TraumTourist-夢を渡るもの-
1-4ロットの実力
「全員、かい?」
カトラの言葉に受付のおばちゃんは戸惑う。
・・・特に僕の方を見て。
ま、まぁこの中では最弱だと思うけどさぁ、あからさまに見すぎでしょ。
「まぁ経験だな。どのくらいの実力があればどのランクまでいくのか知りたいし。」
嘘だっ!
僕は心のなかでカトラに突っ込む。
こいつ絶対に三人のなかで僕だけ大したことない的な空気にしたいだけだろ。
「ま、私としても仕事柄頼まれたら断れないからね。でもランクが上がるかどうかはあんたたちの実力次第だよ?」
僕が受付のおばちゃんに送っている断れという念も届かず許可してしまった。
くそっ、ここに味方はいないのか。
時間がかかっても5級からゆっくり進めば良いじゃないか。
「丁度1級のギルド員がいるから頼んでくるよ。先に訓練所に行って待っててくれるかい?」
「わかった。」
そういうと受付のおばちゃんはギルド員が何人かたむろしているところへと向かって歩いていく。
多分あそこの誰かが、若しくは皆が1級ギルド員なんだろう。
「渉ー、いくぞー。」
カトラの声に僕は渋々訓練所と書かれた扉へと向かっていくことにした。
訓練所というと野外なイメージを持っていたが、扉を出るとそこは以外にも屋内だった。
しかも広さは野球場がすっぽり入りそうなほどだ。
「訓練所って屋内なんだな。」
どうやらカトラも同じことを思っていたらしく僕が心の中で考えていたことを声に出す。
「どうやらそうでもないようじゃぞ?ほれ、あそこを見てみい。」
ロットの指差す方向を見るとそこには今僕たちが入ってきた扉以外にもうひとつの扉があり、その先から外の日差しが入り込んできていた。
「どうやら屋内と屋外の二ヶ所あるみたいだね。予想より広いな。」
「確かに、この街が特別なのか他の街のギルドもこの規模なのか。」
「他のギルドはここまで大きな訓練所はないぞ?」
僕たちが扉の近くで話していると後ろからそんな声が聞こえてくる。
振り替えるとそこには真っ黒に日焼けしたスキンヘッドのいかにも重戦士ですといった風体の男とその男の仲間であろうハーフプレートに槍を携えた犬耳の女、エルフのような尖った耳をもつローブの男が立っていた。
すぐ後ろにさつきの受付のおばちゃんがいるところを見るとこの人たちが今回の試験官なのだろう。
「見たことねぇが、あんたらだな?入って早々全員が実力の確認をして欲しいって言った自信家は。」
「ふん、どうせ身の程を知らない子供だろう。ギルド員はそこまで甘くないというところを見せてやる。」
「・・・。」
「はいはい、ガッツさん、模擬戦はすぐ始めるから先に自己紹介からしてくれないかねぇ?」
今すぐにても戦闘を開始したそうだったスキンヘッドの男と犬耳の女を受付のおばちゃんが苛める。
「おぅ、そうだったな。俺はガッツ。見ての通り戦士で1級ギルド員だ。」
「同じく1級ギルド員のイザベラだ。誇り高き狼人族の戦士として、そしてお前たちの先輩として模擬戦は手を抜くつもりはない。」
「・・・同じく1級。グリンデ。」
「ズィノバーロットじゃ。今回は妾が魔法を使えるということの確認が発端であってこの二人はそのついでじゃ。決して本人が慢心しての行動ではないとご理解いただきたい。」
ロットはそういってちらりと犬耳いや、狼耳の女、イザベラさんへと視線を向ける。
