最弱の英雄

皐月 遊

二章 5話 「説得」

「じゃーんけーん」

アリスの掛け声にライトは拳を構える

「「ぽんっ!」」

その合図と共に2人は拳を前に出す。 俺ははパー、アリスはチョキだった。

「また私の勝ちですね! あっち向いて…」

アリスが俺の顔に人差し指を向け

「ホイッ!」

その指を左に向ける、俺が顔を向いた方向はアリスが指を向けた方向だった。

アリスはそんな俺を見て笑顔で両手を叩き

「また私の勝ちですね! これで私の20勝1敗です!」

「嘘を…だろ? この俺がここまで圧倒されるとは…」

「ラットさんは分かりやすいお方ですね! 」

「いや…俺が分かりやすいんじゃなくて、アリスがあっち向いてホイ強すぎるだけだと思うぞ?」

「ふふ…じゃあ次は…」

アリスは微笑した後、部屋の物入れを漁り始めた。

「何してんだ?」

「そろそろあっち向いてホイも飽きてきたので、違う遊びをしましょう!」

アリスは物入れから顔を出さずに声だけで返事をする。
そして「あった!」と声を出し、アリスが出したのは

「オセロ?」

「あ、知ってますか? 私これやってみたくて、皆さんに内緒で買ったのはいいんですけど…」

「やる相手が居なかったと…」

アリスが物入れから取り出したオセロは開封がされてなく、新品だった。

アリスはオセロを両手で持ち、上目遣いでおずおずと

「えっと…その…」

俺の方とオセロを交互にチラチラと見ながら言う。

分かりやすい。 

きっと俺に断られるかもしれないと不安なんだろう。

「後でいっぱい遊ぼうって言っただろ? オセロやろうぜ!」

俺がそう言ってやるとアリスは笑顔になり。

「は、はいっ! 」

と嬉しそうにオセロの箱を開け始めた。

オセロを床に置く際、アリスが手を滑らせオセロが俺の足に落ちるというアクシデントがあったが、ようやくオセロを始める準備が整った。

「じゃあ俺が黒な」

「では私が白ですね! じゃあじゃんけんで先攻後攻を決めましょう!」

「どうなるかは分かりきってるが…まぁいいぜ、じゃーんけーん」

「「ぽんっ!」」

俺が出したのはグー、アリスが出したのはパーだ、ほら、俺が負けた。

アリスのじゃんけんの強さは異常だ、じゃんけん初心者のアリスに俺は一回しか勝つことが出来なかった。

………ちなみに、その勝ちというのは、俺がアリスに気づかれないように後出しをして勝ったというものだ、アリスは気づいてないので俺は何も言ってない。

「じゃあ私が先攻ですね! 本気でいきますよー」

「あぁ来い! 俺の天才的な頭脳で圧倒してやるよ! 」

あっち向いてホイのような運ゲーはともかく、オセロのような知能ゲーは負けるわけにはいかない。
さすがに知能ゲーでも負けたらアリスに俺がゲームが下手という認識をされてしまう。

まずは角を取ってからジワジワと攻めてやろう…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺とアリスがオセロを始めてから5分が経っていた。

