最弱の英雄

皐月 遊

二章 8話「アリスの外出」

「今日は待ちに待ったお出かけする日ですよ!」

朝一にアリスが寝ている俺の部屋に来て、そんな事を言う。
俺はその声に起こされ、まだ寝ぼけた声で

「あぁうん…そうだね…」

「もう! 早く起きてくださいよ! 早く早く!」

「なんでアリスはそんな元気なんだよ…昨日の夜「明日が楽しみで眠れません…」って俺の部屋に来て、夜遅くまでババ抜きしてただろ…」

「うっ…それは…本当に申し訳ないです…」

夜遅くまでババ抜きをしていたせいで、俺は寝不足なのだ。
だがここで二度寝してしまったら次はいつ起きるかわからないので、無理矢理身体を起こす。

「さて…カインは起きてんのか?」

「それが、まだ帰ってきてないんですよ…」

「まじかよ、でも流石に午前中には帰ってくるだろ。 先に準備してまってようぜ」

「はい!」

アリスは元気そうに俺の部屋から出て行った。
しかし、カインは何をしてるんだ? 昨日俺の能力のデメリット対策について「考えがある」といって屋敷から出て行き、結局昨日は帰ってこなかった。
一体何を思いついたのだろうか?

そんな事を考えながら、俺は外出用の服に着替え、念のためフードをバッグに入れ、部屋を出た。

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「カインさん遅いですねぇ…」

「あぁ、何してんだよあいつ…」

もう午前9時になっていた、アリスが俺を起こしたのが7時だったので、もう2時間も待っている事になる。
完全に落ち込んでいるアリスに俺は頭を撫で

「よし! もしも10時になってもカインが帰ってこなかったら2人で出かけようぜ!」

「えっ、でもそれはカインさんがダメって…」

「帰ってこないあいつが悪いんだよ。 だからもう出かける準備はしといてくれよな」

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そして1時間後、結局カインは帰ってこなかった。

「もう10時だ、アリス、行こうぜ?」

「は、はい…」

「テンション低いな、折角の外出だぞ? もっと元気出せって!」

「でも…もしかしたらカインさんに何かあったんじゃ…」

どうやらアリスはカインの心配をしているらしい。

「ならさ、外出するついでにカインを探そうぜ? んで、見つけたら3人で王都で遊ぼう! それでいいだろ?」

「は、はいっ!」

やっと元気になったアリスに俺は荷物を背負い、玄関へ向かう。

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「あの…またそのフードをかぶるんですか?」

俺は外出する際やバイトに行くときはいつもフードをかぶって外出している。
それは、ファリア達と会わないためだ。

もしかしたら王都に居るかもしれない、そんな予感がするんだ。

「あぁ、俺って日焼けとかしたくない人間だからさ、日焼け対策?」

「女子ですか……確かにラットさん肌白いですもんね。 何か使ってたりするんですか?」

「いやアリスには負けるよ。 俺の肌の白さはただ部屋から出てなかったから陽に当たる事がなかったってだけだよ」

俺は日本では引きこもっていて外出をしなかったので日焼けをしなかった。
だから本来の俺くらいの年齢の男性よりも肌が白いのだ。 それを言い訳にさせてもらった

「それじゃあ、行きますか?」

「あぁ! 行こう!」

俺とアリスは2人で屋敷の外へと出た。

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「わぁ! ラットさん! アレなんですか⁉︎」

「ん? アレは…えっと…? なんだあれ」

王都を見て回りながら、珍しいものを見るとアリスに「アレはなんですか?」と指を指して聞かれるのだが、この世界に来たばかりの俺には分かるわけがない。

「あ、ラットさん! あの人は何を焼いているんですか⁉︎」

アリスが指を指した場所では、おじさんが小さな丸い食べ物を焼いていた。

それはまるで…

「あれはタコ焼きだな。 生地の中にタコの足を入れて焼くんだよ。 めっちゃ美味いぞ」

「へぇそうなんですか! でも看板には「タコン焼き」って書いてますよ?」

「……それはきっとあのおじさんが間違ってるんだな、可哀想なおじさんだ」

俺たちにそんな事を言われてるとも知らず、おじさんは真剣にタコ焼き…タコン焼きを作り続けている。 
その様子をアリスはじーっと見つめていた。

「なんだ、食いたいのか?」

「え⁉︎ いや…どんな味がするのかなぁ…と思いまして…」

「じゃあ買ってきてやるよ、ほかにも食いたいものあったら言えよ? 」

「はいっ!」

俺はタコン焼きのおじさんの元へと向かい

「おじさん、タコン焼き2パックちょうだい」

「へいまいど! お会計が200コイだよ!」

「はいよー」

俺はおじさんに200コイを渡し、タコン焼きを受け取る。
屋敷でアイリスからお金に関する知識は教わったので、もう1人で買い物もできるのだ。

ちなみにこの世界では、日本で言うと銅硬貨が10円、銀硬貨が100円、金硬貨が500円、紙幣が1000円らしい。 
1円と5円と50円が無いだけで、あとは日本の通貨と似ていたので簡単に覚える事が出来た。