「りょうかいした。」
「では次は私ですね。私はこちらのお嬢様の護衛を任されています、カトラムルスと申します。お嬢様共々お見知りおきください。」
カトラはお前だれだよと叫びたくなるほど優雅に自己紹介する。
いや、そういえば僕との初対面のときもそこそこ礼儀正しかったか。
「あー、僕は戌亥渉です。この二人はランクアップできるかもしれないですけど僕は5級程度の実力だと自覚しているのであまり厳しくしないでくださいね。」
僕は取り敢えずヤル気満々の先輩方が本気で来ないよう先に事実を述べる。
「それじゃあ晩御飯の時間も近いし早速始めようか。まずはロットちゃんからね。」
受付のおばちゃんがそういうとエルフの男、グリンデさんが一歩進み出る。
「妾は何をすればよいのじゃ?流石にその男と模擬戦をしろと言われても無理じゃぞ?」
「いやいや、魔法がどの程度使えるのかを知りたいだけだから一度グリンデさんに向けて魔法を放ってもらって、次にその威力をもとにグリンデさんが魔法を放つからそれをロットちゃんがレジストする。その威力や精度でどのランクなのかを判断するんだよ。」
「わかったのじゃ。ではグリンデ殿、よろしくじゃ。」
「・・・あぁ。」
二人は言葉を交わし少し離れたところへ行き、向かい合うように立つ。
「・・・では最高威力の魔法を撃ってみろ。」
グリンデさんはそういうと魔力が低い僕でもわかるほど濃密な魔力の壁を展開する。
「本気でかの?」
ロットは本気で、と言われ困った顔でこちらを、というよりカトラを見る。
するとカトラは嫌らしい笑みを浮かべて頷く。
あ、こいつ絶対あの程度じゃロットの魔法は防げないとか考えてるな。
というか魔法のことは分からないけどあのレベルの障壁でもロットの魔法は防げないのか。
「ではいくぞ。」
「我、願うは真紅なる炎
炎は酸を帯びて蒼火となり密度を高めて白炎と化し
白炎は全てを灰塵と帰す」
ロットの手に現れた火の玉は詠唱が進む毎に大きくなり、色を赤から蒼、白へと変えていく。
あれ?あの熱量だったら障壁とか関係なく物理的に燃え尽きるんじゃね?
他の皆を見ると僕と同じ考えなのか開いた口が塞がらないと言った風にポカンとしている。
・・・カトラを除いて。
「白炎、蛇となりて敵を焼き殺せ!白炎火・・・」
「ストッープ!!ロットストップ!グリンデさん死んじゃうから!焼き殺せって言っちゃってるよ!」
ロットの詠唱が完成する間際に僕はつい制止の声をあげる。
その声に我に帰った他の人たちも慌て出す。
「なんだ、今の魔法は。見たこともないほど魔力が圧縮されてたぞ。」
「こりゃまたとんでもない大型ルーキーが入ってきたねぇ。」
「おーい、グリンデ。大丈夫か?グリンデ?・・・くそっ、こいつ気絶してやがる!おい、イザベラ。グリンデを端に寄せるの手伝え。」
イザベラさん、受付のおばちゃんの言葉に反応しなかったグリンデさんはどうやら気を失ってしまったようだ。
「ロットちゃんは文句なしに1級にも上げられるけれど1級からは筆記の試験もあるからねぇ。2級までにしておこうかね。」
なるほど、さっき受付で聞いた2級からは試験があるっていうのは筆記のことだったのか。
「グリンデも壁際に寄せたし次はどっちがやる?」
ガッツさんの言葉にカトラは僕の方を見る。
・・・あぁ、先にどうぞってか?
