最弱の英雄

皐月 遊

二章 7話 「カインの考え」

「ラット、今日は暇かい?」

朝食を食べ終えた俺に、カインがそんな事を言ってくる。

今日はバイトもないし、暇だった

「あぁ、暇だけど、何かあんのか?」

「君がこの屋敷に来てからもう4日だ。 そろそろ、君の実力を見ておこうと思ってね」

「俺の実力? 何のために?」

「君の実力次第で、今後アリス様の外出出来る回数が増えるかもしれない」

「なっ⁉︎ マジか⁉︎」

「あぁ、もう君をアリス様の命を狙う者だとは思ってないしね、君がアリス様を守れるだけの力があるなら、僕は君に任せられる」

なかなかの高評価に驚くが、こんな事を言われればやる気になるしかない。

「分かった。 何をすればいい?」

「簡単だ、僕と手合わせしてほしい」

俺は頷き、カインは歩き出したので、俺はカインについていった。

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「ここでやろう、武器は…木刀でいいかな?」

「あぁ、それで充分だ」

俺たちが来たのは、初日にカインに連れてこられた地下室だ。
カインは俺に木刀を渡し

「もし、君か僕が怪我をしてもこの屋敷のメイドは皆治癒魔法を使えるので、心配はいらないよ。 本気できてくれ」

「あぁ、全力でやってやる」

カインには俺の電撃を見せた事がない、だから開幕速攻で電撃を使い、決着をつけよう。

カインは木刀を構え、俺も構える

「よし、では始め!」

カインがそう言った瞬間、俺は木刀に電気を流し、突進する。

その行為にカインは目を見開き

「何だいその技は…!」

「これが終わったら教えてやるよ!」

俺は木刀を思い切り横に振る、それをカインは後ろに飛ぶことで回避する。

「あれっ…避けんのかよ!」

「バレバレだったよ!」

カインは俺に向かって木刀で突きを放つ、俺はそれをギリギリで回避するが、バランスを崩し、地面に転ぶ。

「ほう、よく避けたね。 でも今の状況はマズイね」

転んでいる俺に容赦なく木刀を振り上げるカイン、カインが木刀を振り下ろす前に、俺は地面の砂を掴み、カインにかける

「なっ⁉︎」

カインが思わず目を閉じ、その瞬間に俺は立ち上がり

「ズルだとか言うんじゃねぇぞ!」

思い切りカインの腹を殴った。

カインはそのまま後ろに飛ばされ、腹を抑えながら

「なかなか…面白い戦い方をするね。 誰に教わったんだ?」

「自己流だ!」

俺はそう言って電気を纏った木刀をカインに投げる、投げた直後に俺は走り出し。

「何がしたいのか分からないな!」

俺が投げた木刀をカインは同じ木刀で弾く。

計算通りだ、俺は右手に電気を纏い拳を握る、そして

「雷閃!」

その拳でカインの腹をまた殴った、電気を纏うことで威力が上がったパンチをくらい、カインがよろめく。

ソラがやっていた事を見よう見真似でやってみたのだが、成功して良かった。

「本当に、君は面白い戦い方をする」

「あれ…俺的には今ので戦闘終了ってのが理想だったんだけども…」

「この程度で気を失うようなら、騎士は務まらないよ」

カインは何事も無かったかのように俺を見つめる、俺が次に何をするのかを見たいのだろう。
だが先程からまた右腕が痺れてしまっている、だからもう右腕は使えない。

だったら、そこ以外を使えばいい。

まだ3本ある。

「君が来ないなら、僕から行こう」

カインが凄まじいスピードで突進してくる、俺は避けようと思ったが間に合わず、カインの木刀で飛ばされてしまう。

「ぐっ…!」

「なんだ、もう終わりかな?」

挑発するような言い方をするカイン。

俺は自分の左足に電気を纏い、無理矢理身体強化をする。

ソラには危険だと言われたが、仕方がない。

そのまま強化された左足で地面を蹴り、自分でも驚くスピードでカインへと飛ぶ。

空中で痺れ出した左足から右足に電気を移し、カインの脇腹を蹴ろうとする。

だがカインはなんとか反応し、腕をクロスさせて俺の蹴りを防いだ。

「な、なんて威力だ…!」

「これも防ぐのかよ…」

