最弱の英雄

皐月 遊

二章 4話 「2度目の」

先程からアリスの部屋からは笑い声が絶えなかった。 

「そこで俺は言ったんだ、「お客さん、それはビールじゃなくてかき氷のシロップですよ?」ってな」

「あはははは! それで…? それでそのお客さんはどうしたんですか?」

笑いすぎて出てきた涙を拭いながら、アリスはライトに言う

「あぁそのお客さんな、途中まで飲んじゃってたからシロップって分かった途端に「甘ぇ! 甘ぇぞこれ!」って叫び出してな、  周りは皆爆笑だったよ」

「ふふふ…ラットさんのお話はどれも面白いです! もっと他にもありませんか?」

先程からライトはアリスにこれまでライトが経験した面白い出来事を話していた、ライトが酒場で経験した事をアリスに話したらツボにハマったらしく、さっきから大爆笑だった。

「他かぁ……んー…すまん、もう話せるような事はないかなー」

「むぅ…そうですか…」

アリスは残念そうな顔をする、それを見たライトは

「話じゃないけど、俺の故郷で流行ってた遊びがあるんだが、やるか?」

「遊び⁉︎ やりますやります! どんな遊びですか⁉︎」

「めっちゃ食いついたな…えっと、あっちむいてホイって遊びなんだけど」

「あっちむいてホイ…?」

「あぁ、まずじゃんけんってのをして…」

「あ! じゃんけん! じゃんけんなら知ってます!」

「え⁉︎ この世界にもじゃんけんあるの⁉︎」

ライトは驚きだった、まさかこの世界にもじゃんけんがあるとは思わなかった。
アリスはウキウキした声で

「私一回でいいからじゃんけんしてみたかったんですよ! なんたって英雄が広めた遊びですからね!」

「英雄が…広めた?」

ライトはそれがひっかかった、本来ならばこの世界にじゃんけんがあるはずがない、なのにじゃんけんがある。
そしてそれは英雄が広めた、という事は英雄が広めるまでこの世界にはじゃんけんは無かった。
それはつまり…その英雄はライトと同じく異世界召喚された人物だという事だ

「まじかよ…そんな事ってあんのか…」

「ん? どうかしましたか?」

「あぁいや、なんでもない。 それよりも、その英雄について教えてくれないか?」

「え? でもあっちむいてホイは……」

「後でいっぱいやってやるから! 」

ライトは今すぐにその英雄の事を知りたかった、ライトと同じ立場なのに英雄にまでなったその人物の事を

「まぁいいですけど…でも、ラットさんはその英雄の事を知らないんですか? ここら辺では知らない人は居ないと思うんですが…」

「あ、あぁ…実は俺めっちゃ遠い場所から来たからさ」

「なるほど! じゃあ知らない訳ですね」

アリスが納得したようでライトは安心する。
そしてアリスは姿勢を正し

「では話しますね、その英雄は歴代最強の英雄と呼ばれていて、何人もの人の命を救いました。 その人はある日突然エルキドに現れ、左手に神の力を宿していました。 その力を使い、数々の悪者を倒していき、英雄と呼ばれるようになっていったんです」

「最強の英雄」その言葉にライトは聞き覚えがあった、それはセレナがライトに読み着せてくれた本の名前だ、あの時ライトは眠ってしまっていたのでちょっとしか聞いてないが、まさか自分と同じ召喚された者だったとは。
そしてライトは今の話で気になった事があった