「じゃあ次は僕で。」
「お前か。なら私が相手しよう。軟弱な男の性根を叩き善き戦士を育てるのも戦士の仕事だ。」
そういってイザベラさんが槍を握り直し進み出る。
「えーっと、実力の確認も一発ずつ打ち合うだけって・・・」
「そんなわけないだろう。魔法と違って何度も打ち合わなければ実力なんて分からん。安心しろ、殺しはせん。」
ですよねー。
はぁ、なんでこんなことになってるんだろ。
・・・あぁ、カトラのせいか。
そう思いチラッとカトラの方を見るとそこには何時もの嫌らしい笑顔を浮かべたカトラが。
ブチッ
何かが切れる音が聞こえた気がした。
そうだ、今思えば僕がこの世界に来てから被った苦労は全てこいつのせいじゃないか。
カトラが真面目ならば、僕はここでイザベラさんに叩きのめされそうになることもなかったし、今日までの3日間魔物と追いかけっこすることもなかったじゃないか。
そう考えたら沸々と怒りが沸き上がってきたぞ。
相手のイザベラさんは確かに強いだろうが、この世界の戦闘力の平均の20倍であるカトラよりは遥かに弱いはずだ。
イザベラさん、すいませんが少し八つ当たりさせてもらいます!
「覚悟は決まったようだな。なら実力で示して見せろ!」
「いきますっ!」
僕は魔物との戦闘を思いだし先手必勝とばかりに技を放つ。
「首狩り!」
僕は一歩目の踏み出しからトップスピードに乗り、イザベラさんの首へと愛用のナイフの峰の部分で斬りかかる。
「っ、ふん!」
イザベラさんは予想外の速度に目を見開きつつも巧みな槍捌きでナイフを打ち払いその反動を使って石突きを僕に向けて放つ。
だが石突きは僕には届かない。
自慢じゃないが回避には自信がある。
そこからは僕の首狩りをイザベラさんが弾き、そのカウンターを僕が避けるというある意味千日手のような状況が出来上がる。
ガィンッ
するとイザベラさんは一番の力で僕を弾き大きく距離を開けさせる。
「なかなか回避が上手いが、技が一つしかないのはいただけないな。油断を誘っているのか?」
「回避には自信があるものでね。それと技に関してですが、秘密ですよ。」
-我、願うは清涼なる水-
流石にこんなに注目されてる中で首狩りしか出来ませんなんて言えないからな。
「そうか、なら今度はこちらからいくぞ!」
-水は臭を帯びて我が敵に纏う-
イザベラさんはそう言うと槍を後ろに引きながら向かってくる。
「乱突き!」
イザベラさんの手がぶれたかと思うとそこから複数の突きが迫ってくる。
それを僕はいくつか掠りながら最後の詠唱を完成させる。
「臭悪なる水よ、我が敵を包め!悪臭なる水衣!」
乱突きを避けられ次の技を放とうとするイザベラさんに僕の水魔法が直撃する。
「ふん、この程度の水など足止めに、すら、ぐっ!」
ガラン、ガランッ
ふっふっふっ、狼のように鼻が利くなら辛かろう。
何せこの魔法は地球のシュールストレミングの匂い、もとい臭いが元だからな!
僕のあまりに極悪な魔法はイザベラさんだけでなく周囲にも被害を及ぼし始める。
「イザベラ、どうしたんだ!んがっ、なんだ!?この臭いは!」
「これはっ!渉もなかなか。狼人族相手に極悪なことをする。」
「なんだい、この臭いは。ゾンビの腐臭ですらここまでひどくないっていうのに!」
「おげぇぇぇ!」
正に訓練所は阿鼻叫喚である。
ん?僕は大丈夫なのかって?
水の魔法で空気を閉じ込めた水球を複数個作ってそこから空気を得ているから呼吸に周囲の空気は必要ないね!