「あの…ラットさん? そんなに真剣に探しても…ラットさんが置ける場所は4箇所しかありませんよ?」

「…いやでも…その4箇所のどこかに置いたら角が…」

オセロ板は真っ白になっていた、黒は5〜6個しかなく、しかもどこにおいても角を取られるという…完全に詰みだ。

「くっそ…!」

俺は諦め黒を板に置いた、アリスは容赦なく角を取っていき、俺は無様に負けた。

「まじで強すぎるだろ…」

「んー…次は何して遊びましょうか…」

アリスはオセロを片付け、また物入れを漁り始めた。

どんだけ遊ぶ物持ってんだ。

それから俺たちはいろいろなゲームをして遊んだ、しりとりやにらめっこ、さらにはなんとこの世界にはトランプまであったのだ、そのトランプを使いババ抜きなどをした。

その結果は…

「全敗…だと…?」

「ずっと言わないでおこうと思ってましたが…ラットさんはゲームが弱いですね」

「ぐっ…!」

ついにその言葉を言われてしまった。

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「さて! 次はゲームではなくお話をしましょう!」

「お、いいぞいいぞ。 話なら勝ち負けとか無いしな」

「そんな卑屈にならないでくださいよ…」

俺の態度にアリスは苦笑いをする。

「ラットさんはなんで宿で生活をしていたんですか?」

「え? あぁ…ちょっと前まで住んでた家に居られなくなってな」

「家出…ですか?」

「まぁそんな所だな、一緒に住んでる人と喧嘩しちゃって、逃げてきたんだ」

俺の言葉をアリスは真剣に聞いている。

「本当は逃げちゃダメだって分かってるし、謝らないといけないってのも分かってるんだけどな…」

「…怖い…ですか?」

「そうだな、怖い、すげぇ怖いよ。 拒絶されて逃げて来たから、謝ってもまた拒絶されたらって思うと…」

俺の話をアリスは黙って聞いている。
俺はなんでアリスにこんな事を話しているのだろう。

「いやーごめんな! こんな暗い話してさ! なんか明るい話しようぜ!」

アリスはまだ黙っている。 そしてアリスは下を向きながら口を開いた

「私も…その気持ち分かります」

「…へ?」

「理由は言えませんが、私もある事から逃げたんです。 その事を謝りたいんですが、怒られるのが怖くてなかなか謝れないんです」

そう言ったアリスの顔は、悲しそうだった。
アリスもアリスで何か嫌な事があったのだろう。

「明日、出かけませんか? 私、外で思いっきり遊んでみたいんです」

先程ゲームの時の様な子供らしい雰囲気は消え、アリスは真剣な表情で俺に頼んできた。

「あぁ、いいぜ。 思いっきり遊ぼう!」

明日くらい仕事を休んでも文句は言われないだろう。

「あ…でも、カインさんは許してくれるでしょうか…」

「任しとけって! カインなら俺が説得してきてやるから! もっとワガママになってもいいと思うぞ?」

「ワガママに…?」

「あぁ、だってまだアリスって…あれ? アリスって何歳だ?」

「私はこの前15歳になりました」

「俺よりも2歳も年下なのか、もっとワガママになれよ。 俺なんか見てみろよ、17歳なのにこんなに自分勝手に生きてるぜ?」

「17歳…」

アリスは確かめる様に俺の年を口に出す。

「おう! あれ? もっと子供だと思われてた?」

「いえ…もっと年上だと思ってました」

「え、まじで⁉︎」

「すみません、嘘です」

俺が初めてアリス顔を見せた時と同じやり取りをする。

「まじで冗談やめてくれよ…まじで自分の顔が老けてると思っちまうわ」

「ふふ…安心してください。 17歳っぽいお顔ですよ」

「なんかバカにされてる気がすんな…まぁいいや、んじゃカインを説得してくるわ」

「あ、私も…」

「いや、アリスは来なくていいよ、心配しなくても、俺が絶対お前を外に連れ出してやるから」

と言って、俺はアリスの部屋を出てカインの元へと向かった。

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「ダメだ」

「な、なんで!」

食堂でカインを見つけ、明日アリスと外に遊びに行っていいかと質問したら、ダメだと即答された。

「当たり前だろう、アリス様を外に出すなど…アリス様に何かあったらどうするんだ」

「俺がしっかり守るから!」

「君がついて行くという事も僕は心配しているんだ。 言っただろう? 僕は君を疑っている、と」

「だったら! お前も一緒に来てくれれば…!」

「残念だが、僕は明日大事な予定がある、君やアリス様のワガママに付き合ってはやれないよ」

カインの言葉に俺は腹が立ってしまう。

「ワガママ言って何が悪いんだよ! アリスはまだ15歳だぞ! 少しぐらいワガママ聞いてやってもいいだろ!」

「僕もアリス様がワガママを言うのは構わないと思う、むしろ喜ばしいことだ。 だが、それを受け入れるかは別だ」

カインの言っている事は正しいと、俺も分かっているつもりだ、会ったばかりの者に主を預けるなど、心配しないわけがない。

分かってる、分かってるが…あのアリスの表情を見てしまったら、なんとかして外に連れ出してやりたいと、そう思ってしまったのだ。

その為なら俺はなんだってしてやろう。

「何を…しているんだ?」

「頼む、アリスを外に出す事を許してやってくれ」

俺はカインに頭を下げた、元々カインが反対したらこうする覚悟はしていたのだ。
だからアリスを連れてこなかったのだ、きっと彼女は1度反対されたら、それに従ってしまうから。

「1日だけでいい。 明日カインに予定があるなら、別の日だっていい。だから頼む」

「………なぜ、何故そこまでアリス様の願いを叶えようとする?」

「さぁ? 俺にも分からない。 けど、叶えてやりたいと、そう思った」

俺の言葉にカインは驚いた顔をする。 そして小さく笑い。

「…分かった、アリス様を外に出す事を認めよう」

「…! マジか⁉︎」

「だが明日はダメだ、外に連れ出すのは5日後だ。 5日後なら僕は予定が無い」

「あぁ! 全然構わないよ! ありがとな!」

俺は真面目に喜んだ。 
正直、これでもダメなら土下座もする予定だったし、最悪無断で連れ出す覚悟もしていた。

「早くアリス様に報告してきたらどうだ? きっと心配して待っているだろう」

「あ、あぁ! そうだな! 」

俺は早くアリスに伝えるべく、食堂を後にした。

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アリスの部屋の扉を叩くと、「どうぞ」と言われたので、中にはいる。

「よっアリス、ただいま」

「ラットさん! えっと…どうでした?」

アリスが心配そうに聞いてくる。 それに俺は笑顔で

「許可取れたぜ! カインも一緒に行くって条件で、明日じゃなくて5日後だけどな! 」

「ほ、本当ですか⁉︎ 本当に、外に行ってもいいんですか⁉︎ 」

「あぁ! 思いっきり遊ぼう!」

それまで驚いていたアリスだが、急に笑顔になり

「はいっ!」

と言った。 その笑顔は歳相応のものだった。

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