やがて救いの精霊魔術
4 精霊の事、将来の事
「ほう、表情で分かる程ご機嫌だね。問題児茜ちゃんと仲良くでもなったかい?」
「ご想像にお任せします。ていうかアイツ問題児呼ばわりされてちょっとショック受けてましたよ」
「キミ、本人前にして問題児呼ばわりしたのかい。それは基本影でコソコソ言うもののだろうに。あーあ、私が嫌われたらキミのせいだぞどうしてくれる。とりあえず謝れ」
「おかしい。おかしいぞコレ。何で俺今日こんなに謝罪求められてんだ?」
しかもどちらも悪くないだろうに。
そんな事を考えたが結局謝罪は行われず、霞がそんな事はどうでもいいと一拍空けてから話題を変える。
「しかしその様子じゃ私がどうしてあの子の事を問題児と呼んでいたかって事は分からず仕舞いか」
「まあそうですけど……なんで分かったんですか?」
「キミとあの子の間でどういう会話があったのかは知らんよ。だけどもし色々と知ってなお今みたいに出てこられたら、私はキミの性格を疑うよ」
「……そんなにアイツは酷いことやらかしたんですか?」
「聞きたいかね」
「いや、いいっすよ」
それはきっとしてはいけない事だ。
「アイツが教える事を拒んだんです。それを他の誰かから聞いたらアイツに悪いでしょう」
「そうかい。その返答が聞けて個人的に嬉しいよ。いい性格してる」
「そりゃどうも…………で、アンタは何で俺をアイツに会わせようとしたんですか?」
「……そうだな」
霞は壁に寄りかかって軽く天井を見上げながら、一泊空けてから言う。
「よくわからんよ、私も私がどうしたかったかなんて」
「……俺そんな曖昧な感情で背押されてたのかよ」
感傷に浸るような表情で言った霞に、ややげんなりとしながら誠一はそう返す。
そんな誠一に霞はうっすらとした笑みをうかべて言葉を返す。
「まあいいじゃないか。結果的にあんなに楽しそうに出てきたんだから」
「まあ……そうっすね」
そう考えれば不完全燃焼ではあるがそれでもいいと思える。理由もわからず送り込まれた対価は十分に受け取れた。十分すぎる位だ。
「じゃあ俺はこれで」
「うむ、気を付けて帰るように。背中に気をつけるんだぞ」
「俺刺される様な事してませんよ」
そんな冗談を交わして誠一は病院を後にする。
「……刺される、か」
例えそれが冗談でも、それが現実に十分に起こりうる可能性がある。
あの場で兄の洋介が精霊を刺殺した。その行動がなければ突然現れた精霊に自分が刺殺されていたかもしれない。
今この瞬間にもそれは十分に起こりうる。
「嫌な世界だな、本当に」
そんな事を呟きながら帰路へと着いた。
土御門家は日本有数の魔術師家系である。
世間一般的には陰陽師家系として扱われているし、それもまた間違いではない。だが本質的な所を言えば、精霊と戦う魔術の使い手を多く排出する名家というべきだろう。
言ってしまえばこの世界を守る正義の味方を世に送り出す家柄と言ってもいい。
それを誇るべきなのかどうかは分からない。分からないから今も誠一は悩み続けている。
自分の将来。精霊と戦う正式な魔術師になるかどうかをだ。
土御門誠一は正式な魔術師では無い。書類上は魔術師家系の人間で魔術が使えるだけの一般人。
いわば半端者だ。
現時点である程度魔術を使えるし、そういう家柄という事もあって特権で魔装を所持しているが、いずれは正式な魔術師になるか身を引くかを決めなければならない。今のどっち付かずな現状のままではいられないだろう。
「……どうすんのが正解なんだ」
病院を出た後帰宅した誠一は、自室のベッドに寝転がりながらそんな事を呟いた。
常日頃からこんな事を考えている訳ではない。
普段は自然と逃げている。現実逃避だ。こんな事と向き合う事は極力したくはない。
だけど今日のような事があればそれは無理な話で、精霊と直接邂逅してそれでも逃避できていればこうして悩んだりはしていない。
「そういえば……」
ふと考えた。
それは例の問題児の事だ。
彼女が一体何をやっているのかを聞くことはなかったが、それでも彼女が魔術師であるという事は間違いないだろう。
それが自分と同じような半端者なのか資格を所得しているプロなのかは分からない。だけど後者だとすれば……はたして彼女はどんな思いで魔術師になる選択をしたのだろうか。
もっとも疑問に思うだけで尋ねる事はないだろう。
こんな問いは兄やその周囲に何度もしていて、それでいて自分の悩みは未だに心に留まり続けている。
……それに、一体どんな事が茜の触れられたくない話に触れるのかは分からない以上、自分から精霊絡みの話をするべきではない。
彼女とするのは極力普通の話だ。
だからこの悩みは自分で解決しなくてはならない。
自分自身で自らの将来を決めなければならい。
だけどそうやって考えて答えが出るようならば、それこそ既に答えは決まっている。
故に今日もまた決断する事はなくて、明日もそれは変わらない。
そして何も変わらないまま問題児、宮村茜と再開する日がやってくる。