え?何どうしたの?臭いの?頑張れーと言う感じである。
「私の敗けだ!うぷっ、だから、この魔法をうっ、解いてくれ!おげぇぇぇ!」
うん、それ無理。
だって風魔法が使えないんだもの。
「我、願うは涼やかなる風
風は彼の者に纏わり付く悪を打ち払い
彼の者の汚れを打ち払わん!風精の息吹!」
僕がこの阿鼻叫喚をどうするかと考えていると、訓練所と受付を繋ぐ扉からものすごい風が吹き荒れ臭いを訓練所の外の遥か上空へと拐う。
「おいおい、誰だよ!俺の将来の花嫁候補にこんな醜態晒させた奴は!」
そこにはイケメンだがどこか女を見る目が嫌らしい男が立っていた。
「あ、麒麟児零さん。特級である貴方が何故ここに?」
「あぁ?俺の嫁がピンチになったら駆けつけるのは当たり前だろうがよ。で?どいつが犯人だ?」
麒麟児と呼ばれた男は受付のおばちゃんに一瞥くれこの阿鼻叫喚の原因を探っている
というかいつの間にか嫁候補から嫁に変わってるし
「イザベラさん、あのあとで申し訳ないんですがあの人は?」 
「麒麟児零、登録から一年という異例の早さで特級ギルド員に成り上がった奴だ。」
「イザベラさんが嫁候補っていうのは?」
「奴の妄言だ。狼人族は誇り高き戦士としか番にならん。」
そんな話をしているとこちらに向かってくる気配がした。
顔をあげるとそこにはカトラとロットが立っていた。
「渉、奴はほぼ100%夢を渡る者だ。戦闘力も100そこそこだろうし奴から搾り取ろうぜ。」
こいつは何を言っているんだろうか。
戦闘力が39しかない、あ、45に上がってる。
45しかない僕に戦闘力が100を超えているだろうあいつに決闘で勝ってTPを巻き上げろとか正気とは思えないね。
「倍も離れてるなら勝てないだろ。第一・・・」
「ほほう、俺の嫁に醜態を晒させた相手はどんなやつかと思えばこんなひ弱そうな男だったとはな。」
僕の言葉を遮って麒麟児が話しかけてくる。
「おい、お前。俺の嫁のイザベラに手を出したんだ。死んでも文句は言わないよな?」
「お前の嫁になった覚えはない。」
「すぐなるさ。」
麒麟児はフッとキザったらしく鼻をならしイザベラの胸を見る。
あ、こいつヤることしか考えてないな。
夢を渡る者ってこんなのばっかりだったら嫌だぞ。
「お前も見たところ夢を渡る者だな?」
そういって麒麟児は僕の腕に、正確には腕についた腕時計に視線を落とす。
「そうだよ。ニュービーだけどな。」
「ふっ、やはりな。その貧相な雰囲気からそうなんじゃないかと思っていたさ。だがそれとイザベラを傷付けたこととは別だ。俺はお前を死んでも後悔させる!」
死んだら後悔できねぇよ。
あ、この世界で死んで現実世界で後悔させるってことか。
「はいはい、話は大体決まったな。だが俺たちはこれから飯なんだ。模擬戦でも決闘でも殺し合いでも何でもいいが今日は帰るぞ。」
「あぁ?誰だよあんた。俺に来やすく話しかけるんじゃねぇ!」
麒麟児はカトラの顔を見ると鬼の形相を浮かべ腰の剣を居合いの要領で抜こうとし、カトラにその柄頭を押さえられ結果、剣を抜くことはなかった。
「くっ、」
「な?わかったろ?それにお前は弱りきった相手をなぶり殺しにするところをイザベラに見せて、お前は俺の嫁だ!とか恥ずかしいところを見せるのか?」
「・・・いいだろう。一週間後だ。一週間後に屋外訓連所でお前を殺してやる。逃げても無駄だぞ。俺には千里眼があるんだからな。」
そう言い残し麒麟児は去っていった。
はぁ、一週間後が憂鬱だ・・・
戌亥渉 16歳
称号:密航者・借金を背負う者・夢を渡る者・死を見た者・チャラ男の玩具・脱兎・耐える者
Rank1 0RP 3,205円 0TP
「ザースト:ベヴォーナ」
戦闘力 39+6
生活力 11
学習能力 5
魔力 5+3
夢力 1
固有:密航
技:首狩り・投擲
技能:頑丈・逃げ足・自然回復(小)・簡易道具作成・隠行
魔法:5級水魔法→4級水魔法
ザースト滞在時間3日目
カトラの言葉に受付のおばちゃんは戸惑う。
・・・特に僕の方を見て。
ま、まぁこの中では最弱だと思うけどさぁ、あからさまに見すぎでしょ。
「まぁ経験だな。どのくらいの実力があればどのランクまでいくのか知りたいし。」
嘘だっ!