俺は買ったタコン焼きをアリスの所へ持って行き

「買ってきたぞ、とりあえずはどっかに座って食べるか」

「ありがとうございます! ならさっきちょうどいいベンチがありましたよ!」

「お、ならそこ行くか」

俺はアリスについていった、すると公園があり、そこにベンチがあった。

俺たちはそこに座り

「ほいタコン焼き」

「ありがとうございます!」

「おう、早速食ってみな」

アリスはタコン焼きのパックを開く、タコン焼きは日本と同じように6個入っていた。
タコン焼きの1つを爪楊枝で刺し、アリスは口に運び…………あっ…

「ア、アリス! タコン焼きは熱いから気をつけ…」

「んんっ⁉︎ あつい! あついですー!」

間に合わなかった、どうやらこっちの世界でもタコン焼きは熱い食べ物らしい。

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「ふぅ…さっきはビックリしましたよ…」

「タコン焼きはめっちゃ熱いから、次食べるときは気をつけろよ?」

「はい…」

熱いタコン焼きを食べたアリスに速攻で水を飲ませ、落ち着いたのかアリスは今度はちゃんと冷ましてから口に運ぶ

「お、美味しい!」

「だろ? 俺の故郷でもコレと似たような食べ物があってな、結構人気だったんだ。昔よく兄さんと食べてたなー」

この世界のタコン焼きは驚くほど日本のタコ焼きと味が似ていた、むしろ全く同じだったのだ。 
多分コレをこの世界に広めたのも英雄と呼ばれた日本人なのだろう。

「ラットさんってお兄様がいるのですか?」

「あぁ、”いた”よ」

「あ、あの…もしかして、今お兄様は…」

言いづらそうに聞いてくるアリスに俺は隠すことでもないな、と思い

「兄さんは死んだよ、買い物に行った店が突然崩れてさ、その下敷きになったらしい」

「えっ…す、すみません。 聞いちゃいけない事でしたね…」

「いや? 構わないよ、俺もこんな話して悪いな。そりゃ最初の方は俺も取り乱したりしたけど、今はもう乗り越えたから」

嘘だ、俺は今でも兄さんの死を受け入れる事も乗り越える事も出来てない。

それが出来ていたら不登校や引きこもりなどやっていない。

だがそれはアリスにとっては関係のない事だ、アリスには弱い俺を見せたくない、アリスだけじゃなく、この世界では俺は弱い男ではいたくないのだ。

「でも…なんか嬉しいです」

「ん? 何がだ?」

「ラットさんが自分の事を話してくれるのが嬉しいです。ラットさんが過去の事や故郷の事を話してくれて、私は嬉しいですよ」

そう言ってアリスは微笑んだ。 そのアリスの表情に俺はしばらく見惚れてしまっていた。

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「さて! そろそろ他の場所に行きましょう!」

「あぁ、そうだな。 次は東の方に行ってみるか?」

「あの大きな時計台がある方ですか⁉︎ 行きましょう行きましょう!」

「よし! それじゃあ早速いく……」

「やっと見つけましたよ!」

俺たちに声をかけたのは……ずっと帰ってくるのを待っていたカインだった。

「お、カインじゃないか」

「ラット…アリス様と君が屋敷に居ないからメイドに聞いたんだ、そしたらもう外出したと言われてね…なぜ2人で外出をした? なぜ僕を待たなかったんだ」

「え、えっとカインさん…これは…」

「しょうがないだろ、お前が全然帰ってこないんだから。 俺たちがどんだけ待ったと思ってんだ? アリスがこの日を楽しみにしてる事ぐらい分かったはずだろ」

「ラットさんまで…あの、やめて…」

「それは確かに僕が悪い…だがもしアリス様に何かあったら…」

「その時は俺が守るつもりだったし、俺たちは外出するついでにお前を探して合流するつもりだった」

「……分かった、今回は完全に僕が悪い。 アリス様、お待たせして本当に申し訳ございません」

そう言ってカインはアリスに頭を下げる。 アリスは慌てて

「そ、そんな! 謝らないでください! 何か理由があったんでしょう? 」

「あ、そうだよ。 お前今まで何してたんだ? 」

「あぁ、君用にコレを作ってもらっていたんだ」

カインは袋からある物を取り出す。
それは…

「手袋…? いや、グローブか?」

「どっちでも構わないよ。 まぁグローブでいいだろう、このグローブは特殊な素材で出来ていてね、電気を逃がす効果を持っているんだ」

「で、電気を逃がす…?」

「あぁ、君にぴったりだろう? あとは足に着ける物も頼んだが、それは時間がかかるらしくてね」

俺はそのグローブを受け取り、手に着ける。
グローブは指先の部分が開いており、物をつかむ時にも滑らないような設計になっていた。

「試しに、上空にボルトを撃ってみてくれないか?」

「あぁ、分かった」

俺は右手を空に向け

「ーーボルト‼︎」

思い切りボルトを放った。 いつもならすぐに痺れと痛みがくるはずだ、だが…

「おぉ…痺れがない、痛みもない! これなら!」

これなら、前よりも上手く戦える。

俺は純粋に嬉しかったので喜び。

カインはグローブの効力にホッとし。

アリスは何の事だか分からず、首を傾げていた。

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王都の東ーー時計台ーー

「ソラさん? さすがにこの高さからはライトさんを見つけるのは無理だと思いますが…」

ソラ、セレナ、ファリアは時計台の上に来ていた。 時計台は中に入れて、上に行ける仕組みになっているのだ。

「いや、分からないよ? この国では黒髪は珍しいみたいだし、上から見た方がみつかるかもしれないしね!」

「じゃあ、髪が黒い人を探せばいいのね?」

「うん! 見つけたら猛ダッシュでその人の所へ向かおう!」

「そんな簡単にいくかなぁ……っ⁉︎ 」

セレナは急に言葉を失った、なぜなら、セレナの見た方向に凄まじい威力の、まるで電撃の柱のような物が見えたからだ。
すぐにソラとファリアも気づき

「ね、ねぇソラちゃん! アレって…!」

「ライトだ! ライトのボルトだよ!」

「い、行きましょう!」

3人はすぐに時計台を出て、電撃の見えた方へと走って行った。

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