんだろう?お前は何が望みだ?」

「僕の望みはこれまでに麒麟児きりんじが稼いだTPだ。」

 僕の言葉にTPを知らないガッツさん、イザベラさん、グリンデさん、受付のおばちゃんは首をかしげる。

「はっはっはっ、何を要求するのかと思えばあんな何の役にも立たない物が望みか。まぁ、いい。だがそちらが決闘を提示してきたと言うことはお前にも何か俺の望むものを掛けてもらわないとなぁ。」

 そういうと麒麟児きりんじは嫌らしい目付きでイザベラさんを見る。
 イザベラさんはその視線を受け、表情は動かさないものの耳と尻尾を逆立てる。

「俺が望むものはイザベラだ!」

「ちょっと待てよ。イザベラさんは別に僕の物じゃない!僕が負けたらイザベラさんが無条件でお前の者になるなんて・・・」

「いや、いいだろう!」

 僕が麒麟児きりんじの提案を断ろうとするとその言葉を遮るようにイザベラさんが声をあげる。

「イザベラさん?」

わたる、お前は麒麟児きりんじに勝つ自信があるんだろう?」

 イザベラさんの言葉に僕は一つ頷く。

「・・・はい。勝ちます。」

「ならこうなったせめてもの詫びに私は進んで景品となろう!」

 イザベラさんはそういうとその場に座り込もうとし。

「イザベラさん。
 我願うは土
 土は椅子となり
 椅子は高貴に彩られる
 "椅子創造クリエイトチェア"」

 完全に座るまえに僕の魔法で競り上がってきた飾りの付いた椅子に腰を落ち着ける。

「景品なら地面よりその椅子の方が似合ってますよ。」

「あ、あぁ、すまない。」

 僕の言葉にイザベラさんは少しあたふたとする。
 おい、そこ、カトラ、ロット、ガッツさん、グリンデさん、受付のおばちゃん、ニヤニヤするな。

「待たせたね、じゃあそろそろ、くっ!」

 始めようか。と麒麟児きりんじに言おうとするととてつもない危機を感じ即座にその場を飛び退く。
 すると僕が今まで立っていた足元から無数の土槍が生えていた。

「おい、麒麟児きりんじ!」

 僕はその土槍の犯人に向けて声をあげる。

「人を放ったらかしにしておいて俺の女に色目使うとはいい度胸だな!これは決闘だが事故死も覚悟しやがれっ!!
 我願うは風
 風は集い旋風となり
 我意に従い仇敵を切り刻め!
 "暴風ストーム"」

 麒麟児きりんじから5メートル級の竜巻が放たれる。

「まずいよ!あんたたち、巻き添えになりたくなかったら・・・」

「我願うは障壁
 其の役割は保護
 我領域を包み込め
 "隔絶領域サンクチュアリ"」

 受付のおばちゃんが、離れな!と言い切る前にカトラの十八番、結界魔法が発動し屋外訓練所の8割方を包み込む。
 勿論その中に僕と麒麟児きりんじが居り、外にみんなが居る形だ。

「なんだい!こんな魔法は聞いたことがない!魔法は四属性のみのはずなんじゃないのかい!?」

「・・・そんなことよりも、審判が目を離してもいいのか?」

 受付のおばちゃんの言葉に言外に追求するなと言ったカトラは中の様子に注目する。





 障壁の中では魔法を連発して疲労気味の麒麟児きりんじとナイフを片手に無傷の僕が立っていた。

「くっ、逃げるのは上手いようだな!
 我願うは火
 火は竜になる
 竜の牙にその身を焦がせ!
 "火竜焦牙ドラゴンファング"」

 麒麟児きりんじから次々と放たれる魔法を僕はこの一週間で新たに得たスキル、流水で受け流していく。
 このスキルは僕の認識できる攻撃であれば全て受け流し、避けられるという常時発動型の回避スキルだ。