僕は心のなかでカトラに突っ込む。
こいつ絶対に三人のなかで僕だけ大したことない的な空気にしたいだけだろ。
「ま、私としても仕事柄頼まれたら断れないからね。でもランクが上がるかどうかはあんたたちの実力次第だよ?」
僕が受付のおばちゃんに送っている断れという念も届かず許可してしまった。
くそっ、ここに味方はいないのか。
時間がかかっても5級からゆっくり進めば良いじゃないか。
「丁度1級のギルド員がいるから頼んでくるよ。先に訓練所に行って待っててくれるかい?」
「わかった。」
そういうと受付のおばちゃんはギルド員が何人かたむろしているところへと向かって歩いていく。
多分あそこの誰かが、若しくは皆が1級ギルド員なんだろう。
「渉ー、いくぞー。」
カトラの声に僕は渋々訓練所と書かれた扉へと向かっていくことにした。
訓練所というと野外なイメージを持っていたが、扉を出るとそこは以外にも屋内だった。
しかも広さは野球場がすっぽり入りそうなほどだ。
「訓練所って屋内なんだな。」
どうやらカトラも同じことを思っていたらしく僕が心の中で考えていたことを声に出す。
「どうやらそうでもないようじゃぞ?ほれ、あそこを見てみい。」
ロットの指差す方向を見るとそこには今僕たちが入ってきた扉以外にもうひとつの扉があり、その先から外の日差しが入り込んできていた。
「どうやら屋内と屋外の二ヶ所あるみたいだね。予想より広いな。」
「確かに、この街が特別なのか他の街のギルドもこの規模なのか。」
「他のギルドはここまで大きな訓練所はないぞ?」
僕たちが扉の近くで話していると後ろからそんな声が聞こえてくる。
振り替えるとそこには真っ黒に日焼けしたスキンヘッドのいかにも重戦士ですといった風体の男とその男の仲間であろうハーフプレートに槍を携えた犬耳の女、エルフのような尖った耳をもつローブの男が立っていた。
すぐ後ろにさつきの受付のおばちゃんがいるところを見るとこの人たちが今回の試験官なのだろう。
「見たことねぇが、あんたらだな?入って早々全員が実力の確認をして欲しいって言った自信家は。」
「ふん、どうせ身の程を知らない子供だろう。ギルド員はそこまで甘くないというところを見せてやる。」
「・・・。」
「はいはい、ガッツさん、模擬戦はすぐ始めるから先に自己紹介からしてくれないかねぇ?」
今すぐにても戦闘を開始したそうだったスキンヘッドの男と犬耳の女を受付のおばちゃんが苛める。
「おぅ、そうだったな。俺はガッツ。見ての通り戦士で1級ギルド員だ。」
「同じく1級ギルド員のイザベラだ。誇り高き狼人族の戦士として、そしてお前たちの先輩として模擬戦は手を抜くつもりはない。」
「・・・同じく1級。グリンデ。」
「ズィノバーロットじゃ。今回は妾が魔法を使えるということの確認が発端であってこの二人はそのついでじゃ。決して本人が慢心しての行動ではないとご理解いただきたい。」
ロットはそういってちらりと犬耳いや、狼耳の女、イザベラさんへと視線を向ける。
「りょうかいした。」
「では次は私ですね。私はこちらのお嬢様の護衛を任されています、カトラムルスと申します。お嬢様共々お見知りおきください。」
