ゆうちゃん、竜樹の学生生活‼

ノベルバユーザー173744

優希は、初めて自分の家に行ったのでした。

車は、大型車の懐かしい日向ひなたの車に乗る。
両側に二人のおかあはんと、助手席はただすとである。

車椅子は……と躊躇ったが、折りたたみ後ろにすっぽり入るタイプである。

「エェ車やわぁ……。さきはんはこれがえぇて言うとりましたんや。この前、これに乗せてもろたて、おにいはんが言うとりましたんや」
「ファミリーカーですよ。さきさん結婚するんですか?」
「いやいや、それがおりまへんのや。だんはんに似てエェ男やさかいに、お見合いはちらほらきはりますのや。でもさきはんはお釣書きも見もしはらん。『菓子作りに集中したいよってに……』言うて、もう、28になりはりますのに……」
「シィさんは……」

言いにくそうに日向が櫻子さくらこに問いかけると、手を振り、

「しいはんこそ無理や。あてとだんはんのどちらに似はりましたんか、あの性格でっしゃろ?べっぴんはんが逃げはりますわ」
「あはは……優しい方が見つかるとえぇですね」
「本当に、ゆうちゃん、たっちゃんて言う娘がおって、紅葉もみじはんは羨ましい‼息子よりも娘が一人でもおったら、あてもうれしいのに……」
「でも、3人も」

一瞬紅葉の瞳が翳る。
その様子に、櫻子は、

「紅葉はんとにいはんに子供ができひんのは、にいはんのせいや、て言うときまひた‼今でこそ外面はあれやさかいに、わからしまへんやろうけど、にいはんは、あれでいてものすごう、独占欲が強いんどす‼その上、紅葉はんと結婚する時にも、あれこれ手ぇ回しなはって、悪巧みしなはって、幾つも見合いをぶち壊してしもたんどすえ?他にも紅葉はんが優しいからて、ほぼ外出禁止やとか、何考えておらはるんやろか思たわ……」
「はぁ?」

聞いてはならないようなことを聞いたような気がする。

日向は、恐る恐る、

「お兄さんって、賢樹さかき伯父さんですよね?」
「そうどすえ。あてと紅葉はんは、大学の先輩後輩ですのや。そうしましたら、遊びに来た紅葉はんに一目惚れしてしもて、何度もいややて言うたのに、にいはんは人のスケジュール帳を盗み見て、住所録を見て、栂尾紅葉とがのおもみじて、電話番号に、住所もチェック……こらあかん‼言うて、両親に言うたんえ。そうしたら、『もう遅いわ』言うて……。見たら、にいはんの部屋でこてーんて紅葉はん寝てはって、起こしたら、にいはんにあての名前で呼び出されたて。にいはんはと思たら、向こうの親に『貰います』て、大騒ぎや」
「そ、それは大変でしたね……」
「大変でしたわ。紅葉はんには許嫁がおりましたんや。まぁ……紅葉はんには言っていいのかわからしまへんけど、にいはんは紅葉はんには溺愛、盲愛、偏愛……変やと思いますけど、その相手は10年上で、2回離婚歴があって、どちらも本人が浮気した為の離婚で、紅葉はん結婚しはっても苦労したと思います。その点、にいはんは、紅葉はんを溺愛しはって一回、紅葉はんを見て『かいらしい方ですなぁ』言わはった方を、殴り張ったんえ?」

ぎょっとする。
糺はネタ帳に書きながら、

「えっ?じゃぁ、紅葉おばさまは、どう思われたんですか?」
「えっ?えぇと……」

苦笑する。

「あての実家は、小さいお寺の住職の家でしたんや。お寺というんは、おるからかまへんのやのうて、檀家はんとエェ関係を保たなあきまへんのや。お寺はんで盂蘭盆会うらぼんえ、4月は灌仏会かんぶつえて、それにお墓も、管理せなあきまへん。それに法事て、三回忌法要や、七回忌法要や……。大きなお寺さんのように、拝観料をはろてもろて、見てもらうようなものはのうて、地域のお寺はんでしたのや。でも、あてはそれを感謝しとりましたし、地域の方ともなかようて……でも、跡取りがおりませんでしたのや。妹は、まだ小さいし……ようわこうてないおもて……大丈夫や。ゆうちゃん」