「ご想像にお任せします。ていうかアイツ問題児呼ばわりされてちょっとショック受けてましたよ」
「キミ、本人前にして問題児呼ばわりしたのかい。それは基本影でコソコソ言うもののだろうに。あーあ、私が嫌われたらキミのせいだぞどうしてくれる。とりあえず謝れ」
「おかしい。おかしいぞコレ。何で俺今日こんなに謝罪求められてんだ?」
しかもどちらも悪くないだろうに。
そんな事を考えたが結局謝罪は行われず、霞がそんな事はどうでもいいと一拍空けてから話題を変える。
「しかしその様子じゃ私がどうしてあの子の事を問題児と呼んでいたかって事は分からず仕舞いか」
「まあそうですけど……なんで分かったんですか?」
「キミとあの子の間でどういう会話があったのかは知らんよ。だけどもし色々と知ってなお今みたいに出てこられたら、私はキミの性格を疑うよ」
「……そんなにアイツは酷いことやらかしたんですか?」
「聞きたいかね」
「いや、いいっすよ」
それはきっとしてはいけない事だ。
「アイツが教える事を拒んだんです。それを他の誰かから聞いたらアイツに悪いでしょう」
「そうかい。その返答が聞けて個人的に嬉しいよ。いい性格してる」
「そりゃどうも…………で、アンタは何で俺をアイツに会わせようとしたんですか?」
「……そうだな」
霞は壁に寄りかかって軽く天井を見上げながら、一泊空けてから言う。
「よくわからんよ、私も私がどうしたかったかなんて」
「……俺そんな曖昧な感情で背押されてたのかよ」
感傷に浸るような表情で言った霞に、ややげんなりとしながら誠一はそう返す。
そんな誠一に霞はうっすらとした笑みをうかべて言葉を返す。
「まあいいじゃないか。結果的にあんなに楽しそうに出てきたんだから」
「まあ……そうっすね」
そう考えれば不完全燃焼ではあるがそれでもいいと思える。理由もわからず送り込まれた対価は十分に受け取れた。十分すぎる位だ。
「じゃあ俺はこれで」
「うむ、気を付けて帰るように。背中に気をつけるんだぞ」
「俺刺される様な事してませんよ」
そんな冗談を交わして誠一は病院を後にする。
「……刺される、か」
例えそれが冗談でも、それが現実に十分に起こりうる可能性がある。
あの場で兄の洋介が精霊を刺殺した。その行動がなければ突然現れた精霊に自分が刺殺されていたかもしれない。
今この瞬間にもそれは十分に起こりうる。
「嫌な世界だな、本当に」
そんな事を呟きながら帰路へと着いた。
土御門家は日本有数の魔術師家系である。
世間一般的には陰陽師家系として扱われているし、それもまた間違いではない。だが本質的な所を言えば、精霊と戦う魔術の使い手を多く排出する名家というべきだろう。
言ってしまえばこの世界を守る正義の味方を世に送り出す家柄と言ってもいい。
それを誇るべきなのかどうかは分からない。分からないから今も誠一は悩み続けている。
自分の将来。精霊と戦う正式な魔術師になるかどうかをだ。
土御門誠一は正式な魔術師では無い。書類上は魔術師家系の人間で魔術が使えるだけの一般人。
いわば半端者だ。
現時点である程度魔術を使えるし、そういう家柄という事もあって特権で魔装を所持しているが、いずれは正式な魔術師になるか身を引くかを決めなければならない。今のどっち付かずな現状のままではいられないだろう。
「……どうすんのが正解なんだ」
病院を出た後帰宅した誠一は、自室のベッドに寝転がりながらそんな事を呟いた。
常日頃からこんな事を考えている訳ではない。
普段は自然と逃げている。現実逃避だ。こんな事と向き合う事は極力したくはない。
だけど今日のような事があればそれは無理な話で、精霊と直接邂逅してそれでも逃避できていればこうして悩んだりはしていない。
「そういえば……」
ふと考えた。
それは例の問題児の事だ。
彼女が一体何をやっているのかを聞くことはなかったが、それでも彼女が魔術師であるという事は間違いないだろう。
それが自分と同じような半端者なのか資格を所得しているプロなのかは分からない。だけど後者だとすれば……はたして彼女はどんな思いで魔術師になる選択をしたのだろうか。
もっとも疑問に思うだけで尋ねる事はないだろう。
こんな問いは兄やその周囲に何度もしていて、それでいて自分の悩みは未だに心に留まり続けている。
……それに、一体どんな事が茜の触れられたくない話に触れるのかは分からない以上、自分から精霊絡みの話をするべきではない。
彼女とするのは極力普通の話だ。
だからこの悩みは自分で解決しなくてはならない。
自分自身で自らの将来を決めなければならい。
だけどそうやって考えて答えが出るようならば、それこそ既に答えは決まっている。
故に今日もまた決断する事はなくて、明日もそれは変わらない。
そして何も変わらないまま問題児、宮村茜と再開する日がやってくる。
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