カトラはお前だれだよと叫びたくなるほど優雅に自己紹介する。
いや、そういえば僕との初対面のときもそこそこ礼儀正しかったか。
「あー、僕は戌亥渉です。この二人はランクアップできるかもしれないですけど僕は5級程度の実力だと自覚しているのであまり厳しくしないでくださいね。」
僕は取り敢えずヤル気満々の先輩方が本気で来ないよう先に事実を述べる。
「それじゃあ晩御飯の時間も近いし早速始めようか。まずはロットちゃんからね。」
受付のおばちゃんがそういうとエルフの男、グリンデさんが一歩進み出る。
「妾は何をすればよいのじゃ?流石にその男と模擬戦をしろと言われても無理じゃぞ?」
「いやいや、魔法がどの程度使えるのかを知りたいだけだから一度グリンデさんに向けて魔法を放ってもらって、次にその威力をもとにグリンデさんが魔法を放つからそれをロットちゃんがレジストする。その威力や精度でどのランクなのかを判断するんだよ。」
「わかったのじゃ。ではグリンデ殿、よろしくじゃ。」
「・・・あぁ。」
二人は言葉を交わし少し離れたところへ行き、向かい合うように立つ。
「・・・では最高威力の魔法を撃ってみろ。」
グリンデさんはそういうと魔力が低い僕でもわかるほど濃密な魔力の壁を展開する。
「本気でかの?」
ロットは本気で、と言われ困った顔でこちらを、というよりカトラを見る。
するとカトラは嫌らしい笑みを浮かべて頷く。
あ、こいつ絶対あの程度じゃロットの魔法は防げないとか考えてるな。
というか魔法のことは分からないけどあのレベルの障壁でもロットの魔法は防げないのか。
「ではいくぞ。」
「我、願うは真紅なる炎
炎は酸を帯びて蒼火となり密度を高めて白炎と化し
白炎は全てを灰塵と帰す」
ロットの手に現れた火の玉は詠唱が進む毎に大きくなり、色を赤から蒼、白へと変えていく。
あれ?あの熱量だったら障壁とか関係なく物理的に燃え尽きるんじゃね?
他の皆を見ると僕と同じ考えなのか開いた口が塞がらないと言った風にポカンとしている。
・・・カトラを除いて。
「白炎、蛇となりて敵を焼き殺せ!白炎火・・・」
「ストッープ!!ロットストップ!グリンデさん死んじゃうから!焼き殺せって言っちゃってるよ!」
ロットの詠唱が完成する間際に僕はつい制止の声をあげる。
その声に我に帰った他の人たちも慌て出す。
「なんだ、今の魔法は。見たこともないほど魔力が圧縮されてたぞ。」
「こりゃまたとんでもない大型ルーキーが入ってきたねぇ。」
「おーい、グリンデ。大丈夫か?グリンデ?・・・くそっ、こいつ気絶してやがる!おい、イザベラ。グリンデを端に寄せるの手伝え。」
イザベラさん、受付のおばちゃんの言葉に反応しなかったグリンデさんはどうやら気を失ってしまったようだ。
「ロットちゃんは文句なしに1級にも上げられるけれど1級からは筆記の試験もあるからねぇ。2級までにしておこうかね。」
なるほど、さっき受付で聞いた2級からは試験があるっていうのは筆記のことだったのか。
「グリンデも壁際に寄せたし次はどっちがやる?」
ガッツさんの言葉にカトラは僕の方を見る。
・・・あぁ、先にどうぞってか?