「あの…ちょっと聞きたいんだけど、その神の力ってなんなんだ?」

「神の力とは…私もあまり知らないんですが、とにかく凄い力だったらしいです!」

「へぇ…そんな凄い人だったのか、話してくれてありがとな」

「はい!  では! 約束通りあっちむいてホイを…」

アリスの言葉の途中で部屋の扉がノックされる、アリスが立ち上がり扉を開けると、そこにはカインが立っていた。

「失礼しますアリス様。 お食事の用意が出来ましたので、食堂へお越しください」

「え…あ、はい…」

アリスは残念そうな顔をする、ライトはアリスの頭を撫でながら

「そんなに残念そうな顔すんなよ、後でいっぱい遊べるから、な?」

「ラットさん…はい! ありがとうございます!」

急に笑顔になったアリスに、そんなに遊びたいのか…とライトは思った。
その様子を見ていたカインは

「ラット殿、あまりアリス様に触るのはご遠慮頂きたい、このお方は我々庶民が気安く触れていいお方ではない」

「え? あぁ悪い」

「もうカインさん! そんな事言わないでください! ラットさんも気にしないでくださいね?」

「あ、あぁ」

「失礼しました。 では、食堂へどうぞ」

ライト達が食堂へ向かっている途中、アリスは気づいていなかったが、カインはずっとライトに鋭い視線を向けていた。

「ラットさん! ここが食堂です!」

「おぉー! すげぇご馳走だ!」

広いテーブルの周りの椅子にメイド達とカインが座り、ライトとアリスは向かい合わせで座る

「さぁラットさん! これが1つ目のお礼です! いっぱい食べてくださいね!」

「…は⁉︎ 1つ目って…まだなんかあんのか⁉︎」

「当たり前ですよ! なんたって命を救ってもらったんですから!」

そういって皆は食事を食べ始めた、めっちゃ美味かった。

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食事を食べ終えライトとアリスが部屋に戻ろうとした時

「ラット殿、少し話したい事がございます。少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

とカインに言われた、ライトは振り返り

「あぁ、別にいいぞ」

ライトはカインに呼ばれる事は予想していたので、驚く事は無かった。 だがアリスは不機嫌そうに

「むぅ…遊んでくれるって言ったのに…」

「申し訳ございませんアリス様、ですが必要な事ですので、しばらくお部屋でお待ちください」

「……分かりました。 ではラットさん、先に部屋に行ってますね」

「あぁ、悪いな」

ライトは手を振ってアリスを見送る、アリスが階段を登り、見えなくなると

「さて…場所は変えたほうがよさそうか?」

「あぁ、出来ればそうしていただければ助かる。 僕についてきてくれ」

2人はそんな会話をして、ライトはカインについていく。
ライトとカインは下へと続く階段を降り、地下へ行く

「ここでいいだろう」

「なんだここ、めっちゃ広い空間だな」

地下は巨大な空間になっていた、地面は土で出来ていて、壁は硬そうな壁だ

「で、話ってなんだよ、さっきからずっと俺に怖い視線送ってきやがって」

「気づかれていたか、それはすまなかった」

「まぁ突然自分の主が知らない男を連れてきたら警戒するよな」

「あぁ、今でも僕は君がアリス様の命を狙っていると疑っている」

「……は?」

突然そんな事を言われてライトは口を開く、何を馬鹿な事を言っているのだろうか

「俺がアリスの命を…? そんな訳ないだろ」

「ならばなぜ、君はアリス様や僕に偽名を使っている」

「な、なんでそれを…⁉︎」

「騎士として、いろいろな敵と戦ってきたからね、相手が嘘をついているかが分かるんだよ。 中でも君は分かりやすいタイプだ、アリス様が君の名を呼ぶ時にいつも目が泳いでいたよ」

「なっ…まじかよ…」

「逆に君に聞こう、偽名を使っている相手を信用できるかい?」

「それは…出来ないな、すまん…でも! 命を狙ってないのは本当だ! 本当にたまたま、アリスが絡まれてるのを見ただけで…!」

「それが信用できないと言っているんだ、だから、君がこの屋敷にいる間は常に僕が監視する、構わないかな?」

「…あぁ、別に構わないぜ、どうせもうすぐ帰るしな」

ライトがそう言うとカインは驚いた顔をした

「あれ…アリス様から聞いてないのかい?」

「…? 何をだ?」

「アリス様は君を此処に住まわせると言っていたよ」

「…は? はあああぁぁぁ⁉︎ いつ! いつそんな事言ったんだ⁉︎」

「君がアリス様と部屋で話している時だよ、ちょうど君がトイレに行っている間に僕がアリス様にもうすぐ食事ができます。 と言いに言ったんだ、その時に」

「な…マジかよ」

「だから、僕が君を信頼できる人物と判断出来るまで、君を監視し続けるよ」

それでライトとカインの話は終わり、ライトはアリスの部屋へと向かった。

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アリスの部屋の扉をノックすると、中から「どうぞー」と聞こえたので扉を開ける

「あ、ラットさん!」

「よぉアリス、俺を此処で住まわせるってどういう事だ?」

「あぁその事ですか! だってラットさんこの屋敷に来る途中に言ってたじゃないですか、今は宿屋で暮らしてるって」

ライトはアリスとこの屋敷に向かっている途中にいろいろ話したのだ、自分が今宿屋で暮らしてる事や、お金を稼いでいる事や、訳あって家に帰れない事を、まさかそれが裏目に出るとは…

「確かに言ったけど…迷惑じゃないのか?」

「全然迷惑じゃないですよ! もちろん、嫌なら強制はしないですけど…」

「別に嫌じゃないけど…むしろめっちゃ助かるけど…」

「なら決定です! 今日からよろしくお願いしますね!」

「あ、あぁ…よろしく…」

こうしてライトの2度目の屋敷での生活が始まった。

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