カインは俺の蹴りを防いだが、衝撃には耐えられず後ろへと飛ばされた。

俺は両足が痺れ出したせいで、もう立つことができない。

「先程から見ていたが、どうやら君の能力にはデメリットがあるらしいね。 もう右手と両足は使えないだろう?」

「気づいてんのかよ…」

カインがゆっくりと俺に近づいてくる、もう勝ちを確信してるのだろう。

だがカインは知らない、俺が遠距離技も使えるという事を。
俺はカインにはずっと超近距離で戦ってきた、疑問に思わせないために。

俺は左手を前に構える。

手がどうなろうが関係ない、勝てればそれでいい。

「ーーボルト!」

だから全力で電撃を放った。

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「あ、ラットさん起きましたか。 もう夕方ですよー」

目がさめると、横にはアリスがいた。 

俺はまた気を失ったのか…つか夕方って…寝すぎだろ俺

「アリスか…あれ、カインは?」

「僕もいるよ」

俺が辺りを見回すと、カインは壁に背を預けて立っていた。

「ラット、もう会話をしても平気かな?」

「あぁ、別に具合悪いって訳じゃないしな」

「ならば、話したいことがある」

カインは真剣な表情になる。

そしてカインはアリスの方を向き。

「申し訳ございませんアリス様。 今から僕はラットと大事な話がございます。 ですのでアリス様には、少しの間…」

「分かりました。 ラットさん、後でまたゲームしましょうね!」

カインが何を言いたいか察したのか、アリスは部屋から出て行く。

そして2人になり、カインが俺に

「ラット、君が使っていたのは魔法ではないね?」

「……あぁ、やっぱり分かるか?」

「あんな魔法は存在しないからね、身体や物に電気を纏わせるなど、聞いたことがない。 あれは何なんだ?」

「あれは…すまん、俺にも分からない。 与えられた力だからな」

「与えられた? 一体誰に?」

「すまん、それは言えない」

神から力を貰ったと言っても、きっと信じては貰えないだろう。
俺がそういうとカインは残念そうに

「そうか…ならば、君は何故自分の身体が痺れたりするのかは分かっているのか?」

「あぁ、まぁな…どうやら電撃を使うと、俺の身体から完全に電気が外に出ないらしくてな、残った電気のせいらしい」

「なるほど…そういう事か…」

カインは自分の顎を触り、何かを考えている。

そして

「ならば、残った電気を何処かに逃がせばいいじゃないか」

「…は? いやそうだけど…でもどうやって…」

「僕に考えがある。 ちょっと外に出てくるよ」

「は⁉︎ 今から⁉︎ もう夕方だぞ!」

「夕飯なら皆食べた、食べてないのはアリス様と君だけだよ。 メイドに言えば温めてくれるだろう」

「え、いや…」

「では、行ってくる」

カインはそのまま部屋を後にした。

あいつ、 人の話聞かねぇな!

カインが出て行って少しすると、俺の部屋の扉がノックされる。

「はい」

そう返事すると、扉からアリスが覗いてくる。

「ラットさん。 カインさんにもう部屋に行っていいと言われたのですが、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だぞ。 どうした?」

「えっと…その…お腹、へってませんか…?」

あぁ、そういう事か。

先程カインが言っていた、夕飯を食べてないのは俺とアリスだけだと。

「あー、めっちゃ腹減ったわ、飯食うか!」

「…! は、はいっ!」

俺とアリスはメイドにご飯を貰いに食堂へ向かった。

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「どうぞ…夕飯の肉野菜炒めでございます」

おい、確かに野菜は食えるようになったが、2日連続野菜はどうなんだろう。
 
ほら、アリスも引きつった笑顔を見せている。

だが美味かった。 

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