「じゃあ次は僕で。」
「お前か。なら私が相手しよう。軟弱な男の性根を叩き善き戦士を育てるのも戦士の仕事だ。」
そういってイザベラさんが槍を握り直し進み出る。
「えーっと、実力の確認も一発ずつ打ち合うだけって・・・」
「そんなわけないだろう。魔法と違って何度も打ち合わなければ実力なんて分からん。安心しろ、殺しはせん。」
ですよねー。
はぁ、なんでこんなことになってるんだろ。
・・・あぁ、カトラのせいか。
そう思いチラッとカトラの方を見るとそこには何時もの嫌らしい笑顔を浮かべたカトラが。
ブチッ
何かが切れる音が聞こえた気がした。
そうだ、今思えば僕がこの世界に来てから被った苦労は全てこいつのせいじゃないか。
カトラが真面目ならば、僕はここでイザベラさんに叩きのめされそうになることもなかったし、今日までの3日間魔物と追いかけっこすることもなかったじゃないか。
そう考えたら沸々と怒りが沸き上がってきたぞ。
相手のイザベラさんは確かに強いだろうが、この世界の戦闘力の平均の20倍であるカトラよりは遥かに弱いはずだ。
イザベラさん、すいませんが少し八つ当たりさせてもらいます!
「覚悟は決まったようだな。なら実力で示して見せろ!」
「いきますっ!」
僕は魔物との戦闘を思いだし先手必勝とばかりに技を放つ。
「首狩り!」
僕は一歩目の踏み出しからトップスピードに乗り、イザベラさんの首へと愛用のナイフの峰の部分で斬りかかる。
「っ、ふん!」
イザベラさんは予想外の速度に目を見開きつつも巧みな槍捌きでナイフを打ち払いその反動を使って石突きを僕に向けて放つ。
だが石突きは僕には届かない。
自慢じゃないが回避には自信がある。
そこからは僕の首狩りをイザベラさんが弾き、そのカウンターを僕が避けるというある意味千日手のような状況が出来上がる。
ガィンッ
するとイザベラさんは一番の力で僕を弾き大きく距離を開けさせる。
「なかなか回避が上手いが、技が一つしかないのはいただけないな。油断を誘っているのか?」
「回避には自信があるものでね。それと技に関してですが、秘密ですよ。」
-我、願うは清涼なる水-
流石にこんなに注目されてる中で首狩りしか出来ませんなんて言えないからな。
「そうか、なら今度はこちらからいくぞ!」
-水は臭を帯びて我が敵に纏う-
イザベラさんはそう言うと槍を後ろに引きながら向かってくる。
「乱突き!」
イザベラさんの手がぶれたかと思うとそこから複数の突きが迫ってくる。
それを僕はいくつか掠りながら最後の詠唱を完成させる。
「臭悪なる水よ、我が敵を包め!悪臭なる水衣!」
乱突きを避けられ次の技を放とうとするイザベラさんに僕の水魔法が直撃する。
「ふん、この程度の水など足止めに、すら、ぐっ!」
ガラン、ガランッ
ふっふっふっ、狼のように鼻が利くなら辛かろう。
何せこの魔法は地球のシュールストレミングの匂い、もとい臭いが元だからな!
僕のあまりに極悪な魔法はイザベラさんだけでなく周囲にも被害を及ぼし始める。
「イザベラ、どうしたんだ!んがっ、なんだ!?この臭いは!」
「これはっ!渉もなかなか。狼人族相手に極悪なことをする。」
「なんだい、この臭いは。ゾンビの腐臭ですらここまでひどくないっていうのに!」
「おげぇぇぇ!」
正に訓練所は阿鼻叫喚である。
ん?僕は大丈夫なのかって?
水の魔法で空気を閉じ込めた水球を複数個作ってそこから空気を得ているから呼吸に周囲の空気は必要ないね!