娘の優希ゆうきに微笑む。

「で、あてのおとうはんは、寺はかまんて言うてくれはって。でも、おとうはんが騙されましてん。その男に。寺の敷地は広大でしたんや。余り手を加えず自然を残した庭、その後ろは山で、紅葉がきれいでしたんや。で、その男は、おとうはんに架空の投資話をもってきはって、騙されましてん。で、あてが嫁に行くてその代わりにて。そうしたら、だんはん……賢樹はんから電話がありましたんや。櫻子はんのことでて、で、来たんどす。『……これ、詐欺、架空の投資話ちゃいますか?ちょっと気になって調べましたんや。紅葉はん。おとうはん騙されたんちゃいますか?それに、急に降ってわいたような婚約話て……おかしないやろか』て、でもあては、おとうはんが立場がわるぅなるて、だまっとったんです。そうしたら賢樹はんは、次々に出してくるんどす。『ここはこうなった。このお寺も……共通点は風光明媚な場所にある地域に寄り添ったお寺はん。あてとこの社は、風光明媚ではある、でも有名すぎて手が出せんのですわ。代わりに、こないな手で地域の人の信仰を、愛する地域を奪おうとする。あきまへんのや‼言うてくれまへんか?』て、あては正座に、飲み物食べ物拒否で、だまとったんどす。言うても騙された身で、それにおとうはんを責めるなんて言葉言えんでしょう?」

周囲は静かになる。

「でも、一晩そうしとりましたら、あてもねむたなって、うとうとしてしもうて……櫻子はんに起こしてもろたら、布団で寝とりましたんどす」
「寝とりましたんどすじゃあらしまへんわ。着物姿の紅葉はんが、襦袢じゅばん姿で、着物や帯、かんざしはバサバサ投げられとって、おかあはんはきぃうしのうて、おとうはんは『賢樹がぁぁ‼こらあきまへん‼あれのしたいようにさせればよろし‼あてらは関知せん‼紅葉はんは、即、嫁や~‼』て。『すぐに、結納品と、式にエェ日を‼』て、大騒ぎしとるのに、『先輩、昨日は一口も食べていなくて、飲んでないので何かいただけまへんか?』て、これや。『あ、なんどしたら、あてに作らさしてください』て、作らはって、手際よう作らはった紅葉はんに両親が『嫁に絶対にもらいにいかな‼』言うて」
「えぇもの使わさしていただきましたよって」
「で、その間にちゃっかり帰らはったにいはんも、しゃぁしゃぁと食べはって『うもうて……ずっと食べとりたい味ですなぁ』て」

日向は遠い目をする。
賢樹は、醍醐だいごに似ている……いや逆か。
でも、今回戻ってきたのは爆弾発言を投下しに来たのだ。
糺と祐也ゆうや穐斗あきとは知らない。
醍醐の思いを……。

「へぇ、おかあはんはお料理上手なんどすなぁ……あても教えてくれまへんか?」

優希は、無邪気に笑う。

「おとうはんに『えぇなぁ』て言われて見たいんどす」
「ゆうちゃんは元気になってからや。おかあはんの味をしこんだげますよってに」
「おかあはん。嬉しいなぁ、あて。『おいしい』て言われたいんどす」
「すぐに腕あげられたらおかあはんも困てしまうなぁ……あぁ、ここです、ここ。門の前に止まってくれまへんか。だんはんがおるさかいに」

日向が速度を落として、止まったのは、立派な門構えの、玄関。
引き戸は、夏になっているため、夏用に、風通しのよいものに取り替えられ、壁塀は白く長く左右に広がる。
車のなかで、ぼんやりと門構えを見つめる優希に、先に上品に降りた櫻子が、

「ゆうちゃん。玄関は車椅子では通れんさかいに、ゆっくりいこな?」
「は、へぇ……」

何とか、品が悪くならないように、車から降りるが、浴衣の帯がおかしくなってはいけないと、落ちた体力をほぼ使いきり姿勢をただして座っていたため、よろける。
それをそっと抱き締め支えるのは、出てきた賢樹。

「優希。大丈夫や。ようおかえり。ここが優希の家や」

後から降りてきた紅葉が差し出してきた杖を持ち、見回す。

「……あて……想像もしてまへんでした……。こないに立派なお屋敷やて、思いもよりまへんでした……。ここに、あてがおって、かましまへんのやろか……」
「外だけや。ゆっくりでかまへん。家にはいろか。櫻子?車は回すように言うときや。かずきも来るさかいに」
「そうですなぁ。紅葉はん。ゆうちゃんと手を繋いでいきはらんと」
「あっ‼そうどすなぁ……お先に……」

優希のそばに立ち、ゆっくりと優希が転ばないように門を潜る。
そして、

「ようおかえりやす。ゆうちゃん。ここがゆうちゃんの家や。お部屋もちゃんと用意してますよってに。後でゆっくりと、な?」
「そうや。優希の家や。ようおかえり。よう頑張らはった。もう大丈夫や、あてが……おとうはんとおかあはんがおるさかいに……」
「お、おとうはん……おかあはん……おおきに……」

涙ぐむ娘の頭をなで、賢樹と紅葉はようやく家族が揃ったことを安堵するのだった。

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