「ふっ!」

 シュルン

 僕は向かってくる火で出来た竜の頭をナイフの先端を滑らせるように当て、後方へ受け流す。

「くそっ!何でこんな雑魚にの魔法が当たらないんだ!
 我願うは土
 土は・・・」

「口調が乱れてるぞ麒麟児きりんじ
 我願うは水
 水は熱を帯び
 蒸気と化し我敵を弾け
 "水蒸気爆発ウォーターバルーン"」

 怒りで冷静でない麒麟児きりんじの詠唱を上回る速度で僕は詠唱を完成させる。
 完成した魔法は不可視のまま麒麟児きりんじに近づき眼前で牙を剥く。

 パァーン

「ぐわっ!」

 詠唱中という無防備な状態で爆風を受けた麒麟児きりんじはダメージは見られないが大分頭に来ているようだ。

「こ、この僕がお前みたいな雑魚にここまで手擦るなんて!僕は史上最年少の特級なんだぞっ!」

「そんなことは今は関係ない!目の前の現実を受け入れろ!お前は格下と侮った奴に無様に尻餅をつかされているんだよ!」

 僕の言葉で麒麟児きりんじの顔は赤を通り越して白くなる。

「僕が・・無様?ははっ、無様、無様ね。そうだな・・・なら本気で相手してあげるよ!!
 我願うは全
 森羅万象を司り」

 ゾクッ

 麒麟児きりんじの詠唱に危機感知が最大限警鐘を鳴らすのに従い僕は全魔力を注ぎ込み防御を固める。

「我願うは土
 土は強固な壁となる
 壁は総てを遮り聳え立つ!
 "土壁封陣"」

 麒麟児きりんじより早く魔法を完成させた僕を土が覆い隠し注いだ魔力の分だけより強固に圧縮される。

「我仇敵に神の威を示せ!
 "四神の暴威カトロディザスター"」

 僕の魔法が完成すると同時に麒麟児きりんじの詠唱が完成し、麒麟児きりんじから火、水、風、土の四属性全ての攻撃が無数に放たれ土壁に殺到する。

 ガガガガッ

「ぐっ!」

 麒麟児きりんじの魔法は容赦なく土壁を抉りとり、内へ内へと向かってくる。
 僕も負けじと魔力を追加して削られたそばから土壁を補強する。

「はぁぁぁあ!!」

「うぉぉぉお!!」

 麒麟児きりんじと僕の均衡は僕の予想よりはるかに早く訪れる。

 ガガガガッ、ガッ、ガガッ
 ボコッ

 僕の土壁が僅かに破られ、外の光景が目に飛び込んできたとき、僕は驚愕する。

 僅かに開いた穴から見えた光景は、麒麟児きりんじの魔法によって荒野のごとく荒れ果てた訓練所と、その中に佇むこちらに片手を向けた形の人型の炭・・・・であった。








「我仇敵に神の威を示せ!
 "四神の暴威カトロディザスター"」

 麒麟児きりんじの詠唱に合わせておおよそ人の操ることができる許容量を越えた魔力が集まる。

「・・・アイツまさか自滅する気か?」

 麒麟児きりんじに集まる魔力量を見てグリンデが焦る。

 たしかにあれは誰の目から見ても麒麟児きりんじに扱いきれる魔力ではないだろう。
 で、あるにも関わらず麒麟児きりんじがあそこまで魔力を集めた理由はやはり・・・

「あやつのユニークスキルかの?」

「まぁ、そういうことでしょうね。といってもあの様子じゃとても扱いきれているとは言いがたいですがね。」

 俺の予想をお嬢様が代弁するかのように口にする。
 恐らく麒麟児の持つユニークスキルは保有魔力以上の魔力を操れる類いのものだろう。

わたるにあれが耐えきれるかのう?」

 お嬢様が麒麟児きりんじの集める魔力を目にしてわたるの心配をする。
 俺はその言葉にチラリとわたるの生み出した土壁を見る。

「まぁ大事には至らないでしょうね。まず第一にあの魔法を操るには麒麟児きりんじの魔力が低すぎる。それに、俺の目から見てもわたるの成長は異常です。」

 そう、わたるの成長速度は異常だ。
 普通の夢を渡る者ツーリストなら一週間召喚獣と殺し合わせても精々戦闘力が10上がるかというところだ。
 俗に言う天才に含まれる俺やお嬢様を以てしても一週間だと20が限度だろう。

 だがわたるはその更に1.5倍である30も上げてみせた
 この世界に来てからの3日間もそうだ。
 あそこまで追い込むとあの戦闘力なら半日も持たないはずがわたるは3日間やり遂げてみせた。

 この現象はユニークスキルか神器でしか説明がつかないが、わたるのユニークスキルは密航とかいう用途不明のスキルだけだと聞いたし神器も蓄積の指輪しか持っていないはずだ。

「あ、わたるの土壁が!?」

 俺の考察はお嬢様の悲痛な声で中断させられる。

「・・・いえ、大丈夫ですよ。麒麟児きりんじの魔力はもう空です。というよりもう生命力も・・・」

 結界のなかに広がる光景は土壁の一部を壊されつつもまだ余力が見られるわたると、その少し離れた正面に立つ麒麟児きりんじだった燃え滓のみ。

 麒麟児きりんじは"四神の暴威カトロディザスター"を発動した瞬間から結界中に文字通り無差別に魔法を放っていた。

 ・・・わたるの土壁を削りきる前に己の魔法で死ぬとはな。

麒麟児きりんじとてこのような世界に放り込まれなければもう少しマシな人生を歩めたろうに。」

「こんな世界に放り込まれなければ、か。確かにそうですね。半分は自業自得だとしても力に溺れなければこうはならなかったでしょうね。・・・俺の兄も。」

「・・・すまん。嫌なことを思い出させたな。」

「いや、構いませんよ。それよりそろそろわたるもこの状況の説明が欲しいでしょうし結界を解きましょうか。」

 俺が少し念じると屋外訓練所を包んでいた結界は呆気なく消え去る。
 消えると同時に一瞬、ほんの一瞬だけ肉の焼けた臭いが漂い顔をしかめるがすぐに切り替えわたるの元へみんなで向かい、勝利の宴をささやかながら行うのだった。










 戌亥いぬいわたる 16歳  
 称号:密航者・借金を背負う者・夢を渡る者・死を見た者・チャラ男の玩具・脱兎・耐える者・獣に認められし者・サバイバー・野生児
 Rank1 0RP 3,205円 38,520TP
「ザースト:ベヴォーナ」
 戦闘力  45+32
 生活力  11+3
 学習能力 5
 魔力   8+17
 夢力   1

 固有:密航

 技:首狩り・投擲・乱切り・一閃

 技能:頑丈・逃げ足・自然回復(中)・簡易道具作成・隠行・気配感知・威圧・流水・危機感知

 魔法:3級水魔法・3級土魔法・5級召喚魔法(獣)・5級魔法同時使用(2)



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