え?何どうしたの?臭いの?頑張れーと言う感じである。
「私の敗けだ!うぷっ、だから、この魔法をうっ、解いてくれ!おげぇぇぇ!」
うん、それ無理。
だって風魔法が使えないんだもの。
「我、願うは涼やかなる風
風は彼の者に纏わり付く悪を打ち払い
彼の者の汚れを打ち払わん!風精の息吹!」
僕がこの阿鼻叫喚をどうするかと考えていると、訓練所と受付を繋ぐ扉からものすごい風が吹き荒れ臭いを訓練所の外の遥か上空へと拐う。
「おいおい、誰だよ!俺の将来の花嫁候補にこんな醜態晒させた奴は!」
そこにはイケメンだがどこか女を見る目が嫌らしい男が立っていた。
「あ、麒麟児零さん。特級である貴方が何故ここに?」
「あぁ?俺の嫁がピンチになったら駆けつけるのは当たり前だろうがよ。で?どいつが犯人だ?」
麒麟児と呼ばれた男は受付のおばちゃんに一瞥くれこの阿鼻叫喚の原因を探っている
というかいつの間にか嫁候補から嫁に変わってるし
「イザベラさん、あのあとで申し訳ないんですがあの人は?」 
「麒麟児零、登録から一年という異例の早さで特級ギルド員に成り上がった奴だ。」
「イザベラさんが嫁候補っていうのは?」
「奴の妄言だ。狼人族は誇り高き戦士としか番にならん。」
そんな話をしているとこちらに向かってくる気配がした。
顔をあげるとそこにはカトラとロットが立っていた。
「渉、奴はほぼ100%夢を渡る者だ。戦闘力も100そこそこだろうし奴から搾り取ろうぜ。」
こいつは何を言っているんだろうか。
戦闘力が39しかない、あ、45に上がってる。
45しかない僕に戦闘力が100を超えているだろうあいつに決闘で勝ってTPを巻き上げろとか正気とは思えないね。
「倍も離れてるなら勝てないだろ。第一・・・」
「ほほう、俺の嫁に醜態を晒させた相手はどんなやつかと思えばこんなひ弱そうな男だったとはな。」
僕の言葉を遮って麒麟児が話しかけてくる。
「おい、お前。俺の嫁のイザベラに手を出したんだ。死んでも文句は言わないよな?」
「お前の嫁になった覚えはない。」
「すぐなるさ。」
麒麟児はフッとキザったらしく鼻をならしイザベラの胸を見る。
あ、こいつヤることしか考えてないな。
夢を渡る者ってこんなのばっかりだったら嫌だぞ。
「お前も見たところ夢を渡る者だな?」
そういって麒麟児は僕の腕に、正確には腕についた腕時計に視線を落とす。
「そうだよ。ニュービーだけどな。」
「ふっ、やはりな。その貧相な雰囲気からそうなんじゃないかと思っていたさ。だがそれとイザベラを傷付けたこととは別だ。俺はお前を死んでも後悔させる!」
死んだら後悔できねぇよ。
あ、この世界で死んで現実世界で後悔させるってことか。
「はいはい、話は大体決まったな。だが俺たちはこれから飯なんだ。模擬戦でも決闘でも殺し合いでも何でもいいが今日は帰るぞ。」
「あぁ?誰だよあんた。俺に来やすく話しかけるんじゃねぇ!」
麒麟児はカトラの顔を見ると鬼の形相を浮かべ腰の剣を居合いの要領で抜こうとし、カトラにその柄頭を押さえられ結果、剣を抜くことはなかった。
「くっ、」
「な?わかったろ?それにお前は弱りきった相手をなぶり殺しにするところをイザベラに見せて、お前は俺の嫁だ!とか恥ずかしいところを見せるのか?」
「・・・いいだろう。一週間後だ。一週間後に屋外訓連所でお前を殺してやる。逃げても無駄だぞ。俺には千里眼があるんだからな。」
そう言い残し麒麟児は去っていった。
はぁ、一週間後が憂鬱だ・・・
戌亥渉 16歳
称号:密航者・借金を背負う者・夢を渡る者・死を見た者・チャラ男の玩具・脱兎・耐える者
Rank1 0RP 3,205円 0TP
「ザースト:ベヴォーナ」
戦闘力 39+6
生活力 11
学習能力 5
魔力 5+3
夢力 1
固有:密航
技:首狩り・投擲
技能:頑丈・逃げ足・自然回復(小)・簡易道具作成・隠行
魔法:5級水魔法→4級水魔法
ザースト滞在時間3日目
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